Escape the Backrooms|現実の外側にある無限の黄色い廊下を4人で生き延びる脱出ホラー
「Escape the Backrooms」公式トレーラー
「気づいたら見知らぬ場所にいた」——そのシチュエーション、夢で一度は経験したことがあると思う。壁は黄色く、カーペットは濡れたような臭いがして、蛍光灯がジジジと鳴っている。どこまで歩いても同じ廊下が続いていて、出口がどこにあるのか、自分がどこにいるのかさえわからない。
そのリアルな悪夢を、Co-opゲームとして4人で体験させてくれるのが『Escape the Backrooms』だ。
このゲームが初めてSteamに登場したのは2022年8月。インターネット上で広まった「バックルームズ」というネット怪談を元に作られた、一人称視点のホラー脱出ゲームだ。開発したのはFancy Games——小さなインディーチームで、価格は700円台というリーズナブルさもあって、リリース直後から注目を集めた。
筆者が最初にフレンドと一緒に起動したとき、正直「また安いホラーゲームか」と思っていた。でも最初のレベルで蛍光灯が点滅しはじめ、廊下の先から何かが這い寄ってくる足音が聞こえた瞬間、その印象は完全に覆った。このゲームは「怖さ」の本質をちゃんと理解して作られている。
今回は、Escape the Backroomsのゲーム内容を徹底的に掘り下げていく。バックルームズという概念の説明から始まり、各レベルの解説、Co-opならではの体験、そして正直なネガティブ評価まで、全部書く。
「バックルームズ」とは何か——インターネット怪談の起源

まず「バックルームズ(The Backrooms)」という概念そのものを説明しておく必要がある。ゲームを遊ぶにしても、その背景を知っているかどうかで没入感がまるで違うからだ。
バックルームズの起源は2019年、4chanの「怖い画像を貼るスレ」に投稿されたたった1枚の写真だ。黄色い壁、汚れたカーペット、ハミングを出し続ける蛍光灯——どこか業務用施設の廊下のようでありながら、どこにも通じていない空間。その写真には「もしこの世界の壁を誤って’noclip’(すり抜け)してしまったら、あなたはバックルームズに落ちてしまう。そこには1億4500万平方マイル(約3億7600万km²)の無作為に生成された空の部屋がある」という説明文が添えられていた。
この概念は爆発的に広まり、「Wikidot」と呼ばれるウィキサイトを中心に膨大なロアが構築されていった。Level 0(最初の黄色い廊下)だけでなく、何百ものレベルが設定され、それぞれに異なる環境と「エンティティ(怪物)」が配置された。プールに満たされた水だけが広がるLevel 37、古い遊園地のLevel 94、永遠に夕暮れが続くLevel 6.1——想像力の限りを尽くした無限の異世界が、集合知によって作られていった。
YouTubeでは「Kane Pixels」というクリエイターが制作した超高品質なバックルームズのシュアファウンドフッテージ(発見された映像という体裁のホラー映像)が累計2億回以上再生され、バックルームズは完全にポップカルチャーの一部になった。Netflixでの映像化も一時期話題になり、いまでもSNSでは頻繁にバックルームズミームが流れてくる。
Escape the Backroomsはその世界観を直接ゲームに落とし込んだ作品だ。Level 0から始まり、段階的に異なるレベルへと進んでいく構成は、オリジナルのバックルームズロアに忠実でありながら、ゲームとして成立する独自の調整が施されている。
「noclip」という概念——なぜ人々はこの怪談に惹きつけられるのか
バックルームズが他のネット怪談と一線を画しているのは、「noclip」という現実的なメタファーを核に持っているからだと思う。
noclipとはビデオゲームの用語で、壁やオブジェクトをすり抜けられるようにするチートコマンドのことだ。プレイヤーがゲームの「外側」——マップの外、テクスチャの向こう側——に飛び出すときに使う。そのゲーム的な感覚を「現実世界に当てはめたら?」という問いがバックルームズの出発点にある。
「現実の壁をnoclipしてしまったら、その向こう側には何があるのか」——この問いは、日常の景色の裏側に何か別の世界があるかもしれないという感覚を刺激する。廊下の角を曲がったとき、建物の非常階段を降りているとき、夜中にコンビニへ行くとき——どこかのタイミングで「もし別の場所に繋がっていたら」という感覚を覚えたことがある人は多いんじゃないかと思う。
バックルームズはその感覚に名前と形を与えた。だからこそこれだけ広まり、これだけ多くの人が創作に参加した。Escape the Backroomsはその集合的な想像力の産物を、実際に体験可能な形に変換したゲームだ。
ゲームの基本——何をするゲームなのか
ジャンルはCo-op一人称視点ホラー脱出ゲーム。最大4人のプレイヤーが協力して、バックルームズの各レベルを探索し、次のレベルへの出口を見つけながら進んでいく。
ゲームのメカニクスは意外なほどシンプルだ。
プレイヤーはレベル内を移動して「出口」を探す。出口はそのレベルによって異なる——特定の場所に行けばいいだけの場合もあれば、アイテムを集めて特定の順番で使う必要がある場合もある。道中にはエンティティが徘徊していて、見つかると追いかけられる。エンティティに捕まるとそのプレイヤーは死亡し、残ったメンバーが脱出するまで観戦するしかない(チェックポイントからリスポーン可能なモードもある)。
装備は基本的にライトのみ。武器はない。エンティティから逃げるか、隠れるか、それしかない。
レベルを進むごとに環境が変わり、エンティティの種類や行動パターンも変化する。最初の黄色い廊下から始まり、水没した施設、病院、プール、廃工場——それぞれ異なる恐怖の文脈が用意されている。
Co-opの意味——一人で遊ぶのと何が違うか
このゲームはソロでも遊べる。でも4人で遊ぶとき、体験の質が根本的に変わる。
バックルームズというコンセプト自体は「孤独な迷い込み」を前提にしている。一人でその空間に閉じ込められることの恐怖だ。でもEscape the Backroomsは友達と一緒にその恐怖に飛び込める。「怖いけど隣に仲間がいる」という構造が、逆説的に体験を豊かにする。
「右の廊下どうする?」「お前が行ってみてよ」「え、俺が?絶対嫌だけど……行くか」——こういう会話がゲーム中に自然発生する。誰かが先行して探索し、後ろから怯えながらついていく側がいる。エンティティに追われて全員で全力疾走するときの絶叫が、終わったあとの爆笑に変わる。
Lethal Companyに似た「仲間と一緒に怖い目に遭う楽しさ」があるが、Lethal Companyよりも世界観が重く、笑いよりも純粋な恐怖の比率が高い。どちらを好むかは人によるが、「もっとちゃんとホラーを味わいたい」という人にはEscape the Backroomsのほうが合う。

ソロプレイの体験——一人で遊ぶとどうなるか
ソロで遊ぶと、これが別ゲームになる。
Co-opでは「仲間の声」が心理的な安全弁になっている。怖くても「みんないるから大丈夫」という感覚が薄くあった。ソロではその安全弁がない。廊下を一人で歩き、一人でエンティティから逃げ、一人で出口を探す。
孤独感が段違いだ。Co-opで「ちょっと怖かった」と感じたシーンが、ソロだと本気で体が硬直するレベルの恐怖になる。バックルームズというコンセプトの「孤独な迷い込み」を純粋に体験したいなら、ソロプレイのほうが忠実かもしれない。
ただし、ソロはマジで精神的に消耗する。2〜3時間遊んだあとに「もう今日はいいや」という気持ちになる。Co-opは怖さが笑いに変わる瞬間があるので精神的な回復ポイントがあるが、ソロはずっと「怖い」のまま進んでいく。人によっては「それこそが最高」だろうし、人によっては「疲れすぎる」になる。
各レベルの解説——どんな場所を探索するのか

Escape the Backroomsの最大の魅力のひとつは、進むごとに変わるレベルのデザインだ。単調な続編じゃなく、毎回違う「悪夢」に足を踏み入れる感覚がある。ここでは主要なレベルをざっくり紹介する。
Level 0——ザ・ルーム(黄色い廊下)
最初にたどり着く場所がここだ。そしてバックルームズのアイコンとも言える空間でもある。
無限に続くような黄色い壁、湿ったカーペット、蛍光灯のハミング音。どこを向いても同じ廊下が続いているように見える。実際にはランダム生成のマップがあり、探索していけば出口は存在する——でも最初にこの場所に降り立ったとき、「本当に出口があるのか?」という不安が頭をよぎる。
このレベルのエンティティは「スマイラー」と呼ばれる。暗がりにしか出てこない。つまり、光を切らせればいい——と思いきや、いつどこから現れるかわからない状況で光を切るのはかなりの精神力を要する。
バックルームズのイメージを忠実に再現したこのレベルは、ゲームの入口として完璧な機能を果たしている。「ああ、あのネット怪談の場所だ」という既視感と、「でも実際に中に入ると怖い」という体験の落差が、このゲームの掴みとして機能している。
Level 0で30分以上彷徨っているとある感覚が生まれる。「もしかしてこのゲーム、本当に出口がないのかもしれない」という確信に近い疑念だ。それが実はゲームデザインとして意図されているわけじゃないんだけど、バックルームズのコンセプトと空間設計が組み合わさって、そういう気持ちにさせる。これはかなり見事な体験だと思った。
Level 1——工場(ファウンドリー)
Level 0を抜けると、環境は工場のような空間に変わる。コンクリートの壁、錆びた機械、暗がりに点在する赤いランプ——明らかにLevel 0より「現実に近い」ようで、でも出口がどこにあるかわからない閉塞感はむしろ増す。
ここでは「スキン・スティーラー(Skin Stealer)」という厄介なエンティティが登場する。このエンティティは他のプレイヤーに擬態する能力を持っている——つまり、「友達のフリをして近づいてくる」ことがある。
このギミックがCo-opプレイに与える影響は絶大だ。「ちょっと待って、さっきから挙動がおかしくない?」「お前ホントに人間か?」という疑心暗鬼が生まれる。Among Usのサスペンス要素がホラーに混入してくる感覚とでも言えばいいか。普段から一緒に遊んでいる友達なのに、突然信用できなくなる瞬間がある。
スキン・スティーラーの見破り方にはいくつかコツがある。本物のプレイヤーには名前タグが表示されるが、擬態したエンティティはタグが表示されないことがある。また、擬態中は動きがわずかにぎこちない。でもパニック状態ではこれが見分けられないことがほとんどで、結果として「仲間だと思って近づいたら違った」という事態が頻発する。
Level 2——パイプ(配管スペース)
狭い配管の迷路を進むレベルだ。天井が低く、見通しが悪い。このゲームで最もクラウストロフォビア(閉所恐怖症)的な体験をするのがここだと思う。
配管の迷路は出口を探すのが難しく、同じ場所をぐるぐる回っている感覚に陥りやすい。「さっきここ通ったよな?」「いや、あの曲がり角は別の場所だったはず」——4人で迷子になるという体験は、怖さと笑いの絶妙な境界線にある。
このレベルの難易度は正直高すぎる部分があって、「楽しい迷子」と「しんどい迷子」の境界線を越えてしまう場面がある。2〜3時間同じ配管を歩き回るのは、ホラー体験というより単純な疲労に近い。ここが後述するこのゲームの課題のひとつだ。
Level 3——プール(電気系統)
水が満たされたプールのような空間だ。水面を歩くシーンと、水中に潜るシーンが混在している。「光が届かない水の下に何かいるかもしれない」という不安感を最大限に活用したレベルだ。
このレベルで初めてプレイしたとき、水面に何かが映り込んでいるような気がして、思わず後退した。何もなかったんだけど、それ自体がこのゲームの恐怖演出の巧みさを証明している。「何もないのに何かいる気がする」という状態を作り出せるゲームはそんなに多くない。
水中のシーンでは視界がさらに制限される。水の中を泳ぎながら出口を探す——このシーンでフレンドが「もう上がれない、息がもたない(ゲーム的には無限に潜れるんだけど体感で)」と言って水から出た瞬間、2人で爆笑した。理性ではわかっているはずなのに体が先に反応するという現象が、このゲームでは頻繁に起きる。
Level 4——オフィス
廃墟化したオフィスビルのような空間。バックルームズロアの中でも有名なレベルのひとつで、薄暗い蛍光灯の下にキュービクルが並ぶ光景は、Level 0とは異なる種類の不気味さを持っている。
「会社の深夜残業」という現代日本人が感じやすい恐怖と、バックルームズの不条理が合わさったような雰囲気で、個人的にこのゲームで最も不快感の高いレベルだった。ロッカーの中に人の気配がしたような、キュービクルの向こうに誰かが座っているような——そういう「見間違い」が続発する空間設計だ。
散乱した書類、倒れた椅子、切れかけの蛍光灯——廃墟オフィスのディテールが細かく、「ここで何かがあった」という感覚を積み上げていく。物語的な説明はなにもない。でも空間が物語っている。この「語らない語り方」がバックルームズのロア全体の伝統でもあり、Escape the Backroomsはそれをよく理解している。
Level 5——ホテル
古びたホテルが舞台。廊下を進むたびに同じような部屋が並び、どこへ行けばいいのかわかりにくい。シャイニングのホテルを連想する人も多いだろうし、実際にそういうレビューは多数見かけた。
ここでのエンティティは追跡速度が速く、逃げ切るのが難しい場面がある。4人が別々の廊下に迷い込んで誰かが捕まる——というシチュエーションが頻発する、ある意味このゲームで最も「仲間に置き去りにされる恐怖」を感じさせるレベルだ。
部屋のドアをひとつひとつ確認しながら進む——その作業が少し単調になる部分はあるが、「次のドアの向こうに何かいるかもしれない」という緊張感は持続する。特にエンティティが出現した直後の廊下を歩くときの「まだどこかにいるんじゃないか」という感覚は、このレベルならではのものがある。
Level 6——暗闇の廊下
文字通り、ほぼ完全な暗闇の中を進むレベルだ。懐中電灯の光だけを頼りに進む。視界がほぼゼロの状態でエンティティが徘徊しているという状況は、スプラッタ系のゴア演出がなくても十分すぎる恐怖を生み出す。
Cry of Fearが「見えないものへの恐怖」で知られているが、Escape the Backroomsのこのレベルは別の方向から同じ恐怖を作り出している——視覚情報を意図的に奪うことによる不安。

このレベルで最も怖かった瞬間は、懐中電灯の光が届く範囲の端、ギリギリ見えるか見えないかの暗がりに「何か」がいたときだ。エンティティなのか影なのか、自分が見間違えているのかもわからない。でも足が止まる。それがこのゲームの核心的な恐怖体験だと思う。
Level 7——遊園地(パーティーレベル)
色鮮やかな遊園地のような空間だが、廃墟化している。これがバックルームズホラーの定番パターン——「楽しいはずの場所が恐怖の空間になっている」という逆説的なデザインだ。
回転木馬が動いている。だれもいないのに。ゲームの音が流れている。観客がいないのに。このレベルの気持ち悪さは「ゴア」でも「暗さ」でもなく、「ズレた明るさ」にある。陽気な音楽が流れる廃墟遊園地というシチュエーションが持つ固有の不気味さをよく活用している。
パーセル(Partygoer)というピエロ的なエンティティが登場するのもここだ。ピエロ恐怖症(クラウン恐怖症)を持つ人には特に強烈なレベルになる。速く、視界が広い、捕まれば即死——というプレッシャーの下、廃墟遊園地を全力疾走する場面はこのゲームの中でも特に記憶に残る体験だ。
The End——脱出レベル
最終レベルは「The End」と呼ばれる。ここまで到達したプレイヤーは多くの試練を乗り越えてきているはずで、このレベルのデザインはそれを踏まえて設計されている。内容については詳しく語らないが、「バックルームズという概念の本質」に向き合う体験が待っていると言えばいいか。
全レベルをクリアしたとき、このゲームを選んで良かったと思えた。2万円の大作じゃない。でも体験の密度という点では、下手な高額タイトルより遥かに濃かった。
エンティティ(怪物)たちの詳細
Escape the Backroomsのエンティティは種類によって行動パターンが大きく異なる。「全部同じように逃げればいい」ではなく、エンティティごとに対処法を変える必要がある。この多様性がゲームに奥行きを与えている。
スマイラー(Smiler)
暗闇にのみ出現する。光を当てると退散するが、光源が切れた瞬間に動き出す。「光を常に保つ」というプレッシャーを与え続けるデザインは、ゲームプレイを通じた持続的な緊張感の演出として機能している。
名前の通り、暗闇の中に白い笑顔だけが浮かぶビジュアルは、「暗闇に何かいる気がする」という原始的な恐怖を直接刺激する。このデザインは本当によく考えられていると思う。目だけ、歯だけ——それ以外は何も見えないという不完全な情報が想像力を掻き立てる。
ゲーム的な対処法としては「光を常に維持する」に尽きる。でもそれが難しい状況——懐中電灯の電池が切れそう、仲間と離れ離れになった——が重なったとき、スマイラーの存在は単なるゲーム上の敵を超えて、本能的な恐怖の源になる。シンプルなデザインなのに効果的という、ホラーの理想形に近いエンティティだと思う。
スキン・スティーラー(Skin Stealer)
先述の通り、他のプレイヤーに擬態できるエンティティ。近くで見ると動作がぎこちなかったり、声が出なかったりするので見破れる場合もあるが、パニック状態では見誤ることも多い。
Co-opプレイにおいて「信用」という概念をゲームメカニクスに組み込んだ設計は独創的で、「仲間のふりをした敵に背後から追いかけられる」体験はこのゲームでしか味わえない類のホラーだ。
実際に体験した話をすると、フレンドと2人で別行動をとってから合流したとき、もう一人のフレンドから「お前さっきからついてきてたの誰?」と聞かれた。「え?」「お前の後ろにもう一人いたじゃん」——ゾッとして振り返ると誰もいない。あとから確認すると、その「もう一人」がスキン・スティーラーだった。Co-opだからこそ成立するエピソードで、一人では絶対に体験できない種類の恐怖だ。
ハウンド(Hound)
音に反応するエンティティ。走ると音が出るので、ハウンドがいるエリアでは歩く必要がある。「走って逃げたい」衝動を抑えながらゆっくり歩く——この制約がひどく怖い。
追われる恐怖より「追われそうな状況で歩く恐怖」のほうが強烈だというのがホラーゲームの逆説で、Escape the Backroomsはそれをよく理解して使っている。Outlastのようなカメラを使って隠れる緊張感と、構造として近い部分がある。

Co-opでハウンドのいるエリアを4人で歩くとき、誰かが「走りたい……」とボイスチャットでつぶやく瞬間がある。全員が同じ気持ちで、全員が抑えながら歩いている。その共有された「我慢している感覚」がゲーム体験を豊かにしている。そして一人が走り出した瞬間に全員が連鎖的に走り出して全滅する——という展開は、Escape the Backroomsをプレイしたほぼすべての4人グループが体験するドラマだ。
パーセル(Partygoer)
パーティー会場のようなレベルに登場する、ピエロ的なビジュアルのエンティティ。「お祭り的なもの」への生理的嫌悪感を活用したデザインで、ピエロ恐怖症(クラウン恐怖症)の人には文字通り悪夢になる。
速度が速く、捕まると即死するタイプなので「見つかる前に逃げ切る」しかない。このエンティティが登場するレベルではパニックになったプレイヤーが全力疾走して仲間とはぐれる事態が頻発する。
パーセルの視野角は広く、死角を見つけるのが難しい。遊園地レベルのオブジェクトの裏に隠れながら移動する——そのじりじりとした緊張感が、このエンティティ独自の恐怖体験だ。見た目のインパクト(ピエロ)と行動パターン(速い・広い視野)が合わさって、登場した瞬間に「逃げろ」という本能が勝る。思考より先に体が動くエンティティだ。
グロウセット(Facelings)
顔のない人型のエンティティ。特定の条件(視線を合わせる等)を満たすと攻撃してくる。「何をすると危険で、何なら安全か」を探りながら接触するゲームが、エンティティとの関係の中に生まれる。
このデザインコンセプトはDoki Doki Literature Club的な「正常に見えるものの異常さ」と少し似た不気味さがある——人型だから余計に怖い、という法則。

Facelingsは視線を向けなければ比較的安全だが、それが「目の前にいる何かから目を逸らしながら歩く」という行動を要求する。これが思いのほか難しく、怖い。「そっちを見てはいけない」と頭でわかっていても、視線は引き寄せられる。ホラーとして非常に巧みな設計だ。
ゲームとしての評価——Steamレビューが語るもの

Escape the BackroomsのSteamレビューは「非常に好評」。レビュー数は1万件以上を超え、好評率は85%前後で推移している。
好評レビューで最も多く見かけるのは「バックルームズの雰囲気の再現度が高い」「フレンドと遊ぶと最高に楽しい」「価格のわりにコンテンツが充実している」という3点だ。
バックルームズのロアが好きな人間として、あの「黄色い廊下」を実際に歩けることに感動した。Level 0の蛍光灯の音とカーペットの臭いが画面から伝わってくる気がした。600円台でこの体験は反則。
友達4人でやったけど全員が別々の意味で叫んでた。一人は怖くて、一人は笑いすぎて、一人は怒って、一人は何も言わなくなってた(発見者:消えてた)。ホラゲとしての完成度は高い。
一方で低評価レビューが指摘するのは主に2点——「迷子になりやすすぎる」と「一部レベルの難易度が理不尽」という点だ。
Level 2の配管迷路で2時間彷徨った。楽しかったけど、もう少しヒントがあってもいいと思う。ゲームが意図的にプレイヤーを迷わせているのはわかるけど、方向感覚が完全に失われると没入感より疲労感が先に来る。
この指摘は正直だと思う。一部のレベルは難易度曲線がやや急で、初見プレイヤーには手がかりが少なすぎる場面がある。ホラーとしての緊張感を保つための「わからなさ」と、ゲームとしての適切な誘導のバランスは、Escape the Backroomsがまだ完璧に解決できていない課題だ。
日本語対応について
Escape the Backroomsは日本語に対応している。メニューやUI、一部のテキストは日本語で表示される。ゲームそのものはほぼセリフなし・テキストなしで進む作品なので、言語対応による影響は比較的小さいが、設定画面や一部の指示が日本語で読めるのは助かる。
ただし、翻訳の品質は完璧ではない。不自然な日本語表現や、一部未翻訳のテキストが残っている箇所がある。これは小規模なインディーチームが開発していることを考えると仕方のない部分でもあるが、気になる人は気になる。ゲームプレイそのものへの影響は軽微だ。
アップデートの歴史——どう進化してきたか
Escape the Backroomsは2022年のリリース以降、継続的なアップデートで規模を拡大してきた。最初は数レベルしかなかったが、現在では十数以上のレベルが追加され、エンティティの種類も増え、マップのデザインも洗練されてきている。
開発チームFancy Gamesはコミュニティの声に対して比較的レスポンスが早く、バグ修正や難易度調整のアップデートを定期的にリリースしてきた。Steamのディスカッションページを見ると、プレイヤーからの要望に開発側が直接返信しているケースもある。
インディー開発チームがバックルームズという巨大なファンコミュニティを持つコンテンツを題材に、着実に品質を向上させてきた姿勢は評価に値する。もちろん大手スタジオの開発体制と比較するのは公平ではないが、手頃な価格で購入できる継続的に進化するゲームとして、コストパフォーマンスは高い。
カスタムレベルとMODの存在
Escape the BackroomsにはSteam Workshopを通じたカスタムレベルのサポートがある。コミュニティが制作したオリジナルレベルを無料でダウンロードして遊べるため、本編をクリアした後も新鮮なコンテンツが供給され続ける。
バックルームズのロアには何百もの公式(ウィキ上の設定)レベルが存在するため、カスタムレベルの素材は事実上無限にある。実際にコミュニティ製の高品質レベルが多数存在し、本編には登場しない有名レベル(Level 37の無限のプール等)を体験できるものもある。
ICAROSのようなサバイバルゲームがコンテンツ不足を指摘されることがあるが、Escape the Backroomsはコミュニティの創造力を活かしてこの問題を回避している点は面白い設計だ。

ホラーゲームとしての特徴——何が「怖い」のか

Escape the Backroomsの恐怖は、ゴア表現やジャンプスケアに頼っていない。これは意識的な設計判断だと思う。
血が飛び散るわけでも、突然大きな音と一緒に顔が現れるわけでもない。このゲームが生み出す恐怖は「環境的恐怖」と呼ぶべきもので——どこに出口があるかわからない、何がいるかわからない、仲間が急にいなくなる、なぜかいつも同じ廊下に戻ってくる——そういった「わからなさ」「異常な状況の正常化」による不安感だ。
ホラーゲームの恐怖には大きく分けて2種類ある。「何かが出てくる瞬間の驚き(ジャンプスケア)」と「いつ何かが来るかわからない状態で存在し続ける不安(継続的な緊張)」だ。Escape the Backroomsは後者に特化している。
継続的な緊張感はゲームの全体的なエネルギーを消耗させる。プレイ後に「なんか疲れた」という感覚があるとしたら、それはゲームが機能している証拠だ。常に何かに備えながら進む体験は、肉体的な運動よりも精神的な消耗をもたらす。これを「怖いゲーム」と感じる人もいれば、「しんどいゲーム」と感じる人もいるが、体験の強度は本物だ。
バックルームズロアへの忠実さ
バックルームズファンとして特に評価したいのは、このゲームのロアへの敬意だ。
バックルームズのコミュニティは数年間かけて膨大な設定を構築してきた。その設定を「ゲームに都合よく改変する」のではなく、なるべく元のイメージを損なわない形でゲーム化している点は、同様のコンセプトで作られた競合タイトルと比べて誠実だと思う。
Level 0の黄色い壁の色、カーペットのパターン、蛍光灯の音の周波数——こういう「細部へのこだわり」がロアへの敬意の証拠だ。「バックルームズという名前を使っただけの別物」ではない。これは、バックルームズのロアを愛しているプレイヤーにとって重要なポイントだ。
プレイヤーコミュニティの中でも「このゲームはバックルームズを本当に理解している」という評価は多く、特にロア愛好家からの支持が厚い。コミュニティの想像力が作り上げた世界を、別のクリエイターが丁寧にゲーム化するという行為は、それ自体が一種の敬意の表明だ。
難易度とゲームバランス——正直な評価
良い部分と悪い部分を分けて書く。
良い部分
エンティティごとに対処法が違うため、同じ攻略が通用しない多様性がある。「とにかく逃げろ」だけじゃなく、「このエンティティには光が有効」「こっちは音に反応する」「これは視線を向けると攻撃してくる」という知識の積み重ねが体験を豊かにする。
Co-opプレイ時の役割分担が自然に生まれる。マップを覚えている人が案内役になり、ビビりの人が後ろについていき、冷静な人がエンティティの位置を確認する——それぞれのプレイスタイルが機能できる設計だ。
複数周目の価値もある。最初のプレイでは「何がいるかわからない恐怖」があり、2周目以降は「エンティティの動きをどう制御するか」という戦術的な楽しさが生まれる。ホラーゲームは一度遊んだら終わりのものが多い中、Escape the Backroomsは2周目以降にも別の楽しみ方が存在する。
悪い部分
迷子になりやすすぎる点は本当に改善してほしい。特にLevel 2の配管迷路は、3時間以上同じ場所を徘徊したというレビューが複数ある。ホラー的な「出口が見つからない不安」と、ゲーム的な「進め方がわからないフラストレーション」は別物で、その境界線を引けていない部分がある。
チェックポイントシステムについては賛否両論だ。チェックポイントがない(または少ない)ことで緊張感が生まれるという設計意図は理解できる。でも、長時間プレイして死亡したときに最初からやり直しになるのは、特にカジュアル寄りのプレイヤーへの高い壁になっている。難易度設定の柔軟化があればより多くのプレイヤーが楽しめると思う。
一部のエンティティの当たり判定が不明瞭な場面がある。「十分距離があったのに捕まった」「確認したら向こうを向いているのに検知された」というケースがあり、理不尽さを感じる場面も正直あった。ゲームとして「どこまで近づいたら危険か」という情報がプレイヤーに伝わりにくい設計は、ストレスの原因になりうる。
また、ビジュアルクオリティはインディーゲームとしては標準的なレベルだ。大手スタジオが作るAAA級のグラフィックスと比べれば差は大きい。でもこのゲームの恐怖はグラフィックスのリアルさより「空間の雰囲気」に依存しているので、ビジュアルの技術的な限界は体験の本質にはあまり影響しない。
音響設計の話——このゲームで一番大事なもの

Escape the Backroomsを最大限に楽しみたいなら、音響に注目してほしい。このゲームの恐怖の多くは視覚ではなく聴覚から来ている。
Level 0の蛍光灯のハミング音は、バックルームズロアの原典から忠実に再現されている。あの「60Hzのフィーンという音」は、ゲームを始めた瞬間から「ここはバックルームズだ」という認識をプレイヤーに与える。
エンティティの足音、遠くから聞こえる息遣い、水が滴る音——これらの音はエンティティの接近を知らせる手がかりでもあり、ホラー演出でもある。スピーカーではなくヘッドフォンで聞くと、音の方向性がはっきりして「右から近づいてくる」「頭上に何かいる」という感覚が得られる。
特に効果的なのが「何もない場面での音」だ。エンティティがいないはずの廊下から足音がした気がした、蛍光灯の音に混じって別の何かが聞こえた気がした——実際には何もなかったとしても、音が想像力を動かす。このゲームのサウンドデザインはビジュアルを超えた恐怖体験を生み出している。
推奨する遊び方——最大限楽しむために
Escape the Backroomsの体験をより豊かにするためのポイントをいくつか挙げる。
バックルームズのロアを事前に少し知っておく
完全に予備知識なしで遊んでも楽しめるが、バックルームズのコンセプトを事前に知っていると「あ、あれがLevel 0か」という既視感が恐怖に変わる体験ができる。Kane Pixelsの動画を2〜3本見てから遊ぶと、ゲームへの没入感が段違いに変わる。
ボイスチャットは使う
テキストチャットでも遊べるが、このゲームはボイスチャットを使うとまるで体験が違う。「ちょっと待って、なんか聞こえない?」「お前の後ろ、なんかいる気がする」——こういう会話はテキストでは再現できない。声のリアクションがあってこそ、Co-opホラーの醍醐味が生きる。
ヘッドフォンで遊ぶ
このゲームの音響設計はかなり良い。蛍光灯のハミング音、エンティティが近づく足音、水が滴る音——これらを立体音響で聞けるかどうかで没入感が大きく変わる。スピーカーより絶対にヘッドフォンがいい。できればサラウンドヘッドフォンを使えればさらにいい。
初回は攻略情報なしで
「わからなさ」がこのゲームの恐怖の核なので、できれば最初の2〜3レベルは攻略情報なしで進んでほしい。詰まったときに見るのは全然いいけど、最初からWiki見ながらプレイすると「バックルームズで迷う体験」がなくなってしまう。迷子になること自体がこのゲームの体験の一部だ。
暗くした部屋で遊ぶ
部屋を暗くしてプレイすると没入感が増す。特にLevel 6(暗闇の廊下)ではゲーム内の光と部屋の光が連動する感覚があって、画面の暗さがそのまま部屋の暗さに繋がる体験ができる。怖すぎると感じるなら部屋の電気をつけて遊ぶのが正解だけど、試せる人は試してほしい。
どんな人に向いているか

Escape the Backroomsが刺さる人と、刺さらない人は割とはっきりしている。
刺さる人はこういう人だ——バックルームズのロアやネット怪談が好き、Co-opホラーが好き、ゴア表現より雰囲気的な恐怖が好き、友達と怖い体験を共有したい、700円台でサクッと遊べるホラーを探している。ジャンプスケアより継続的な緊張感が好きな人、「雰囲気でビビれる」人にも向いている。
刺さらない人もはっきりしている——ストーリー性の高いホラーが好き(このゲームは「脱出する」以上の物語的な深みは薄い)、アクション要素のないゲームが苦手、迷子になると怒る、単純に方向感覚がなくて迷路系ゲームが嫌い。「武器を持って戦いたい」タイプのホラーゲームプレイヤーにも向いていない。
「フレンドと気軽に怖い体験をしたい」という動機には完璧に応えてくれる。それ以上を求めるなら、このゲームは少し物足りないかもしれない。
Ready or Not的な緊張感との比較——ゲームを選ぶ基準
「怖いゲームを友達と遊びたい」と思ったとき、どのゲームを選ぶかは迷う問題だ。
Ready or Notは戦術的FPSで、ホラーではなく緊張感のリアリズムが核にある。仲間と連携して建物をクリアしていく体験は、Escape the Backroomsとは方向性が全く異なる。でも「正体不明の脅威に対して仲間と協力する」という根っこのループは共通している。

どちらを選ぶかの基準はシンプルだ——「アクション的な戦術性が好きか、雰囲気的な恐怖が好きか」。Escape the Backroomsは後者に特化している。武器がない、戦えない、逃げるか隠れるしかない——その無力感こそがこのゲームの恐怖の源泉だ。Ready or Notで「しっかり武装して脅威に対処したい」と思う人は、Escape the Backroomsの「何もできない無力さ」に逆にストレスを感じるかもしれない。
Sons Of The Forestとの比較——似ているようで全然違う

Sons Of The Forestも「怖い場所をCo-opで探索するゲーム」という点でジャンルが重なるが、体験はかなり異なる。
Sons Of The Forestはオープンワールドのサバイバルホラーで、木を切って家を建て、資源を集めながら生き延びる。プレイヤーに「何かを作る」自由がある。それに対してEscape the Backroomsは純粋な脱出——作る自由はなく、ただ「ここから出たい」という一点に向かって進むだけだ。
この方向性の違いがゲームの体験を根本から変える。サバイバル要素がない分、Escape the Backroomsはよりシンプルで、より「ホラー体験そのもの」に集中できる。「複雑なゲームより、純粋に怖い思いをしたい」という目的には、Escape the Backroomsのほうが向いている。価格帯もSons Of The Forestが2,000〜3,000円台なのに対してEscape the Backroomsは700円台と大きく差があり、気軽さという点でも優位性がある。
BioShockとの世界観の親和性——「逃げ場のない空間」というモチーフ
BioShockは水没した都市ラプチャーという「外の世界から切り離された閉鎖空間」を舞台にしている。その閉塞感とEscape the Backroomsのバックルームズには、「現実の外側にある脱出不可能な空間」という共通のモチーフがある。
BioShockが「文明が崩壊した場所」を探索するゲームだとすれば、Escape the Backroomsは「現実の裏側に落ちてしまった場所」を探索するゲームだ。どちらも「ここはどこで、どうすれば出られるのか」という根本的な疑問がゲームを動かす原動力になっている。世界観の豊かさという点ではBioShockが圧倒的に上だが、「閉塞した空間で何かから逃げる体験」という本質的な恐怖のループは、方向性として近いものがある。

価格とコスパの話

価格帯は発売当初から700円前後(セール時はさらに安くなる)で、4人分を合わせても3,000円以内に収まる。
これはかなり攻めた価格設定で、「4人で3時間楽しめるホラー体験」のコスパとして考えると破格に安い。映画を4人で見に行けば5,000〜6,000円かかる時代に、4人が同時にリアルタイムで怖い体験を共有できるゲームが合計2,800円——この価格設定はインディーゲームの旨味を最大限に活かしている。
「お試しでホラーゲームを遊んでみたい」という人の入口として、このゲームは非常に機能する。高額なホラーゲームに踏み込む前のウォーミングアップ的なポジションでも、本番として遊んでも、どちらでも成立する価格帯だ。Outlastシリーズや、より高額なホラーAAAタイトルへの入口として、Escape the Backroomsは理想的な位置にある。
競合タイトルとの比較——バックルームズ系ゲームの中での位置づけ
バックルームズを題材にしたゲームはEscape the Backrooms以外にも複数存在する。「The Backrooms 1998」「Backrooms: Escape Together」「Noclipped」などが主なものだ。
これらの中でEscape the Backroomsがなぜ最も支持されているのかというと、複数理由がある。
まず、レベルのバリエーションが最も豊富だ。単一環境を延々と探索するのではなく、レベルごとに環境が切り替わる設計が飽きにくさを生んでいる。次に、Co-opの実装が安定している。接続の安定性や、フレンドへの招待のしやすさという「遊ぶまでの障壁の低さ」が評価されている。そしてカスタムレベルのサポートにより、本編クリア後もコンテンツが尽きない拡張性がある。
バックルームズゲームを遊んでみたいと思ったとき、現状の最適解はEscape the Backroomsだと言っていい。「The Backrooms 1998」はホラー的な雰囲気の再現度は高いが単調になりやすく、「Backrooms: Escape Together」は開発が止まっている。継続的にアップデートされ、コミュニティが活発で、Co-opが安定しているという条件をすべて満たしているのがEscape the Backroomsだ。
プレイ時間と繰り返しプレイの価値

本編を初回クリアするまでのプレイ時間は、攻略情報なしだと8〜15時間程度が目安だ。迷子になる頻度や、Co-opの人数によって大きく変わる。4人で遊ぶと誰かがルートを覚えていたり、手分けして探索できたりするので、意外と早く進む場合もある。
2周目以降のプレイは、初周とは異なる価値がある。エンティティの出現場所や行動パターンがある程度わかっている状態で、「どこまで効率よく進めるか」という攻略的な楽しみが生まれる。初周の「何もわからない恐怖」とは別の、「知識があるのに緊張する」感覚だ。
Steam Workshopのカスタムレベルを含めると、事実上プレイ時間は無限に近くなる。コミュニティが作り続けているレベルは定期的に追加されており、「本編をクリアしたから終わり」にならない設計だ。
バックルームズというコンテンツの今後——ゲームの価値はどう変わるか
バックルームズというコンテンツは2019年から2026年現在も成長し続けている。コミュニティWikiには新しいレベルが追加され続け、動画クリエイターたちは新しい解釈でバックルームズ映像を作り続けている。映画化・ドラマ化の話も絶えない。
このコンテンツの成長がEscape the Backroomsにとってプラスに働いているのは明らかだ。「バックルームズって何?」という人が増えるたびに、ゲーム化されたEscape the Backroomsへの関心も高まる。バックルームズを知った人が「ゲームで体験したい」と思ったとき、最初に行き着くのがこのゲームだからだ。
一方で、バックルームズを題材にしたゲームの競合が増えてきているのも事実だ。より高予算の、より大きなスタジオが作るバックルームズゲームが登場する可能性は今後も続く。そうなったとき、Escape the Backroomsがどう差別化を維持するかは、今後のアップデート方針にかかっている。
でも今この時点では、Escape the Backroomsはバックルームズゲームとして最も完成度が高く、最も広く支持されているタイトルだ。この地位はそう簡単には揺らがない。開発チームが継続的にアップデートを届けてくれている限り、このゲームの価値は維持される。
ホラーゲームとして「何を怖がるか」の話

ホラーゲームというジャンルで、怖さの種類は大きく3つに分けられると思っている。
1つ目は「何かが出てくる瞬間の驚き」——ジャンプスケアだ。瞬発的な恐怖で、終わったあとに笑いに変わりやすい。ホラー映画の予告編でよく使われる手法だ。
2つ目は「何かに追いかけられる切迫感」——アクションホラーの恐怖だ。生存本能を刺激する。Outlastシリーズのように、追われながら逃げる体験がこれにあたる。
3つ目は「どこにいるかわからない、何がいるかわからない不安」——環境的恐怖だ。SCP財団やバックルームズのようなコンテンツが生み出す種類の恐怖で、「わからなさ」そのものが恐怖の源泉になる。
Escape the Backroomsは主に3つ目の恐怖を使っている。ジャンプスケアはほぼない。追われる場面はあるが、それよりも「どこに出口があるかわからない」「いつエンティティが現れるかわからない」「仲間の声が聞こえなくなった」——こういう状況の積み重ねが恐怖を作る。
この種の恐怖は「怖い映像を見せられる」体験ではなく、「怖い状況に置かれる」体験だ。受動的ではなく能動的——自分が動き続けながら怖い状態を体験する。これがゲームというメディアとバックルームズという素材の親和性の核心だと思う。映像で見るバックルームズと、実際に中を歩き回るバックルームズは、体験として全く異なる。Escape the Backroomsはその「実際に歩き回る」部分を提供している。
まとめ——このゲームを一言で表すなら
Escape the Backroomsは「インターネット怪談を最も誠実にゲーム化した、フレンドと遊ぶためのホラー体験」だ。
欠点がないわけじゃない。一部レベルの難易度設定は改善の余地があるし、ゲーム的な誘導が不足している場面もある。大手スタジオが作る高額なホラーゲームと比べれば、技術的なクオリティに差があるのも事実だ。
でもこのゲームには、それを補って余りある「体験の本質」がある。「黄色い廊下を4人で歩く」その瞬間の恐怖と、「全員でなんとか脱出した」ときの達成感。バックルームズというコンセプトが本来持っていた「現実の外側にある逃げられない空間」のイメージを、実際にゲームとして体感できる——これはEscape the Backrooms以外にはなかなか提供できない体験だ。
特に「バックルームズのロアが好き」「ホラーゲームを友達と一緒に遊びたい」「そんなに高いゲームは買えないけど面白いホラーをやりたい」——この3つのうちひとつでも当てはまるなら、間違いなく買う価値がある。
蛍光灯のハミング音が頭から離れなくなる体験を、ぜひ仲間と一緒にしてほしい。あの「黄色い廊下」のカーペットを踏みしめる感覚は、やってみないとわからない。
このゲームをやり終えてから気づいたこと
全レベルをクリアしてから数日後、コンビニへ行く途中に長い廊下を歩いていて、ふと「このまま廊下が続いたらどうなるんだろう」と思った瞬間があった。それがバックルームズのコンセプトと完全に重なって、一瞬だけ本当に怖くなった。
「ゲームの恐怖が日常に侵食する」という体験は、よほど没入できるゲームでないと起きない。ホラー映画を見た夜に後ろが怖くなるような感覚と近いが、ゲームで同じことが起きるのはわりとレアだ。Escape the Backroomsにはそれが起きた。
バックルームズというコンセプトそのものが「日常の隙間に潜む非日常」を題材にしているから、ゲームをやり込んだあとに日常風景がゲームと重なって見える瞬間が生まれる——これは設計として意図されていたわけではないと思うが、結果として起きる体験だ。そしてそれが、このゲームを単なる「ホラーゲームを一本クリアした」体験を超えた記憶として残してくれている。
フレンドとやり終えて「あーこわかった!もうやらん!」と言いながら、なぜか数日後にまた起動している——そういうゲームだ。
ホラーゲームが得意でない人にも言いたい。このゲームはジャンプスケアではなく「空間の不安感」が中心なので、強烈な映像的ショックは少ない。「ホラーは苦手だけど、バックルームズには興味がある」という人には意外と入りやすいかもしれない。フレンドと一緒に、最初の黄色い廊下を歩くところから試してみてほしい。
そしてバックルームズを知らなかった人も、このゲームをきっかけにロアを掘り下げてみると、コンテンツの広さに驚くと思う。ゲームが入口になって、ウィキを読んで、Kane Pixelsの動画を見て、気がついたらバックルームズロアの深みにはまっている——その流れもまた、このゲームが持つ独特の「引力」のひとつだ。
インターネット上で生まれた集合的な想像力の産物を、700円台のゲームで「体験」として手に入れられる——これはかなり贅沢なことだと思う。バックルームズというコンセプトを作り続けてきたコミュニティへの感謝と、それをゲームに変えてくれたFancy Gamesへのリスペクトを持ちながら、ぜひあの黄色い廊下に踏み込んでほしい。出口は必ずある。ただし、見つかるまでが本番だ。黄色い壁が続く廊下の向こうに何があるのか、自分の目で確かめてみてほしい。
Escape the Backrooms
| 価格 | ¥1,200 |
|---|---|
| 開発 | Fancy Games, Blackbird Interactive |
| 販売 | Secret Mode |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows |
| プレイ形式 | シングル / マルチ |

