「DEATH STRANDING DC」孤独な配達が世界をつなぐ小島秀夫の傑作ADV

DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT|小島秀夫が作った「繋がり」と「孤独」のアクションADV

初めて雪山を歩いたとき、足を滑らせてバランスを崩しながら、荷物を抱えたまま斜面を転がった。ゲームオーバーにはならなかったが、配達物の状態ゲージが大幅に下がった。「あ、これは丁寧にやらないといけないゲームだ」と、その瞬間に理解した。

DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUTは、小島秀夫監督がKOJIMA PRODUCTIONSを立ち上げて最初に作ったゲームのアップグレード版だ。2019年にPS4で発売されたオリジナル版が2021年にPS5向けにDIRECTOR’S CUTとして再リリースされ、同年にSteam版も配信された。荷物を運ぶ「配達」を核に据えたアクションADVで、発売当初から賛否が激しく分かれた問題作だ。

「歩くだけのゲーム」と言う人もいる。実際、プレイ時間の多くは広大な荒野を歩いて荷物を届けることに費やされる。戦闘もあるが、このゲームの心臓部は「歩行」と「配達」にある。これを退屈と感じるか、没入体験と感じるかで、このゲームへの評価は180度変わる。

Steamのレビュー数は4万件を超え、評価は「非常に好評」。世界的に見ても「2019年代のゲームの中で最も独創的な作品の一つ」として挙げられることが多い。批評家からの評価も高く、THE GAME AWARDSや各メディアのGOTYを受賞またはノミネートされた。

DIRECTOR’S CUTではオリジナル版に追加要素が多数盛り込まれ、戦闘アクションが強化され、レーストラック、射撃場、新エリアなども追加されている。PC版にはウルトラワイド解像度対応、フレームレート無制限、Steam実績など、コンソール版にはなかった要素も含まれている。

このゲームが本当に好きな人と、正直「合わなかった」という人の両方の声を聞きながら、なぜこんなにも評価が割れるのか、それでもなぜ多くの人がこのゲームを「体験してよかった」と言うのかを書いていく。小島秀夫という作家がDEATH STRANDINGで何を作ろうとしたのか、プレイした自分なりの解釈も含めて正直に書く。

目次

こんな人に読んでほしい

DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUTが刺さるのは、こういうプレイヤーだ。

  • 「ゲームで体験したことのない感情を味わいたい」と思っている人
  • 小島秀夫作品(メタルギアシリーズ)のファンで、新作が気になっている人
  • アクションよりもストーリーと世界観を楽しみたい人
  • 人との繋がりや孤独をテーマにした作品が好きな人
  • 広大なフィールドを自分のペースで探索するオープンワールドが好きな人
  • ゲームをプレイしながらいろいろと「考えたい」人
  • マルチプレイはしたくないが、他のプレイヤーと間接的に繋がる感覚を味わいたい人
  • 映画のような映像体験とゲームプレイが融合したものを楽しみたい人

逆に向かないのはこういう人だ。アクションゲームとしての刺激を求めている人、サクサクと短時間でクリアしたい人、「移動が面倒」と感じやすい人。このゲームは意図的にプレイヤーに「面倒くさい移動」を体験させる設計になっている。坂道を歩くたびにバランスを取る必要があり、荷物が多ければ多いほど転びやすくなる。これをゲームデザインの豊かさと取るか、不便な仕様と取るかは、完全に個人差だ。

「最初の5時間が耐えられなかった」という人の声もよく聞く。このゲームは序盤が特に重い。チュートリアルと世界観説明が長く続き、プレイヤーが自由に動けるようになるまで時間がかかる。ただ、そこを乗り越えた人の多くが「気づいたら10時間経っていた」状態になっている。最初の関門を越えるかどうかが全てと言っても過言ではない。

プレイする前に覚悟してほしいのは「最初の退屈さと向き合う時間が必要」ということだ。これは批判ではなく、このゲームの作りとして意図的な部分が多い。小島秀夫はプレイヤーに時間をかけて世界観に馴染ませ、徐々に没入させる手法を取っている。最初から全力でエンターテイメントを提供するゲームではない。「こういうゲームが来たときに、どこまで付き合えるか」が一つの試金石になる。

ゲーム概要:「繋ぐ」ことが全ての世界で配達員を続ける理由

DEATH STRANDINGの舞台は、「デス・ストランディング」と呼ばれる謎の現象によって人類の社会が崩壊したアメリカだ。死と生の境界が曖昧になり、「BT(Beached Things)」と呼ばれる霊的な怪異が各地に出没する世界で、生き残った人々はチャイラル通信網から切り離された孤立した施設やシェルターに閉じこもって生きている。

主人公は「サム・ポーター・ブリッジズ」(ノーマン・リーダス演じる)。配達専門会社「ブリッジズ」のポーターとして働く孤独な男だ。他者との接触を極端に嫌い、荷物を届けることだけを生きがいにしている。物語は、ブリッジズの会長で自身の養母でもある「アメリー」の命令を受け、アメリカ大陸を横断して孤立したコミュニティをチャイラル通信網で繋ぎ直す「アメリカ再建計画」に参加することから始まる。

ゲームプレイの核心は「配達」だ。プレイヤーはさまざまな荷物を依頼元から届け先まで運ぶ。荷物には「状態」があり、転んだり雨(タイムフォール)に当たったりすると劣化する。重い荷物を大量に積めば積むほどサムは遅くなり、バランスを崩しやすくなる。山道を越え、川を渡り、BTの徘徊する霧の中を息を殺して通り抜けながら、一歩一歩届け先へ向かう。

この「移動の苦労」がこのゲームの面白さの源泉だ。道がないところに自分でルートを作り、前の配達で慣れた道が次の配達ではまた新鮮な挑戦になる。「そろそろこの山にロープを張りたい」「この川に橋を架けたい」という欲求が自然に生まれてくる。

世界観を少し補足すると、「タイムフォール」と呼ばれる雨には時間を加速させる効果がある。荷物がタイムフォールに濡れると急速に劣化する。植物は瞬時に朽ちて枯れる。この雨の中を歩くとき、プレイヤーは本能的に「急がないといけない」と感じる。この感覚がゲームの世界観と完璧に一致している。「死と隣り合わせの世界」を、移動システムで体感させる設計だ。

非同期マルチプレイ:「繋がり」の設計が天才的

このゲームの最もユニークな要素の一つが、非同期マルチプレイシステムだ。他のプレイヤーと直接ゲーム世界で会うことはないが、他のプレイヤーが建設したハシゴ、ロープ、橋、道路が自分のゲーム世界に現れる。そして自分が建設したものが他のプレイヤーの世界に現れる可能性もある。

困っている場所に誰かが架けた橋があった。急斜面に張ってあったロープのおかげで荷物を落とさずに下れた。そういう「見知らぬ誰かの助け」に何度も救われる。これは他のプレイヤーが「いつかここを通る誰かのために」と架けた橋で、そこにはその人のプレイスタイルや思いやりが反映されている。

助けられたときは「いいね」を送れる。建設物や荷物にいいねを付けると、相手のプレイヤーに通知が届く。誰に対してかわからない、どこにいるかもわからない誰かからの「いいね」が、ゲームの中でじわじわと蓄積されていく。

ゲームで「ありがとう」という気持ちをこんなに感じたのは初めてだった。誰かが作った橋を渡るたびに、そこに人の気配があって、自分も誰かに向けて何か残したくなった。

引用元:Steamレビュー

この設計はゲームのテーマと完璧に一致している。「繋がること」の価値を、プレイヤーが実際にプレイしながら感じられる仕組みになっている。ただシステムとして実装するだけでなく、テーマをゲームプレイの中に溶け込ませている点は、本当に見事だ。

具体的な仕組みとして、建設物にはオンラインでプレイしている場合にのみ他のプレイヤーのものが共有される。完全に一人で遊びたい場合はオフラインモードも選べる。オフラインだと自分が設置したものだけが残る「純粋な一人旅」になるが、オンラインの「誰かがここにいた」感覚はなくなる。どちらで遊ぶかでゲームの雰囲気がかなり変わる。

非同期マルチプレイという仕組み自体はDark Soulsシリーズでも採用されているが、DEATH STRANDINGではこれをメインの遊びの核に据えた点が違う。他のプレイヤーとの間接的な繋がりがゲーム体験の質を大きく左右する。

物語とテーマ:小島秀夫の問い

DEATH STRANDINGのストーリーは複雑で重い。ゲームを進めるにつれて、BTとは何か、デス・ストランディングとは何か、そして生と死の意味が少しずつ明かされていく。途中、長い映像シーン(カットシーン)が続くこともあり、ゲームプレイと物語の割合が均等ではない部分もある。

キャストは豪華だ。ノーマン・リーダス(サム)、マッツ・ミケルセン(クリフォード・アンガー)、レア・セドゥ(アメリー)、レジー・ワッツ、ニコラス・ウィンディング・レフン、三上哲、田辺誠一、石田ゆり子など、映画・ゲーム界の著名人が多数参加している。映像クオリティは高く、キャラクターの表情や動作のリアリティは圧倒的だ。

物語のテーマは「繋がること」と「孤独」だ。サム自身は人との接触を嫌う「接触恐怖症(ハプトフォビア)」を持ちながら、孤立した人々を繋ぐために歩き続ける。この矛盾が物語の中心にある。孤独な配達員が、配達を通じて世界と繋がり、最終的に何を得るのか。ゲームをプレイしながらこの問いを考え続けることになる。

クリアしてしばらく経っても、あのエンディングのことを考えてしまう。「繋がることの意味」について、これほど真剣に向き合わせてくれたゲームは他にない。

引用元:Steamレビュー

小島秀夫はメタルギアシリーズで「核」や「戦争」の問いを作品のテーマに組み込んできた。DEATH STRANDINGでは「孤独とSNS時代の繋がり」が問いの核にある。現代人が抱えるインターネット経由の繋がりとリアルな孤独というテーマを、2019年という時期に全くオリジナルのゲームシステムに落とし込んだ点は、今振り返っても先見性がある。

ゲームの舞台がアメリカ大陸を横断する旅である点も象徴的だ。分断された各地のコミュニティを繋いでいくという構造は、現代社会の分断と対話の問いを直接映している。プレイヤーは「繋がりを取り戻す旅」を体験しながら、なぜ人は繋がることが必要なのかを身体的に感じる。これをゲームシステムで実現したことが、DEATH STRANDINGという作品の核心だ。

「配達員」という職業を主人公にした選択も意味深だ。現代においてデリバリーサービスが日常に溶け込んでいる一方で、その配達員の存在はほぼ見えない。荷物は届くが、それを運んだ人間とは顔を合わせない。DEATH STRANDINGのサムはその「見えない配達員」を主人公にし、配達という行為を英雄的な使命として描く。こういう視点の転換は、ゲームというメディアでしかできない体験だと思う。

DIRECTOR’S CUTの追加要素:オリジナル版から何が変わったのか

DIRECTOR’S CUTはPS5向けに2021年9月にリリースされ、後にSteam版、PC版でも展開された。オリジナル版のPS4版からどう変わったのか、主な追加要素を整理する。

新ゲームプレイ要素

まず追加されたのが「パンチライン」と呼ばれる新しいアクション武器だ。非常に強力な近接攻撃武器で、MULEやBTに対して使える。カタパルト(空中投擲装置)で荷物を遠距離に飛ばす新システムも加わり、配達の手段が増えた。効率的なルートを探すだけでなく、状況に応じた戦略的な輸送方法を考える幅が広がった。

「レーストラック」も新しく追加されたコンテンツだ。バイクを使ったタイムアタックで、それまでの「慎重に移動する」ゲームデザインとは異なる爽快感を楽しめる。移動のストレスを感じてきたプレイヤーに向けた息抜きコンテンツとして機能している。フィールドに置かれた風船をバイクで弾き飛ばしながら走るシンプルなルールだが、タイムを縮める楽しさがある。

「射撃訓練場」では各種武器をアクションゲームとして楽しめる。DEATH STRANDINGの本編では基本的に戦闘を避けるゲームデザインになっているが、アクション的な楽しみ方もしたいという需要に応えた形だ。ターゲットを次々に撃ち抜く練習ができ、武器の性能を実戦前に確認するのにも使える。

また、新しいストーリーエピソードとしてフラグメント(サイドミッション)が追加されている。オリジナル版のストーリーを補完する内容で、キャラクターの背景をより深く掘り下げている。オリジナル版をプレイ済みの人にとっても、追加フラグメントで新しい視点から物語を見直せる。

新エリア「超高難度配達区域」

ゲームに新しいエリアが追加された。「超高難度配達区域」と呼ばれるこのエリアは、本編クリア後に挑戦できる高難度コンテンツだ。敵が強く、地形も複雑で、経験者向けのチャレンジとなっている。本編ではやや物足りなさを感じたプレイヤーが戻ってくる理由になっている。

このエリアでは「アドバンスド・リコン・ブーツ」などの強化装備も手に入る。本編での戦略をそのまま使っても歯が立たない場面が多く、よりアグレッシブな立ち回りが求められる。「クリア後もやることがなくなった」という感想を抱きやすいオリジナル版の弱点を補う追加コンテンツとして機能している。

Steam版PC固有の強み

SteamのPC版は解像度やグラフィック設定の自由度が高い。ウルトラワイドモニター(21:9)や超ウルトラワイド(32:9)への対応、フレームレート上限の解除、DLSS(Deep Learning Super Sampling)によるアップスケーリングなど、ハイエンドPCで遊べば明らかにコンソール版を超える映像体験が得られる。

グラフィックは全体的に現在のゲームと比べても見劣りしない。特に霧の表現、水の表現、雨の描写は圧巻で、ハイエンドPCで最高設定にすると映画のような映像美を楽しめる。雨粒が荷物に当たる様子、靴底が泥に沈む描写、川の底の砂利が動く表現など、細部へのこだわりが随所に感じられる。

Steam実績システムも実装されており、コンプリートを目指すやり込みプレイの軸になる。コンソール版にはなかったこの要素は、「全実績解除」を目標にするプレイヤーに新しい遊び方を提供している。

サウンドトラックが豊かで、配達中に流れる楽曲がプレイ体験を独特のものにしている。Low Roarのアンビエントミュージックから始まり、Silent Poets、Chvrches、Woodkidなど、選曲センスが独特でプレイ体験に深く刻み込まれる。

「歩くゲーム」の哲学:なぜ移動が面白いのか

DEATH STRANDINGを批判するとき、「歩くだけのゲーム」という言い方がよくされる。実際にプレイするとわかるが、これは半分正しくて半分間違っている。

地形との対話

DEATH STRANDINGのフィールドは広大で、多くの場所に道がない。プレイヤーは荷物の重さ、地形の傾斜、足場の状態を常に意識しながら移動する必要がある。ゲームパッドでプレイする場合、L2・R2トリガーを使って左右の手でバランスを取る操作が求められる(設定で自動化もできる)。

川を渡るときは、流れの強さと深さを確認してから入る。急流の中で荷物を抱えたまま流されたら最悪だ。山道を登るときは、体力ゲージ(スタミナ)に気を配りながら適度に休む場所を探す。雨(タイムフォール)が降り始めたらできるだけ素早く通過するか、雨宿りできる場所を探す。

こうした判断の連続が「歩く」という行為を意思決定の連続に変えている。単純な移動ではなく、環境との対話だ。「この山を正面から越えるか、迂回するか」「川沿いに歩いて橋を使うか、泳いで渡るか」という選択が常に発生する。最短距離が必ずしも最善ルートではない、というこのゲーム特有の判断基準が、探索の面白さを生んでいる。

ゲームを進めると地形を把握し始め、「この山の向こうに抜け道があったはず」「あの川は浅瀬があったから渡れる」という経験値がプレイヤー自身に蓄積される。これは多くのゲームで「キャラクターのレベルアップ」として表現されることを、DEATH STRANDINGでは「プレイヤー自身の学習」として実装しているということだ。

道を作る喜び

ゲームを進めると「道路」を建設できるようになる。プレイヤーが素材を集めて建設することで、砂利道が舗装された道路になる。バイクや三輪トラックが走りやすくなり、移動効率が劇的に上がる。

この道路建設は単独でもできるが、他のプレイヤーが集めた素材と合算される仕組みになっている。誰かが半分まで素材を集めた建設サイトに自分が素材を持ち寄ることで、ついに道路が完成する瞬間がある。自分の貢献だけで完成したわけではないが、「みんなで作った道」を走るときの感覚は独特だ。

自分が素材を届けて完成した橋を、あとで別の配達で使ったとき、なんか誇らしかった。あの感覚はこのゲームにしかない。

引用元:Steamレビュー

ゲームが進んで道路網が整備されてくると、最初の頃とは全然違うスピードで移動できるようになる。険しかった山道が今は舗装され、バイクで颯爽と走れる。この「世界を変えていく」感覚がゲームの後半に向けて積み重なっていく。

道路が繋がっていく過程で「あの拠点とこの拠点の間を繋ぎたい」という目標が自然に生まれる。どの区間を優先して建設するか、素材調達のルートはどうするか、ということを考えながらプレイするようになる。「配達しながら道路建設の素材も集める」というルートの最適化が、このゲームの楽しいパズル要素の一つだ。

「面倒くさい」のは意図的な設計

このゲームでは、荷物を取りに行くのが「面倒くさい」。配達ルートを考えるのが「面倒くさい」。BTの群れを避けるのが「面倒くさい」。ほぼ全ての行動に手間がかかる。

これは意図的な設計だ。配達の「面倒くさい部分」をプレイヤーに体験させることで、「届けることの意味」を実感させる構造になっている。荷物が届いた時のNPCのリアクション、荷物の中身が何だったかの説明テキスト、「こんなに遠くまで運んでくれてありがとう」というメッセージに重みが生まれる。

苦労して届けるから、届けたときの達成感がある。「面倒くさい」はネガティブな評価ではなく、このゲームが機能している証拠だ。ただし、全員がその「意図」を楽しめるわけではないということでもある。

例えば「医療機器を損傷なしで届けてほしい」という依頼がある。その医療機器を受け取った先のNPCが「これがあれば患者を救える」と言う。道中でBTに囲まれそうになり、荷物を抱えたまま息を殺して通り抜ける。たどり着いたとき「状態:良好」と表示される。このとき感じる達成感は、ミニゲーム的な感覚ではなく「本当に届けた」という実感に近い。これはゲームデザインが実現した感情であり、簡単には作れない体験だ。

BTとテロリスト:戦闘の話

DEATH STRANDINGは「アクションゲーム」のカテゴリに分類されているが、通常のアクションゲームとはかなり異なる。戦闘は基本的に「避けるもの」「最終手段」として設計されている。

BTとの遭遇:ステルス回避が基本

BT(Beached Things)は、死後の世界から引き戻せなくなった霊的な存在で、霧の中に潜んでいる。サムには「ODRADEKスキャナー」と呼ばれる検知装置が搭載されており、BTが近くにいると察知できる。スキャナーが激しく動くほど、BTが近くにいることを示す。

BTに近づきすぎると捕まってしまい、最終的に「ボイドアウト」という大爆発を引き起こす。ボイドアウトはゲームオーバーではないが、爆発跡に大きなクレーターが残り、地形が変わってしまう。荷物も失う可能性がある。

基本的な対処は「ステルス」だ。息を止めて(L2ボタン長押し)気配を消しながら、BTが把握している範囲の外を慎重に歩く。体力が削られる状況でBTに接近されたときは、血(サムの血液が原料の武器)を使って撃退したり、BTの動きを一時的に封じることもできる。

BTとの遭遇は恐怖感の演出として機能している。霧の中で、ODRADEKが激しく動き始めたとき、黒い油のような手が地面から伸びてくる。このビジュアルと音響の演出が怖い。「早く通り抜けたい」という焦りと「荷物を守りたい」という使命感が同時に来る。初めてBTに捕まりかけた瞬間の緊張感は、ホラーゲームに近いものがある。

BTエリアには「タイプ」があり、通常のBTと「ミニボス」的な存在に分かれる。ミニボスBTはサイズが巨大で、撃退するためにはアンチBT武器が必要になる。血のグレネードやホーミングの血液弾を使い、巨大なBTを倒す戦闘は、ゲームの中でも特にインパクトが強い場面の一つだ。

MULEとテロリスト:人間との戦い

「MULE(ミュール)」と呼ばれる荷物泥棒集団が各地に出没する。もともとは配達員だったが、荷物を所有することに依存症になってしまった者たちだ。彼らはプレイヤーの荷物を奪おうとしてくる。

MULEとの戦いはアクション要素が強い。スタン系の武器で無力化するか、格闘技で叩きのめすかになる。DEATH STRANDINGの格闘戦は意外と爽快感があり、スタングレネードを投げて一気に複数の敵を倒すといったプレイも楽しい。

DIRECTOR’S CUTでは「カタパルト」を使った新しいアクションも可能になった。荷物をカタパルトで飛ばして遠距離から敵の頭上に落とす、という使い方もできる。これにより、戦闘や荷物輸送の幅が広がり、オリジナル版よりもアクション要素を楽しめる場面が増えている。

ただし、MULEを大量に倒してしまうと後述する理由から問題が起きる。このゲームでは「無闇に戦う」とデメリットがある。倒した人間はBTになる危険性があり、ネクロシスと呼ばれる現象が発生する。戦闘の後始末まで考える必要がある設計は、「アクションゲームとして遊ぶ」という感覚と相性が悪い面がある。

「テロリスト」と呼ばれる、より戦闘的な勢力も後半に登場する。MULEより組織的で、武装も強い。このあたりから戦闘システムへの理解が問われるようになり、ゲームプレイの緊張感が上がる。DIRECTOR’S CUTでの戦闘強化はこのあたりの場面で特に効果を発揮する。

戦闘を通じてゲームが問いかけてくることがある。倒した敵の死体を処理しなければ、それがBTになり新たな脅威になる。「戦って勝つ」だけでは終わらず、「その後始末」までが戦闘の一部として設計されている。暴力行使のコストをゲームシステムに組み込んでいる点は、メタルギアシリーズでも見られた小島秀夫的な「戦争批判」の延長にある。快楽的な戦闘を推奨しない設計がDEATH STRANDINGのゲームプレイ全体を貫いている。

ストーリーと世界観の深さ:10時間かけて仕込まれた種が花開く

DEATH STRANDINGのストーリーは、序盤が非常に取っつきにくい。専門用語が多く、「チラリウム」「BT」「デス・ストランディング」「DOOMSの数字」「カイラル通信」など、最初の数時間は意味がわからない単語を浴び続ける感覚がある。

だが、中盤から後半にかけて、序盤に撒かれた伏線がすべて繋がっていく。「あのキャラクターがそういう存在だったのか」「あのシーンにはそういう意味があったのか」という気づきが連続する。この構造はメタルギアシリーズでも小島秀夫が得意としてきた手法だ。

物語の構造として「章」に分かれており、各章でメインの謎が一つずつ明かされる。第1章では「なぜサムが配達をしているのか」、第2章では「ブリッジズとは何か」、そして後半に向けて「デス・ストランディングの本当の意味」が少しずつ見えてくる。プレイヤーは謎を解きながら先へ進む動機付けが継続する。

キャラクターたちの重さ

サム・ポーター・ブリッジズというキャラクターは、最初は感情移入しにくい。無口で、人との接触を避け、任務を淡々とこなす。だが、ゲームを進めるにつれてその背景が明かされ、「なぜサムがこういう人間になったのか」が見えてくる。

サムが持つ「リパトリエイション」(死んでも現世に戻ってくる)能力と、「ハプトフォビア」(接触恐怖症)という二つの特性は、ゲームのテーマと直結している。死を繰り返す存在でありながら生に執着せず、人と繋がりたいのに触れることができない。この矛盾がサムというキャラクターの核心だ。

マッツ・ミケルセンが演じるクリフォード・アンガーは、DEATH STRANDING屈指の名キャラクターだ。「かつての戦争」の記憶の中に存在するこの人物との関係は、物語の核の一つになっている。マッツ・ミケルセンの演技は圧巻で、このキャラクターのためだけにプレイする価値があると言う人も少なくない。

「BT」である幽霊の中に赤ちゃんが存在するという設定も独特だ。サムが持ち歩く「BB(ブリッジベイビー)」は、生死の狭間にいる赤ちゃんで、BTの検知に使われる。このBBとサムの関係性が物語の感情的な核になっている。最初は「道具」として扱っていたBBとの関係が、ゲームを通じて変化していく様子は、プレイヤーが気づかないうちに感情を揺さぶる。

BBの話がわかったとき、思わず泣いた。こんな形で感情を揺さぶられると思っていなかった。

引用元:Steamレビュー

脇役のキャラクターたちも魅力的だ。ハートマン博士(ニコラス・ウィンディング・レフン演じる)は21分ごとに心停止を繰り返す設定で、死の境界を研究し続けるマッドサイエンティスト的な存在。ダイハードマン(トミー・アール・ジェンキンス演じる)はブリッジズの司令官として黒いスーツとスカルマスクで登場し、その正体に謎が多い。こうした個性的なキャラクターたちが持つ「あのキャラクターの本当の目的は何か」という謎が、物語を先へ進ませる動力になっている。

エンディングの問いかけ

DEATH STRANDINGのエンディングは人によって評価が大きく分かれる。「泣いた」という人と「よくわからなかった」という人に二分される。小島秀夫は答えを提示するよりも「問いを投げかける」スタイルの作家であり、このゲームのエンディングもまさにそれだ。

ただ確実に言えるのは、プレイ後に何かを「考えさせられる」ゲームだということだ。生と死、繋がりと孤独、愛と損失。これらのテーマがゲームのラストに向けて積み重なり、エンディング後にしばらく余韻が残る。

ゲームを通じてさまざまな感情を経験させてくれる作品という意味では、LIFE IS STRANGE 2もそういう作品だ。こちらは道を旅する兄弟の物語を描き、選択の重みを全く異なるアプローチで描いている。

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ゲームの難易度とシステム:どう遊ぶのが正解か

DEATH STRANDINGには複数の難易度設定がある。「VERY EASY」「EASY」「NORMAL」「HARD」の四段階があり、難易度によってBTの強さやMULEの攻撃性が変わる。

初プレイの場合はNORMALで始めることをすすめる。EASYだと戦闘がほぼ問題にならないため、BTとの緊張感が薄れる。HARDは戦闘が本格的なアクションゲームレベルになり、移動もより過酷になる。VERY EASYは「ストーリーを楽しむだけ」という目的で設定されており、ゲームプレイをほぼスキップできる。

難易度は途中で変更できるので、プレイしながら合わない部分があれば下げることが可能だ。「戦闘が難しすぎる」と感じたらEASYに下げてもいい。このゲームの核はアクションではなく「移動と配達の体験」なので、戦闘の難易度で詰まるのはもったいない。

装備と資源管理

サムが使える装備は配達の効率を大きく変える。外骨格(エクソスケルトン)は荷物の最大積載量を増やす、または移動速度を上げる効果がある。バイクや三輪トラックなどの乗り物は長距離移動を劇的にらくにする。荷物保護用の雨避けカバーはタイムフォールから荷物を守る。これらの装備を状況に応じて使い分けることで、配達の難易度が変わる。

装備には耐久度があり、使い続けると劣化する。消耗品は定期的に補充が必要だ。拠点で充電・修理できるが、それも管理の一部になっている。長距離ルートで途中乗り物のバッテリーが切れると詰む可能性もある。「行ける距離と充電のタイミング」を考える計画性が必要だ。

ゲーム中に手に入る「チラリウム」という素材は、ほぼすべての建設物や消耗品のクラフトに使う。このチラリウムをどう調達するかも資源管理の一部だ。単純に道路建設に使うだけでなく、修復や装備補充に回すかの優先度を常に判断する必要がある。序盤から中盤は常にチラリウム不足になりがちで、「あと少しあれば橋が完成するのに」という場面が何度もある。

プリントシステムとカイラルネットワーク

このゲームでは3Dプリンター(プリポーター)を使って各種装備を現地調達できる。カイラル通信網が繋がった拠点ではアイテムを印刷でき、必要な素材さえあれば消耗した装備をいつでも補充できる。

カイラル通信網の範囲を広げるにつれて、プリントできるアイテムの種類が増える。新しい拠点を繋ぐたびに使えるツールが増えていく感覚は、ゲームの進行と連動していて達成感がある。「あのエリアを繋げば、あの装備が使えるようになる」という明確な目標が常に存在するため、ゲームの進行方向がわかりやすい。

「ポーターランク」とコネクション

ゲーム内の各拠点・人物には「コネクション度」という指標がある。配達を重ねるにつれて上がり、高くなると特典が解放される。新しいアイテムのプリントデータが手に入ったり、アイテムを分けてもらえたりする。これが「もう一本配達しよう」というモチベーションになる。

また「ポーターランク」も存在し、配達の質(荷物の状態、配達効率)によってランクが上がる。完璧な状態で届けるほど高評価になる。腕前の向上が数字で見えるシステムだ。星評価が高くなるほど、拠点のNPCからの信頼度も上がり、より重要な配達を依頼されるようになる流れがある。

コネクション度が最大になると「スタープレイヤー」認定がもらえる。この称号はゲームプレイ上の意味合い以上に、「この人物との関係が完成した」という感覚を与えてくれる。物語の文脈の中で「繋がった」という実感を、コネクション度という数値で可視化している設計は、ゲームのテーマと一致している。

配達の依頼には「緊急度」や「条件」が付いているものがある。「損傷厳禁」の荷物、「冷凍保管必須」の医療品、「時間制限あり」の緊急配達など、単純な移動だけでは対処できない状況が発生する。これらの配達は攻略の工夫が必要で、「どのルートで、どの装備を使って、どのくらいの時間でいけるか」を計画する楽しさがある。配達の依頼をこなしていくうちに、徐々に「この依頼人がどんな状況にいるのか」「この荷物が誰のために使われるのか」が見えてきて、感情移入が生まれる。

ネガティブな評価も正直に:このゲームが合わない人の理由

DEATH STRANDINGのSteamレビューを読むと、否定的な評価もある程度存在する。内容を見ると、概ね以下の理由が多い。

序盤の遅さ問題

ゲームの最初の2〜3時間は非常に重い。チュートリアルが長く、操作の制限も多く、世界観の説明が続く。ストーリーが本格的に動き始めるのはある程度進んでからで、「最初の10時間は我慢」と言われることもある。

最初の3時間で諦めかけたけど、友達に「10時間やれ」と言われて続けたら本当に面白くなってきた。最初のハードルが高すぎる。

引用元:Steamレビュー

これはDEATH STRANDINGに限った話ではなく、小島秀夫ゲームの伝統的な特徴でもある。メタルギアシリーズも最初のチュートリアルに時間がかかり、独自のゲームシステムへの慣れが必要だった。ただ、2019年以降のゲームとして比較すると、導入の重さは現代のゲームデザインのトレンドとはズレている感はある。

カットシーンの多さ

映像シーン(カットシーン)の量が多い。ゲームプレイとカットシーンの比率について「映画を見ているみたい」という感想は褒め言葉にもなるし、批判にもなる。「ゲームを遊びたいのに、突然30分の映像シーンが始まって操作できない」という不満の声は確かにある。

ただし、そのカットシーンの映像クオリティは高く、俳優陣の演技も見応えがある。ゲーム内の映像体験を映画的な質で楽しめると考えるか、ゲームプレイの邪魔と感じるかは人による。カットシーンはスキップできるが、ストーリーを把握するためにはほぼ見る必要がある。

「戦闘が微妙」という声

戦闘システムは評価が割れる。アクションゲームとして見ると「物足りない」と感じる人がいる。BTとの戦いはステルス寄りで派手さがなく、MULEとの肉弾戦は動作がやや重い。「せっかくのアクションなのに爽快感が足りない」という声は理解できる。

DIRECTOR’S CUTではアクション要素が強化されたが、それでも専業のアクションゲームと比べると物足りなさはある。戦闘に期待してはいけないゲームであることは変わらない。

「世界が寂しすぎる」という声

ゲームの世界が「荒廃していてNPCがほぼいない」ことへの孤独感は、人によって耐えられない場合がある。道を歩いていても誰もいない。会話できる相手もいない。拠点では通信越しにやり取りするが、直接話せる相手はほぼいない。

これはゲームのテーマの一部なのだが、「ゲームをしていて寂しくなる」という感覚が苦手な人にとってはストレスになる。ポストアポカリプスの世界観として理解できても、何十時間も孤独な世界を歩き続けるのは精神的に重い部分がある。

アクション要素もあり、共に旅する仲間との絆も楽しめるゲームが好きなら、Sons Of The Forestが違う角度のサバイバルゲーム体験を提供している。こちらはホラー要素が強いが、仲間との行動もある。

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「ゲームとしての完成度」に関する辛口評価

「アート作品としては評価するが、ゲームとしては不完全」という批評的な意見もある。配達ミッションのバリエーションが少なく、後半になると同じような移動と配達を繰り返す単調さを感じるという声だ。

確かに、配達という行為の本質は変わらないため、50時間以上プレイすると「また同じことをしている」という感覚が来ることがある。ゲームプレイの多様性という点では他のオープンワールドゲームに劣る部分があり、この点は正直に認める必要がある。

ただし、配達という行為に飽きる前にストーリーが進むように設計されており、「謎を解きたいからもう一本配達する」という動機付けは最後まで維持されている。ゲームプレイの豊かさで引っ張るよりも、ストーリーの謎で引っ張る設計だ。

サウンドトラック:このゲームのBGMは特別だ

DEATH STRANDINGの音楽は、ゲームの体験と切り離せない。

Low Roarのアンビエント・フォーク、Silent PoetsのエレクトロニックBGM、CHVRCHESのポップロック、Woodkidのオーケストラル楽曲など、アーティストのラインナップが多様で、それぞれが使われるシーンと完璧に合っている。

配達の途中、霧を抜けて広い草原に出た瞬間に流れてくる曲がある。その曲のタイトルは「BB’s Theme」で、Low Roarが手がけた楽曲だ。このタイミングでこの曲が流れるとき、プレイヤーは何かを感じる。それは安堵なのか、孤独なのか、それとも物語の登場人物への感情移入なのかは人によるが、強烈な体験であることは間違いない。

配達中に流れる音楽が好きすぎて、サントラを別で買った。あの霧の中を歩いているときの感覚が今でも思い出せる。

引用元:Steamレビュー

Low Roarは2021年に亡くなったロシア出身のフォークシンガー、ライアン・カドウェルのプロジェクトだ。DEATH STRANDINGの音楽への関わりがきっかけで日本での知名度が上がった。ゲームと音楽の関係がこれほど密接な作品はそう多くない。

BGMの流れ方も工夫されている。常にBGMが流れているわけではなく、静かな場面では環境音だけが続く。風の音、足音、荷物が揺れる音。そういった「音楽のない時間」があるからこそ、BGMが流れ始めたときの効果が際立つ。サウンドデザイン全体が一つの体験として設計されている。

音楽が「ご褒美」として機能しているのがこのゲームの面白いところだ。険しい山道を登り切って開けた場所に出たとき、川を無事に渡り切ったとき、長い霧のエリアを突破したとき。そういう達成の瞬間に音楽が流れ始めることが多い。プレイヤーの行動と音楽の流れが連動している体験は、映画のサントラとは根本的に違う。ゲームでしかできない音楽の使い方だ。

あの山の頂上に着いたとき、ちょうど曲が始まって、思わず立ち止まって景色を眺めた。ゲームでこういう体験をしたのは初めてだった。

引用元:Steamレビュー

BioShockシリーズも「音楽とゲーム世界観の一体感」が優れた作品として知られており、ゲームの雰囲気と音楽の関係を深く楽しみたいプレイヤーには強くすすめできる。

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プレイヤー評価の分析:「神ゲー」と「くそゲー」が共存する理由

Steamのレビューを見ると、評価の傾向がわかる。好評なレビューと不評なレビューがそれぞれどういう理由で付いているかを分析すると、このゲームの本質が見えてくる。

高評価レビューの共通点

高評価のレビューに多い言葉は「体験」「独特」「他にない」「クリア後も考えてしまう」だ。「ゲームとして最高かどうかわからないが、体験として唯一無二」という趣旨の評価が多い。

「最初は全然わからなかったが、気づいたら60時間やっていた」「最初はバカにしていたが、クリアして考えが変わった」という転換の物語が多いのも特徴的だ。このゲームには「序盤の壁」を越えた先に何かがあり、それを体験した人は一様に「体験してよかった」と言っている。

高評価レビューのもう一つの特徴として「感動した」「泣いた」という感情的な言葉が多い点がある。ゲームのプレイが感情体験に直結しているプレイヤーが多く、「ゲームでこんなに感情が動いたのは久しぶり」という言葉が印象的だ。

低評価レビューの共通点

低評価のレビューに多い言葉は「退屈」「作業」「意味がわからない」「カットシーンが長い」だ。「ゲームを楽しもうとしたが、楽しめなかった」という正直な感想が書かれている。

重要なのは、低評価レビューの多くが「このゲームが悪い作品だとは思わないが、自分には合わなかった」という論調を取っていることだ。「つまらないゲームだ」という断定ではなく「自分には合わなかった」という形の評価が多い。これは DEATH STRANDING が「合う人には合う、合わない人には全く合わない」という性質のゲームであることを示している。

「ゲームとしての評価」と「体験としての評価」

DEATH STRANDINGのユニークさは、「ゲームとしての面白さ」と「体験としての面白さ」が分離しているところにある。

「ゲームとして見る」なら、操作性・戦闘の爽快感・難易度バランス・テンポ感などで批判できる箇所が複数ある。だが「体験として見る」なら、このゲームが提供する没入感、感情体験、テーマの深さ、音楽との融合は他のゲームでほぼ代替できない。

「ゲームを遊びたい」人にはハードルがある。「ゲームという媒体で体験したい」人には唯一無二の作品になりうる。どちらを求めているかによって、評価が180度変わるのは当然の話だ。

この評価の分断を生み出す理由の一つとして、「ゲームとは何か」という前提の違いがある。DEATH STRANDINGは「ゲームはプレイヤーを楽しませるもの」という前提への挑戦として作られた部分がある。楽しいより先に「考えさせる」「感じさせる」ことを優先した設計だ。そういう意図を持って作られたゲームを、通常の「楽しいか楽しくないか」という軸で評価すると必然的にズレが生じる。

視覚的・感情的な体験という意味ではDoki Doki Literature Clubも、一見ふつうのゲームに見えて全く異なる体験を提供する作品として知られている。「ゲームという媒体でしかできない体験」を求めるプレイヤーにはこちらもすすめたい。

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DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH:次作も見据えて

2025年6月に「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」がPS5で発売された。PC(Steam)版は2025年冬頃のリリースが予定されている(2026年4月現在情報)。

続編ということで当然1作目をプレイしていた方が楽しめる部分は多い。ストーリーの続きであり、1作目のキャラクターも登場する。「2から入って大丈夫か」という質問に対しては、「できれば1からやってほしい」というのが正直な答えだ。

DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUTをSteamでプレイすることは、2作目への準備としても意味がある。世界観を理解し、操作に慣れた上で2を遊ぶのと、いきなり2から入るのとでは体験が大きく変わる。サムというキャラクターへの感情移入、非同期マルチプレイへの慣れ、配達という行為への馴染みが、2作目での没入感を高める。

2作目の発表トレーラーを見た人の多くが「ビジュアルが更に進化している」「音楽も変わらず良い」という印象を持っていた。小島秀夫監督が2作目で何を語ろうとしているのかは、プレイするまでわからない部分も多い。ただ、1作目のテーマが「繋がり」であったなら、2作目はそのテーマをどう発展・転換させているのかは大きな見どころだ。

1作目をプレイした身として言えるのは「この続きが気になる」という感情が確かにある、ということだ。クリア後の余韻と謎の残り方が、続編への期待を自然に作り出している。そういう意味でも、今から1作目を遊んでおく価値は十分にある。

DIRECTOR’S CUT版はオリジナル版よりも遊びやすくなっているため、「今から初めてプレイする」のであれば確実にDIRECTOR’S CUTを選んだ方がいい。追加コンテンツだけでなく、細かいUI改善や操作感の調整が加わっており、2019年のオリジナル版より遊びやすく仕上がっている。Steamのセールで安くなることも多いので、気になった人はウィッシュリストに入れておくと買いやすい。

PC推奨スペックと動作環境

DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUTはグラフィックが美しいゲームだが、推奨スペックを満たせばかなりの画質で遊べる。

最低スペックは比較的低め設定で、ミドルレンジのPCでも動作する。GeForce GTX 1060やRadeon RX 5500 XTクラスのGPUがあれば最低設定ではプレイできる。ただ、このゲームの映像美を堪能したいなら推奨スペック以上のPCを用意したい。RTX 20シリーズ以上のGPUがあればDLSSを有効にして高解像度・高フレームレートでのプレイが現実的になる。

ウルトラワイドモニターを持っているなら、このゲームは特に映える。21:9の視野角で荒野を見渡したとき、画面の広さがゲームの「広大な世界」という印象を強化する。この体験はコンソール版では再現できないPC版の強みだ。

ロード時間についてはSSD必須とまでは言わないが、HDDだとロードが長くなる。SSDを使うとストレスなく遊べる。フレームレートは60fps以上が安定する環境があれば、移動中の視点操作が快適になる。マウスとキーボードでもプレイできるが、バランス操作をアナログスティックでやりたいのでゲームパッドが推奨だ。

他のゲームとの比較:DEATH STRANDINGのポジション

DEATH STRANDINGはジャンルの定義が難しい。アクションADV、オープンワールド、サバイバル、シミュレーション…どのカテゴリにも完全には収まらない。似たゲームを挙げるのが難しいゲームの一つだ。

あえて比較するなら、「広大なフィールドを探索する」という点ではIcaRUSのようなサバイバル探索ゲームに近い面がある。ただし、ICARUSは4人Co-opサバイバルとしての面白さが中心で、ゲームプレイの密度と方向性はまったく違う。広大なフィールドで素材を集め、建設して進んでいくという構造には共通点がある。

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「非同期マルチプレイ」という概念で言えば、Dark Soulsシリーズが先駆者だが、DEATH STRANDINGはそれをメインの遊びに発展させた。

「映画的なゲーム体験」という意味ではLife is Strange 2やDoki Doki Literature Clubと同じカテゴリに入れられることもあるが、ゲームプレイの内容は全く異なる。どちらも「ゲームという媒体でしか伝えられないことを伝えようとしている」という点では共通している。

文明の発展や建設という要素だけ取り出すなら、Civilization Vのような4Xストラテジーと「何かを構築する」という感覚を共有している部分もある。ただし方向性は全く違う。

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要するに、DEATH STRANDINGは「他と比べにくいゲーム」であり、それ自体がこのゲームの価値の一部だ。他のゲームで代替できないということは、他のゲームでは味わえない体験があるということでもある。

ゲームジャンルの分類という意味では、DEATH STRANDINGは2019年以降のゲーム市場に「新しいカテゴリの可能性」を提示した作品として語られることが多い。「ソーシャル・ストランド・システム」と小島秀夫自身が名付けたこの非同期マルチプレイを中心に据えた設計は、当時のゲーム業界での大きな実験だった。成功か失敗かの議論を超えて、「こういうゲームが作れる、こういう体験が提供できる」という可能性を示した点は評価されている。続く作品たちがDEATH STRANDINGのシステムをどこまで参照しているかは見えにくいが、「プレイヤー同士の間接的な共助」という設計は今後のゲームでも探求される価値のある概念だ。

まとめ:「体験すること」に価値があるゲーム

DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUTは、「面白いかどうか」で語るのが難しいゲームだ。面白いとも言えるし、万人向けではないとも言える。「最初の関門を越えた先に独自の体験が待っている」ことは間違いないが、その関門を越えられるかどうかは個人差がある。

ただ、これだけは言える。このゲームをクリアした人のほぼ全員が「体験してよかった」と感じている。高評価を付けた人も低評価を付けた人も、「このゲームは他にない体験を与えてくれた」という点では一致していることが多い。「自分には合わなかったが、他のゲームでは絶対に味わえなかった何かがあった」という評価がある。これはゲームとして最高の称賛の一つだと思う。

小島秀夫というクリエイターの挑戦を体験したいなら、このゲームはその出発点として最適だ。メタルギアシリーズで核と戦争を描き、DEATH STRANDINGで孤独と繋がりを描いた後、次の作品ではどんな問いを投げかけてくれるのか。その文脈の中でDEATH STRANDINGを体験することは、ゲームという媒体の可能性を考える上でも意味がある。

「歩くだけのゲーム」と言われる作品が、なぜこれほど多くの人に記憶されているのか。実際にプレイしてみてほしい。

最後に一つだけ付け加えると、このゲームは「正解のプレイ」が存在しない。荷物を最速で届けることだけを追求する人もいれば、景色を眺めながら歩くことを楽しむ人もいる。道路建設に熱中してフィールドを整備することに喜びを見出す人もいれば、ストーリーをひたすら追いかける人もいる。ゲームが提供するフィールドの中で、何を楽しむかはプレイヤー自身が決められる。これがオープンワールドゲームとしての自由さであり、DEATH STRANDINGの奥行きでもある。

「最初の10時間が壁だ」という言葉を何度も聞いたが、その壁を越えた先の体験を言葉で説明するのは難しい。この記事を読んで少しでも興味が湧いたなら、まず10時間だけ付き合ってみてほしい。10時間経って「自分には合わない」と感じたなら、それはそれで正直な評価だ。でも10時間経って「もう少しやってみよう」と思っていたなら、その先には長い旅が待っている。

ストーリー重視のゲームに興味があるなら、BioShockも心理的なテーマと豊かな世界観を持つ名作として体験してほしい一本だ。同じく「ゲームという媒体でしか語れない物語」という点で、DEATH STRANDINGと通底するものがある。

デッキ構築やシステムを探求するのが好きな人には、Slay the SpireやAcross the Obeliskのような全く違うジャンルで「何百時間でも遊べるゲーム」もある。ゲームの楽しみ方の幅を広げてくれる作品たちだ。

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DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT

KOJIMA PRODUCTIONS
リリース日 2022年3月30日
サービス中
価格¥4,980
開発KOJIMA PRODUCTIONS
販売505 Games
日本語非対応
対応OSWindows
プレイ形式シングル
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