「死んでも楽しい」というゲームの評価を耳にすることがある。でも多くの場合、それは「死んでも続けられる」という意味で使われていて、本当に死んでいる最中が面白いゲームはほとんどない。
『Hades(ハデス)』は、本当に死んでいる最中が面白い。死ぬと拠点に戻され、父ハデスに小言を言われ、ニュクスに励まされ、スケリーが「次こそいけるぞ」と笑いかける。その30秒間のやり取りがいちいち面白くて、「早く次の挑戦がしたい」と思いながらボタンを押し続けてしまう。
Supergiant Gamesが2020年9月にリリースしたこのゲームは、Steamレビュー25万件超えの98%好評という数字を叩き出した。インディーゲームとしては歴史的な数字だ。英国アカデミー賞ゲーム部門ベストゲーム賞、D.I.C.E. Awards ゲーム・オブ・ザ・イヤー、ネビュラ賞ゲームライティング部門など、主要な賞をほぼ総なめにし、IGNもTIME誌も「2020年のゲーム・オブ・ザ・イヤー」に選出した。ゲーム・オブ・ザ・イヤーのノミネートでは「ゴースト・オブ・ツシマ」「The Last of Us Part II」「あつまれ どうぶつの森」と並ぶ中、唯一のインディーゲームとして選ばれた。
リリース直後、アーリーアクセス終了時点で約70万本、正式リリースからわずか3日で30万本が売れ、合計100万本をあっという間に突破した。その後も売れ続け、現在では総販売本数が数百万本に達している。
でも、受賞歴や販売本数よりも気になるのは「なぜこれほどまでに人を惹きつけるのか」だ。ローグライクのゲームは他にもたくさんある。アクションゲームも山ほどある。それなのにHadesがここまで突き抜けた理由は何なのか。この記事では、その核心に迫っていく。
こんな人に読んでほしい

Hadesを買おうか迷っている人に、まず「あなたに向いているか」を正直に書く。良いゲームでも、向き不向きはある。
ハマる可能性が高いタイプ:
- ローグライクゲームが好き、または興味がある
- ビルドや能力の組み合わせを考えるのが楽しい
- アクションゲームが得意、またはそこそこ好き
- ストーリーや世界観にも没入したい
- 「もう1回だけ」という感覚でプレイできる
- 30分〜1時間程度のセッションを繰り返すスタイルが好き
合わないかもしれないタイプ:
- アクションゲームが根本的に苦手で、操作自体がストレスになる(ただしゴッドモードで大幅緩和)
- 「負けたらやり直し」というシステムがどうしても受け付けない
- ゆっくり腰を据えて長編ストーリーを楽しむタイプのゲームが好き
- 1回のプレイで完結するゲームを求めている
特に「ローグライクはちょっと難しそう」と思っている人に伝えたいのは、Hadesは「死ぬこと」がゲームデザインの中心にあるということだ。失敗して当然のゲームで、失敗するたびにストーリーが進み、キャラクターが強くなり、世界が広がる。「やり直し」がペナルティではなく、ゲームの楽しみ方そのものになっている。
アクションが苦手な人には、後半で詳しく説明する「ゴッドモード」がある。これを使えばストーリーを楽しむ目的で遊ぶことも十分できる。
Hadesとはどんなゲームか

Hadesはギリシャ神話の冥界を舞台にしたローグライクアクションRPGだ。プレイヤーが操るのは冥王ハデスの息子ザグレウス。彼の目標はたったひとつ——冥界から脱出して地上に出ること。
でも、冥界の王の息子が簡単に脱出できるはずがない。亡者や怪物が行く手を阻み、冥界の構造そのものが毎回変化し、何度倒されてもザグレウスは拠点「ハデスの館」に戻されてしまう。父ハデスが立ちはだかり、魔法で脱出を妨害してくる。
それでもザグレウスは諦めない。オリュンポスの神々——ゼウス、ポセイドン、アルテミス、アフロディテ、アレス、ディオニュソスたち——がこっそり力を貸してくれる。叔母のデメテルも、冥界のニュクスも、ちょっと変わった人物たちがザグレウスの旅を支える。そして何度も挑戦を重ねるうちに、徐々にザグレウスの「家出」の本当の理由が明かされていく。
ゲームプレイとしては、冥界のダンジョンを部屋から部屋へと攻略していく。各部屋には敵が配置されていて、全員倒すと次の部屋へ進める。部屋をクリアすると報酬として「功徳」(オリュンポスの神々の力)や強化素材などを選んで取得できる。それを積み重ねながら最終的にハデス本人を倒せれば脱出成功。
倒されたらハデスの館に戻り、永続強化をしてまた挑戦。この繰り返しがゲームの基本構造だ。
開発元Supergiant Gamesについて
Supergiant Gamesはアメリカ、サンフランシスコの小さなインディースタジオだ。スタッフ数は20名前後。それでも彼らは『Bastion(2011年)』『Transistor(2014年)』『Pyre(2017年)』という3本の高評価作品を世に送り出してきた。
Bastionは「廃墟の世界を旅するアクションRPG」、Transistorは「サイバーパンク世界の謎を解くアクション」、Pyreは「スポーツと物語が融合したRPG」と、毎回まったく違うジャンルに挑戦してきた。Hadesはそれらの集大成とも言えるタイトルで、Bastion譲りのアクション、Transistorの洗練された世界観、Pyreの豊かな対話型ストーリーが一つにまとまっている。
クリエイティブディレクターのグレッグ・カサヴィンは、開発開始時を「2017年にPyreをリリースした数週間後から計画を始めた」と語っている。アーリーアクセスを2018年12月から開始し、約2年間プレイヤーのフィードバックを取り込みながら完成させた。対話テキストの総量は約30万ワード。チームが「どれだけ準備したんだ」と思わせるほど膨大な量だ。
当初はゲームタイトルも「ミノス」という別名で、テセウスがクノッソスの迷宮から脱出するストーリーだったという。しかし開発を進める中で「ハデスの息子ザグレウスが冥界から脱出する」というコンセプトに変更された。開発中の2020年3月にはCOVID-19の影響でスタッフ全員がリモートワークに移行したが、それでも完成度を落とすことなくリリースにこぎつけた。
ゲームプレイの詳細——アクションの手触りとビルド構築
Hadesのゲームプレイを「気持ちいいアクション×考えるビルド構築」と表現すると伝わりやすいかもしれない。この2つの要素が絶妙に噛み合っていることが、長時間遊んでも飽きない理由のひとつだ。
基本的なアクション操作
操作はシンプルだ。通常攻撃、特殊攻撃、魔弾(遠距離)、ダッシュ、必殺技(召喚)の5つが基本。これを組み合わせながら敵を倒していく。
最初に感じるのは「動かしているだけで気持ちいい」という感覚だ。ダッシュの動きが軽快で、攻撃のヒット感が鋭く、敵が派手に吹き飛ぶ。ゲームが得意な人も苦手な人も、まず最初の部屋で「あ、これ好きかも」と感じるタイプの手触りがある。
戦闘は見下ろし型(俯瞰視点)で展開される。ダンジョンの各部屋には壁や柱などの地形があり、敵の攻撃を避けながら戦う。遠距離攻撃してくる敵、突進してくる敵、大きく構えてから叩いてくる敵など、敵の種類も豊富で、敵ごとに適切な対処法を覚えていく楽しさがある。
6種類の武器と「態(てい)」
ザグレウスが使える武器は全部で6種類。剣(スタティオス)、槍(ヴァーリ)、盾(アスピス)、弓(イヴェルン)、双拳(テミス)、銃(エリクス)だ。
それぞれの武器で戦い方がまったく変わる。剣は近接オールラウンドで扱いやすく、初心者にも向いている。通常攻撃の連撃とスピンアタックを組み合わせた安定した攻撃スタイルは、「まず何を使えばいいかわからない」というプレイヤーの入門にぴったりだ。槍はリーチが長く、安全距離から戦える。特殊攻撃のスピンが前方扇状に当たるため、複数の敵を一度に処理するのに向いている。盾は独特のガード・バッシュシステムがあり、特殊攻撃でフラッシュステップを使った突進ができる。盾はガードで多くの攻撃を弾けるため「防御したい人」に向いているように見えて、実は攻撃的に使うのが正解という奥深さがある。弓は蓄積照準で高ダメージを狙えるが機動力は低め。照準を絞る間の「隙」をどう管理するかが鍵で、上手く使いこなせたときの爽快感は随一だ。双拳は超近距離の高速コンボが気持ちいい。しかし装甲を持つ敵には最初コンボが弾かれるという独特の制約がある。銃はユニークな「コア」射撃システムを持ち、魔弾(遠距離攻撃)でコアを射出して爆発させるという特殊な戦い方になる。慣れるのに時間がかかるが、玄人好みの独自性がある。
さらに各武器には「態」と呼ばれる派生形態が最大4種類存在する。例えば剣ならザグレウスの態(通常)、ニュクスの態(高速コンボ型)、エリスの態(高火力一撃型)、パトロクロスの態(ダッシュ後に特殊効果発生)などがある。同じ武器でも態が変わると戦い方がガラッと変わるため、実質的には20種類以上の異なる戦闘スタイルが存在することになる。
初期状態では剣しか使えず、ゲームを進めることで素材を使って他の武器をアンロックしていく。また各態の解放にも条件があり、特定のキャラクターとの対話を深めることで新しい態が使えるようになる。「すべての武器と態を解放した上で、どのビルドで今回は戦うか」という選択が毎回のプレイの出発点になる。
功徳——神々の力でビルドを作る
Hadesのゲームプレイで最も「考えさせられる」要素が「功徳」だ。ダンジョンを進むと、部屋のクリア報酬や特定の場所でオリュンポスの神々から力の申し出がある。ゼウスの雷撃強化、ポセイドンの激流、アルテミスのクリティカル強化、アフロディテのデバフ付与など、神ごとに特色が異なる。
各神の功徳には「ありふれた(コモン)」「希少(レア)」「叙事詩(エピック)」「伝説(レジェンダリー)」というレアリティがあり、同じ功徳でも高レアリティほど効果が強力だ。「今回はレアリティが高いものをどれだけ引けるか」という運の要素も含みつつ、選択肢は常に3つ提示されるため、完全に運任せにはならない。「このランではアルテミスの功徳を優先しよう」という方針を決めた上で、出てきた選択肢の中でベストを選ぶ判断力が問われる。
1つのダンジョン挑戦で得られる功徳は毎回ランダムで、しかも3つから1つを選ぶ形式。「この神の力を集めてコンボを狙うか」「今回は別の方向性で試してみるか」という選択が積み重なってビルドが形成される。特に「ポセイドンの通常攻撃強化+ダッシュ攻撃強化のコンボ」「アルテミスのクリティカル+アフロディテの弱体化で確定クリティカルを狙う」など、神々の組み合わせによる相乗効果を自然に発見していく過程が楽しい。
神々の間には「デュオ功徳」という特別な相性もある。例えばゼウスとポセイドンを両方集めると「大海の嵐」という強力なデュオ功徳が解放される。これが発動すると、敵をノックバックするたびに追加ダメージが発生し、部屋全体が爆発的なダメージゾーンと化す。アルテミスとアフロディテのデュオ功徳「心の傷」は、アフロディテのデバフ「腕力低下」をかけた相手へのクリティカルダメージが大幅に上昇する。こういったデュオ功徳を偶然発見したときの「これ強すぎる」という感覚がたまらない。デュオ功徳の種類は全部で27種類あり、毎回すべてを試せるわけではないため、長時間プレイしても「まだ見ていない組み合わせがある」という発見が続く。
1回のプレイで全ての功徳を試すことはできない。毎回違うビルドになるため「今回は何ができるか」というワクワク感が持続する。さらに、ダンジョン中に「ダイダロスの槌」というアイテムで武器自体を改造することもある。例えば剣を「ダッシュ攻撃の射程が無限になる」形に改造したり、槍を「通常攻撃がスピン型になる」形に変えたりと、武器のプレイフィールを根本から変えてしまう改造が存在する。「この週の武器に、この槌を当てると……」という予期しない強化に出会うたびに「こんな遊び方もできるのか」という驚きの体験が生まれる。
「1000時間プレイしてるけど未だに初めて見る功徳の組み合わせがある。広さが規格外」
引用元:Steamレビュー
永続強化システム——死んでも無駄じゃない
ダンジョンで死んでもゲームオーバーにはならない。ザグレウスはハデスの館に戻り、そこで「冥夜の鏡」を使った永続強化ができる。ダンジョン内で集めた「暗闇の結晶」を使って、最大HPの増加、ダッシュ回数の増加、特殊攻撃の威力アップなど、次の挑戦に引き継がれる強化を施せる。
冥夜の鏡の強化項目は「影の存在(最大HPアップ)」「素速い反射(ダッシュ強化)」「暗き機略(各部屋の開始時に情報を見る)」「冥界の血脈(特定の資材を追加で獲得)」など多岐にわたる。それぞれに複数のランクがあり、最高ランクまで強化するには多くのプレイ時間が必要だ。しかし、最高ランクまで強化しなくても十分に楽しめる設計になっているため、「強化が進まないとクリアできない」という感覚には陥らない。
また「ランク」と呼ばれるパラメータもあり、キャラクターとの会話を重ねることでギフトを渡してランクアップさせると新しいアイテムや対話が解放される。これもすべて永続する。ランクが上がるほど会話の内容が深まり、キャラクターとの関係性が変化していく。序盤は「知り合い」に過ぎなかったキャラクターが、ランクアップとともに本音を見せるようになる。
さらに「賜物(ケラモス)」と呼ばれる素材を使って拠点をアップグレードすることもできる。新しい商人を呼んだり、スタート時の装備を強化したり、特定の功徳を序盤から保有した状態で始めるコンパニオンをアンロックしたりと、毎回の挑戦の出発点を豊かにしていける。
この「死ぬたびに少しずつ強くなっていく」設計が、挫折感を最小限にしている。1回のランが30分〜1時間程度かかるが、失敗してもある程度の達成感と前進感がある。「今回は惜しかった」「次は違うビルドを試そう」という気持ちが自然に湧く。死んで拠点に戻るたびに「今回のランで何を得たか」を振り返り、次の挑戦に活かせる要素が必ずある。
拠点「ハデスの館」の役割
ハデスの館はただのメニュー画面ではない。ここで暮らすキャラクターたちとの会話がゲームの核心のひとつだ。ニュクス、アキレウス、メガエラ、タナトス、ヒュプノス、スケリー——それぞれが個性的で、ザグレウスと話すたびに何かしらの反応がある。「また帰ってきたか」「今回は惜しかったな」「あと少しだったのに」という声かけが、失敗したはずの時間を温かく包む。
主要な住人を少し紹介しておこう。ニュクスは夜の女神で、ザグレウスの一種の育ての親的な存在。静かで穏やかだが、揺るぎない強さがある。アキレウスはトロイア戦争の英雄で、館の衛兵として勤務している。過去の傷と向き合いながらも、ザグレウスの挑戦を誰より応援している。ヒュプノスはザグレウスの兄で眠りの神。毎回の挑戦の終わりに「今回はここで失敗したよ」と軽口を叩いてくる。タナトスはザグレウスの幼馴染で死の神。時々ダンジョン内に現れ、「誰が先に多く敵を倒せるか」という競争を仕掛けてくる。スケリーは謎の存在で、練習台になってくれる格闘スケルトン。ザグレウスへの愛情が深く、毎回の挑戦を送り出してくれる。
敵として戦ったキャラクターともここで会話できる。仇敵だったはずの相手が、館に帰ると気さくに話しかけてくる。ザグレウスを何度も倒した者たちが、実は彼の成長を見守っているという構造が、ゲームプレイとストーリーを見事に結びつけている。最初は「倒さなければならない障害」として存在したキャラクターが、やり取りを重ねるうちに「複雑な感情を持つ個人」として見えてくる。この変化がHadesの物語の核心だ。
冥界の4エリアとボスたち

冥界のダンジョンは大きく4つのエリアに分かれている。エリアごとに敵の種類、環境のデザイン、そして各エリアのボスが存在する。
タルタロス——最初の試練
冥界の最深部、タルタロスが最初のエリアだ。暗い洞窟のような環境で、ウォームシェード(炎の亡者)やリッチ(浮遊する骸骨)などが出現する。敵の動きは比較的わかりやすく、Hadesの操作とシステムに慣れるための場所だ。
エリアのボスは「メガエラ」。復讐の三女神、フューリーたちの長姉で、複数の攻撃パターンを持つ強敵だ。初挑戦では多くのプレイヤーが叩きのめされる。しかし回数を重ねるうちに攻撃パターンが読めるようになり、「あのメガエラが余裕になった」という瞬間が訪れる。その成長の実感がたまらない。
また、メガエラはハデスの館でも登場するキャラクターで、彼女との関係性がゲームを進めるうちに少しずつ変化していく。ただの「倒すべきボス」ではなく、立体的な存在として描かれているのがHadesらしい。
アスフォデル——炎と岩の台地
第2エリアはアスフォデル。溶岩が流れる荒野のような環境で、地面の一部が燃えており足場に気を遣う。サテュロスや蛇人間、炎を扱う敵が増え、ぐっと難易度が上がる。
ボスは「ラミア」か「ペリクリュメノス」のいずれかがランダムで登場。ラミアは毒を使う蛇女で、ペリクリュメノスはネプテューヌス(ポセイドン)の孫で変身能力を持つ。初見では「何してくるかわからない」という緊張感がある。
エリュシオン——英雄たちの戦場
第3エリアのエリュシオンは、ギリシャ神話の英雄たちが集う楽園の戦場だ。強力な英雄の亡者たちが出現し、これまでより明らかに難しくなる。フィールドも広く、複数の強敵が同時に出現するシチュエーションが増える。
このエリアのボスが「テセウスとアステリウス」。英雄テセウスと牛頭のアステリウス(ミノタウロス)が2体同時に出現する、Hadesの中で最もプレイヤーが苦戦するボス戦だと言われている。テセウスは回避優先で神の加護を呼ぶ、アステリウスは猛突進で圧倒する——2人の連携が本当に厄介だ。
「テセウスとアステリウスに20回くらいやられた。でも倒した瞬間の達成感は今でも忘れられない」
引用元:Steamレビュー
ステュクス——最後の関門
冥界で最も強い敵が待つ最終エリア、ステュクス。複雑な地形と強力な敵を突破し、辿り着いた先に待ち受けるのはザグレウスの父「ハデス」本人だ。
ハデスは全ボスの中で最も強い。多彩な攻撃パターン、高い耐久力、ザグレウスを地面に叩き付ける投げ技など、あらゆる意味で最終ボスにふさわしい強さを持つ。ハデス戦で印象的なのは、戦いながら父と息子が言葉を交わすことだ。戦闘中の対話という珍しい演出が、この最終戦の感情的な重みを増している。
しかし倒したとしても、その後どうなるかは——自分で確かめてほしい。「やっと脱出できた」という達成感と同時に、思いがけない展開が待ち受けている。Hadesというゲームのテーマが最も凝縮された瞬間だ。初クリア時の体験は、多くのプレイヤーが「これを見るためにプレイし続けてよかった」と語る。
各エリアで出会う小キャラクターたち
ボスだけでなく、ダンジョン内の小キャラクターたちも味わい深い。ダンジョンの随所にある「カオスの扉」を開けると、原初の神カオスが登場し、一時的なデメリットと引き換えに強力な恩恵を提供してくれる。「今回の挑戦でリスクを取るか安全策を取るか」という判断を迫られる面白い要素だ。
また、中ボスとして登場するアステリウスはエリュシオンで単独でも出現することがある。彼との戦いはボス戦とは別格の緊張感があり、勝てたときの達成感も大きい。タナトスがダンジョン内に現れたときは、共闘できるのと同時に「エリアの敵を多く倒した方が勝ち」という競争になる。タナトスとの関係性がランクアップしているほど、彼の出現が嬉しく感じられる。
Hadesが圧倒的な評価を得た理由
ここからが本質的な話だ。Hadesはゲームとして何が優れているのか、なぜ他のローグライクと一線を画しているのかを掘り下げる。
「死ぬこと」がゲームデザインの核心
ほとんどのゲームにおいて「死」はペナルティだ。難しい場所で死ぬ、悔しい、やり直す。この繰り返し。
Hadesは違う。死ぬたびにストーリーが進む。拠点に戻ると必ず誰かが話しかけてくる。「今回は惜しかったね」というヒュプノスの軽口も、「またここまで帰ってきたか」という父ハデスの言葉も、すべてがザグレウスの挑戦の記録として積み重なる。
開発者のグレッグ・カサヴィンは「ランダム性との戦いは日常生活のメタファー」と語っている。人生でも予期しない失敗はある。でも失敗するたびに何かを学び、少しずつ強くなれる——それがHadesのゲームデザインの哲学だ。
ローグライクゲームの最大の問題は「死んだときのストレス」だが、Hadesはそれをほぼ解消している。死は終わりではなく、次のための準備だと感じさせる設計が徹底されている。
対話の圧倒的な量と質
前述した通り、Hadesのダイアログ総量は約30万ワード。日本語に換算すると100万文字以上に相当する量だ。
これだけの量があることで、ゲームをどれだけ繰り返しても「また同じ会話だ」とならない。50回目のプレイでも新しい会話が発生する。キャラクター同士の関係性が深まるにつれて会話の内容も変わる。ザグレウスの成長とともに、周囲のキャラクターの見方も変化していく。
また、会話の質も高い。各キャラクターが単なる「役割担当」ではなく、それぞれの過去、感情、葛藤を持つ人物として描かれている。ギリシャ神話の登場人物を「機能不全家族の現代的な解釈」として捉えたと開発者が語るように、神話の設定を活かしながら親しみやすいキャラクターに仕上げている。
「何周しても新しい会話が出てきて驚いた。ゲームオーバーが楽しみになる不思議なゲーム」
引用元:Steamレビュー
ゲームプレイとナラティブの完全な融合
ローグライクゲームのほとんどは「ゲームプレイとストーリーが別物」だ。プレイしてリソースを集め、ストーリーはおまけとして添付されている、という設計が多い。
Hadesはそうじゃない。ゲームプレイ中の行動がそのままストーリーに反映される。何度も挑戦することが物語上の意味を持つ。「なぜザグレウスは冥界を脱出しようとするのか」という疑問の答えが、プレイを重ねるごとに少しずつ明かされる。その答えは、単なる「冒険心」ではない。家族の秘密、自分の出生の謎、父との確執の奥にある感情——これらが丁寧に描かれていく。
ゲームプレイとストーリーが同じ方向を向いているゲームは少ない。HadesはBastionやTransistorで培ったナラティブデザインの技術を、ローグライクという形式に完全に落とし込むことに成功した。これが最大の革新点だ。
アクションの気持ちよさ
純粋にアクションゲームとして評価しても、Hadesは高水準だ。
ダッシュの動きが素早く、攻撃のヒット感が鋭く、エフェクトが派手。「適当に操作してもある程度気持ちよく動ける」レベルの調整がされていて、同時に「上手く動けるとさらに気持ちいい」という上達の余地もある。
敵の攻撃には視覚的な予兆があり、「ちゃんと見れば避けられる」設計になっている。理不尽に死ぬ瞬間が少なく、死んだときに「あのとき避ければよかった」と振り返れる。この「自分の判断が結果に反映される」という感覚が、プレイヤーのモチベーションを維持する。
Slay the Spireのようなデッキ構築ローグライクが好きな人でも、Hadesのアクション要素に最初は戸惑うかもしれない。でも逆に「デッキ構築は苦手だけどアクションは好き」という人でも楽しめる間口の広さがある。
ギリシャ神話の使い方が巧い
ゲームの舞台はギリシャ神話の冥界だが、神話の知識がなくても楽しめる。むしろ知識がある人ほど「このキャラのこの設定の使い方は上手い」と唸るような遊び方がされている。
例えばザグレウスという人物。ギリシャ神話において、ザグレウスは「オルフェウス教」という宗教の文脈にしか登場しない、かなりマイナーな神だ。Supergiantはこのほぼ無名の人物に着目し、「冥王の息子」という設定を最大限に活かした。ハデス、ペルセポネ、アキレウス、テセウス、オルフェウスなど、有名どころを脇役・ボス・NPC として配置しながら、それぞれに神話の設定を下敷きにした個性を与えている。
オルフェウスがミュージシャンとして館に同居していて、物語の進行に伴って彼の歌が変化していく演出は、神話ファンにはたまらない。エウリュディケとの関係も、原典の悲劇を別の角度から解釈する形で織り込まれている。
音楽と映像の完成度
Hadesのサウンドトラックを手がけたのはDarren Korb。Supergiantの全作品の音楽を担当してきた人物で、Hadesでも彼の真骨頂が発揮されている。彼はHadesでは音楽制作だけでなく、主人公ザグレウスとスケリーの声優も兼任している。
「エクスペリメンタル・ヘルニック・メタル」と自ら称する音楽スタイルは、古代ギリシャの弦楽器のような響きとヘビーメタルのギターリフが融合した独特のサウンドだ。戦闘中は緊迫感のある激しいトラック、拠点での休息中は落ち着いた弦楽器の演奏、ボス戦では専用の楽曲が流れる。ゲームの状況に合わせて音楽が巧みに切り替わり、世界観への没入感を高める。
特に印象的なのはオルフェウスが館で歌う楽曲「Good Riddance」だ。彼の歌声を担当したのはSupergiantの常連ボーカリストAshley Barrett。神話上のオルフェウスが「美しい歌声で人の心を動かす」という設定を、ゲームの中で本当に体現している。プレイヤーが物語を進めるにつれてオルフェウスの状況が変化し、それとともに彼が歌う楽曲の雰囲気も変わっていく。この演出はHadesの音楽体験の中でも特別な位置を占めている。
Spotifyで今も多くのリスナーを持ち、サウンドトラックはアナログ4枚組LPとして物理販売もされた。アビーロードスタジオでオーケストラ録音も行われており、制作規模はインディーゲームの水準を超えている。サントラ全体の収録時間は約2時間半に及ぶ。
グラフィックはダークで色彩豊かな2Dスタイル。冥界というテーマに反して、各エリアが美しく描かれている。タルタロスの深い暗闇と青いエネルギー、アスフォデルの赤い溶岩と煙、エリュシオンの青白く輝く楽園——視覚的なバラエティも十分だ。キャラクターの立ち絵はそれぞれ個性的で、神々はそれぞれの性格を視覚的に表現した色彩とデザインを持っている。ゼウスの金と紫、アルテミスの緑と白、アフロディテのピンクと赤——功徳を選ぶたびに神々の立ち絵が表示されることで、「どの神の力を借りたか」が視覚的にも明確になる。
「音楽が本当に神がかってる。戦闘中の曲がテンション上げすぎて止め時を忘れる」
引用元:Steamレビュー
クリア後の楽しみ——ヒートシステムと物語の完結

Hadesには「真のエンディング」が存在する。最初にクリアしても、ストーリーはまだ終わっていない。真のエンディングを迎えるには、一定回数の脱出成功が必要になる。その過程は単なる「同じことの繰り返し」ではなく、毎回の脱出後にキャラクターたちとの会話で物語が積み重なる。「なぜアキレウスは館の衛兵をしているのか」「ニュクスはなぜザグレウスを助けるのか」「父ハデスの本当の気持ちは何か」——これらの疑問が、プレイを重ねるごとに少しずつ明らかになる。
その過程で、ザグレウスの家出の真の理由、父ハデスとの関係の変化、ペルセポネの存在——これらが徐々に明かされていく。「ただの反抗期の話じゃなかった」と気づく瞬間が必ず来る。このストーリーの着地点は、インディーゲームの中でも特別に印象的なものの一つだと思う。
物語が進むにつれて、ゲーム序盤で「冷たい」「厳格」に見えた父ハデスの印象が変わっていく。「機能不全家族の現代的解釈」という開発者の言葉通り、単純な「悪役の父」ではない複雑な親子関係がテーマになっている。日本語のプレイヤーの間でも「思ったよりずっと深い話だった」という感想が多く、アクションゲームとしてだけでなくストーリー体験として評価する声が多い。
ヒートシステムで難易度を自由に調整
真のエンディングを見た後も、Hadesにはやり込み要素がある。それが「罰の契約(ヒートシステム)」だ。
難易度を細かく上げる制約を自分で選んで「ヒート値」を積み上げる仕組みで、「商店の価格アップ(+1 ヒート)」「ボス強化(+3 ヒート)」「回復効果の低下」など15種類以上の制約要素がある。自分の得意不得意に合わせて制約を選べるため、「アクションは得意だから被ダメ増加を受け入れるが、ランダム要素は抑えたい」といったカスタマイズが可能だ。
ヒート8、ヒート16、ヒート32でそれぞれ特別な報酬が解放される。最上位のヒート32は「Hadesを知り尽くした人間が挑む領域」で、達成感は段違いだと言うプレイヤーが多い。
全武器・全態の制覇
前述した通り、Hadesには6種類の武器と各武器4種類の「態」がある。全ての組み合わせを試したとして24通りの戦闘スタイルがあり、さらにそこに6種類(以上)の功徳の方向性が組み合わさる。
「まだ試したことのない武器×態の組み合わせがある」「このビルドで挑戦してみよう」というモチベーションは、100時間以上プレイしても枯渇しない。Steamのプレイ時間が500時間を超えているプレイヤーも珍しくなく、平均的なプレイ時間は50〜100時間程度とされている。
コンプリートへの道
全てのキャラクターとのランクを最大まで上げ、全ての会話を見て、全ての武器で指定ヒート値のクリアを達成する——これをすべて完了するのに200時間以上かかるプレイヤーも多い。費用対効果で言えば、Steamでのセール価格は1,500円程度になることもあり、1時間あたりのコスパは相当なものだ。
Steam実績も豊富で、「初めてダンジョンをクリアする」「特定の武器で10回クリアする」「全てのデュオ功徳を一度は取得する」など、多様な目標が設定されている。コンプリート志向のプレイヤーには、実績解除も長期モチベーションになる。
また、Steamのコミュニティではプレイヤーが独自のチャレンジを作って共有している。「特定の武器のみで全ヒートクリア」「デュオ功徳縛りクリア」「ゴッドモードなしの最低ヒートクリアタイム」など、公式の枠を超えたやり込み方を楽しむ人も多い。
ネガティブな点も正直に書く
Hadesは傑作だが、欠点がないわけではない。合わないと感じる人がいることも事実だ。
アクションの難易度
序盤の難易度は正直、高め。特にメガエラ(第1エリアのボス)は最初かなり手こずる。アクションゲームに不慣れなプレイヤーが「クリアできる気がしない」と感じて挫折するのは珍しくない。
ただし、これには前述の「ゴッドモード」が解決策になる。ゴッドモードをオンにすると、死ぬたびに受けるダメージが最初は20%軽減され、失敗を重ねるごとに最大80%まで軽減率が上がる。ストーリーに何のペナルティもないし、いつでもオフに戻せる。「ゲームが下手でもストーリーを楽しみたい」という人には積極的に活用してほしい機能だ。
ランダム性の「引き」問題
功徳のランダム性は魅力でもあるが、「今回の引き運が悪すぎる」という回が存在する。どの神の功徳も噛み合わず、中途半端なビルドのまま終盤ボスに挑まなければならない——これはどうにもできない。
Slay the Spireほど運ゲー要素が強くはないが、完全にコントロールできるわけでもない。これを「楽しい不確実性」と取るか「理不尽さ」と感じるかは人によって分かれる。
ボスの種類の少なさ
エリアボスは実質4体(メガエラ/フューリー姉妹、ラミア/ペリクリュメノス、テセウス&アステリウス、ハデス)で、これは一定数のプレイヤーが不満を感じている点だ。周回を重ねると「また同じボスか」という感覚が生まれる。ただし各ボスは十分な技数を持っており、高ヒート難易度になると同じボスでも別物のような難しさになる。
物語の「真のエンディング」後の虚脱感
真のエンディングを達成した後、一部のプレイヤーが「燃え尽き感」を感じると言う。ストーリーが完結したことで、続ける動機がヒートやコンプリートのみになる。「ストーリー目的でプレイしていた人ほど、エンディング後は静かになる」という声はSteamのレビューにも散見される。これは批判というよりも、ストーリーが十分な満足感を持って終わるということの裏返しでもある。
ローグライクゲームとHadesの位置づけ

「ローグライク」というジャンルは近年のインディーゲームシーンで最も活発なカテゴリーの一つだ。その中でHadesはどんな位置づけにあるのか、他のタイトルと比較しながら見ていく。
Slay the Spireとの違い
ローグライクゲームの代名詞のひとつである「Slay the Spire」は、デッキ構築型のターン制カードゲームだ。Hadesとはゲームプレイのタイプがまったく異なる。
Slay the Spireは「考える楽しさ」が中心で、ターンの間にじっくり手札を考え、カードの組み合わせを見つけていくゲームだ。Hadesは「動く楽しさ」が中心で、リアルタイムアクションの中で瞬間判断をしながらビルドも考える。
どちらが上ということではなく、「アクションが好きならHades、じっくり考えるゲームが好きならSlay the Spire」というシンプルな違いがある。ただ、Hadesにも「功徳の選択」というデッキ構築に近い要素があるため、両方のゲームを好むプレイヤーも多い。

Across the Obeliskはデッキ構築系のローグライクで最大4人でのCo-opも楽しめるタイトルだ。ソロで遊ぶHadesとは異なる体験だが、ローグライクのビルド構築が好きな人なら両方楽しめる。

Dead Cellsとの比較
Dead Cellsもアクションローグライクの傑作として高評価を得ているタイトルだ。MotionTwinが開発した横スクロールアクションで、Hadesと同じくリアルタイムアクション×ローグライクの組み合わせを採用している。
Dead Cellsは「歯ごたえのある難易度とアクションの精度」が重視される傾向があり、より純粋なアクションゲームとしての面が強い。ストーリー要素はHadesより薄め。Hadesは「ストーリーもアクションも両方楽しみたい」という人向けで、Dead Cellsは「難しいアクションを極めたい」という人向けに近い。
Bloons TD 6などの戦略系ローグライクとの違い
タワーディフェンス系のローグライク、Bloons TD 6のような「考えるゲーム」とHadesを比べると、プレイスタイルが正反対に近い。Hadesはリアルタイムの反射神経と判断が要求される一方、タワーディフェンスは配置の戦略と思考が中心だ。

「Hades系」ローグライクとその後継
Hadesのヒット以降、「ナラティブを重視したローグライクアクション」というスタイルを模倣したゲームが複数リリースされた。これらを指して「Hades系」という言葉が使われることもある。Hadesが作ったのは単なる「ローグライクアクション」ではなく、「語るローグライク」という新しいサブジャンルだ。
2024年にアーリーアクセスが始まり、2025年9月に正式リリースされた続編「Hades II」もある。主人公はザグレウスの妹メリノエで、舞台は異なるが世界観は共有されている。前作の評価を受けたファンからは「前作以上の完成度」という声も多い。ただし前作の経験なしに続編から入ることもできるし、前作をプレイしてから続編に進む順番でも楽しめる。
Supergiantの作家性——なぜこのゲームにしか出せない空気があるのか
Hadesをプレイして気づくのは、「このゲームはSupergiantじゃないと作れなかった」という感覚だ。それはなぜか。
クランチなしで作られた傑作
ゲーム業界には「クランチ」と呼ばれる過酷な残業習慣が存在する。多くのゲームスタジオが締め切り前に大量残業を強いられる中、Supergiantはクランチを一切しないことで知られている。それどころか「強制バケーション」——開発が始まると全員が定期的に有給休暇を取ることが義務付けられているという。スタジオ創設者のAmir Rao(代表)とGavin Simon(ゲームデザイン)はこの文化を意図的に作り、「持続可能なゲーム開発」を実践している。
この文化がゲームの質に直接反映されているかどうかは証明できない。しかし、Hadesのゲームプレイ、テキスト、音楽、ビジュアルの細部への丁寧さは、「急いで作った」という感触がまったくない。各会話の一文一文に意図が感じられるし、キャラクターの表情イラストひとつひとつにも個性が宿っている。アーリーアクセス期間中も、コミュニティのフィードバックを丁寧に取り込みながら継続的なアップデートを続けた。その姿勢は「このゲームをより良くしたい」という純粋な欲求から来ているように見える。
また、Hadesはインディーゲームとして初めて「ネビュラ賞(ゲームライティング部門)」と「ヒューゴー賞(ゲームライティング部門)」をW受賞した作品でもある。これらはSF・ファンタジーの文学賞であり、ゲームが純粋な「文学的価値」を認められた歴史的な出来事だ。ゲームのライティングの質がいかに高いかを示している。
スタジオの作風を引き継ぐナラティブ
Supergiantのゲームには「語り」の独特さがある。Bastionでは行動に合わせてナレーターが実況する形式、Transistorではキャラクターと武器の対話、Pyreでは選択肢によって分岐する会話。毎回異なるアプローチでストーリーを届けようとする姿勢がある。
Hadesでは「ループ構造を利用したナラティブ」という形式を選んだ。プレイヤーが何度も同じ場所に戻ることを前提にして、「戻るたびに新しい話が聞ける」設計にした。これはローグライクという形式でなければ成立しない語り方であり、ゲームのジャンルとストーリーの語り方が完全に一致している稀有な例だ。グレッグ・カサヴィンは「Pyreで試みたが十分には実現できなかったナラティブ設計を、ローグライクという構造を通じてHadesで完成させることができた」と語っている。
ゴシックホラーやサバイバルゲームとは違う「ダークだけど明るい」世界観も独特だ。冥界という設定なのに、キャラクターたちが生き生きとしていて、会話にユーモアがある。タナトス(死神)がザグレウスと友情を育み、メガエラ(復讐の女神)がツンデレな態度を見せる。「死」や「冥界」というテーマを扱いながら、全体のトーンは重苦しくない。これがHadesを「暗い雰囲気が苦手」という人にも受け入れられた理由のひとつだ。
「アクションが目当てで買ったのにキャラクターが好きすぎてストーリー追いのためにプレイしてる」
引用元:Steamレビュー
Hades IIとの関係——前作から始めるべきか

2024年5月にアーリーアクセスが始まり、2025年9月に正式リリースされた「Hades II」は、前作の続編にして独立した作品だ。主人公はザグレウスの妹メリノエ、敵の大ボスは時の神クロノスで、舞台は前作のハデスの館とは異なる。前作のHadesをプレイしていなくても楽しめる構成になっている。
Hades IIは前作から多くの点でパワーアップしている。スケールが大きくなり、エリアの数が増え、新たなシステム(植物栽培、料理など)が追加されている。「前作以上の完成度」という声も多く、ローグライクアクションとしてさらに磨かれた体験になっている。
ただし、前作をプレイしてから続編に進む方が、間違いなく楽しみが深い。前作に登場したキャラクターたちが続編にも顔を出し、前作のエンディングを知っていることで得られる感情がある。「あのキャラクターがこういう状況になっているのか」という感慨は、前作経験者にしか味わえない。Hades IIの世界を「より深く」楽しむためにも、前作から入ることを勧める。
前作のHadesは現在、Steamで60〜75%オフのセールが定期的に行われており、1,000円台で購入できることが多い。続編から入ろうとしている人でも、「まず前作を安価に体験してから続編へ」という順序は十分おすすめできる。前作のプレイ時間が50〜100時間になっても、それは全て後の続編を楽しむための「下準備」になる。
「こんな人に向いている」もう少し踏み込んだ話
ゲームの紹介記事では「向いている人リスト」が終盤に出てくることが多い。でも個人的には、もう少し具体的に「こういう体験を求めているなら合う」という話をしたい。
「このゲームの世界にいたい」と思える人
Hadesは「クリアすること」より「この世界に居続けること」がモチベーションになるゲームだ。冥界という舞台、ニュクスの静かな声、アキレウスの温かさ、ヒュプノスの不思議な軽さ——これらのキャラクターと「また話したい」という気持ちがプレイを続ける動力になる。
「このキャラクターとの次の会話が聞きたい」という感覚が続く人には、Hadesは何百時間でも楽しめる。
「勝てた瞬間の達成感」を味わいたい人
Hadesは決して簡単なゲームではない。初クリアまでに20〜30時間かかるプレイヤーも多い。でも一方で、「ゴッドモードなしでメガエラに初勝利した瞬間」「初めてハデスを倒した瞬間」の達成感は他のゲームではなかなか味わえないレベルのものがある。
「下手でもいいから諦めずに挑み続けられる人」には確実に合う。Hadesは挑戦し続けることを諦めなければ、必ず報われる設計になっている。
ギリシャ神話が好きな人・興味がある人
ギリシャ神話の知識がある人ほど「こんな使い方があるのか」という驚きがある。神話の登場人物への解釈は、尊重と創造性のバランスが取れていて、神話ファンが「これは違う」と感じるような雑な扱いはされていない。むしろ原典を知っているほど「ここに元ネタの引用がある」「この関係性は神話的に正確だ」という発見がある。
Doki Doki Literature Clubのように、知識があることで深まる楽しさがある。

「インディーゲームのポテンシャルを見たい」人
20人前後のチームが、大手ゲームメーカーが作るタイトルと互角以上に戦えることを証明したゲームがHadesだ。Metacritic 93点、BAFTA ベストゲーム賞、ネビュラ賞——これらは予算や規模の話ではなく、アイデアとクラフトマンシップの話だということをHadesは体現している。
「インディーゲームってどんな感じ?」という人がHadesを最初の一本として選んでも後悔しないと思う。
プレイ開始前に知っておくと役立つこと

最初の10時間は苦しいかもしれない
Hadesの面白さが完全に開花するのは、プレイ開始から10〜15時間あたりだ。最初のうちはシステムに慣れていないし、永続強化も少なく、何度も死ぬ。「これ本当に面白いのか?」と思う時期がある。
ただ、その時期を乗り越えると突然「あ、わかってきた」という感覚が来る。操作に慣れ、功徳の意味が理解でき、ビルドを意識して選べるようになると、Hadesの本当の面白さが見えてくる。最初の壁を超えるまでは辛抱してほしい。特に「最初のエリアボス・メガエラに勝てるようになった瞬間」が分岐点で、多くのプレイヤーがここで「ゲームの掴み方」をつかむ。
「メガエラに10回以上負けてもう辞めようと思ってたけど11回目で勝てて、そこから止まらなくなった」
引用元:Steamレビュー
日本語ローカライズの質
日本語テキストの翻訳は丁寧で、キャラクターの個性が伝わる訳になっている。ゼウスの尊大さ、ニュクスの落ち着き、ヒュプノスのとぼけた感じが、日本語でも再現されている。特にヒュプノスの軽口はユーモアのトーンが難しい翻訳だが、日本語版でも「こういうキャラだな」と伝わる。一部の固有名詞(功徳の名称など)で「この翻訳は解釈が違うかも」と感じる人もいるようだが、ゲーム体験を損なうレベルではない。
コントローラーとキーボード・マウス
Hadesはコントローラーでも、キーボード&マウスでも快適にプレイできる。アクションゲームが慣れていない人はコントローラー推奨。PCゲームに慣れた人ならキーボード&マウスでも問題ない。どちらもしっかりサポートされており、キーバインドのカスタマイズも可能だ。PS4/PS5コントローラー、Xboxコントローラーは認識されやすい。
ゲームを始める前にキャラクターに期待してほしい
ゲームを始める前に、HPやビルドより「誰と話すのか」を楽しみにしてほしい。ニュクスは何を言うか、アキレウスはどんな顔をするか、メガエラとの関係はどう変化するか——これを楽しみにしながらプレイするとHadesの真価がわかる。「ゲームプレイの報酬としてストーリーが解放される」という感覚を、最初から意識しながら遊ぶと良い。
セール価格と購入タイミング
Hadesは定期的にSteamのセール対象になる。通常価格は2,570円(税込)だが、Steamのサマーセールやウィンターセールでは60〜75%オフになることがある。「少し待てば1,000円以下で買えるかも」という状況が年に複数回訪れる。ただし、定価で買っても後悔しないくらい内容が充実しているので、「早く遊びたい」なら定価での購入も全く問題ない。
他のジャンルのゲームとのリンク——Hadesから広がる遊び方
Hadesを楽しんだ人が次に何を遊ぶかという話も少しだけ。
「ローグライクのビルド構築が楽しかった」という人には、前述のSlay the Spireが最初の候補になる。アクションではなくデッキ構築というジャンルに変わるが、「毎回違うビルドを考える楽しさ」という核心は共通している。
「インディーゲームのクオリティに驚いた」という人には、HadesのSupergiantが過去に作ったBastion、Transistor、Pyreもおすすめだ。どれも短め(10〜15時間程度)で丁寧に作られた作品だ。
「アクションゲームとして楽しめた」という人には、Civilization Vのようなまったく別ジャンルで「やめ時がわからなくなる」ゲームも試してみてほしい。

「難しいアクションゲームを極めたい」という方向性ならHero Siegeのようなハクスラ系ARPGも視野に入る。ドット絵ながら13年現役を続けるゲームで、アクションとビルドの組み合わせを突き詰める遊び方ができる。

「戦闘よりキャラクターへの愛着が楽しかった」という人には、Doki Doki Literature Clubのような物語体験特化型のゲームも合うかもしれない。Hadesとは正反対に近い操作体系だが、「キャラクターとの関係性を楽しむ」という点では共鳴する。
まとめ——Hadesは「ローグライクを嫌いな人でも楽しめる」かもしれない
Steamレビュー25万件超えの98%好評。英国アカデミー賞ゲーム部門ベストゲーム賞。TIME誌2020年ゲームランキング1位。ネビュラ賞ゲームライティング部門。これだけの評価を得るゲームは、そうそう出てこない。
でもHadesの本当の凄さは受賞歴ではなく、「なぜ何百時間も遊べるのか」「なぜ死んでも悔しくないのか」「なぜキャラクターたちにこんなに愛着が湧くのか」という部分にある。
Supergiantは17人程度のチームで、クランチなし、強制有休ありという働き方で、業界最高水準のゲームを作った。その事実は、ゲーム業界における「大きいことがいいことだ」という常識への静かな反論でもある。2018年12月のアーリーアクセス開始から2020年9月の正式リリースまで2年近くをかけ、プレイヤーのフィードバックを丁寧に取り込みながら完成させたHadesは、「急いで出したゲーム」がいかに多いかを逆照射してもいる。
ローグライクを敬遠していた人でも試してほしいゲームだ。「ローグライクは同じことの繰り返し」というイメージは、Hadesでは通用しない。毎回違うビルドがあり、毎回新しいキャラクターの会話があり、毎回前より少し強くなった自分がいる。「失敗すること」がゲームの設計に組み込まれていて、失敗するたびに世界が少しずつ広がる。
アクションが苦手な人には「ゴッドモード」がある。時間がない人には「30分のランを1本だけ」という遊び方ができる。ストーリー重視の人には30万ワードのテキストがある。高難易度を求める人にはヒート32という頂がある。これだけ間口が広くて奥が深いゲームは、インディーゲームに限らず見渡しても多くない。
そしてある日、ハデスの館でアキレウスと話しながら「あ、このゲーム好きだな」と気づく瞬間が来る。あるいは功徳のコンボが偶然成立して「こんな遊び方があったのか」と驚く瞬間が来る。あるいはストーリーの核心が明かされて「この家族の話、そういうことだったのか」と感じる瞬間が来る。その瞬間を、ぜひ自分で体験してほしい。
「ローグライクが苦手と思ってたけど、これは別物だった。ストーリーが良すぎて気づいたら200時間経ってた」
引用元:Steamレビュー
Sons of the Forestのようにサバイバルホラーの要素が強いゲームとは対照的に、Hadesは「死ぬことへの恐怖」を完全に取り除いたゲームだ。死を出発点にしてストーリーを語る、この逆転の発想がHadesを特別な存在にしている。


Hades
| 価格 | ¥2,800 |
|---|---|
| 開発 | Supergiant Games |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows / Mac |
| プレイ形式 | シングル |

