BioShock Remastered — 海底都市ラプチャーが問いかける「人間の自由」とは何か
「Would you kindly…(よろしければ……)」
このひと言を最初に聞いたとき、あなたはきっと何も感じないはずだ。ゲーム中に何度も耳にする、ごくありふれた誘導の言葉。でも物語が進んでいくにつれて、その言葉が持つ意味が180度ひっくり返る瞬間が来る。そのときプレイヤーが受けるショックは、ゲームの歴史でも随一だと思う。
BioShock Remasteredは、2007年にIrrational Gamesが世に送り出した傑作FPS「BioShock」を、2016年に2Kがリマスターした作品だ。海底に沈む都市ラプチャーを舞台に、哲学・ホラー・アクションが絡み合った体験は、今プレイしても古さを感じさせない。むしろ「ゲームはここまで人間のテーマを扱えるのか」と改めて驚かされる。
このゲームは単なるFPSじゃない。ゲームを通じて「自由とは何か」「理想社会とは何か」を問いかけてくる、稀有な作品だ。アインランドの哲学「オブジェクティビズム」をモチーフに構築されたラプチャーという世界は、現実の社会問題ともシンクロしながら、プレイヤーに深い余韻を残す。
FPSが好きな人はもちろん、ゲームで「本物のストーリー体験」をしたいと思っている人にこそ、一度はプレイしてほしい作品だ。
「BioShock Remastered」公式トレーラー
こんな人に読んでほしい

この記事は次のような方に向けて書いた。
- 「ストーリーが深いFPSをやってみたい」と思っている人
- BioShockの名前は知っているが、まだプレイしていない人
- リマスター版と原作の違いを知りたい人
- ゲームの哲学的なテーマや世界観に興味がある人
- Epic Gamesで無料配布されていたときにもらったが積んでいる人
2022年5月、Epic Gamesストアでは「BioShock: The Collection」が期間限定で無料配布された。BioShock Remastered、BioShock 2 Remastered、BioShock Infinite: The Complete Editionの3本セットが完全無料で手に入るという驚きの施策で、世界中で大きな話題になった。Steamでコレクション全部を購入しようとすると75ドル以上かかるセットが、無料で手に入ったのだから当然だろう。当時コレクションをもらったものの「積みゲー」にしてしまっている人も多いかもしれない。そういう方にとって、この記事が「そういえばやろう」と思うきっかけになれば嬉しい。
また「FPSは苦手だけど世界観に惹かれている」という方にも届けたい。BioShockはスピードとエイム力を競うシューターではなく、探索と選択を楽しむ体験型ゲームに近い。難易度の調整も柔軟で、アクションが苦手でも世界観に没頭できる設計になっている。
「名作と言われているゲームを遊んでみたいが何から始めればいいかわからない」という方にとっても、BioShock Remasteredは良い入り口になる。ゲームの歴史の中で「語り継がれる理由がある作品」——その体験を自分の手でしてみることは、ゲームファンとして価値ある時間投資だ。
海底都市ラプチャーとはどんな世界か
BioShock Remasteredの舞台は、1960年を想定した海底都市「ラプチャー(Rapture)」だ。
1946年、実業家アンドリュー・ライアン(Andrew Ryan)は大西洋の海底に秘密の都市を建設した。彼の目的は「国家・宗教・倫理の束縛から解放された、真に自由な人間たちの楽園を作ること」だった。科学者・芸術家・実業家など、各分野の才能ある人間を集め、彼らが政府や神の目を気にせずに自分の能力を最大限発揮できる場所——それがラプチャーだった。
しかし、そんな理想は長続きしなかった。
ある科学者が深海のナマコから「ADAM(エーダム)」という物質を抽出した。ADAMはヒトの遺伝子を書き換える力を持っており、これを使えば誰でも超人的な能力——「プラスミド」と呼ばれる特殊能力——を手に入れることができた。炎を放つ「インフェルノ」、周囲を凍結させる「ウィンターブラスト」、物体を操るテレキネシス……プラスミドはラプチャーの住民たちを熱狂させた。
だが、ADAMには恐ろしい副作用があった。過剰摂取すると精神が壊れ、凶暴化する。ラプチャーの住民たちは次々とADAMに依存し、「スプライサー」と呼ばれる狂気の存在に堕ちていった。美しかった海底都市は崩壊し、主人公のジャック(Jack)が訪れた1960年には、すでに廃墟と化していた。
プレイヤーはジャックとして、この滅んだ楽園を探索しながら、なぜラプチャーが崩壊したのかを解き明かしていく。
アインランドの哲学が生んだ「失楽園」
アンドリュー・ライアンという名前は、哲学者アイン・ランド(Ayn Rand)のアナグラムになっている。ゲーム内に登場する「フォンテーン(Fontaine)」や「アトラス(Atlas)」という名前も、ランドの小説「水源」「肩をすくめるアトラス」から取られている。
アインランドが提唱した「オブジェクティビズム(客観主義)」は、個人の理性と自己利益を最高の価値とし、政府や宗教による強制を否定する思想だ。ライアンはこの哲学をラプチャーの建国理念にした。「能力ある者が自由に力を発揮できる社会」——その理想の行き着いた先が、プレイヤーが目にする廃墟だ。
Ken Levineはインタビューでこう語っている。「BioShockは、アインランドの哲学を60秒のアンドリュー・ライアンのスピーチに凝縮しようとした。原則と選択、自分の行動に責任を持つことを扱った作品だ」と。
ゲームはライアンの哲学を単純に「悪」として描くわけではない。そのアイデア自体の魅力と、現実の人間が介在したときに生じる矛盾を、プレイヤー自身が体験を通じて感じ取る構成になっている。「完璧な思想を持ってしても、不完全な人間が運用すれば崩壊する」——その教訓がゲームの根幹にある。
語られなかった歴史をオーディオログで知る
ラプチャーの崩壊がどのように起きたかは、マップ上に散らばるオーディオログ(音声記録)を集めることで明らかになっていく。これはBioShockが確立した環境ストーリーテリングの手法で、後の多くのゲームに影響を与えた。
オーディオログには、ADAM争奪戦に巻き込まれた研究者、夫の狂気に怯える妻、ライアンへの忠誠と幻滅の間で揺れる市民たちの声が収録されている。メインストーリーを追うだけでは見えない人々の断片的な人生が、ラプチャーという世界に立体感を与えている。
廃墟の壁に残された落書き、床に転がる遺留品、電飾の壊れた看板——それらすべてが「ここにどんな人がいて、何が起きたか」を語りかけてくる。ゲーム全体がひとつの巨大な「発見体験」として設計されているのだ。
面白いのは、オーディオログを意識して集めなくても物語を理解できる点だ。ジャックとアトラス・ライアンのやりとりだけでもストーリーは完結する。でも全部集めて聞いたとき、ラプチャーという世界の「深さ」が全然違って見えてくる。最初のプレイでは主人公目線で追うだけで十分で、2周目で細部を掘り下げるという楽しみ方もできる。
プラスミドと武器を組み合わせる戦闘の面白さ
BioShock Remasteredのゲームプレイの核は、「プラスミド」と「武器」の組み合わせにある。
武器は拳銃・ショットガン・機関銃・グレネードランチャー・ロケットランチャーなど、FPSとして基本的なラインナップ。だがBioShockが独特なのは、これにプラスミドが加わる点だ。左手でプラスミド、右手で武器という形で、両方を状況に応じて切り替えながら戦う。
最初に手に入るプラスミド「エレクトロボルト」は電撃を放ち、敵を一定時間行動不能にできる。水たまりに立っているスプライサーに使えばまとめて感電させることも可能だ。「ウィンターブラスト」は敵を氷漬けにして動きを封じ、凍った状態で武器で叩けば木っ端微塵にできる。「テレキネシス」は物体を引き寄せて投げ返す能力で、敵が投げてきた爆弾をそのまま跳ね返す芸当もできる。
敵が濡れているときに電撃を当てると大ダメージを与えられる。凍結させてから武器で叩けば一撃で粉砕できる。「インフェルノ」で敵を燃やしたまま追い回せば、パニック状態になった敵が仲間を攻撃し始める——こうした「シナジー」を見つける楽しさが、BioShockの戦闘を単なるFPS以上のものにしている。
武器とプラスミドの組み合わせが本当に自由で、自分だけの戦い方を見つける感覚が楽しかった。凍結させてから武器でぶっ叩くのが爽快すぎて何度もやってしまった。
引用元:Steamレビュー
ハッキングとクラフトで広がる戦術
戦闘だけでなく、環境を利用した戦術も豊富だ。マップ上のセキュリティカメラや砲台はハッキングで味方に変えられる。自動販売機をハッキングすれば割引価格でアイテムを購入できる。金庫や電子ロックもハッキング対象だ。
リマスター版ではハッキングのミニゲームが変更されており、オリジナルのパイプつなぎパズルから、タイミングを合わせるアクション形式に変わった。好みが分かれる変更点だが、テンポよく進める点では改善されていると言える。
ワークベンチではアイテムを組み合わせてアップグレードキットや弾薬を自作できる。資材を節約しながら必要なものを作るリソース管理の要素も加わり、プレイスタイルによって経験が変わる。
ゲームが進むと使える武器アップグレードマシンも登場し、武器に特殊効果を付与できる。ショットガンに状態異常付与を加えたり、拳銃の射撃速度を上げたり——自分だけの「最強装備」を作り上げる楽しみがある。
スプライサーたちの個性
ラプチャーに住む狂気の住民「スプライサー」は、単なる雑魚敵ではない。彼らはかつてラプチャーで生活していた一般市民だ。ADAMの過剰摂取で精神を壊した彼らは、それぞれ異なる特性を持つ。
近接攻撃主体の「ニトロスプライサー」は爆弾や火炎瓶を投げてくる。「シューター系」は遠くから銃撃してくる。「スパイダースプライサー」は壁や天井を走りながら奇襲してくる。それぞれへの対処法を考えながら戦う必要があり、状況判断が求められる。
面白いのは、スプライサーたちが独り言を言いながら徘徊している点だ。かつての生活の断片を思い出すような言葉、狂気に満ちた叫び、奇妙な歌——彼らの台詞ひとつひとつが「元はただの人間だった」という悲しさを漂わせている。
ビッグダディとリトルシスターという存在
BioShockを語るときに避けられないのが、「ビッグダディ(Big Daddy)」と「リトルシスター(Little Sister)」だ。
ビッグダディは巨大な深海スーツを纏った存在で、小さな女の子「リトルシスター」を護衛している。ずんぐりとした体躯、ドリルかリベットガンを持つ威圧感、そして重々しい金属音——彼らがマップ上に現れると、BGMが変わり、緊張感が一気に高まる。ドリル持ちのタイプ(ローズバッド)、リベットガン持ちのタイプ(エンシナー)と種類があり、それぞれ戦い方が異なる。
リトルシスターは廃墟の死体からADAMを回収する役割を持っており、体内にADAMを大量に蓄積している。彼女たちを倒したビッグダディから確保することで、プレイヤーはADAMを入手できる。
ここでプレイヤーに選択が迫られる。リトルシスターを「救助する」か「収奪する」かだ。収奪すれば多くのADAMが手に入るが、リトルシスターは死ぬ。救助すれば少ないADAMしか得られないが、後でボーナスがもらえる。
この選択はゲームエンディングにも影響する。全員救助したかどうかによってエンディングが変わり、複数周プレイする意欲も生まれる。プレイヤーの行動が結果に直結するというデザインは、当時のFPSでは珍しい試みだった。
ビッグダディとの戦闘は、ゲーム全体を通じて最もスリリングな瞬間のひとつだ。彼らは弱点を持ちながらも非常に耐久力が高く、ゴリ押しでは消耗する。事前にトラップを設置してから誘導したり、電撃で動きを止めながら攻撃したり——戦術を練って倒したときの達成感は格別だ。

グラフィックとサウンドが作り出すラプチャーの雰囲気

BioShock Remasteredは1080p・60fps対応でリマスターされ、テクスチャ・モデル・ライティングを全面的に改善した。オリジナル版と比較すると、壁や床の素材感、布や金属の質感、水面の反射——すべての細部が精細になっている。
ラプチャーのアートデザインは1940〜50年代のアールデコ調だ。豪華な装飾タイル、曲線を描く金属の手すり、ステンドグラスの窓——かつては豪奢だったであろう内装が、戦闘・腐敗・血痕によって台無しになっている。その対比が「栄華の跡」を強調し、廃墟としての美しさと恐怖を同時に生み出している。
リマスターされたグラフィックで見るラプチャーは本当に美しい。廃墟なのに「ここに住んでみたかった」と思わせる圧倒的な世界観の作り込みに脱帽した。
引用元:Steamレビュー
特に布のモデリングの改善が顕著で、キャラクターの服の繊維感・揺れ方が大幅にリアルになった。水の表現もオリジナルからさらに進化しており、水しぶきの飛散や水流の動きが自然になっている。暗部の明るさも調整され、見づらかった場所が視認しやすくなった。
水中という設定がもたらす特別な没入感
ラプチャーは海底にある。この設定が生み出す「閉塞感」は、地上のゲームとはまったく異なる感覚だ。
窓の外には深い海が広がっている。遠くに光る魚の群れ。ときどき響く金属が軋む音。深海の水圧を思わせる演出が、「ここからは逃げられない」という圧迫感を常にプレイヤーに与え続ける。
特に印象的なのは、エリア間を移動する「バサキャブ」での移動シーンだ。潜水艦型のカプセルに乗り込み、深海を移動する短い時間——その間に見える海の暗さ、遠くにうっすら見えるラプチャーの灯り——が、「自分は本当に海底にいるんだ」という感覚を強化してくれる。
サウンドデザインも秀逸だ。スプライサーたちの独り言、遠くから聞こえるビッグダディのうなり声、電話越しのアトラスの声——ゲーム全体を通じて音響が世界観を支えている。かつての豪華な音楽が歪んで流れる場面では、ラプチャーの「過去の栄光」と「現在の悲惨さ」が重なり合って、妙な哀愁を感じた。
BGMはADAMを注入したときの独特な音、ビッグダディが近づくときの低音の響き、緊急アラームの音——それぞれが状況を的確に伝える機能を果たしている。音だけでゲームの状況が把握できるほど、音響設計が練り込まれている。ゲームをプレイするときはヘッドフォンをお勧めしたい。スプライサーたちの囁きが耳元で聞こえると、没入感が段違いになる。
日本語音声対応でさらに没入しやすくなった
リマスター版では日本語音声が追加されている。アトラスやライアンの声がしっかり吹き替えられており、字幕を追いながらプレイするより格段に没入しやすくなった。
英語音声でプレイする場合も、俳優たちの演技が非常に優秀で、特にアンドリュー・ライアンの演説シーンは英語で聞く価値がある。理想を語る声の力強さが、彼の狂気と信念を同時に感じさせてくれる。

「Would you kindly」——ゲーム史に残る仕掛け
以下はBioShockのストーリーに触れる内容を含む。完全にネタバレを避けたい方は、この章を読み飛ばすことをお勧めする。ただし記事の後半でも触れている部分があるので、初見プレイの衝撃を完全に守りたい方は、プレイ後に戻ってきてほしい。
BioShockのストーリーで最も語り継がれているのが、中盤に明かされる「Would you kindly」の真相だ。
主人公ジャックを助けるアトラスは、ゲームの序盤から「Would you kindly ○○してくれ」という形でジャックに指示を出し続ける。プレイヤーはそれに従いながら進んでいく。しかしある時点で明かされる事実——「Would you kindly」はジャックに心理的に植え付けられた「服従命令」だったのだ。
この仕掛けは二重の意味で衝撃的だ。ひとつはストーリー上のどんでん返しとして。もうひとつは「ゲームをプレイしてきたプレイヤー自身が、ずっとその言葉に従ってきた」というメタ的な告発として。
プレイヤーはゲームの中で指示に従うことを「当たり前」だと思っていた。しかしゲームはその「当たり前」を逆手に取って、「なぜあなたは指示に従ったのか」と問いかけてくる。ゲームというメディアの構造そのものを利用した演出は、今もゲーム批評の文脈で語り継がれている。
「Would you kindly」の真相が判明した瞬間、鳥肌が立って手が震えた。ゲームでここまで衝撃を受けたのは初めてだった。ただの演出じゃなくて、プレイヤー自身への問いかけになってるのがすごい。
引用元:Steamレビュー
アンドリュー・ライアンとの対峙
物語の中盤、プレイヤーはついにアンドリュー・ライアンと対峙する。このシーンはBioShockで最も語り継がれる場面のひとつだ。
ライアンは自分の理念について語り、ジャックに問いかける。「男は選ぶ。奴隷は従う(A man chooses. A slave obeys)。」このセリフは、ゲームのテーマそのものを凝縮した言葉として、プレイヤーの心に深く刻まれる。
このシーンの演出・脚本・演技は、ゲームという媒体で達成できる表現の限界に挑んだものだと感じた。映画やドラマとは異なる「プレイヤーが参加者として存在する」という条件を最大限に活かした、ゲームならではの名場面だ。
ライアンは悪役として描かれているが、彼の思想そのものには一種の美しさがある。「人間は自由であるべきだ」「国家や神の名のもとに個人を縛るのは間違いだ」——この主張は否定しにくい。だからこそ彼の物語は悲劇として機能する。理想を持ちながら、その理想が現実の前で砕ける——BioShockが名作たる理由のひとつはここにある。

各エリアの個性——ラプチャーの多様な表情
BioShock Remasteredのラプチャーは、単一の廃墟ではない。メディカル・パビリオン、ネプチューン・バウンティ、フォート・フロリック、ヘファエストスなど、それぞれ異なる用途を持っていたエリアが連なっており、各エリアの雰囲気が大きく異なる。
ラプチャーは単なるゲームの「ステージ」ではなく、ひとつの完成した都市だ。電気・水・食料・エンターテインメント・医療——それぞれの機能を担う区画が有機的につながっており、「ここに人が実際に暮らしていた」というリアリティが世界全体に満ちている。各エリアを移動するための「バサキャブ」と呼ばれる潜水艦型の乗り物が各所に設置されており、ラプチャーが建設時から設計された「都市インフラ」を持っていたことが伝わってくる。
メディカル・パビリオン——狂気の医療施設
序盤に訪れる医療施設エリア。本来は怪我の治療や医学研究を行っていたはずの場所が、ADAMをめぐる混乱で凄惨な場に変わっている。白衣のスプライサーが走り回り、医療器具が武器に転用されている。「ここに救いを求めて来た人たちはどうなったんだろう」と考えると、よりゾッとする。
このエリアにはDr.スタインマンという外科医が支配しており、「完璧な美」を追い求めてADAMで自分自身を改造し続けた末に壊れた人物だ。彼のオーディオログを集めると、才能ある外科医が徐々に狂気へ堕ちていく過程が記録されており、ラプチャーの悲劇を象徴する存在になっている。
ネプチューン・バウンティ——港と密輸の香り
漁業・流通を担う港湾地区。ラプチャーが外部との物資の流通を禁じていたにもかかわらず、非合法な密輸ネットワークがこのエリアを拠点に動いていた。フォンテーンという人物がここを根拠地として闇市場を運営し、後のラプチャー崩壊につながる権力闘争のきっかけを作った。
薄暗い港湾の雰囲気と、密輸に関わった人々のオーディオログが積み重なることで、「楽園」ラプチャーが内部からいかに腐敗していたかが明らかになっていく。
アルカディア——農業施設と毒ガス作戦
ラプチャーの食料と酸素を供給する農業施設エリア。植物を使って酸素を生産しており、ここが止まればラプチャー全体が機能停止する——というゲーム内でもひとつのドラマが繰り広げられる。広大な温室空間は、ラプチャーの他のエリアとは全く異なる開放的な雰囲気を持ち、「廃墟の中の自然」という独特の美しさがある。
フォート・フロリック——芸術家の狂気
BioShock全体を通じて最も印象的なエリアのひとつが「フォート・フロリック」だ。ここを支配するのは、詩人・作曲家・彫刻家のサンダー・コーエン(Sander Cohen)という人物。かつてはラプチャーで最も才能ある芸術家として名を馳せていた彼は、ADAMの影響でひどく精神を病んでしまった。
コーエンは自分の元弟子たちを殺し、その遺体を石膏で固めて「芸術作品」にしている。プレイヤーはコーエンの「芸術的」な依頼——弟子たちへの復讐を手伝うこと——に付き合いながら、このエリアを進む。
フォート・フロリックは「芸術と狂気の境界線はどこか」を突きつけてくるエリアだ。コーエンはプレイヤーに危害を加えるのでなく、一種の「パトロン」として接してくる。その不気味な親切さが、単純な敵以上に恐ろしい。英国のゲーム批評サイトや動画制作者のGame Maker’s Toolkitも、このエリアをBioShockで最も印象的な部分として取り上げている。
フォート・フロリックでは、バレエ、映画、音楽、美術——ラプチャーの文化的側面が一堂に集まった場所だ。ネオンサインが煌く娯楽施設の廃墟を歩くとき、「かつてここで笑い声が響いていたのだ」という想像が、現在の静寂をより深くする。
フォート・フロリックのエリアが本当に印象的だった。コーエンというキャラクターの狂気と魅力が絶妙で、敵なのか味方なのかわからない緊張感がずっと続いた。BioShockで一番好きなエリアだと思う。
引用元:Steamレビュー
ヘファエストス——産業地帯の熱気
ラプチャーのエネルギーを担う発電所エリア。工場的な無機質さと、ラプチャーのアールデコデザインが融合した独特の雰囲気を持つ。ゲームの後半に訪れるこのエリアでは、アンドリュー・ライアンとの対峙が待っている。
このエリアではライアンの側近であるワーウィックという人物が登場し、ライアンへの狂信的な忠誠と内心の葛藤がオーディオログを通じて明かされる。後半のクライマックスに向けての緊張感が、エリアのデザインと連動して高まっていく。
エリアの切り替えが「世界の広さ」を感じさせる
BioShockは基本的に一本道のゲームだが、エリアごとにデザイン・敵の種類・謎の質感が変わるため、「同じ廃墟を歩き続ける飽き」が来ない。医療施設→漁港→農業施設→娯楽施設→工業施設と変化していく中で、ラプチャーという都市の「規模感」と「かつての豊かさ」が伝わってくる。
それぞれのエリアには固有の敵配置・トラップ・隠し場所があり、探索を細かくやるほど「このエリアの歴史」が見えてくる。オーディオログ・壁の落書き・遺品——それらを丁寧に集めながら歩くと、ラプチャーという都市がひとつの生きた歴史を持つ場所として立ち上がってくる。

BioShockが後のゲームに与えた影響
BioShockはSystem Shock 2の精神的続編として開発されたが、その後の多くのゲームに計り知れない影響を与えた。
環境ストーリーテリング——マップ上に散らばるアイテムや音声記録で世界の歴史を語る手法——は、後のThe Witcher 3、Dark Souls、Disco Elysiumなど、多くのゲームが取り入れた。「画面上のテキストや説明ではなく、空間そのもので物語を語る」というアプローチは、BioShockが広く知らしめたと言える。
道徳的選択がゲームのエンディングに影響するシステムも、当時としては革新的だった。リトルシスターを救うか収奪するかという選択は、後のMass Effect・Fallout 3などの「道徳システム」に影響を与えた系譜の一部にある。
Fallout: New Vegasのアドオン「Gun Runners’ Arsenal」には「A Slave Obeys(奴隷は従う)」というチャレンジがある。BioShockへのオマージュだ。それほど業界内での影響は大きかった。
ゲームを映画やテレビと比較する批評文脈では、BioShockはしばしば「ゲームが文学・哲学と対等に渡り合える証明」として引用される。アインランドの哲学書を読んだことのないプレイヤーが「オブジェクティビズム」に触れ、それについて考えるきっかけをゲームが提供した。これはゲームというメディアの可能性を広げた画期的な出来事だった。
System Shock 2からBioShockへ、そして未来へ
Ken LevineはSystem Shock 2の時代から「物語とゲームプレイが切り離されない作品」を作ることを目指してきた開発者だ。BioShockではその思想が完全に結実した。
Levineは「私のゲームは、理念と現実が交差する場所——高邁な原則が現実の人間に出会ったとき何が起きるか——に興味を持っている」と語っている。BioShockはまさにその問いへの答えだ。ライアンの理想がいかに崇高であっても、人間の欲望と弱さの前には崩れ去る。
BioShock Remasteredのメタクリティックスコアは91点(批評家スコア)。オリジナルのBioShockが2007年に記録した96点という評価を受け継ぎながら、現代のプレイヤーにも届けられた。このスコアは「リマスターとして最高水準」というだけでなく、19年の時を経ても色褪せない傑作であることを示している。
Irrational Gamesは2014年にKen Levineが解散を発表し、小規模なチームでの活動へと移行した。BioShock InfiniteがIrrational Gamesとしての最後の大作となり、その後のBioShockシリーズは2Kの別チームが引き継ぐ形になっている。「BioShockという名前の次の作品」がどのような形で届けられるか、ファンの間では期待と不安が混在しながら待たれている状況だ。
それだけ、BioShockという作品が残したものは大きい。ゲームが「メッセージを持てる」「哲学を語れる」「プレイヤーの常識を疑わせられる」——そのことを証明した作品として、BioShockはゲーム史の中に確固たる位置を占めている。

リマスター版で追加されたコンテンツ

BioShock Remasteredにはオリジナル版にはなかった追加コンテンツが含まれている。
チャレンジルーム
メインストーリーとは別に「チャレンジルーム」が追加されている。これはラプチャーの様々な状況を舞台にした追加ミッションで、プラスミドと武器の組み合わせを駆使する難易度の高いコンテンツだ。本編クリア後のやり込み要素として楽しめる。
チャレンジルームの難易度はかなり高く、本編で培った知識と戦術のすべてを駆使する必要がある。「本編はクリアできたのにチャレンジルームは全然進めない」というプレイヤーも多い。ただその分、クリアしたときの達成感も大きい。
コンセプトミュージアム
コンセプトミュージアムでは、ゲーム開発中のアートワーク・コンセプトアートを閲覧できる。ラプチャーのデザインがどのように発展してきたかを知ることができる、開発ファン向けのコンテンツだ。初期設計と最終版の比較を見ると、開発者がいかにラプチャーの世界観を作り込んだかが伝わってくる。
開発者コメンタリー動画
ゲーム内に散らばる「ゴールドディスク」を収集することで、Ken Levineやリードアニメーターのショーン・ロバートソンらによる開発者コメンタリー動画が解放される。世界観の構築・ゲームデザインの意図・制作秘話などが語られており、ゲームをより深く理解したい人には宝のようなコンテンツだ。
特にFort Frolicのデザイン過程や、「Would you kindly」の仕掛けをいつ・どのように思いついたかなど、ゲームデザイン論として読んでも面白い内容が語られている。
4Kサポートとコントローラー対応
リマスター版は4K解像度に対応しており、高解像度モニターで遊ぶとオリジナル版とは段違いの映像品質を体験できる。コントローラーによるプレイにも対応しており、PCでもゲームパッドを使ってプレイしたい人にとっての利便性が向上した。FOV(視野角)の拡大もオプションで設定できるため、ウルトラワイドモニターでのプレイも快適になっている。

難易度とプレイスタイルの幅広さ
BioShock Remasteredには複数の難易度設定がある。ストーリーを楽しみたい初心者向けの「イージー」から、リソースが乏しく緊張感のある戦闘が続く「サバイバル」まで、自分のプレイスタイルに合わせて選べる。
さらに「ビッグダディー・チャレンジ」モードでは、ヒント機能やアシスト機能を完全にオフにした、ハードコアな体験が可能だ。初回プレイはイージーかノーマルで世界観を楽しみ、クリア後に高難易度に挑戦するという楽しみ方ができる。
プレイ時間と周回要素
本編のクリア時間は、難易度とプレイスタイルによって大きく変わる。メインストーリーだけを追えば15〜20時間程度でクリアできるが、オーディオログをすべて集め、各エリアを隅々まで探索すると25〜30時間以上かかることもある。
周回プレイの動機としては、エンディングの分岐(リトルシスターを全救助 vs 収奪)と、各難易度の達成感がある。「サバイバル」難易度でのプレイは、弾薬と資源の枯渇と戦いながら進む、本編とはまるで違う緊張感があった。
Steamの実績を全解除しようとするやり込みプレイヤーも多く、「全オーディオログ収集」「リトルシスター全救助」「チャレンジルーム全クリア」「最高難易度クリア」など、コンプリートを目指すと軽く50時間以上の内容がある。Steam上でも実績の解除率を見ると、全実績を取得したプレイヤーがどれほど少数かがわかる——それだけ各実績がやりごたえのある目標になっている。
戦略の幅がプレイスタイルを選ばない
BioShockはFPSだが、純粋なアクションゲームとして遊んでも、ステルス的に遊んでも、プラスミドを酷使した魔法使いスタイルで遊んでも成立するように設計されている。
シューターが得意な人は武器アップグレードに集中できるし、パズル的な思考が好きな人は環境ハッキングとプラスミド連携を磨ける。リソース管理が好きな人はクラフトとアイテム活用に注力できる。それぞれのプレイスタイルが機能するように設計されているのは、Irrational Gamesの技術力の高さを示している。
また、プラスミドにはアクティブ系(直接使用するもの)とトニック系(パッシブ効果で恩恵を得るもの)の2種類がある。トニックは「戦闘トニック」「技術者トニック」「物理トニック」の3カテゴリに分かれており、戦闘特化・ハッキング特化・耐久力重視など、自分のスタイルに合わせてビルドを組める。このRPG的な側面が、BioShockをただのFPS以上の奥深さを持つゲームにしている。
プラスミドの組み合わせを試行錯誤するのが楽しすぎて、同じ敵を何パターンもの戦術で倒してみた。FPSなのにRPGみたいな奥深さがある。
引用元:Steamレビュー
「復活」システムがストレスを軽減する
BioShockには「ヴィタ・チェンバー」と呼ばれる復活ポイントがある。プレイヤーが死亡しても、直前に通過した最寄りのヴィタ・チェンバーから再出発できる仕組みだ。セーブスロットの概念もあるが、ヴィタ・チェンバーの存在によって「即死→最初からやり直し」の理不尽さが軽減されている。
ただしサバイバル難易度では、ヴィタ・チェンバーから復活したときに敵のHPは回復しない(デフォルト設定ではリセットされる)。これによって「倒せなかった強敵を粘り続けて倒す」ゲームプレイが可能になっており、難易度に応じたゲームプレイの幅がある。
技術的な問題と現在の状況
正直に書いておかなければならないことがある。BioShock Remasteredはリリース直後、深刻な技術的問題を抱えていた。
2016年のリリース時、多くのプレイヤーがクラッシュバグに悩まされた。オートセーブのタイミングが悪く、クラッシュすると30分〜1時間分のプレイが無駄になることもあった。また、ゲームが終了するたびに設定がリセットされるという不具合も報告された。グラフィック設定のオプションがオリジナルより少なくなったという指摘もあり、リリース直後のSteamレビューは一時期「賛否両論」まで落ち込んだ。
ゲーム自体はすごく面白いのに、クラッシュが多すぎてまともにプレイできない。折角買ったのにもったいない。
引用元:Steamレビュー(低評価)
2022年9月には「遊びやすさ向上」を目的としたアップデートが配信されたが、ユーザーからは否定的な意見も集まった。期待していたバグ修正が十分ではないという声や、一部の設定変更がプレイ体験に悪影響を及ぼしたという報告もあった。特に「向上した」とされた操作感が実際には改悪だったという声は多く見られた。
現在の評価と対処法
ただし、2026年現在の状況はかなり改善されている。Steamの最近のレビューを見ると「以前よりずっと安定して動く」「クラッシュせずにクリアできた」という声が増えており、パッチによってある程度の安定性は確保されている。
それでも動作が不安定な場合には、いくつかの対処法が知られている。起動オプションに「-DX9」を追加してDirectX 9モードで動かすと安定するという報告がある。モニターのリフレッシュレートを変更することで解決したケースもある。セーブファイルの定期的なバックアップを取ることも、万が一の事態への備えとして推奨されている。
BioShock Remasteredの技術的な問題は現実として存在する。ただそれを差し引いても、ゲームとしての完成度は疑いようがない。多少のリスクを受け入れてでもプレイする価値がある作品だと思う。
バグがひどかった時期があったのは事実だけど、今は大分マシになった。世界観とストーリーはFPS史上でも最高クラスだと思う。
引用元:Steamレビュー
BioShockのリプレイ価値——クリア後も続く旅

BioShock Remasteredをクリアした後、多くのプレイヤーが「もう一度遊びたい」と感じる理由は複数ある。
まず、最初のプレイでは気づかなかった伏線がある。「Would you kindly」の真実を知った状態で序盤を見返すと、随所に仕掛けられていたヒントに気づく。アトラスの言葉の中に含まれていた微妙な違和感、ジャックが特定の命令に従うときの反応——すべてが「そういうことだったのか」と腑に落ちる。
次に、オーディオログだ。初回プレイで全てのオーディオログを集めるプレイヤーは少ない。でも2周目に丁寧に集めると、ラプチャーが崩壊した詳細な経緯——ライアンとフォンテーンの権力闘争、ADAMをめぐる科学者たちの変化、一般市民が狂っていく過程——が鮮明になってくる。
リトルシスターの選択も、初回と2周目で変えることでエンディングの違いを体験できる。「善エンド」と「悪エンド」では雰囲気がまるで異なり、「同じゲームを遊んだのにこんなに結末が変わるのか」という発見がある。
さらに、難易度「サバイバル」での挑戦は実質的に別のゲームを遊ぶような体験だ。弾薬・回復アイテムが乏しい中での戦闘は、ノーマルとはまったく異なる判断力と慎重さが求められる。ビッグダディとの戦闘も、ノーマルでは「力押しで倒せる」のが、サバイバルでは「戦略を練らないと完全に消耗する」に変わる。
BioShockシリーズを楽しむ順番
BioShockシリーズには3つの作品がある。それぞれ独立したストーリーなので、どこから入っても楽しめるが、発売順に遊ぶのが個人的にはお勧めだ。
BioShock Remastered(2007年原作/2016年リマスター)
シリーズ1作目。ラプチャーを舞台にした物語で、シリーズを通じて最もスコアが高い作品。「Would you kindly」の衝撃を初体験する意味でも、最初に遊ぶべき作品だ。本記事で扱っている作品。
BioShock 2 Remastered(2010年原作)
ラプチャーに再び戻り、今度はビッグダディを主人公として遊ぶ作品。1作目の世界観を受け継ぎながら、「家族とは何か」「コミュニティとは何か」という新たなテーマを扱う。1作目ほど高く評価される作品ではないが、ラプチャーへの思い入れがある人には刺さる。追加DLCの「Minerva’s Den」は単独で高く評価されており、これだけでもプレイする価値があると言われている。
BioShock Infinite(2013年)
舞台が海底から空中都市「コロンビア」へと変わる。世界観は大きく異なるが、BioShockシリーズのテーマである「理想社会の崩壊」「人間の自由とは」は共通している。ストーリーの複雑さは3作の中で最高で、賛否両論はあるが映像美と物語の密度は圧倒的だ。エリザベスというNPCキャラクターが同行する形でゲームが進み、彼女の存在がInfiniteの最大の魅力になっている。
3作それぞれがテーマ的につながっており、全部遊んだ後にシリーズを振り返ると「Infiniteが1作目と2作目の謎に答えを出していた」という驚きもある。Infinite後にもう一度Remasteredを遊ぶと、ラプチャーの見え方が変わる。
もしBioShockシリーズ未プレイで「どれを先に遊ぶか」と悩んでいるなら、迷わずBioShock Remasteredから始めてほしい。ラプチャーという世界の衝撃と「Would you kindly」の仕掛けを初体験するのに、これ以上ない入り口がBioShock Remasteredだからだ。BioShock Infiniteから入っても楽しめるが、ラプチャーへの特別な思い入れを持ってInfiniteをプレイするのとそうでないのとでは、Infiniteのラストの受け取り方が変わってくる。

BioShock Remasteredがおすすめできる人、できない人
こんな人にはぜひプレイしてほしい
まず、FPSは好きだがストーリーが薄い作品に物足りなさを感じている人には強くお勧めしたい。BioShockのFPSとしての難易度は高くなく、むしろストーリーと世界観の体験がメインだ。「ゲームをやりながら映画を見ているような体験」を求めている人の期待に応えてくれる。
また、哲学・社会学・歴史に興味がある人にとっても、BioShockは単純な娯楽以上の何かを提供してくれる。アインランドの思想、利己主義の行き着く先、理想と現実のギャップ——ゲームクリア後も考え続けてしまうテーマが詰まっている。ゲームをきっかけにアインランドの著書を読む人もいるほどだ。
ホラーゲームが苦手な人でも、BioShockのホラー要素は「スプラッター」ではなく「雰囲気ホラー」に近い。廃墟の美しさと不気味さが混在するラプチャーの世界は、耐えられないほどのグロテスクさはなく、独特の「怖くて美しい」体験を提供してくれる。バイオハザードシリーズのような直接的なホラーとは異なる。
Fallout 76や他のオープンワールドゲームに慣れている方にも向いている。環境ストーリーテリングの楽しみ方が共通しており、BioShockのラプチャーを探索する感覚は「廃墟の世界を旅する」体験に近い。
Slay the Spireのようなストラテジー要素が好きな方にも刺さる部分がある。プラスミドとトニックを組み合わせてビルドを構築する楽しさは、デッキ構築型のゲームが好きな人の感性に訴えかける。「自分だけの最強ビルドを作る」というメタゲームの楽しみがBioShockには確実にある。

これは知っておいた方がいい点
逆に、マルチプレイや競技要素を求めている人には向かない。BioShock Remasteredは完全シングルプレイ専用のゲームだ。友人とオンラインで遊ぶ用途には使えない。Counter-Strike 1.6のような競技型FPSとは根本的に異なる体験を提供するゲームだと理解して臨んでほしい。
技術的な問題に免疫のない方には、事前に覚悟が必要かもしれない。安定して動作するとはいえ、環境によっては問題が起きることもある。バックアップセーブをこまめに作ることを習慣化しておくといい。
また、2007年のゲームをベースにしているため、現代の最新FPSと比べると操作感や視覚的なポリッシュ感に差を感じる部分はある。グラフィックよりも世界観とストーリーを重視して楽しむ姿勢で臨んでほしい。
ゲーム開始直後、主人公ジャックが飛行機墜落からラプチャーへ到達するまでの数分間は、チュートリアルもなく突然世界に放り込まれる感覚がある。「何をしていいかわからない」という迷いは最初の5分だけで、それを抜けると世界への没入が始まる。序盤の困惑に負けず、最初のエリアを抜けるまでは粘ってほしい。
今プレイするとグラフィックが古くて最初は馴染めなかったけど、慣れてきたらストーリーにどんどん引き込まれて止まらなくなった。世界観の作り込みは現代のゲームにも負けてない。
引用元:Steamレビュー
2026年にBioShock Remasteredをプレイする意味
BioShockがリリースされてからすでに19年が経つ。にもかかわらず、今でもBioShockについて書かれる記事が絶えない理由は何か。
それはBioShockが「ゲームという媒体でしか語れないテーマ」を扱ったからだと思う。「Would you kindly」の仕掛けは、映画でも小説でも成立しない。プレイヤーが実際に指示に従いながらゲームを進めてきた、その体験があって初めて成立する衝撃だ。ゲームというインタラクティブな媒体の特性を、BioShockは最大限に利用した。
Ken Levineは「BioShockは問いを投げかけることに興味があった。答えることではなく」と語っている。ラプチャーが崩壊した理由をゲームは明示する。しかし「ではどうすればよかったのか」「人間の自由とは何か」という問いへの答えは、プレイヤーに委ねられている。
現代社会も、理想と現実の乖離に苦しむ場面は多い。「能力主義」「自己責任論」「規制と自由のバランス」——BioShockが扱うテーマは、2026年の今もまったく色褪せていない。むしろゲームをプレイしながら現実のニュースと重ね合わせてしまう場面すらある。
それが、19年経った今もBioShockが語り継がれ、プレイされ続ける理由だと思う。
「古いゲーム」として消費するのではなく
「古いゲームをリマスターして売ってるだけ」という見方もできる。実際、BioShock Remasteredへの批判の中には「リマスターの品質が不十分」「技術的な問題が解消されていない」というものがある。それは事実だ。
でも、それを差し引いても残るものがある。ラプチャーという世界の密度。プラスミドと武器の組み合わせが生む戦術の自由。「Would you kindly」が明かされた瞬間の衝撃。アンドリュー・ライアンのスピーチが持つ哲学的な重さ——これらは「リマスターの品質」とは別の次元にある、作品そのものの強度だ。
古いゲームを「歴史的な名作として尊重する」のでなく、「今もちゃんと面白いゲームとして楽しむ」ことができる。BioShock Remasteredはそういう作品だ。
ゲーム批評としてのBioShock
BioShockはゲーム研究・批評の文脈でも頻繁に取り上げられる作品だ。「ゲームはどこまで深いテーマを扱えるか」「インタラクティブな物語体験とは何か」という問いを考えるとき、BioShockは避けて通れない参照点になっている。
特に「プレイヤーの主体性とゲームの誘導の関係」——BioShockが「Would you kindly」で問いかけたテーマは、その後のゲームデザイン論でも繰り返し議論される。ゲームはプレイヤーを「誘導」しながら「自由だ」と感じさせる。その仕組みをBioShockほど自覚的に描いた作品は少ない。
「ゲームはただの娯楽ではない」と思っている人にとって、BioShockは最良の証拠のひとつだ。哲学・芸術・政治・倫理——ゲームがそれらのテーマを扱える媒体であることを、BioShockは世界に示した。
次世代BioShockへの期待
2K Gamesは新作BioShockの開発を進めていることを公表している。詳細は明らかにされていないが、新たなチームが新しい設定でBioShockの精神を引き継ごうとしている。その意味でも、今BioShock Remasteredをプレイしておくことは、シリーズの歴史と哲学を理解するための投資になる。新作が来たとき「あのラプチャーを作ったシリーズの新作だ」という感慨を持って臨めるかどうか——それはオリジナルをプレイした経験があるかどうかで大きく変わってくる。
ラプチャーで学んだ「理想の危うさ」「人間の弱さ」「自由とは何か」——これらを胸に、新しいBioShockの世界を歩く。それがシリーズファンとして最高の楽しみ方だと思う。
まとめ——ラプチャーは問い続ける
BioShock Remasteredは、2007年にIrrational GamesとKen Levineが生み出した傑作FPSを、2016年に現代のプレイヤーが楽しめる形に仕上げたリマスター作品だ。開発者たちの情熱と哲学的な問いかけがゲームの骨格を作り、19年の時を経た今もその問いは生きている。
海底都市ラプチャーという閉塞した世界の中で、プラスミドと武器を駆使した戦闘を楽しみながら、オーディオログで歴史を発掘し、物語の核心へと迫っていく。その体験は今もなお、ゲームとして最高水準の完成度を持っている。
「Would you kindly」という言葉の意味が変わる瞬間。アンドリュー・ライアンが語る「男は選ぶ、奴隷は従う」というセリフ。リトルシスターを救うか見捨てるかという選択。サンダー・コーエンが支配するフォート・フロリックの不気味な美しさ。ビッグダディとの緊張感あふれる戦闘——それらすべてが、単なるゲームのイベントではなく、プレイヤー自身への問いかけとして機能している。
技術的な問題が完全には解消されていない点は正直に書いた。でもそれを差し引いても、このゲームが提供する体験は代替不可能だ。「ゲームでここまでのことができるのか」という驚きを、まだBioShockをプレイしたことがない人に一人でも多く届けたいと思いながら、この記事を書いた。
この記事を読んだあなたへ
もしすでにBioShock Remasteredをプレイしたことがある方なら、フォート・フロリックで感じたあの奇妙な空気感を覚えているだろうか。コーエンのピアノが響く中、石膏に固められた弟子の「作品」を前にして立ちすくんだあの感覚を。
まだプレイしていない方に伝えたいのは、BioShockはスタートから5分でラプチャーへの「落下」が始まり、そこから世界への没入が止まらなくなるということだ。「海底の廃墟で一人で戦う」というシチュエーションが生む孤独感と、それでも前へ進む意思——それがBioShockのゲームプレイの核にある感覚だ。
最後に繰り返しになるが、Epic Gamesで無料配布された際にコレクションを受け取った方は、ぜひ積みゲーのリストから取り出してほしい。19年前のゲームが今もこれほど語られ、プレイされ続けているのには理由がある。その理由を自分の手で確かめてみてほしいと思う。
ラプチャーへの扉は、今も開いている。「Would you kindly、一度だけ潜ってみてください」。
最後にひとつだけ。ゲームを始めたら、焦らずにラプチャーの世界を見渡してほしい。廊下の壁に書かれた落書き、床に転がっているポスター、テーブルに置き去りにされた食事の痕跡——それぞれが「ここに誰かが生きていた」物語の断片だ。オーディオログを見つけたら必ず再生してほしい。忙しそうなプレイヤーほど後回しにしがちだが、それを積み重ねることでラプチャーはただの廃墟から「自分が関わった場所」へと変わる。
ビッグダディとリトルシスターが手をつないで廃墟の廊下を歩く姿を見たとき——あなたがどんな選択をするのか、心から楽しみにしている。その選択がBioShockという物語の完成形をあなた自身の手で作る。
バイオショック リマスター
| 価格 | ¥1,980 |
|---|---|
| 開発 | 2K Boston, 2K Australia, Blind Squirrel, Feral Interactive (Mac) |
| 販売 | 2K, Feral Interactive (Mac) |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows / Mac |
| プレイ形式 | シングル |

