「Over The Top: WWI」最大200人で争う第一次世界大戦シューター

目次

Over The Top: WWI — 最大200人が泥と血煙の中で争う第一次世界大戦シューター

塹壕に身を潜めながら、遠くで鳴り響く砲声を聞く。土煙が視界を塞ぎ、左右からプロキシミティチャットで味方の叫び声が飛んでくる。「ガス!ガスだ!マスクをつけろ!」誰かが叫んだ次の瞬間、黄緑色の霧が塹壕の中に流れ込んでくる。これがカジュアルなFPSや歴史ゲームにありがちな「演出」ではなく、Over The Top: WWIのリアルタイムの戦場だ。

2026年3月6日にSteamでリリースされたこのゲームは、第一次世界大戦の西部戦線を舞台に最大200人のプレイヤーが一つの戦場で激突するTPSだ。発売直後から話題を呼び、ピーク時同接7,170人(2026年3月15日)を記録。4,500件以上のSteamレビューで87〜90%の「非常に好評」を獲得した。大規模マルチプレイヤーゲームとしては異例のスタートを切った作品でもある。

開発したFlying Squirrel Entertainmentは、もともと「Mount & Blade: Warband」のMOD「Mount & Musket」を作っていたチームが独立して立ち上げたスタジオだ。わずか4人のコアメンバーが、歴史系ゲームのMOD制作で培った知識と情熱を独自のタイトルに注ぎ込んできた。Holdfast: Nations at War、Battle Cry of Freedomと、着実に大規模歴史TPSの経験を積み上げてきたチームが満を持してリリースしたのが、この作品だ。

このゲームを一言で説明するなら「第一次世界大戦の塹壕戦を200人で体験するゲーム」だが、それだけでは伝わらない。プレイしてみると、WW1という時代がゲームのメカニクスそのものになっていることがわかる。なぜ塹壕を掘るのか、なぜ毒ガスが恐ろしいのか、なぜ将校が重要なのか——すべてが史実と結びついている。

第一次世界大戦(1914〜1918年)は「近代戦争の始まり」と呼ばれる戦争だ。機関銃、毒ガス、戦車、航空機——これらが初めて組織的に使用された戦争であり、それ以前の戦争の常識を根本から覆した。「騎兵隊が突撃すれば勝てる」という18世紀からの戦術が、機関銃の前に完全に時代遅れになった。その結果として生まれたのが、延々と続く塹壕線だった。

Over The Top: WWIはこの歴史的転換点を、ゲームメカニクスとして丁寧に再現している。プレイを通じて「なぜ塹壕戦になったのか」「なぜ多くの兵士が犠牲になったのか」が、知識ではなく感覚として理解できる。ゲームとして楽しむと同時に、歴史的な体験としても機能している作品だ。

「Over The Top: WWI」公式トレーラー

「Over The Top」が他のWW1ゲームと全然違う理由

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット1

第一次世界大戦を扱うゲームは決して珍しくない。BattlefieldシリーズはBattlefield 1(2016年)でWW1を舞台に選び、VerdunはWW1の塹壕戦を小規模に再現してきた。しかしOver The Top: WWIが際立っているのは、スケール感と没入感と歴史的考証の組み合わせ方にある。

まず最大の特徴は「200人が同じ戦場に存在する」という事実だ。100対100の大規模戦闘は、単に人数が多いだけでなく、戦場の質感を根本から変える。左翼で仲間が突撃している音が聞こえ、右翼では砲弾が降り注ぎ、自分は塹壕を掘りながら前線を前進させている。この「戦争の広さ」は、小規模マルチでは絶対に再現できない感覚だ。戦場が「世界」として機能している。

次に挙げたいのが完全破壊可能な地形だ。砲弾が落ちた場所には永続的なクレーターができ、建物は崩れ落ち、橋は破壊される。プレイを重ねるたびに戦場の形が変わっていく。これは単なる視覚的演出ではなく、戦術的な意味を持つ。さっきまで安全だった建物が次のラウンドでは瓦礫になっていて、機関銃陣地の位置を変えなければならない、という状況が普通に発生する。戦場が「生きている」のだ。

そして工兵クラスが自由に塹壕を掘れるシステムだ。シャベルやつるはしを使って、ジグザグに曲がった塹壕を自分たちで構築できる。本当のWW1で使われた戦術——直線の塹壕を掘ると砲弾一発で全員やられるため、意図的に屈折させた塹壕を掘る——を実際のゲームプレイで体験できる。歴史の授業ではなく、プレイを通じて体感する。

そしてプロキシミティVOIPだ。近くにいるプレイヤーの音声が聞こえる。敵味方問わず。これが生み出す体験は後のセクションで詳しく書くが、このゲームの「人間的な部分」を担っている重要な要素だ。

12の歴史的戦場——西部戦線の地形が再現されている

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット2

Over The Top: WWIにはリリース時点で12の歴史に着想を得たマップが用意されている。西部戦線の代表的な場所をモデルにしており、単なる「広い平原」ではなく、それぞれの地形に戦術的な個性がある。

丘陵地帯のマップでは高台を制する側が有利になるが、逆に高台の部隊は砲撃目標として狙われやすい。川を挟んだマップでは橋の確保が戦況を左右し、橋が破壊されると渡河手段を失う。廃墟と化した村のマップでは建物が次々と崩れ落ち、1ラウンドの間に戦場の形が大きく変わる。

各マップには3つの「ゾーン」があり、どのゾーンを制圧しているかによってチームのスポーンポイントが変わる。前線を押し進めれば押し進めるほど、次の攻撃拠点に近いところから出撃できる。逆に押し込まれると、出撃地点が遠くなって戦場まで延々と走らなければならない。

この「前線が動く」感覚が、大規模マルチの醍醐味だ。個人の戦闘とゾーン確保の大局戦が同時進行しており、自分が一人で何かを達成しながらも、全体の戦況がどう動いているかが常に意識される。

ゾーン制は単純に見えて、実は深いゲームデザインを持っている。3つのゾーンを全部制圧すれば圧倒的有利になるが、200人が同じ場所に集まれば砲撃目標になる。適度に分散しながら前線を維持する、という集団としての動きが自然に生まれる。これはゲームが強制しているのではなく、200人が同じ戦場を共有することで有機的に発生する動きだ。

マップの特徴と戦術的考慮

リリース時点で12マップというのは、大規模マルチにとって「始まりとしての適切な数」だ。一戦が30分から1時間になることもあるため、一つのマップで長時間遊べる。ただし同じマップを繰り返すと慣れてくる。追加マップは今後の課題として複数のレビューで指摘されており、開発チームも認識している。

現時点では「一つのマップをとことん理解して戦術を磨く」という深さがある。敵がどこから来るか、どの建物が最初に崩れるか、どこで塹壕を掘れば効果的か——プレイするたびに解像度が上がっていく感覚がある。同じマップでも試合ごとに地形が変わるため(破壊と塹壕構築によって)、完全に同じ戦闘体験になることはほぼない。

西部戦線の実際の戦場——ソンム、ヴェルダン、イープル——を知っている人なら、マップを見て「ああ、あの場所か」とわかる要素もある。歴史ファンには二重の楽しさがある。

8つのクラスで織りなすWW1の戦場

Over The Top: WWIはクラスベースの作品で、フランス・イギリス・ドイツそれぞれの陣営に8種類のクラスが用意されている。「1つのコマンドクラス、4つの歩兵クラス、3つのサポートクラス」という構成で、単なる「重装備か軽装備か」ではなく、それぞれが戦場で明確に異なる役割を持っている。

クラス選択は単なるカスタマイズではなく、チームの状況判断の問題でもある。工兵が誰もいない状況で前線が停滞しているなら、誰かが工兵に切り替える必要がある。衛生兵が少なければ仲間がどんどん死んでいく。200人の戦場でも、個人の選択がチーム全体に影響する。

将校(Officer)— 生きたスポーンポイントになるクラス

将校は単純な「コマンダー」ではなく、チームメイトのスポーンポイントそのものになれるクラスだ。味方は将校の周囲に直接出撃できる。これが何を意味するか——将校が前線に出れば、チーム全体の出撃地点が前線に近くなる。将校が死ぬと、チーム全体が後方から歩き直しになる。

加えて、毒ガス攻撃、煙幕、クリーピング砲撃(爆撃が前進しながら敵を追い立てる戦術)を指揮できる。WW1で実際に使われた戦術をゲーム内で再現できる高度なクラスだ。

ただし、その強力さの裏に大きなリスクもある。フレンドリーファイア(味方への誤射)が有効なので、将校の判断ミスはチーム全体に影響する。煙幕と毒ガスを混同する、風向きを読み違えてガスが自陣に流れ込む——こういった「将校のやらかし」がプロキシミティVOIPを通じてリアルタイムに伝わってくる。

将校で煙幕と毒ガスを混同して誤操作したら、味方の半部隊が全滅した。チャットが「FRIENDLY GAS」の文字で埋まってめちゃくちゃ笑った

引用元:Steamレビュー

強力だが責任の重いクラスだ。上手い将校がいるチームといないチームでは、前線の押し上げ速度が全然違う。

工兵(Engineer)— 戦場を作る職人

このゲームの縁の下の力持ちだ。シャベルで塹壕を掘り、土嚢を積んで防御線を構築し、前線にスポーンポイントを設置する。地味に見えて、実は戦局を大きく左右するクラスだ。

優秀な工兵チームが機能すると、敵の砲撃が届かない安全な接近ルートを構築できる。逆に工兵がいない陣営は、開けた地形を延々と走らされてスナイパーの餌食になる。WW1の塹壕戦がなぜあのような形になったのか、プレイを通じて自然に理解できる設計になっている。

工兵は塹壕を掘るだけでなく、スポーンポイントとなる前哨基地を設置・破壊もできる。敵が設置した前哨基地をシャベルで叩いて壊す、という行為も工兵の重要な役割だ。前線後方への潜入と破壊活動が、このクラスならではの楽しさを生む。

ライフル兵(Rifleman)— 戦場の主軸

基本的な歩兵クラスで、ボルトアクションライフルを持って前線に立つ。このゲームで使われる銃は50種類以上あり、WW1当時の史実に基づいた武器が揃っている。Lee-Enfield、Gewehr 98、Lebel Model 1886など、歴史マニアなら「あ、これか」となる銃ばかりだ。

ただしWW1の銃は現代FPSとは全然違う。ボルトアクションなので一発撃つごとに薬莢を排莢する動作が入る。連射できない。接近戦では銃剣突撃か格闘戦になる。「スコープを覗いて複数のターゲットを素早く倒す」という現代シューターのセオリーは通用しない。移動しながら射撃すると精度が大きく落ちる設計も、WW1の現実に即している。

銃剣突撃は一種の賭けだ。塹壕を越えて突撃する瞬間、相手も来るかもしれないし、機関銃に薙ぎ払われるかもしれない。WW1の「Over the Top(塹壕を越えて突撃する命令)」がゲームタイトルそのものになっているのは、伊達ではない。

機関銃手(Machine Gunner)— 防衛の要

重機関銃を展開し、接近してくる敵を薙ぎ払う。MG 08やLewis Gunなど、WW1を代表する機関銃が使用できる。セットアップに時間がかかるため、機動力は低い。しかし適切な場所に設置できれば、敵の進軍を文字通り止められる。

WW1でこの兵器が戦術に革命をもたらした理由が体感できる。ライフル兵が100人いても、機関銃一丁が正面にあれば突撃できない。だから塹壕を掘るしかない。だから砲撃で機関銃陣地を制圧する必要がある。一つの兵器がいかに戦場全体の戦術を規定するかが、プレイを通じてわかる。

火炎放射兵(Flamethrower)— 塹壕の掃討者

火炎放射器を持って塹壕に突っ込む恐怖の存在。閉所での戦闘が多いWW1の戦場では、一本の塹壕をまるごと制圧できる凶悪なクラスだ。ただし燃料が限られているうえ、自分も射程内のダメージを受けるリスクがある。近距離特化のクラスで、遠距離では無力だ。

このクラスの存在が、工兵が掘った塹壕をただの「安全地帯」にしない理由の一つだ。塹壕に篭もっていれば安全、ではない。火炎放射兵が来れば塹壕の中が地獄になる。だから前哨基地の防衛も必要になる。

狙撃兵(Sniper)— 対岸の目

敵の陣地を遠距離から観察し、突出してきた将校や工兵を仕留める。将校を排除すれば敵のスポーンポイントを一つ潰せる。工兵を狙えば塹壕の構築を妨害できる。狙撃兵は単なる「キルを稼ぐクラス」ではなく、特定のターゲットを消すことで戦略的な貢献をするクラスだ。

大規模戦闘の中でも「個」の集中力が試されるクラスで、スコープの視野は限られているため、周囲への注意が疎かになると近距離で奇襲される。200人の戦場で一人の距離感を保つ、独特のプレイスタイルだ。

衛生兵(Medic)— 生存率を上げる存在

倒れた味方を蘇生させ、戦線を維持する。地味だが、優秀な衛生兵がいるかどうかで戦局が大きく変わる。VOIP越しに「Medic! Medic!」と叫ぶ声が聞こえたとき、駆けつけられるかどうかがこのクラスの醍醐味だ。

蘇生はリスクを伴う。倒れた味方の近くに行くということは、その味方を倒した敵の攻撃圏内に入ることを意味する。「行くべきか待つべきか」の判断が常に求められる。

航空兵(Pilot)— 空からの制圧

複葉機に乗り込んで敵陣を爆撃したり、敵の偵察機を撃墜したりする。地上戦が主体のゲームの中で、突然「空中戦」の次元が加わる感覚は独特だ。WW1で登場した航空戦力の歴史的な意義を、ゲームプレイを通じて感じられる。

空から見た戦場は地上とは全く異なる景色だ。塹壕がどこに掘られているか、敵の機関銃陣地がどこにあるか、地上からは見えなかった情報が上空から把握できる。偵察・爆撃・空中戦と、一つのクラスでこれだけ多様な体験ができる。

「Total Annihilation」システム——地形が変わる戦場

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット3

このゲームの最も技術的にユニークな要素が「Total Annihilation」と呼ばれる完全破壊システムだ。砲弾が落ちた場所には永続的なクレーターができる。建物は崩れ落ちる。土台ごと吹き飛んだ橋は二度と元に戻らない。工兵が掘った塹壕は地形として残り続ける。

これが単なる視覚的な演出ではないのは、戦術的な意味を持つからだ。

例えば、試合序盤は開けた平原だった場所が、30分後にはクレーターだらけの地形に変わっている。そのクレーターが自然な遮蔽物になり、歩兵の進軍ルートが変わる。崩れ落ちた建物の瓦礫が、今度は機関銃陣地の盾として使われる。戦場が生きているように変化していく。

工兵が掘った塹壕も同じだ。塹壕を掘れば安全な接近ルートができるが、敵の工兵が逆方向から掘り進んできたとき、塹壕の中で鉢合わせになる。「塹壕の中での格闘戦」というWW1でも起きていた状況が、ゲームプレイとして自然発生する。

工兵で塹壕を掘り続けたら、突然目の前に敵の工兵が現れた。お互いシャベルで殴り合いになったが、プロキシミティチャット越しに「何やってんだ俺たち」って笑いが止まらなかった

引用元:Steamレビュー

こうした予期しない状況が生まれるのが、大規模戦闘と完全破壊システムの組み合わせの面白さだ。スクリプトでは作れないドラマが生まれる。

クレーターを活かした戦術

砲撃後のクレーターは、歩兵にとって自然な遮蔽物になる。WW1の実際の戦場写真でも、砲弾のクレーターを利用して前進する歩兵の姿が残っている。このゲームでも同じことが起きる。

ただし深いクレーターは「罠」にもなる。一度入ったら出るのが難しく、敵に囲まれると逃げ場がない。入る前に周囲を確認する、出口を把握してから入る——こういった判断力がプレイヤーに要求される。

建造物の破壊と再利用

崩れかけた建物は独特の遮蔽を提供する。完全に崩れた建物の瓦礫は、低い壁として機能する。壊れ方によって、生まれる地形も変わる。試合開始時には「建物」だった場所が、試合途中から「瓦礫の山」になり、試合終盤には「クレーターと瓦礫が混在する複雑な地形」に変わっていく。

同じ場所で全然違う戦い方が要求される。これが一つのマップでも繰り返し楽しめる理由の一つだ。

プロキシミティVOIPが生み出す「戦場の声」

Over The Top: WWIで多くのプレイヤーが熱狂している機能の一つが、グローバル・プロキシミティVOIPだ。要するに「近くにいる全プレイヤーの声が聞こえる」システムで、敵味方関係なく、近くにいれば音声が届く。

これが生み出す体験が独特だ。

味方の塹壕では、突撃前に誰かが士気を鼓舞している声が聞こえる。スナイパーポジションからは単独行動するプレイヤーの独り言が漏れ聞こえてくる。そして最前線では、バゲットで殴り合いながら笑っている人と、本気で連携を指示している人が混在している。

敵の声まで聞こえることもある。塹壕の壁を挟んで敵が何かを叫んでいる声が聞こえた瞬間、「向こうも人間だ」という感覚が生まれる。これがWW1というテーマの重さと妙にマッチしている。

敵陣に一人で突っ込んでしまったとき、周囲から敵の声がどんどん聞こえてきて本気で怖かった。ゲームで「怖い」って感じたのは久しぶりだった

引用元:Steamレビュー

バグパイプを演奏して味方の士気を上げたり、ピアノを弾いたりできる要素もある。こういった「戦場の余白」が、殺伐とした戦争ゲームに人間的な息抜きを与えている。開発チームが細部にまでこだわっている姿勢が伝わってくる。

プロキシミティVOIPが生む笑いの連鎖

このゲームの笑えるシーンがTwitterやYouTubeで拡散した理由は、プロキシミティVOIPにある。「バゲットで敵を殴り続けるフランス兵」「将校が誤ってガスを自陣に流した後の阿鼻叫喚」「塹壕でピアノを弾きながら砲声を聞く兵士」——こういったシーンは、ゲームが意図して用意したものではなく、プレイヤーが自然に生み出したものだ。

大規模マルチのゲームにとって、「語れるエピソードが生まれる体験」は最大の広告になる。Over The Top: WWIはそれを持っていた。発売直後から多くのプレイヤーがこういったシーンを録画して共有し、それを見た別のプレイヤーが「やってみたい」と購入した。有機的な口コミの連鎖だ。

言語の壁を超えた交流

200人が集まれば、当然ながら様々な国籍のプレイヤーがいる。言語が違っても、声のトーンや感情は伝わる。塹壕を挟んで聞こえてくる敵の叫び声が何語であっても、「攻撃が来る」という緊張感は共有される。プロキシミティVOIPがその場の空気を作り出す。

同じく大規模マルチ対戦の魅力でいえば、NARAKA: BLADEPOINTも独自の大人数対戦体験を提供している。ただし武器・世界観・テンポ感はまるで異なる。

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歴史的考証へのこだわり

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット4

Flying Squirrel Entertainmentが元々MOD制作出身のチームだという事実は、このゲームのあちこちに現れている。歴史的考証への姿勢が、単なる「雰囲気作り」のレベルを超えているのだ。

50種類以上の史実兵器

使用できる武器はすべてWW1で実際に使用されたものだ。Lee-Enfield Mk.III(イギリス)、Gewehr 98(ドイツ)、Lebel Model 1886(フランス)といったライフルから、MG 08重機関銃、Lewis軽機関銃、さらにはFlamethrowerやクロリン・ガス弾まで網羅されている。

ゲームバランスのために「現代的に調整した」武器ではなく、本当に当時の仕様に近い武器が揃っている。だからボルトアクションは遅いし、機関銃の設置には時間がかかるし、毒ガスは使い方を誤れば自陣を壊滅させる。史実の制約がゲームメカニクスそのものになっている。

バゲット(フランスパン)で相手を殴るという要素もある。フランス兵がバゲットを武器として使えるのは明らかなユーモアだが、同時にフランスという国の文化的アイコンをゲームに組み込む開発チームのセンスも感じる。重さと軽さのバランスだ。

Mark IVとA7V——WW1の戦車

このゲームに登場する戦車は、WW1で実際に使われたものだ。イギリスのMark IVとドイツのA7Vが登場する。現代の戦車とは比べ物にならないほど遅く、視界が悪く、操作が難しい。しかしそれが当時の「戦車」というものだった。

戦車が前線に現れたとき、歩兵が見せる反応が面白い。重機関銃では歯が立たない、対戦車ライフルを探さなければ、という「追い詰められた状況」が生まれる。これはWW1で戦車が初登場したときの兵士の反応を追体験しているようでもある。1916年のソンムの戦いで初めて戦車を見た兵士たちの驚愕が、少しだけ理解できる。

毒ガス——倫理的に正しく描く難しさ

毒ガスはゲームメカニクスとして非常によく設計されている。塹壕に流れ込む黄緑色の霧はビジュアル的にも独特だし、ガスマスクを装着すれば防げる(ただし視界が制限される)という設計も史実に基づいている。

将校クラスが毒ガスを使用できるが、風向きによっては自陣に流れ込んでくることもある。「強力だが諸刃の剣」という設計が、WW1での毒ガスの本質を伝えている。使った側も被害を受けるリスクがある武器、というのは現実に即している。

毒ガスが戦場に登場したことで、WW1の兵士たちがいかに新しい恐怖と向き合ったか。ゲームの中でガスに遭遇したとき、「マスクはどこだ、早くつけなければ」という焦りが生まれる。それは歴史的な体験の一端だ。

フランス・イギリス・ドイツの違い

3陣営はそれぞれ微妙に異なる装備・コスチューム・武器を持っている。ドイツ軍のピッケルハウベ(尖った兜)、イギリス軍のトミーヘルメット、フランス軍のブルーの軍服——視覚的な差別化もWW1の史実に基づいている。

使用できる武器も陣営によって異なり、同じクラスを選んでも陣営によって微妙に戦い方が変わる。これが繰り返しのプレイに新鮮さを保たせる要素の一つだ。

同接7,170人達成——なぜ発売直後から話題になったのか

Over The Top: WWIは2026年3月6日のリリース直後から、Steam新作チャートに登場した。発売から9日後の3月15日にはピーク同接7,170人を記録し、4,500件以上のレビューで87〜90%の「非常に好評」を獲得している。インディー規模の開発チームが作った大規模マルチタイトルとして、この滑り出しは際立っている。

2024年のプレイテストで温まっていたコミュニティ

Flying Squirrel Entertainmentは製品版リリースの前に、複数回にわたってパブリックプレイテストを実施していた。2024年7月のゲームプレイトレーラーで大きく注目を集め、その後のプレイテスト期間中に多くのプレイヤーがゲームを体験した。ゲームの基本的な楽しさが、製品版リリース前にすでに広まっていた。

正式リリース時には、すでにゲームを知っているコミュニティが形成されていた。だから「発売日からいきなり盛り上がる」という現象が起きた。プレイテストから正式版へのスムーズな移行は、現代のインディーゲームのリリース戦略として非常に上手くいった例だ。

プロキシミティVOIPが拡散のきっかけに

笑えるVOIPの瞬間を切り取った動画がTwitterやYouTubeで拡散した。「塹壕の中で敵と鉢合わせになってシャベルで殴り合う」「将校が誤って味方にガスを浴びせる」「バグパイプを演奏しながら突撃する」「バゲットで機銃陣地に突っ込む」といったシーンが、それを見た人に「やってみたい」という衝動を起こさせた。

大規模マルチのゲームにとって、こういった「語れるエピソードが生まれる体験」は最大の広告になる。Over The Top: WWIはそれを持っていた。ゲームの広告費よりも、プレイヤーが生み出したコンテンツの方が大きな影響力を持った。

WW1ゲームの空白を埋めた

大規模なWW1マルチプレイヤーゲームというジャンルは、Battlefield 1(2016年)以来、大型タイトルが出ていなかった。VerdunはWW1の雰囲気を丁寧に再現しているが、プレイヤー数は小規模だ。Over The Top: WWIは「大人数でWW1の戦場を体験したい」という需要に直接応えた。

WW2を舞台にした大規模シューターはPost Scriptum、Hell Let Loose、Enlisted等が継続的にリリースされてきた。しかしWW1特化の大規模マルチは空白地帯だった。Over The Top: WWIはそこに飛び込んだ。

歴史系の大規模対戦ゲームという文脈では、Total War WARHAMMER IIIも独自の方向性で面白いタイトルだ。こちらはリアルタイムストラテジーで方向性は全然違うが、「大規模な戦闘を指揮する感覚」は共通した魅力がある。

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Steamレビューのリアルな声

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット5

発売から一ヶ月以上が経過したOver The Top: WWIに対して、Steamユーザーたちはどんな声を残しているのか。ポジティブとネガティブ、両方の声を拾ってみた。

ポジティブな声

200人が同じ戦場にいる混沌は他のゲームでは体験できない。砲弾が飛び交い、ガスが流れ込み、どこからか誰かの叫び声がVOIPで聞こえてくる。これがWW1の戦場か、と本気で感じた

引用元:Steamレビュー

工兵で塹壕を掘り続けて前線を押し上げたとき、チームが勝利した。自分一人でできることは限られているが、それが積み重なって戦局が変わる感覚がある。こういうゲームが久しぶりだった

引用元:Steamレビュー

歴史的な武器の再現度が高い。ボルトアクションの遅さ、機関銃の設置時間、毒ガスのリスク。全部がWW1の戦争の本質を伝えていると思う。Battlefield 1より「本物」を感じた

引用元:Steamレビュー

プロキシミティVOIPで敵の声が聞こえたとき、何かが違うと思った。「向こうにも人がいる」という感覚。これは戦争ゲームで初めて感じた体験だった

引用元:Steamレビュー

ネガティブな声

移動の感覚がもっさりしていて、現代のFPSに慣れていると最初は戸惑う。あれがWW1の体感として意図的なのはわかるが、操作の快適さという点では改善の余地がある

引用元:Steamレビュー

フレンドと一緒に遊ぼうとすると、パーティーシステムがまだ整っていなくて同じチームに入るのが難しい。大人数対戦ゲームでフレンドと合流できないのはつらい

引用元:Steamレビュー

マップの種類がもう少し欲しい。同じ戦場を繰り返していると慣れてきてしまう。開発チームには追加コンテンツに期待している

引用元:Steamレビュー

ネガティブな声の多くが「今後への期待」として書かれているのが特徴的だ。致命的な欠陥というより、発展途上のゲームとして改善を求める声が多い。開発チームへの信頼感が、レビューの行間から読み取れる。

Metacriticのユーザースコアでも比較的高い評価を得ており、プレスレビューとユーザーレビューの評価が一致しているのも好材料だ。「メディアと一般ユーザーで評価が割れる」のではなく、幅広い層から同じ方向の評価を得ているゲームは、コアなプレイヤーベースの形成に有利だ。

特に日本語圏のコミュニティでも反応が良い。AUTOMATON、4Gamer、Game*Sparkといった主要日本語ゲームメディアが発売時から報道しており、日本語プレイヤーの認知度は比較的高い。日本語UIサポートの状況は確認が必要だが、ゲームとしてのプレイには言語バリアが低い部分も多い(射撃・塹壕掘りは言語関係ない)。

課題と今後の展望

Over The Top: WWIは現在進行形で開発が続いているタイトルだ。高評価を受けながらも、いくつかの課題が指摘されている。

操作感の重さ

最も多く挙げられる批判が、移動・射撃時の操作感の重さだ。移動しながら射撃すると精度が大きく落ちる設計は、WW1のリアリズムとして意図されたものだが、現代のFPSに慣れたプレイヤーには最初の障壁になる。「思った通りに動かない」というフラストレーションは、特に最初の数時間で発生しやすい。

近接戦闘のシステムも「Mount & Blade的な方向スイング」を採用しており、ヒット判定がやや不安定という声がある。このあたりはHoldfast: Nations at Warでも同様の指摘があった部分で、スタジオが磨き続けている課題でもある。開発チームには前作での経験があるため、改善に取り組んでくれることを期待したい。

フレンドとのパーティーシステム

大人数対戦ゲームでフレンドと一緒に遊べないのは致命的な問題になりうる。現状ではフレンドと同じチームに入る確実な方法がなく、この点は早急な改善が求められている。開発チームも認識しており、アップデートでの対応が期待されている。大規模マルチの強みは「知り合いと一緒に大きな戦闘に参加できる」点でもあるため、ここが整備されると体験が大きく変わるはずだ。

マップとコンテンツの追加

リリース時点での12マップは、長期的な遊びを考えると「十分ではない」という声がある。200人が戦う大規模戦場なので一つのマップでのプレイ時間は長いが、同じ戦場を繰り返していると単調になる。追加マップや新クラスの実装が、長期的な人気維持のカギになる。

大規模戦闘のパフォーマンス

200人が同じ戦場にいて、すべての地形が破壊可能で、プロキシミティVOIPが動いている——これを快適に動かすにはそれなりのPCスペックが要求される。重砲撃が集中する場面でのフレームドロップは複数のレビューで指摘されており、最適化の継続が求められる。

ただし、これだけの規模のゲームを比較的安定して動かせているのは、技術的な達成でもある。4人チームがこのスケールのゲームを動かしているという事実は、純粋に驚異的だ。開発チームがこの問題を認識し、継続的に最適化を進めてくれることを期待したい。

オンラインゲームにおけるサーバー安定性と快適なマルチプレイ体験という観点では、長年の運営実績を持つFF14の運営体制は一つの参考になる。

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Flying Squirrel Entertainmentという開発チームについて

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット6

Over The Top: WWIを正しく評価するために、開発チームの背景を知っておく価値がある。Flying Squirrel Entertainmentは、元々Mount & Blade: WarbandのMOD「Mount & Musket」を制作していたチームが独立して立ち上げたスタジオだ。「自分たちのゲームを作るために、他のゲームを磨いて得たスキルを活かす」という発想で動いてきた人たちだ。

Napoleonic Warsという公式拡張パックの開発にも携わった後、独自のゲームをリリースし始めた。Holdfast: Nations at War(2017年)は、18世紀の海戦と陸戦を組み合わせた大規模マルチタイトルで、小規模ながら長期間プレイヤーを維持してきた。Battle Cry of Freedom(2021年)は南北戦争を舞台にしたタイトルで、同様のアプローチで大規模な歴史戦闘を再現した。

Over The Top: WWIはこれらのタイトルから学んだすべてを注ぎ込んだ集大成だ。プレイヤー数・地形破壊システム・歴史的考証の深さ、すべてが過去作から進化している。

4人チームがこのスケールを作れた理由

コアメンバーが4人というのは、Over The Top: WWIの規模感を考えると信じがたいほど小さい数字だ。ただし「4人でゼロから作った」ではなく、MOD制作時代から積み重ねてきた技術・ノウハウ・コミュニティの支援があった上での話だ。

プレイテスト期間中のコミュニティフィードバックを積極的に取り入れた開発スタイルも、過去作での経験から確立してきた手法だ。プレイヤーと一緒に作るゲームという姿勢が、発売前からコミュニティの信頼を得ていた。

歴史マニアが作るゲームの密度

このスタジオの特徴は、コアなゲームファンが作っているという空気感だ。開発チーム自身が歴史マニアであり、MOD制作出身の「ゲームを深く理解したクリエイター」たちだ。だからWW1の考証が単なる雰囲気作りではなく、ゲームメカニクスの根幹に組み込まれている。

バゲットで殴り合える、バグパイプで演奏できる、ピアノが弾ける——こういった「ゲームとしては余計な」要素が入っているのも、「遊んでいる人が笑顔になれる瞬間を作りたい」というスタジオの姿勢の現れだと思う。歴史の重さと、ゲームとしての楽しさのバランスをうまく取っている。

GG Publishingというパブリッシャーとのタッグも注目点だ。デンマークを拠点とするGG Publishingは、中小規模のゲームのパブリッシングに特化した会社で、Flying Squirrel Entertainmentのような小さなスタジオが大きな夢を実現するためのサポートを担っている。4人のチームが200人対戦のゲームをリリースできた背景には、こういったパートナーシップがある。

ゲームのTGDWC(The Game Development World Championship)への応募も行われており、インディーゲームコミュニティの中での認知度も高まっている。小さなスタジオが業界内で正当な評価を受けていることが、Over The Top: WWIのクオリティの裏付けになっている。

WW1ゲームの系譜の中でのOver The Top

第一次世界大戦を扱ったゲームは、その重さゆえに難しいジャンルだ。ゲームとして楽しめることと、歴史的な出来事への敬意のバランスを取らなければならない。

Verdunは史実に忠実な小規模対戦で、緊張感と重さを前面に出した。プレイヤー数は少ないが、WW1の体験として高く評価されている。Battlefield 1はWW1のビジュアルと雰囲気をAAAクオリティで描きながら、ゲームプレイはBattlefieldシリーズの延長線上にあった。

Over The Top: WWIが選んだ方向は「大規模なカオスの中にWW1の要素を本物として組み込む」だ。歴史的考証は妥協していないが、笑えるシーン・予期しない友情・意図しないチームキルが同居している。真剣にやっていてもいいし、バゲットで殴り合ってもいい。

これは批判ではなく、このゲームの選んだ個性だ。戦争の悲惨さを純粋に描くなら別のアプローチが必要だが、「WW1の舞台とシステムを使った大規模マルチゲーム」として最大限に楽しませることを優先している。

グラフィックのクオリティについても触れておく。インディー規模のゲームとして、見た目のクオリティはAAAタイトルには及ばない。しかし「WW1の泥と血の戦場」を表現するビジュアルとしては十分な水準に達している。泥に汚れた制服、砲煙で霞む視界、崩れ落ちる建物——これらの視覚的要素がゲームの没入感を支えている。

サウンドデザインも注目に値する。砲弾の爆発音、銃声、金属音、近くで走る足音——これらが混在する200人の戦場の音響は、ゲームの迫力を大きく支えている。プロキシミティVOIPと組み合わさることで、「戦場の音」として機能している。ヘッドフォンをつけてプレイすることを強くおすすめする。

Ready or Notのような戦術シューターは「命がかかった重さ」を一人一人のプレイヤーに感じさせるアプローチを取っている。Over The Top: WWIとは方向性が全然違うが、「ゲームでしかできない戦闘体験」というテーマは共通している。

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Steamで「Very Positive」の評価を得た事実は、このゲームの方向性が多くのプレイヤーに受け入れられたことを示している。完璧ではないが、他にない何かを持っている。それが今のOver The Top: WWIだ。

どんな人におすすめできるか

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット7

Over The Top: WWIは万人向けのゲームではない。そのことを正直に書いておく。操作感が重く、近代FPSのような快適さはない。パーティーシステムがまだ整っていないため、フレンドと一緒に遊ぶのに手間がかかることもある。マップ数も現時点では限られている。

でも、それを承知でプレイする価値がある人は明確にいる。

大規模マルチの混沌が好きな人

100対100という数字の意味は、実際にプレイしてみないとわからない。200人が動いている戦場の「うるさくて混乱していて、でも確実に何かが起きている」感覚は、他のゲームでは体験できない。Battle Royaleの孤独な生存ゲームとも、5対5の精密な競技とも全く違う体験だ。

WW1という時代に興味がある人

このゲームをプレイすると、塹壕戦がなぜあのような形になったのか、毒ガスがいかに恐ろしい武器だったのか、戦車が初登場したときに歩兵たちが感じた衝撃はどんなものだったのか、が体で理解できる。歴史の授業よりよっぽど「わかる」体験だ。知識が体感に変わる瞬間がある。

プロキシミティVOIPで生まれるドラマが好きな人

このゲームには脚本がない。プレイするたびに違う物語が生まれる。塹壕で鉢合わせになった敵工兵とシャベルで殴り合いながら笑う体験は、計画して作れるものではない。自然に発生するカオスと友情と裏切りと笑いが詰まったゲームだ。

チームで協力して何かを達成する感覚が好きなら、The Division 2も同じ方向性の達成感を提供している。WW1とは全然違う世界観だが、「チームで戦術的に動く」という核心は共通している。

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現在の同接数と今後の継続性について

ピーク同接7,170人(2026年3月15日)から、記事執筆時点(2026年4月)では2,000〜3,000人程度で推移している。リリース直後の熱狂が落ち着いた状態だが、大規模マルチゲームとして「ゲームが成立する人数」は維持できている。

200人の対戦が成立するためには、一定数の同接プレイヤーが必要だ。その意味で、現在の人口水準は「ゲームとして機能している」状態を保っている。問題は、この水準をどれだけ長く維持できるかだ。

比較として、Holdfast: Nations at Warのピーク時同接はOver The Top: WWIより小さかったが、それでも長年にわたって安定したコミュニティを維持している。Over The Top: WWIはその約3倍以上のピーク同接を記録しており、ベースとなるコミュニティの規模としては良好なスタートを切っている。

Steamの同接数だけがゲームの「健全さ」の指標ではないことも付記しておく。日本時間帯の同接と欧米時間帯の同接は大きく異なる。ピーク時間帯(欧米の夕方〜夜)には500〜1,000人以上が同接していることも多く、試合が成立する環境は維持されている。

大規模マルチのプレイヤー数問題

大規模マルチゲームの最大のリスクは「プレイヤー数の減少でゲームが成立しなくなる」ことだ。100対100の試合を組むには、少なくとも数百人が同時接続している必要がある(ボットで補完する仕組みも一部あるが)。

このリスクを乗り越えるためには、継続的なコンテンツ追加が不可欠だ。新マップ、新クラス、季節イベント、ゲームモードの追加——プレイヤーが「また戻ってきたい」と思える理由を定期的に提供できるかどうかが、2〜3年後の人口水準を左右する。

Flying Squirrel Entertainmentの継続性への信頼

開発チームの継続的なアップデートが鍵になる。マップ追加、パーティーシステムの改善、バランス調整——これらを着実に実施できれば、コアコミュニティが残り続ける可能性は高い。

Flying Squirrel Entertainmentは過去のタイトル(Holdfast: Nations at War)でも、小規模なコミュニティを長期にわたって維持してきた実績がある。Holdfast: Nations at Warは2017年のリリースから2026年現在まで、小さくても安定したコミュニティを保っている。これは開発チームが長期的なコミュニティ管理に真摯に向き合ってきた証だ。

Over The Top: WWIはその中でも最大規模のタイトルであり、より多くの注目を集めている。発売から1ヶ月以上経過して、まだ「非常に好評」を維持できているのは、開発チームの継続的な対応とゲームの基本的な面白さが支えているからだ。

WW1の戦場から学べるもの

Over The Top: WWI FPS スクリーンショット8

ゲームとして楽しいという話をずっとしてきたが、Over The Top: WWIには「WW1という時代を体感させる」という機能もある。歴史的事実を知識として知っているのと、ゲームを通じて体感するのは、全く異なる体験だ。

塹壕戦がなぜ長期化したか

プレイするとわかる。機関銃があれば、開けた地形を横切る歩兵は一方的に撃たれる。だから地面に潜るしかない。塹壕を掘って地下に入るしかない。これが現実でも起きた。

このゲームでも、機関銃陣地を前にすると「突撃は無理だ」という判断が自然に生まれる。だから塹壕を掘る。だから砲撃で陣地を潰す必要がある。一つの武器が戦術全体を規定する様子が、プレイを通じて体感できる。

毒ガスがなぜ使われたか

プレイするとわかる。塹壕の中に隠れている敵を、銃では攻撃できない。ガスを流し込めば塹壕の中に入れる。しかし風向きを誤れば自陣に戻ってくる。リスクがあっても使われた理由も、使われ方も、プレイすることで体感できる。

なぜ戦車が革命的だったか

Mark IVが初めて前線に現れたとき、歩兵にできることが限られていた。このゲームの中でも、戦車に対して有効な対抗手段は限られている。それが当時の歩兵の絶望感の一端を教えてくれる。1916年のソンムの戦いで初めて戦車を見た兵士たちの驚愕が、プレイを通じて少しだけ理解できる。

将校の判断がなぜ重要だったか

WW1の将校は、「Over the Top」——塹壕を越えて突撃する命令を下す立場にあった。その命令が何を意味するか、現実の歴史ではあまりにも多くの命が失われた。ゲームの中では「将校が突撃を指示する」という行為が、チームの生死を左右するゲームメカニクスとして機能している。軽率な命令がどれほどのリスクを持つか、プレイしながら感じられる。

歴史を「知識として学ぶ」ことと「体験として感じる」ことは違う。Over The Top: WWIはゲームでありながら、後者の体験を提供できる稀な作品だ。

戦争の「人間らしさ」を描く

このゲームで印象的なのは、戦争の残酷さだけでなく、戦場における「人間らしさ」も描こうとしている点だ。バグパイプを演奏する兵士、塹壕の中でピアノを弾く兵士、フランスパンで敵を殴るフランス兵——こういった要素は史実に基づくユーモアであり、同時に「戦争の中でも人間であること」の表現でもある。

実際のWW1でも、クリスマス休戦として知られる逸話がある。1914年のクリスマス、西部戦線で英独両軍が塹壕から出て、非公式の休戦をして一緒にサッカーをした。戦争の中で生まれた人間的な瞬間だ。Over The Top: WWIのプロキシミティVOIPは、そういった「戦争の中の人間らしさ」を偶発的に生み出す装置として機能している。

Counter-Strikeとの比較——同じマルチFPSでも全然違う体験

Over The Top: WWIを語るとき、Counter-Strike 1.6との比較は興味深い。どちらも射撃と戦術を軸にしたゲームだが、目指しているものが根本的に違う。

CS1.6は少人数(5対5)の精密な競技を追求している。個人の腕前が結果に直結し、チーム戦術の洗練度が勝敗を決める。エイム、反応速度、ポジショニングの正確さが問われる。

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Over The Top: WWIは200人の混沌の中でのチーム行動を楽しむ。個人の腕前は大事だが、それ以上に「どこで何をするか」という選択の連続が戦場を動かす。工兵として黙々と塹壕を掘ることが、最終的な勝敗に大きく影響する。狙撃で重要な将校を排除することが、敵チームのスポーンを後退させる。

どちらが上かではなく、求める体験がまったく違う。「精密な競技」が好きならCS、「大規模な混沌の中で自分の役割を果たす」が好きならOver The Topだ。両方を理解した上で選べるのが、今のゲームシーンの豊かさだ。

Over The Top: WWIのゲームプレイはTPSベースだが、弾道とカメラの関係でFPS的なプレイスタイルも可能だ。肩越し視点と三人称視点を状況に応じて使い分けられる。大規模な戦闘では三人称の俯瞰感が役立ち、塹壕の中での近接戦ではFPS的な感覚が重要になる。

また、このゲームにはボット(AI)の補完システムがある。プレイヤー数が少ない時間帯でも、ボットがある程度埋めてくれるため「試合が成立しない」という事態は起きにくい。ただし200人フルで人間が集まった状態と、ボット補完の状態では体験が大きく違う。人間のプレイヤーだからこそ生まれるプロキシミティVOIPのカオスや、予期しない戦術の応酬は、ボットには再現できない。

まとめ——泥と笑いと砲声が混在する唯一の場所

Over The Top: WWIは、完璧なゲームではない。操作感の重さ、パーティーシステムの未整備、マップ数の少なさ——現時点での課題は正直に存在する。移動しながらの射撃精度の大幅な低下は、現代FPS慣れしたプレイヤーには最初の壁になる。200人の戦場でフレンドと同じチームに入るための確実な方法がまだ整っていない点も、早急な改善が求められる。

しかしそれを差し引いても、このゲームは「他にない体験」を提供している。200人が同じ戦場にいる混沌、完全破壊可能な地形が変えていく戦術、プロキシミティVOIPが生み出す予期しないドラマ、WW1の武器・戦術・歴史的リアリティ——これらが組み合わさって、他のゲームでは体験できない何かを作り上げている。

Flying Squirrel Entertainmentは、4人のコアチームでこのスケールのゲームを作り上げた。それだけでも称賛に値する。そして発売後も継続的にアップデートを続けているスタジオの姿勢は、コミュニティへの真摯な向き合い方を感じさせる。過去作のHoldfast: Nations at Warで長期的なコミュニティ維持に成功してきた実績を持つスタジオが、自分たちの最大規模のタイトルをどう育てていくかに注目したい。MOD制作出身の開発チームが積み重ねてきた10年以上の歴史が、このゲームを支えている。

WW1の塹壕戦が好きな人、大規模マルチの混沌が好きな人、プロキシミティVOIPで生まれるカオスを楽しめる人——そういった人には、間違いなく刺さるゲームだ。逆に、精密なエイムと競技性を求める人、操作の快適さを優先する人、フレンドと確実に一緒に動きたい人には、今のこの段階では少し待つのも選択肢だ。

パーティーシステムの改善、追加マップのリリース、操作系統の調整——これらが実装されたタイミングで改めて体験するという戦略もある。開発チームの過去の実績を見れば、継続的な改善が期待できるスタジオだ。「今買うか、半年後に買うか」という判断は、自分の優先事項次第だ。

始め方と最初のおすすめクラス

初めてOver The Top: WWIをプレイするなら、まず工兵から始めることをおすすめする。射撃の腕前より、「塹壕を掘る」「土嚢を積む」という基本的な作業に集中できるからだ。工兵としてチームに貢献しながら、マップの地形・ゾーンの位置・敵の動き方を把握する時間に充てられる。

次に衛生兵を試してみることで、戦場全体の流れが見えてくる。倒れた仲間を探して駆けつける動きをすることで、前線がどこにあるか、敵がどちらから来るかが自然に理解できる。ライフルを撃つことより、戦場を「読む」ことが先だ。

プロキシミティVOIPには最初から積極的に参加することをおすすめする。言語が通じなくても、「Thank you」「Help!」「Medic!」といった基本的な単語は万国共通だ。コミュニケーションが取れると、戦場での経験値が格段に上がる。

戦場に飛び込む前に、Slay the SpireやBloons TD 6のようなソロ系タイトルで頭を休めてから、また200人の塹壕地獄に戻る——そんなバランスもOver The Topを長く楽しむコツかもしれない。集中力が戻ってきたとき、戦場の見え方が変わる。

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Over The Top: WWIは2026年に登場した数少ない「本当に新しい体験」を持つゲームの一つだ。WW1という100年前の戦争が、最大200人が同時に戦うデジタルの戦場として蘇った。歴史的考証とゲームとしての楽しさと、プレイヤーが生み出すドラマが一つの場所に共存している。このゲームが長く愛され続けることを、一人のゲームファンとして願っている。

塹壕の外では砲声が鳴り止まない。マスクを装備して、シャベルを持て。塹壕は自分で掘る。200人の戦場に飛び込む準備ができたら、突撃の笛が鳴るその瞬間——Over the Topの命令が下るまで、ただ待て。それがWW1の兵士たちの日常だった。

Over The Top: WWI

Flying Squirrel Entertainment
リリース日 2026年3月6日 新作
サービス中
価格¥2,299
開発Flying Squirrel Entertainment
販売GG Publishing
日本語非対応
対応OSWindows
プレイ形式シングル / マルチ
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目次