「Tactical Breach Wizards」魔法使いが窓から敵を蹴り落とすタクティクスSLG

ケブラー製の防弾ベストを着込んだ魔法使いが、突入ポイントのドアを蹴破って部屋になだれ込む。稲妻が壁を走り、敵が吹き飛んで窓の外に落ちていく。そんなシーンを戦略的に設計する快感が、Tactical Breach Wizardsにはある。

2024年8月22日にSteamでリリースされたこのインディーゲームは、発売直後からSteam売上ランキングでプレミアムタイトル10位に食い込み、ユーザーレビューはほぼ即座に「圧倒的に好評」を獲得した。MetacriticスコアはPC部門で89点、OpenCriticでは推薦率100%で「Mighty」評価。英語圏・日本語圏を問わず、タクティクスゲームファンのあいだで「これは本物だ」という評判が一気に広まった。

開発したのはイギリスのインディースタジオSuspicious Developments、そして実質的には代表でゲームデザイナーのトム・フランシス(Tom Francis)が中心となって作り上げた作品だ。フランシスはかつてPC Gamerの編集者として9年間働いていたゲームジャーナリストで、前作「Gunpoint」と「Heat Signature」を経て、約6.8年の歳月をかけてこのゲームを完成させた。PC Gamerの編集部でのジョーク「もし魔法使いがSWATスタイルで突入作戦をするゲームがあったら面白くないか?」が、本当にゲームになってしまったのだ。

XCOM系タクティクスの面倒な部分を削ぎ落とし、魔法使いのスペルが引き起こすドミノ倒しのような連鎖反応を楽しむ設計。読んでいて思わず吹き出してしまうキャラクターの掛け合い。そして「ターンを巻き戻して試し直せる」という設計が、初心者からヘビーユーザーまで幅広く引きつけた。発売から数週間で10万本を突破し、前作Heat Signatureの初月売上の2倍を叩き出したという数字は、このゲームが「バズ」ではなく「本質的な面白さ」で勝負した証だ。

目次

公式ローンチトレーラー

開発者トム・フランシスのYouTubeチャンネルで公開された公式ローンチトレーラー。ケブラーと魔法の融合した世界観が一目でわかる。

こんな人に読んでほしい

この記事は以下のような方に向けて書いている。

  • XCOM系タクティクスが好きだが、運ゲー要素や長すぎるキャンペーンが苦手な人
  • 「Into the Breach」のようなパズル的戦略ゲームに興味がある人
  • ストーリーとキャラクターのセリフにもこだわったゲームを探している人
  • インディーゲームで「圧倒的に好評」の作品を探している人
  • 英語は読めるが日本語対応のないゲームに踏み出せていない人
  • 1回のプレイが30分〜1時間で完結する、社会人向けのタクティクスゲームを求めている人

ゲームの世界観:現代社会に溶け込んだ魔法使いたち

Tactical Breach Wizards ゲームプレイ画面 魔法使いたちの突入シーン

舞台は現代社会と重なる架空の世界。この世界では魔法使いが当たり前に存在しており、国家や軍事組織、民間軍事会社がこぞって魔法使いを戦力として運用している。プレイヤーが率いるのは、政府機関からはみ出した「はぐれ魔法使いチーム」だ。

ゲームの基本フォーマットは、Rainbow Six: Vegasのような戦術的室内突入作戦をターン制で行うもの。ドアを蹴破ってビルの部屋に突入し、武装した敵を制圧しながら進んでいく。ただし普通の特殊部隊と違うのは、メンバーが稲妻を飛ばしたり、敵を犬に変身させたり、死者を蘇らせたりする能力を持っていることだ。

設定のユニークさはコンセプト誕生のエピソードにも表れている。トム・フランシスはPC Gamerの編集部での会話の中で「もし魔法使いがSWATスタイルで突入作戦をするゲームがあったら面白くないか?」というジョークから着想を得たと語っている。そのアイデアをフランシスが6年超の開発を経て本気で形にしたのが本作だ。

世界観のトーンは、トム・フランシスが影響を受けたとされるダグラス・アダムズ(「銀河ヒッチハイク・ガイド」の作者)のスタイルに近い。シリアスな陰謀や命がけのミッションを、登場キャラクターたちがサラッとしたユーモアと絶妙なタイミングのジョークで語り合う。緊張感と笑いが同居するテキストは、英語が読めるプレイヤーなら間違いなく楽しめる水準だ。

世界の設定で面白いのは、魔法の種類が「職業」のように社会に組み込まれている点だ。交通整理を担当する「トラフィック・ウォーロック」がいたり、法執行機関に所属するウィザードがいたり。ファンタジーの魔法を現代の官僚組織に落とし込むというアイデアが、独特のコミカルな雰囲気を作っている。ゴーストカーに乗ったゴーストスケルトンを召喚して攻撃してくるトラフィック・ウォーロックのスティーブ・クラークなんて、字面だけで笑えるキャラクターだ。

この世界では魔法使いは特別な存在ではあるが、生まれつき能力を持つ者の数は限られている。その希少性が物語の根幹に関わるテーマにつながっていく。「もし魔法使いを人為的に量産できたら、世界はどうなるのか?」という問いが、コミカルな世界観の裏側で静かに進行する陰謀劇の軸になっている。

ストーリー概要:マナをめぐる国際的陰謀

ゲームのストーリーは3幕構成で、プレイ時間は14〜20時間程度のコンパクトなキャンペーンにまとまっている。オプション目標をすべて達成しようとすると、さらに時間がかかる。

主人公はザン・ベスカー(Zan Vesker)。元海軍の予知能力者で、過去に相棒だったリヴ・ケネディ(Liv Kennedy)と組んで多くのミッションをこなしてきた。しかし2年前、秘密任務中にリヴが突然姿を消した。そして6ヶ月前、リヴは民間軍事会社「Reactor」の一員として再び現れ、かつての雇用主と戦争状態に入っていた。

ザンは新チームを組んでリヴとReactorの背後にある陰謀を追う。調査の過程で明らかになるのは、Reactorが「マナ」と呼ばれる鉱物を使って一貫した魔法使い製造法を秘密裏に開発していたという事実だ。マナの安定供給が実現すれば、魔法使いの大量生産が可能になり、世界の軍事バランスが根本から崩れる。

リヴは自分の計画を「世界規模の軍拡競争を防ぐための必要悪だ」と説明する。しかしザンにとっては、かつての相棒が敵として立ちふさがるという、個人的な傷も深い対立だった。

引用元:Wikipedia – Tactical Breach Wizards ストーリー解説

リヴの側にはボリ・ケシュ(Bori Kesh)という「致命的じゃない炎」を操るパイロマンサーと、前述のトラフィック・ウォーロック、スティーブ・クラークがいる。そしてもうひとり、後にザンのチームに寝返ることになるリオンも元々はリヴの陣営だ。敵味方の入れ替わりが物語に厚みを加えている。

物語の進行はミッション制だが、ミッション間の会話パートが極めて充実している。キャラクター同士の対話には選択肢が用意されており、プレイヤーは会話の流れや掘り下げる話題を選べる。ただし、これは大きな分岐を生むタイプの選択ではなく、「このキャラクターにどう接するか」「どこまで突っ込んで聞くか」を決めるものだ。会話で探れるすべてのトピックを自由な順番で選べるため、「全部聞きたい」というプレイヤーも満足できる仕組みになっている。

物語の結末では、プレイヤーの選択によって複数のエンディングが用意されている。最も大きな選択肢は、ある重要キャラクターの運命を決める場面だ。その人物を許すのか、それとも別の結末を選ぶのか。各キャラクターについてもエピローグが描かれ、プレイヤーの行動がそれぞれの「その後」に影響する。14時間という比較的短いキャンペーンの中で、ここまでキャラクターに愛着を持たせる脚本力は見事という他にない。

プレイアブルキャラクター5人の個性と能力

Tactical Breach Wizards キャラクター選択画面 チームの魔法使いたち

本作の最大の魅力のひとつが、5人のプレイアブルキャラクターそれぞれの独自性だ。単に「攻撃役」「回復役」というシンプルな分類ではなく、各キャラクターがゲームプレイを根本から変える固有の能力を持っている。キャラクターは最大5つの固有能力を持ち、ゲームの進行に伴って順番にアンロックされていく。

ザン・ベスカー(Zan Vesker) — 予知能力者の元海軍将校

主人公であり、チームの中核を担う万能型キャラクター。予知能力を持つ彼は「未来を1秒だけ先読みできる」という設定が、ゲームプレイのリワインドシステムとうまく連動している。どんな状況でも安定した働きができる信頼感がある。

主要スキルの「タイムブースト」は味方1人にアクションポイントを追加で与えるスペルで、パークをつけると小範囲内の全味方にまで効果が拡大する。たった1手で味方全員の行動力を引き上げるというのは、戦術ゲームにおいて破格の性能だ。「プレディクティブ・ボルト」は指定エリアに侵入した最初の敵を自動で攻撃するオーバーウォッチ技。敵ターンの行動を読んで設置しておく使い方が特に気持ちいい。「フォルス・プロフェット」は敵の攻撃を引きつけるデコイを展開する能力で、パークを付ければデコイ自体が消滅前に攻撃を放つようになる。初心者が最初に扱いやすいキャラクターでありながら、パーク構成次第で上級者も唸らせるポテンシャルを秘めている。

ジェン・ケレン(Jen Kellen) — 嵐の魔女でフリーランス探偵

移動と敵のノックバックに特化した個性派キャラクター。直接ダメージよりも敵の位置を操作することが得意で、チームメンバーが有利になるポジションに敵を誘導する役割を担う。フリーランスの私立探偵であり、個人的な因縁としてトラフィック・ウォーロックのスティーブ・クラークを追っているという設定も物語を動かす軸のひとつだ。

代表スキルの「チェーンボルト」は稲妻を連鎖させて複数の敵を次々とノックバックさせる技。連鎖する敵が多いほど味方のマナ回復も増える仕組みが美しい。「ブルームブリーチ」は箒に乗って窓から飛び出し、隣接する窓から再突入できるという驚きの機動力を持つスペルだ。再突入時に入口を塞いでいる敵を押し飛ばすパークをつけると、移動自体が攻撃になる。「ゲイルグレネード」は範囲内の隣接8マスにいる全員をノックバックさせるエリア攻撃で、パークを付けるとエンカウンターごとの使用回数が増えたり、味方の移動力をリフレッシュさせたりできる。敵を窓の外に吹き飛ばして即死させる「ノックバックキル」を最も安定して狙えるキャラクターであり、このゲームの「爽快感担当」と言える存在だ。

デッサ・バンクス(Dessa Banks) — ネクロメディック

元外科医でネクロマンサーという異色の組み合わせ。バックストーリーではマフィアの幹部を殺害した過去があり、医療倫理と死霊術の葛藤が物語の中で深く掘り下げられる。ゲームプレイ上の特徴として「生きている者は回復できないが、死者を蘇らせることができる」という独自ルールを持つ。通常の回復役とは全く違う使い方が要求される技術系キャラクターだ。

「セダティブ・カクテル」は範囲攻撃で対象を鎮静化し、ノックバックされやすい「不安定」状態にする。重い敵を軽くしてジェンの稲妻で吹き飛ばしやすくするという連携が気持ちいい。「スペクトラル・スカル」はゲイリーと名付けられたガイコツを射出するスキルで、壁で反射するため部屋のレイアウトを読んだ角度調整が腕の見せどころになる。そして「リザレクト」は隣接する死体を完全体力で蘇らせるが、蘇った敵は全員に敵対状態で攻撃し始め、1ターン後にスタンする。この「味方でも敵でもない第三勢力を作る」というメカニクスが戦場を一気にカオスにする。チームの強みを活かしながら敵の混乱状態をうまく利用する上級者向けの難しさと面白さがある。

リオン(Rion) — 犬に変身する植物魔法使い

リオンの最大の秘密は、実は「犬が人間に変身している」のであって、その逆ではないということだ。犬形態と人間形態を切り替えられる能力を持ち、犬形態では距離を無視して敵に噛みつくことができる。噛まれた敵は「全員に敵対」する混乱状態になり、トラッカー以外の敵はリオンを犬形態では標的にしない。このユニークなメカニクスだけでも、タクティクスゲームとして唯一無二の存在感がある。

人間形態での主要スキル「インペイリング・ヴァイン」は蔦を伸ばして敵を3マス引き寄せる技で、障害物にぶつければノックバックダメージが入る。「ブリトリング・ダート」は敵に追加ダメージを与える脆弱状態を重ね掛けでき、シールドも破壊する。「スポア・ボム」は範囲内の対象が多いほどダメージが増える範囲攻撃で、味方を巻き込まないパークをつけても味方を「ターゲット数」にカウントするという絶妙な設計になっている。さらに「スティール・マナ」で味方からマナを1つ奪い取り、自分の強力なスペルに回すこともできる。攻撃的な万能型でありながら、スキルの二次効果が豊富なため使えば使うほど味わいが出るキャラクターだ。

5人目のキャラクター

ストーリーの進行に伴ってチームに加わる5人目のキャラクターは、ゲームの後半で解禁される。その正体と能力はストーリーと深く結びついているため、プレイ前に知りすぎない方が楽しめる。ただ一つだけ言えるのは、この5人目の加入によってチームの戦術の幅が劇的に広がり、後半のミッションは前半とは全く違う遊び方になるということだ。「え、こんなことできるの?」という驚きを、ぜひ自分の手で味わってほしい。

ゲームプレイの核心:パズルとしての戦術

Tactical Breach Wizards 戦術マップ 部屋の突入を計画する画面

Tactical Breach Wizardsのゲームプレイを一言で表すなら、「詰め将棋を自由に解く」感覚に近い。

各ミッションはビルの複数の部屋を順番に制圧していく構成になっている。ドアを蹴破った瞬間に始まるターン制戦闘で、プレイヤーはチームメンバーを動かし、スペルを撃ち、連携を設計する。各キャラクターは1回の移動と1回のアクション(スペルまたは攻撃)を実行でき、移動と攻撃の順番は自由だ。攻撃してから移動することもできるし、その逆も可能。この「順番の自由」が戦術の幅を大きく広げている。

目標は単に「全員倒す」だけではなく、「最も効率よく、できればオプション目標まで達成する」ことだ。オプション目標は「2ターン以内に全敵を排除せよ」「特定の敵を窓から落とせ」といったチャレンジで、達成するとキャラクターの「信頼度(Confidence)」が上がる。この信頼度ポイントはキャラクターの衣装アンロックに使えるほか、ゲームの達成感を大きく高める。

戦闘の規模はXCOMのような大規模作戦ではなく、1つの部屋か連続した2〜3部屋が舞台。1回の戦闘は数ターン、時間にして5〜15分で決着がつく。このコンパクトさが「あと1部屋だけ」「あと1ミッションだけ」という中毒性を生んでいる。実際、Steamレビューでも「1セッションがちょうどいい長さ」という声が多い。忙しい社会人が30分〜1時間のプレイで満足感を得られるのは大きな利点だ。

リワインドシステム:失敗を恐れない設計

本作の最も革命的な要素が「ターンの巻き戻し機能」だ。プレイヤーはターン終了前であれば、その回の行動をすべてやり直すことができる。しかも回数制限がない。何度でも、何回でもリワインドできる。

これは単なる「やり直しボタン」ではなく、ゲームデザインの根幹に関わる仕組みだ。「こういう動き方をしたらどうなるか」を試してから判断できるため、戦略の失敗による理不尽な詰みが起きない。思い切った作戦を試し、うまくいかなければ巻き戻して別の手を考える。このループが持続的な楽しさを生み出している。

物語設定上は、ザンの予知能力が「未来を覗いている」という形でリワインドを正当化している。ゲームの仕組みとストーリーの設定が自然に結びついている点も、設計の巧さを感じさせる部分だ。

「試行錯誤がストレスにならない。思いついたことを全部試せるから、バカバカしい作戦でも怖くない」

引用元:4Gamer Tactical Breach Wizardsレビュー

XCOMシリーズでは、確率の低い射撃が外れてキャラクターが死亡するという「理不尽な失敗」がつきものだった。トム・フランシスは自身がXCOM 2のプレイ中にこの問題を強く感じ、「失敗が完全に自分の選択の結果になる設計」を目指してTactical Breach Wizardsを作ったと語っている。その答えがリワインドシステムだ。命中率100%、ダメージも固定値。ランダム要素がゼロの戦闘で、純粋に「自分の頭で考えた作戦がうまくいったかどうか」だけで勝敗が決まる。

Steamレビューでも「失敗が楽しい」という逆説的な評価が目立つ。リワインド機能があることで、無謀な作戦を試すことに怖さがない。「こいつを窓から投げ飛ばせるか?」と試して失敗し、別の方法を考える過程そのものが楽しい設計になっている。

ノックバックと窓の外への転落

Tactical Breach Wizards 敵を窓の外に吹き飛ばすノックバックの瞬間

本作の戦闘システムで特に重要なのが「ノックバック」メカニクスだ。多くのスペルは敵を吹き飛ばす効果を持っており、壁や他の敵、そして窓への激突が大きなダメージや即死をもたらす。

「交通警察ウォーロック(Traffic Warlock)を4階の窓から投げ飛ばせ」というゲームの公式説明文にある例えが、このシステムの面白さを端的に表している。スペルの連鎖でノックバックを重ね、敵が窓の外に消えていく瞬間の爽快感は本作ならではだ。窓から落ちた敵は即死する。この「窓際デスゾーン」を意識した位置取りが戦術の基本になる。

ノックバックの方向は各スペルによって異なる。ジェンのチェーンボルトは攻撃方向に真っ直ぐ飛ばし、ゲイルグレネードは中心から放射状に吹き飛ばす。リオンのインペイリング・ヴァインは逆に敵を引き寄せる。この「押す・引く」の組み合わせで、敵を意図したポイントに誘導して窓の外に叩き落とす連鎖コンボが成立する。

バンクスのセダティブ・カクテルで敵を「不安定」状態にすると、ノックバック距離が伸びる。これを使って本来なら窓に届かない位置の敵を範囲に入れるテクニックは、中盤以降の必須スキルだ。さらに壁にぶつかった敵は追加ダメージを受けるし、他の敵にぶつかれば連鎖ノックバックが発生する。ビリヤードのように敵を弾き飛ばして全員を窓の外に落とすコンボが決まった瞬間は、このゲーム最高の快楽だ。

そのため部屋の間取りを読むことが重要になる。窓がどこにあるか、壁はどこか、ドアは複数あるか。同じチームでも間取りが変われば最適な動き方も変わる。マップデザインと戦術の組み合わせが毎回新鮮な試行錯誤を生み出している。

マナシステムと戦闘リソースの管理

各キャラクターはマナと呼ばれるリソースを消費して強力なスペルを使用できる。マナは無限ではなく、特定の行動(敵をノックアウトするなど)によって回復する仕組みだ。これにより「強い技を全部使い切って後半が辛い」という状況が起きにくく、うまく戦えているときほどスペルをどんどん使えるという正のフィードバックループが生まれている。

マナの管理は単純に「溜めて使う」だけではない。リオンの「スティール・マナ」は味方からマナを1つ奪い取るスキルだ。マナが余っている味方からリオンに渡して大技を撃つという連携が可能で、チーム全体のリソースを最適配分する楽しさがある。また、バンクスのセダティブ・カクテルでマナ回復効果がつくパークもあり、ノックバックによる窓キルとマナ回復を同時に達成する「一石二鳥」のプレイが設計の核にある。

各エンカウンター(部屋ごとの戦闘)でスキルの使用回数がリセットされるものと、マナを消費して回数制限なく使えるものが混在している。この二重構造がリソース管理に奥行きを与えている。序盤はシンプルに「使えるスキルを使う」だけで進めるが、中盤以降は「この部屋でマナをどう配分するか」「次の部屋用にマナを温存するか」という判断が求められる。

オプション目標と信頼度システム

Tactical Breach Wizards パーク選択画面 スキルのアップグレード

各ミッションには必須目標に加えてオプション目標がある。人質の救出、特定の敵を生け捕りにする、2ターン以内にクリアする、特定の敵を窓から落とす(defenestration、「窓から投げ落とす」という英語にちゃんと専用の単語がある)、といった追加課題だ。

オプション目標を達成するとキャラクターの「信頼度(Confidence)」ポイントが上がる。信頼度はキャラクターの強さや能力には影響しないが、専用コスチュームのアンロックに使える。つまり、純粋に「自分の腕を試す」ためのチャレンジシステムだ。難易度を自分で調節できるという意味でも機能している。

オプション目標が巧妙なのは、「各キャラクターの得意分野を活かさないと達成が難しい」設計になっている点だ。ジェンが関わる目標なら窓キルが絡むし、バンクスが関わるなら蘇生や鎮静を駆使する内容になる。必須目標だけなら比較的簡単にクリアできても、オプション目標まで含めると途端にパズルの難度が跳ね上がる。この「クリアは簡単、完全クリアは難しい」のグラデーションが、幅広い層のプレイヤーを満足させている。

パーク(スキルアップグレード)システムの深み

キャラクターがレベルアップするとパークポイントを獲得し、各スキルに専用のアップグレードを追加できる。このパークシステムが戦術の幅を大きく広げている。

例えばザンの「プレディクティブ・ボルト」にパークを付与すると、「ターン中に発動した場合、マナを回収できる」「ノックアウト時にスペルが再充填される」「小範囲内の全員に効果が拡大する」といった全く性質の異なる強化が選べる。どのパークを選ぶかによって同じキャラクターでも動き方が変わり、チーム全体の戦術も変化する。

パーク選択は後から変更可能だ。ミッションごとに「このミッションの間取りならこのパーク構成がいい」とカスタマイズを変える楽しみがある。固定のビルドに縛られないため、同じキャンペーンを何度プレイしても違う戦術を試せる。ジェンのゲイルグレネードに「使用回数+1」のパークをつけるか、「味方の移動力リフレッシュ」をつけるかで、戦い方が根本から変わる。

序盤は「どうにか部屋を制圧できる」程度だったチームが、パークを重ねるごとに「敵が連鎖的に窓の外に吹き飛んでいく無停止のブリーチングマシーン」へと変貌していく。この成長の実感がキャンペーン全体の推進力になっている。終盤では、1ターン目に全敵を殲滅するようなコンボが成立するようになり、「自分のチームが完成した」という満足感が味わえる。

Into the BreachでもXCOMでもない、その独自性

Tactical Breach Wizards キャラクター会話シーン ドア突入前の掛け合い

ターン制タクティクスのジャンルにはいくつかの名作がある。中でもTactical Breach Wizardsと比較されることが多いのは、同じくインディーの「Into the Breach」と、大手IPの「XCOM 2」だ。

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「Into the Breach」は敵の行動が完全に予測可能で、ほぼチェスのような完璧なパズル解法を求めるデザインだ。盤面に一つの「正解」があり、それを見つけ出す快感がある。Tactical Breach Wizardsはそこまで厳格ではなく、リワインドを活用しながら柔軟な解法を探す余地が大きい。同じミッションでも複数の「良い解法」が存在し、自分なりの美しいコンボを組み立てる自由度がある。

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「XCOM 2」はランダムな命中率と、失敗すると取り返しのつかないキャラクターの永久死がある重厚なゲームだ。Tactical Breach Wizardsはそのような運ゲー要素を完全に排除し、ダメージも命中率も100%確定の世界で戦う。失敗を安全に試せる設計を選んでいるため、XCOMのような「祈りながら射撃ボタンを押す」緊張感はないが、代わりに「自分の頭が全ての結果を決める」という別の種類の緊張感がある。ミッション規模も大幅に小さく、1回のプレイが15分以内に収まることがほとんどだ。

この2タイトルの「中間」に位置するイメージで、パズルとしての緻密さと戦術ゲームとしての自由度を両立させた設計になっている。加えて、Into the BreachにもXCOMにもない要素として「キャラクターの物語」がある。5人の魔法使いの人間関係や過去が、戦術パズルの合間に深く掘り下げられていく。戦闘の快感とストーリーの没入感を同時に味わえるのは、このジャンルでは珍しい。

PC Gamerのレビューはこのゲームを「優れたターン制戦術戦闘が、喜びに満ちたタイトに書かれたストーリーに包まれている作品」と評した。88点という高スコアは、この独自の立ち位置への正当な評価だ。

一方でThinky Gamesのレビューでは「ヒラリアスで、バラエティに富み、アクセシブルなターン制ストラテジー」と紹介されている。この「アクセシブル(取っつきやすい)」という評価が、本作の特徴を一番よく表しているかもしれない。タクティクスゲームは「難しくて敷居が高い」というイメージがあるジャンルだが、Tactical Breach Wizardsはそのイメージを覆してくれる。

インディーの戦術ゲームでは「Darkest Dungeon」のようにストレスと恐怖で精神的に追い詰めてくるアプローチもある。あちらは「失敗のペナルティ」がゲーム体験の核にあり、そのヒリヒリ感がファンを掴んだ。Tactical Breach Wizardsは真逆で、「失敗のペナルティがゼロ」であることがプレイヤーの創造性を解放している。どちらが優れているという話ではなく、タクティクスの面白さへのアプローチが根本的に異なるのだ。

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キャラクターのセリフとユーモアの質

このゲームを語るうえで避けて通れないのが、テキストの質の高さだ。

ミッション前、突入前のドア前、ミッション中、そして終了後。キャラクターたちはあらゆる場面で会話を交わす。シリアスな陰謀劇の中で繰り広げられる軽妙なやりとりは、英語圏のゲームジャーナリスト複数人が「思わず吹き出した」と記録しているレベルだ。

テキストの演出にも開発者のこだわりが光る。ゲーム内のダイアログは1文字ずつではなく「1単語ずつ」表示される。トム・フランシスは「文字単位のアニメーションは読者を待たせるだけだが、単語単位なら読みながらリズムが生まれる」と語っており、この小さな工夫がコメディのテンポを大きく向上させている。ゲーム開発者向けメディアでも「フランシスは正しい。文字ではなく単語をアニメーションさせるべきだ」と取り上げられたほどで、業界全体への影響も小さくない。

「ユーモアと真摯さが両立したライティング。どのキャラクターも個性があり、セリフの一つひとつに人格が宿っている」

引用元:OpenCritic掲載レビューまとめ

ジェンの自分のスタイルへのこだわり、バンクスの医療倫理とネクロマンシーの葛藤、ザンの過去への向き合い方。それぞれが単なるゲームプレイの駒ではなく、読んでいて「この人たちのことが好きだ」と思えるキャラクター設計になっている。リオンが犬であるという事実を知った後に彼の過去の行動を振り返ると、伏線が丁寧に張られていたことに気づく瞬間がある。

この質の高いライティングはGuardian誌が「この強力な呪文は共感だ」と表現したほどで、インディーゲームとしては突出した評価を受けている。Try Hard GuidesとEurogamerは満点の100点を付けた。Shacknewsも「It’s magic(魔法だ)」というタイトルのレビューで絶賛している。

会話システムで特筆すべきは、プレイヤーが「探りたい話題」を自由に選べる点だ。キャラクターが情報を共有したり次の作戦を練ったりする場面では、話題のリストが提示され、好きな順番で好きなだけ深掘りできる。「全部聞きたい」人も「本筋だけ進めたい」人も、自分のペースで物語を楽しめる設計だ。

日本語には対応していないため、セリフの細かいニュアンスを楽しむには英語読解力が必要だ。ただしゲームプレイ自体のルールはビジュアル的にも分かりやすく設計されており、英語が苦手でも基本的な戦術プレイは十分に楽しめる。Unityで開発されているため、XUnity Auto Translatorのような非公式翻訳ツールが利用可能で、完璧ではないもののストーリーの雰囲気はつかめるという声もある。

アクセシビリティと難易度カスタマイズ

Tactical Breach Wizards 難易度設定画面 アクセシビリティオプション

Tactical Breach Wizardsは幅広いプレイヤーが楽しめるよう、難易度のカスタマイズを細かく設定できる。Easy・Medium・Hardの3段階から選べるだけでなく、体力、初期マナ、アクションポイントといった個別の変数をそれぞれ調整できる点が特徴だ。「戦闘は難しくしたいけど、リソースは多めに欲しい」といった細かい好みに対応できる。

難しいミッションで詰まった場合は「スキップして後で戻る」という選択肢もある。スキップしても経験値やパークポイントは入手できるため、ストーリーの流れを途切れさせずに進められる。「どうしてもここが無理」という行き詰まりが起きにくい設計だ。この仕組みについてトム・フランシスは「キャンペーンの途中でプレイヤーが詰まって物語を見られなくなることだけは避けたかった」と語っている。

新しいスキルやキャラクターの導入方法も丁寧で、新要素が解禁されるとまずその要素だけを使える練習的なミッションが来る。次のミッションで新たな敵タイプが登場し、学んだスキルを実戦で使う機会が与えられる。段階的な学習カーブが組み込まれているため、タクティクスゲーム初心者でも置いてかれにくい。

一方で、ハードコアなプレイヤーからは「Hardモードでも簡単すぎる」という声がある。リワインドが無制限に使えるため、時間をかければ最適解にたどり着けてしまうのだ。本作の難しさは「パーフェクトクリアを目指す」ことで自分で設定するタイプであり、ゲーム側から厳しく追い詰められるXCOM的な体験を求めるプレイヤーには物足りないかもしれない。ただし、オプション目標の全達成を狙うと話は別だ。一部のオプション目標は本当に頭を絞らないと解けない高難度パズルになっている。

夢の中のチャレンジミッション

メインキャンペーンと並行して、ザンが夢の中で体験するチャレンジミッションが用意されている。ザンの予知能力が生み出す「夢」という設定が物語にも組み込まれており、ゲームプレイ的にはメインストーリーとは独立したパズルコンテンツとして機能する。夢ミッションは「トレーニング」と「プルービング・グラウンド」の2種類に大別され、それぞれ異なるルールや目的が設定されている。

トレーニングミッションではザンとジェンの能力に焦点を当てた4つのレベルが用意されており、信頼度ポイントを稼げる。プルービング・グラウンドはより高度なパズルチャレンジで、特定のキャラクターの組み合わせやパーク構成を前提とした解法が要求される。いわば「ゲームの仕組みを完全に理解した人」向けの卒業試験だ。

「不安の夢(Anxiety Dreams)」と呼ばれるオプショナルなチャレンジもある。これをクリアすると新しい特殊能力がアンロックされるため、やり込みプレイヤーにとっては見逃せないコンテンツだ。メインキャンペーンだけなら14〜20時間だが、夢ミッションとオプション目標の全達成を含めると30〜50時間のプレイ時間になるという報告もある。

「キャラクターが本当に好きになってしまう。14時間で終わるのが寂しくて、エンディング後も夢のチャレンジミッションを続けてしまった」

引用元:Steamレビュー(ポジティブ評価)

メインストーリーを終えた後に夢ミッションに戻ると、キャンペーン中に磨いた戦術スキルが試される歯ごたえのあるパズルが待っている。「メインは簡単すぎたけど夢ミッションで本気のTBWに出会った」というプレイヤーも少なくない。このメインキャンペーンの「優しさ」と夢ミッションの「本気」の二層構造は、幅広い層のプレイヤーを一つのゲームで満足させる巧みな設計だ。カジュアルプレイヤーはストーリーを楽しんでクリアし、ハードコアプレイヤーは夢ミッションで腕を磨く。同じゲームで全く違う遊び方ができる。

敵キャラクターの多様性と対処法

味方キャラクターの個性に負けず劣らず、敵キャラクターの種類も豊富だ。ゲームの進行に伴って新しい敵タイプが追加されていき、それぞれに異なる対処法が要求される。

基本的な敵は「ガンナー」で、視線の通るキャラクターを射撃してくる。射撃の方向と対象は敵のターン開始前に予告されるため、味方を動かして射線から外す・おとりを使って射撃先を変えるといった対応ができる。この「敵の行動が予告される」設計がInto the Breachとの類似点だ。

「トラッカー」はリオンの犬形態すら追跡してくるやっかいな敵で、犬変身による回避が通用しない。「シールドベアラー」はダメージを吸収するシールドを持っており、リオンのブリトリング・ダートでシールドを剥がしてからでないとノックバックが効きにくい。「エンフォーサー」は体が重くてノックバック距離が短いため、バンクスのセダティブで不安定にしてから飛ばす必要がある。

中盤から登場する「ボス」級の敵は通常の戦術が通じにくい特殊な能力を持つ。ボリ・ケシュは弱い緑炎「マイルドファイア」を投げてくる。燃料アイテムに引火すると延焼が続き、炎を踏んだキャラクターは行動するたびに1ダメージを受ける。さらにボリは「インシネレイト」で全マナを消費して単体に強力なダメージを与えつつマイルドファイアの状態異常を付与してくるし、「ドロー・ファイア」で自分が設置した炎を消してマナに変換するという自給自足のサイクルを持っている。スティーブ・クラークは3マス幅のゴーストカーを直進させてくるが、味方ごと巻き込むため位置取りが重要になる。ゴーストスケルトンが乗ったゴーストカーという設定のバカバカしさとは裏腹に、3マス幅の攻撃範囲は戦術的に厄介だ。

こうした「敵の能力を理解して対策を組む」プロセスが、ミッションごとに違うパズルを解いている感覚を生む。新しい敵タイプが登場するたびに「今までの戦い方が通用しない」と感じる瞬間があり、そこでチームの組み合わせやパークの入れ替えを試行錯誤するのが楽しい。敵の多様性はキャンペーンの中だれを防ぐ重要な役割を果たしている。

開発7年の軌跡:一人の元ゲームジャーナリストの挑戦

Tactical Breach Wizards 開発中の初期ビジュアル スタイリッシュなポップアート調グラフィック

Suspicious Developmentsはトム・フランシスが設立したイギリスのスタジオで、「Gunpoint」(2013年)、「Heat Signature」(2017年)に続く第3作がTactical Breach Wizardsだ。

フランシスのキャリアは異色だ。PC Gamerで9年間ゲームジャーナリストとして働き、退職間際には週5日の出勤のうち2日を自作ゲーム「Gunpoint」の開発に充てていた。2013年にGunpointが成功を収めると、フルタイムのインディー開発者に転身。ステルスパズルゲームのGunpointは、配線を引き換えて建物のシステムをハッキングする「リワイヤー」メカニクスが画期的で、小規模作品ながら高い評価を得た。

2017年の「Heat Signature」は宇宙船への潜入をテーマにしたローグライクアクションで、「Gunpointの設計思想を宇宙に拡張した」と評された。この作品の開発で培ったシステム設計のノウハウが、Tactical Breach Wizardsに直接つながっている。

2018年2月にトム・フランシスが自身のブログで「Tactical Breach Wizardsのピッチ」という記事を公開してから、2019年のトレーラー公開、2024年6月のデモ配信(Steam Next Fest)、そして2024年8月22日の正式リリースまで、実に6年半以上の時間がかかった。

Next Festでのデモ配信が転機だった。ウィッシュリスト数は28万4,002件に達し、デモのプレイ率と好評度が発売前の期待値を大きく押し上げた。発売初日のウィッシュリスト→購入転換率は9.6%、7日間では16%。インディーゲームとしては極めて高い数字だ。

興味深いのは、フランシスが「本作ではほとんど対面でのプレイテストを行わなかったが、チームで最もポリッシュされたゲームになった」と振り返っている点だ。開発者としての経験と、ジャーナリストとして何千ものゲームを見てきた目線。その両方が、「プレイヤーが何を面白いと感じるか」を直感的に理解する力につながったのだろう。

リリース後、本作は前作「Heat Signature」の初月売上の2倍以上を達成。数週間で10万本を突破し、収益ベースでも過去作の2倍以上を記録した。フランシスはこの成功について「完全に自立した、自己資金のスタジオとして今後もゲームを作り続けられる基盤ができた」とコメントしている。インディーゲームの世界では、小規模なチームが長期間をかけて一つのアイデアを磨き上げることで傑作が生まれることがある。フランシスの仕事には「ゲームジャーナリストとして多くのゲームを見てきた目線」が確実に活きていると感じさせるデザイン哲学がある。

2026年1月には、フランシスがインディースタジオ向けのアドバイスとして「成長を急がないこと」「プロトタイプに時間をかけすぎないこと」を語る講演が話題になった。7年近くの開発を経験した当人からの言葉だけに、重みがある。

受賞と批評的評価

Tactical Breach Wizards スタイリッシュな戦闘シーン カラフルな魔法エフェクト

Tactical Breach Wizardsは2024年のゲームアワードシーズンで複数のノミネートと受賞を果たした。

最も権威ある受賞は、インディーゲームの祭典「Independent Games Festival(IGF)」での「Excellence in Design」受賞だ。デザインの優秀さが公式に認められた形で、スタジオは「IGFで負けることに失敗した。申し訳ない、次はもっとひどいゲームを作るように努力する」というジョークをコメントしている。このユーモアのセンスこそが、ゲーム本編の空気感そのものだ。

他にも以下の賞でノミネートを受けている。

  • Golden Joystick Awards — ノミネート
  • D.I.C.E. Awards — ノミネート
  • Hugo Awards(SF/ファンタジー分野の著名な賞) — ノミネート
  • BAFTA Games Awards — ノミネート

ゲームのノミネートがSF文学賞のヒューゴー賞にまで及んでいるのは注目に値する。ライティングの質がジャンルの枠を超えて評価された証だ。

批評スコアはMetacritic 89点(PC版)、OpenCritic推薦率100%で「Mighty」評価。Steamレビューは1万件を超える投票で98%が高評価という「圧倒的に好評」の状態が続いている。これだけの高スコアが揃うゲームはそう多くない。

「Excellent turn-based tactical combat wrapped up in a joyful, tightly-written story(優れたターン制戦術戦闘が、喜びに満ちたタイトに書かれたストーリーに包まれている)」

引用元:PC Gamer review by Harvey Randall — スコア88/100

各メディアのスコアを見ると、Try Hard GuidesとEurogamerが100点満点、Shacknewsが90点、PC Gamerが88点、Hey Poor Playerも高スコアを付けている。特筆すべきはOpenCriticの「推薦率100%」で、レビューした全メディアが推薦に値すると判断している。ここまでの全会一致は、ジャンルを問わず珍しい。

日本のメディアでは4Gamerがレビューを掲載し、ゲームプレイの完成度とライティングの質を高く評価した。AUTOMATONでも発売初日のニュースとして「圧倒的に好評スタート」を報じている。Game*Sparkは海外レビューを紹介する形で「寛大な構造のおかげであらゆる型破りな解決方法が試せる」というポイントを取り上げた。

特別版(Special Edition)のコンテンツ

通常版に加えて、「Special Edition Upgrade」というDLCが販売されている。このDLCには以下が含まれる。

  • 開発者解説(52本・3時間超):テープレコーダーという形でゲーム内に配置され、敵にぶつければ1ノックバックのダメージを与えられる笑えるギミックつき。デザイナーのフランシスがなぜこのスペルをこういう仕様にしたか、チームメンバーとのインタビューでは没になったアイデアや開発の苦労も語られる
  • WIZ-TAC専用スキン:各プレイアブルキャラクター分のコスチューム
  • デジタルサウンドトラック
  • 没になったデモのボーナスレベル:時間のグリッチが起きる特殊なミッション群。正式版には含まれなかった実験的なコンテンツで、開発過程の「if」を体験できる
  • メインメニューにザンの黄金の胸像

開発者解説は15時間のキャンペーン全体に分散配置されており、ゲームデザインの意思決定プロセスを丁寧に解説している。「なぜこのスペルはこういう仕様にしたのか」「このミッションの難易度はどう調整したか」「このアイデアはテスト段階で没になった理由」といった視点は、ゲームデザインに興味があるプレイヤーには特に面白い内容だ。テープレコーダーを拾い上げて敵に投げつけるとダメージが入るというメタ的なジョークは、フランシスらしいセンスが全開だ。

ミッションエディターとSteamワークショップ

Tactical Breach Wizards ミッションエディター カスタムミッション作成画面

ゲームにはミッションエディターが搭載されており、プレイヤーが独自のミッションを作成できる。作成したミッションはSteamワークショップで公開・共有することが可能だ。エディターではゲームの全要素(敵の種類、部屋のレイアウト、窓の位置、オブジェクト配置など)を自由に組み合わせられる。

コミュニティの活動は活発で、開発者自身がSteamワークショップに投稿されたカスタムミッションをプレイし、お気に入りを選んで「コミュニティミッションパック」として公式にキュレーションしている。このパックには刑務所からの脱出ミッション、ジェンとバンクスのコンビ専用ミッション、ボリ・ケシュ(本来はボスキャラ)をプレイアブルとして使えるミッションなどが含まれている。

開発者はこのコミュニティパックについて「メインキャンペーンでは誰もストーリーの途中で詰まらないよう難易度に気を配ったが、コミュニティミッションはその制約がないため、キャンペーンよりも歯ごたえがある」と説明している。つまり、メインストーリーで物足りなさを感じたハードコアプレイヤーにとって、ワークショップは「本当の挑戦」が待っている場所だ。

エディターの存在はゲームの寿命を大きく延ばしている。キャンペーンをクリアした後も、日々新しいカスタムミッションが投稿されるため、実質的にコンテンツが無限に増え続ける。タクティクスゲームはコミュニティの力でどこまでも拡張できるジャンルであり、Tactical Breach Wizardsはその受け皿をしっかりと用意した。

日本語対応状況と翻訳の現状

2026年4月時点でTactical Breach Wizardsは日本語に公式対応していない。ゲームプレイ上のUIは視覚的にも分かりやすく、スペルの効果範囲やノックバックの方向はアイコンとグリッドで直感的に把握できるため、英語が苦手でも基本的な戦術プレイは十分に楽しめる。

ただしキャラクターの掛け合いやストーリーを深く楽しもうとすると、英語読解力がある程度求められる。特にユーモアの部分は文脈依存のジョークが多いため、機械翻訳では伝わりにくいニュアンスがある。

日本のプレイヤーからは「日本語化を求める声」が継続して挙がっており、Xでも同様の要望ツイートが見られる。ゲームがUnityで開発されているため、XUnity Auto Translatorのような非公式翻訳ツールが動作するという報告がある。完璧な翻訳にはならないが、ストーリーの大筋やシステムの説明は概ね理解できるレベルだという声もある。

「日本語に対応していないことが残念なポイント。それさえなければ満点」

引用元:4Gamer Tactical Breach Wizardsレビュー(2024年9月)

将来的に日本語サポートが追加される可能性は残っているが、現時点では開発元からの公式アナウンスはない。小規模スタジオにとってローカライズは大きなコストがかかる作業であり、テキスト量の多い本作ではなおさらだ。ただし、売上が好調で「次回作に向けた安定基盤ができた」とフランシスが語っている以上、将来的な言語追加の可能性はゼロではない。

英語が読めるプレイヤーには何も問題なく最高の体験が待っている。英語が苦手なプレイヤーでも、非公式ツールを活用しつつ戦術ゲームとしての核心部分を楽しむ価値は十分にある。「ストーリーが理解できなくても、敵を窓から投げ落とす快感は言語の壁を超える」という感想は、実に的を射ている。

ユーザーたちの声が物語る「本物の名作」

「圧倒的に好評」という評価は数字だけを見ても伝わりにくい部分がある。実際にどういった点がユーザーから評価されているのか、Steamレビューやゲームメディアのコメントを整理すると共通するテーマが浮かび上がる。

まず「1回のセッションがちょうどよい長さ」という声が多い。長大なXCOM系ゲームと違い、30分から1時間程度の集中プレイでも満足感が得られる。社会人や時間の取れない大人のプレイヤーにとって、これは大きな利点だ。「寝る前にあと1ミッションだけ」が成立するゲームデザインは、時間に追われる現代のゲーマーにとって最高のご褒美だ。

次に「失敗が楽しい」という逆説的な評価。リワインド機能があることで、無謀な作戦を試すことに怖さがない。「こいつを窓から投げ飛ばせるか?」と試して失敗し、別の方法を考える過程そのものが楽しい設計になっている。あるレビュアーは「これまでプレイした中で最も完成度の高いターン制パズルゲームの一つ」と評している。

Steamレビューで印象的なのは、ネガティブ評価が実質的にポジティブな内容であるケースが多い点だ。「短すぎる」「もっと遊びたかった」という声は、ゲームの質が高いからこそ出てくる不満だ。14〜20時間というボリュームはタクティクスゲームとしては決して短くないが、「もっとこの世界とキャラクターを楽しみたかった」という名残惜しさから来る感想が目立つ。

noteの日本語レビューでは「ゲーム・オブ・ザ・イヤー候補ではなく確定」と太鼓判を押す声もあった。インディーゲームならではの限られたプレイ時間の中に凝縮された「濃い」体験が評価されている。

一方で構造的な指摘もある。「Hardモードでも簡単すぎる」「リワインドが無制限なので詰みがない」という意見は、ゲームの最大の長所が「歯ごたえを求めるプレイヤーには物足りない」という短所にもなりうることを示している。また「難易度のバランスが一部ミッションで急に上がる」という指摘もあり、特定の中盤ミッションで詰まるプレイヤーがいるようだ。スキップ機能の存在を知らずに諦めてしまうケースがあるらしく、UIでのスキップ機能の案内がもう少し目立ってもいいかもしれない。

類似ゲームとの位置づけ:タクティクスゲームの新たな選択肢

タクティクスゲーム全体の中でTactical Breach Wizardsをどう位置づけるか。ジャンルとして近いゲームを探しているなら、インディーターン制タクティクスの傑作が他にも存在する。

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一方でTactical Breach Wizardsが他と一線を画すのは「ストーリーとキャラクターへの投資」の深さだ。14時間のキャンペーンを通じて愛着が積み上がっていくキャラクターたちの物語は、純粋なパズルゲームでは得られない「思い出」として残る体験を生み出している。XCOMファンが求める「チームを育てる楽しさ」と、Into the Breachファンが求める「パズルを解く美しさ」、そしてノベルゲームファンが求める「キャラクターを好きになる体験」。この3つが一つのゲームに同居しているのは、本当に珍しい。

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まとめ:インディーゲームが示したタクティクスの新しい形

Tactical Breach Wizardsは、2024年に登場したターン制タクティクスゲームの中でも特別な存在だった。

リワインドシステム、ノックバックを軸にした戦術設計、5人の個性豊かな魔法使いキャラクター、そしてダグラス・アダムズ的なユーモアに満ちたライティング。これらの要素が一つのゲームに高い密度で凝縮されている。

発売直後のSteamプレミアムタイトル10位、IGF Excellence in Design受賞、Metacritic 89点、OpenCritic推薦率100%、Steam「圧倒的に好評」。数字は嘘をつかない。このゲームが「たまたまバズった」のではなく、確かな作品の質に裏付けられた評価だということを示している。

6.8年という長い開発期間、一人のゲームジャーナリストが「こんなゲームがあったらいいのに」という自分の欲求に正直に向き合った結果として生まれた作品。そのパーソナルな動機が、最終的に10万本超のセールスと全メディア推薦という形で実を結んだ。

「失敗を試せる安全な環境」と「成功したときの純粋な達成感」。この両立こそが、Tactical Breach Wizardsが広い層から愛される理由だ。タクティクスゲームの敷居を下げながら、奥深さを犠牲にしない。ストーリーで心を掴み、戦術で頭を刺激する。その両方を同時にやってのけた希有な一本だ。

「小規模チームが時間をかけて磨き上げた、一つのアイデアの結晶」。Tactical Breach Wizardsはそういう種類のゲームだ。同じくSteamで圧倒的好評を獲得したインディーの名作「Frostpunk」が「極寒のサバイバル」という一点突破で世界を作ったように、本作は「ケブラーの魔法使いがドアを蹴破る」という一点突破で唯一無二のゲームを作り上げた。

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タクティクスゲームに少しでも興味があるなら、まずはSteamストアページのトレーラーを見てほしい。ケブラーを着た魔法使いが窓から敵を投げ落とすシーンを見て「面白そう」と思ったなら、それはほぼ確実に正しい直感だ。このゲームは、その第一印象を裏切らない。

Tactical Breach Wizards

Suspicious Developments
リリース日 2024年8月22日
サービス中
同時接続 (Steam)
27
2026/04/08 アジア圏ゴールデンタイム計測
レビュー
11,521 人気
98%
全世界
圧倒的に好評
11,521件のレビュー
👍 11,295 👎 226
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不明
8件のレビュー
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開発Suspicious Developments
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