「Banana」バナナをクリックするだけのSteamミーム現象

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Banana ― バナナをクリックするだけのSteamミーム現象

「これ、ゲームなの?」と最初に画面を見たとき、誰もがそう思ったはずだ。背景はくすんだ黄緑色。そこにどーんと置かれたバナナのイラスト。操作できるのは、そのバナナをクリックするだけ。BGMもない、エフェクトもない、ストーリーも当然ない。クリックすると数字が1増える。以上。

それなのに2024年6月20日、このゲームは同時接続プレイヤー数917,272人を記録した。バルダーズゲート3を抜き、Red Dead Redemption 2を超え、Steamの全ゲームの中でトップクラスに躍り出た。Counter-Strike 2のすぐ後ろ、世界2位の位置に「バナナをクリックするゲーム」が鎮座していた。

いったいこれは何なんだ、という話をする。ゲームの仕組みから、なぜ90万人も集まったのか、なぜボットが侵食したのか、市場はどう崩壊したのか、そして2025年の1周年アップデートで何が変わったのかまで、できるだけ正直に書いていく。2026年4月時点でも約18,234人が今日もバナナをクリックし続けているという不思議な事実も含めて。

ちなみにBananaは開発チームのひとりが「Eggというゲームのコピーで、はるかに劣化した版だ」と自ら言っているゲームだ。そのゲームが世界を席巻した。そこから語っていく。

Bananaとはどんなゲームか——仕組みと「ゲームではない」という正直な話

Banana サンドボックス・クラフト スクリーンショット1

Bananaのゲームプレイは本当にシンプルだ。起動すると画面中央に大きなバナナの画像が表示される。それをクリックするとカウンターが1増える。クリックし続けると数字が増え続ける。バックグラウンドに置いておいても何も起きない。以上がゲームプレイの全てだ。

では、このゲームに何を期待すればいいのか。答えはひとつで「Steamアイテムドロップ」だ。

Bananaを起動していると、3時間ごとに「バナナアイテム」がSteamのインベントリにドロップされる。18時間起動していると、よりレアなバナナが落ちてくる。このアイテムは実際にSteamコミュニティマーケットで他のプレイヤーに売却でき、売れた金額がSteamウォレットに追加される仕組みだ。

つまりBananaの本質は「クリックゲーム」ではなく「アイテムドロップの仕組み」にある。クリックは正直どうでもよくて、ゲームを起動したまま別のことをしていればいい。3時間後、バナナが1個届いている。それをマーケットで売る。これがBananaの使い方だ。

バナナのドロップにはレアリティが設定されている。Commonは3時間ごとにドロップし、売値は1〜5円程度が相場だ。Uncommonはやや珍しく、数十〜数百円で取引されることもある。Rareは18時間起動でドロップし、数百〜数千円で売れることがある。Legendaryは確率約2,800万分の1で、もし落ちれば数万〜数十万円の価値になることもある。そして「Crypticnana」は25個しか存在しない特別品で、最高1,378ドル(約20万円)の取引実績がある。

大半のプレイヤーが手にするのはコモンバナナで、1個数円程度にしかならない。毎日3時間ごとに1個として計算しても、1ヶ月で8個、合計数十円程度が現実的な相場だ。レジェンダリーが当たることもあるが、確率は2,800万分の1で宝くじ並みだと思った方がいい。

それでも「無料で損はない」という心理は強烈で、これがBananaの最大の武器だった。Steamのゲームをよく購入している人なら誰でも今日から始められる。ただゲームを起動しておくだけで、3時間後にアイテムが届く。そのシンプルさがフックになった。

ゲームとして楽しいかと聞かれたら全く面白くない。でもバックグラウンドで動かしておくだけで3時間ごとにバナナが降ってくるなら損はない。Steamウォレットが少しずつ増えるという不思議な体験だった。

引用元:Steamレビュー(日本語)

クリック要素については正直に書く。カウンターが増えても、それがアイテムドロップとは完全に切り離されている。クリックしようとしまいと、3時間ごとのドロップタイミングは変わらない。つまりクリックする意味はほぼゼロだ。それを開発側も認識していたのか、2025年の1周年アップデートでクリックに意味を持たせる改修を行った(後述する)。

バナナのスキンはすべてコミュニティから投稿されたデザインを採用している。Discordサーバーにデザインを投稿し、開発チームに採用されれば実際のゲームに実装される。採用されたデザインは売上の一部が作成者に還元される仕組みになっており、ゲームデザイナーとして参加できる入口にもなっていた。その結果、ドゥーマーミームをモチーフにした「Bananadoomer」、シルクハットを被った「Fancy Banana」、謎めいたデザインの「Crypticnana」など、インターネット文化を反映したユニークなバナナが大量に生まれた。それぞれのバナナにサブカルチャー的背景があり、コレクターたちの間で情報交換や取引が行われていた。

コミュニティワークショップの存在は、このゲームの性質を大きく変えた要素だと思う。もしバナナのデザインが開発者だけが決める固定のものだったなら、ここまでの多様性は生まれなかった。コミュニティが「自分たちでゲームを作っている」という感覚を持てたことで、愛着が生まれた。1,000円を超えるレアバナナが存在できたのも、そのデザインがコミュニティにとって価値のあるものだったからだ。

バナナの皮をかぶったゴリラとか、ドゥーマーバナナとか、公式に実装されるのが面白すぎる。ゲームはクリックするだけなのに、スキンのデザインだけで笑える。

引用元:Steamレビュー(英語レビューより)

放置プレイしながらSteamウォレットを少しずつ貯める、という感覚は確かに新鮮だった。でもゲームとして楽しいかというと全くそうではない。これがBananaのスタート地点だ。

Bananaについて「ゲームではなく、Steamのマーケットシステムを使ったツール」という批判は正しい。でも同時に、このシステムが生み出した体験は確かにあった。「3時間後にバナナが届いているかもしれない」という小さな期待感。マーケットで売れたときの小さな達成感。あるいはレアバナナが落ちてきたときの驚き。それがゲームとして洗練された体験ではないとしても、何らかの感情を生んでいたことは事実だ。

Steamのアイテムドロップシステムは、もともとCSGOやDota 2のようなゲームで使われていたものだ。長時間プレイした報酬としてアイテムがドロップされ、それをトレードやマーケットで売買できる。Bananaはこのシステムを「ゲームプレイの報酬」ではなく「ゲームの目的そのもの」にした。これが先例のない発想だった。Steamがサポートしている仕組みを、誰も考えていなかった方向に使った。

批判的な人から見れば「それはゲームではない」と言いたくなる気持ちはわかる。でも「Steamが公式にサポートしているシステムを活用する」という点では、開発者たちは何も間違ったことをしていない。ルールの範囲内で、誰も思いつかなかった遊び方を提案した。その結果が917,272人だった。

Steamのアイテムドロップシステムについて、少し詳しく説明しておきたい。Steamではゲームプレイの結果としてアイテムがインベントリに追加され、そのアイテムをSteamコミュニティマーケットで売買できる仕組みが存在する。この仕組みは元々、Counter-Strike GOのケースやDota 2のコスメアイテムのような、ゲームを楽しんだ結果として得られるアイテムを取引するために設計されたものだ。Bananaはこれを「ゲームを楽しむ」という部分を省略して、「アイテムをもらって売る」だけに特化させた。

Steamウォレットに追加された金額はSteamのゲーム購入や、Steamで販売されている一部の商品の購入に使用できる(現金への換金はできない)。Bananaで数十円稼いでも、それはそのままSteamのゲームを買うのに使えるため、ゲーマーにとっては実質的な価値がある。「インディーゲームを1本買える分だけBananaで稼ぐ」という目標を立てていたプレイヤーも少なくなかった。

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2024年6月、なぜ同時接続917,272人という異常な数字になったのか

Bananaがリリースされたのは2024年4月23日。もともとはエイプリルフールのネタ企画に近いコンセプトで、開発チームの4人(Sky、AestheticSpartan、O’Brian、Hery)が「これは冗談みたいなゲームだ」と自覚しながらリリースしたものだ。開発チームはドイツや南米など世界各地に散らばる小規模なチームで、大きな宣伝予算もなかった。

当初はほぼ無名だった。4月から5月にかけては数千人規模の同時接続に留まり、Steamで多少話題になる程度。普通のインディーゲームと変わらない出発点だった。

転機は2024年5月末から6月初旬にかけてやってきた。「バナナを起動しておくだけでSteamウォレットが貯まる」という情報がTwitterや各種ゲーム系Discordサーバーで急速に拡散し始めた。メッセージの内容は非常にシンプルだった。無料でインストールできる。バックグラウンドで起動しているだけでいい。3時間ごとに売れるアイテムがもらえる。希少なものは数万円以上の価値がある。損は一切しない。

この「損しない」という心理が口コミの起点になった。SNSで「とりあえずインストールした」「本当にバナナが降ってきた」「コモンバナナを売ったら3円になった」という報告が増え、それがさらに拡散する連鎖が起きた。情報を見た人が試してみて、体験を報告する。その報告を見た別の人がまた試す。典型的なバイラルの連鎖だった。

重要なのは「損しない」が「面白い」と同等の動機として機能したことだ。ゲームにおける口コミは通常「このゲームが面白い」という体験から生まれる。でもBananaの口コミは「このゲームをやると損しない」という経済的な理由から始まった。ゲームとしての評価とは別軸の動機が、これほど大きな口コミを生んだ事例は珍しい。

また、Steamというプラットフォームの特性も後押しした。Steamのゲームランキングはリアルタイムで同時接続者数を表示する。「今Steamで一番遊ばれているゲーム」として表示されることで、「なぜこのゲームが上位なのか」という好奇心が新規プレイヤーを引き寄せた。多くの人がSteamのランキングでBananaを見かけて、「クリックするだけのゲームが2位?」と不思議に思ってクリックしたはずだ。

Bananaの爆発を「Steamのアルゴリズムをハックした」と評する人もいた。同時接続者数が増えると、Steamのストアで「今人気のゲーム」として表示される頻度が上がる。これがさらに新規プレイヤーを呼び込み、数字をさらに押し上げる。この正のフィードバックループが、ある閾値を超えたときに制御不能な急成長を引き起こした。Bananaがリリースから2ヶ月で数十人から90万人になれたのは、このループが機能したからだ。

日本でも話題になった。マイナビニュース、AUTOMATON、Game*Sparkといったゲームメディアが相次いで記事を出し、「謎のゲームが大流行している」という文脈で紹介された。「バナナをクリックするゲーム」というシンプルな説明が日本語のメディアでもキャッチーに機能し、ゲーマー以外の層にも情報が広まった。日本語Steamレビューでは304件のうち「非常に好評」という評価がついており、日本のプレイヤーにも一定数が届いていた。

6月11日には同時接続238,972人を突破し、Game*Sparkなど複数のゲームメディアが記事を出した。記事を読んでインストールした人がさらに数字を押し上げ、6月14日に420,000人、6月15日に700,000人を突破。そして6月20日に917,272人というピークに達した。

このとき、BananaはSteamの全ゲームで2位。1位のCounter-Strike 2は約100万人で、それに肉薄する数字だった。あのバルダーズゲート3がリリース時に記録したピーク875,343人をも超えてしまった。Skyrimの同接も、Hadesの同接も、Red Dead Redemption 2の同接も、バナナのクリックが超えた。

この異常な数字の裏には、いくつかの要因が重なっていた。

まずゲームが無料だった。Steamで何かゲームを始めるとき、無料ならとりあえず試してみるという心理が働く。1,000円でも2,000円でも払うとなれば「本当に面白いのか」という判断が先に立つが、無料なら「まあ試してみるか」になる。Bananaはそのハードルを完全に撤廃していた。

次にゲームのインストールと起動が簡単すぎた。Steamさえ持っていれば数分でプレイを開始できる。複雑なチュートリアルもない。画面を見てバナナをクリックすれば、それだけでもうプレイヤーだ。この摩擦のなさが、ゲーマー以外の層まで取り込む力を持っていた。

そしてメディア効果が大きかった。「クリックするだけのゲームが世界2位」という事実自体がニュースになり、Kotaku、PC Gamer、AUTOMATONなど各国のゲームメディアが記事を出した。記事を読んでからインストールした層がさらに数字を膨らませるという二次的な口コミ効果が働いた。「世界2位なのに触ってみていない」という状態が気になって始めた人も、相当数いたはずだ。

これ詐欺じゃないの?と思いながらインストールしたら普通にバナナが落ちてきた。Steamが公式にサポートしているシステムだし、信頼できると思う。コモンバナナが3円で売れた。

引用元:Steamレビュー

「参加すること自体がコンテンツになる」という構造がBananaには備わっていた。「90万人がバナナをクリックしている現象」の一部になることで、ゲームとしての面白さとは別の体験が生まれていた。これはゲームデザインの話ではなく、インターネット文化の話だ。Bananaは意図していたかどうかは別として、SNS時代のゲームバイラルの教科書的な事例になった。

また、開発者のHeryはBananaのシステムを「合法的な無限マネーグリッチ」と表現した。プレイヤーは何もしなくてもゲームを起動しているだけでアイテムが手に入り、それを売ればSteamウォレットに入金される。「損しない」どころか「タダで稼げる可能性がある」という点が、ゲーム好き以外の層まで取り込む力を持っていた。

Bananaが突破した917,272人という数字をもう少し具体的に文脈に置いてみる。Counter-Strike 2は競技シューターとして何千万人ものプレイヤーを持ち、毎日100万人以上が同時にプレイする巨大タイトルだ。Dota 2も同様に長年の実績を持つ。バルダーズゲート3は2023年最大のRPGとして875,343人のピークを持つ。Helldivers 2は2024年最初の大ヒットとして40万人を超えた。これらはどれも「何かを達成するゲーム」であり、プレイヤーが能動的に遊んでいる。

一方Bananaのプレイヤーの多くは「起動しているだけ」の状態だった。バックグラウンドでBananaを動かしながら、別のゲームをプレイしていた人が大半だろう。つまりBananaの数字は「Bananaに没頭している人の数」ではなく「Bananaを起動している人の数」だ。この違いは重要だ。でもそれでも、917,272人が「わざわざインストールして起動した」事実は残る。

この爆発的な拡散の裏で、しかし問題が静かに育っていた。それがボットだ。

実態はボットまみれ——数字の裏に隠れていた現実

Banana サンドボックス・クラフト スクリーンショット2

ピーク時の917,272人という数字は、実際には大きく水増しされていた。

開発チームのメンバーであるHeryはメディアのインタビューで、同時接続者数が141,000人に達した時点で「プレイヤーの約3分の2はボット」だと推定していることを明らかにした。これが本当なら、ピーク917,272人の時点でも実際の人間は30万人程度で、残りの60万人超はボットが占めていた計算になる。

プレイヤーの約3分の1のみが人間で、残りはボットによるものだと考えている。

引用元:開発者Heryインタビュー(Polygonより)

なぜボットがここまで大量発生したのか。仕組みを考えれば当然の結果だった。Bananaは3時間ごとに1個のアイテムをドロップする。アカウントを1,000個用意して自動起動スクリプトを走らせれば、3時間ごとに1,000個のバナナが降ってくる。それをすべて自動で売却すれば、手を動かさずに収益が発生する。1アカウントで3時間に3円なら、1,000アカウントで3,000円になる計算だ。

しかもBananaは当初、ボット利用を明確に禁止するルールを設けていなかった。複数アカウントの使用も、オートクリッカーの使用も、明示的な禁止事項ではなかった。これが「合法的な自動収益化」の余地を生んでしまった。開発者自身が「合法的な無限マネーグリッチ」と表現していたことも、この認識を後押しした。

問題を複雑にしたのは、Steamのアカウント管理がValveの管轄であり、ゲーム開発者側だけでは対処しきれないことだ。開発チームはValveにボット対策の協力を求めたが、Steam全体の仕組みとしての対応には限界があった。個別のゲームに対してアカウント制限を設けることは、Valveとしても動きにくい部分があった。

開発チームが自前で対処したのは2024年5月のアップデートで、アイドル防止機能を追加した。一定時間操作がなければドロップカウントが進まない仕組みにしようとしたが、それを回避するマウス移動スクリプトもすぐに出回り、完全な解決には至らなかった。

セキュリティ面での懸念も出てきた。一部のプレイヤーがアンチウイルスソフトの警告について報告し、「ゲームが複数の外部IPにアクセスしている」「暗号資産マイニングに悪用されているのでは」という声がコミュニティに広まった。開発チームはこれを否定し説明を行ったが、不安を持ったまま離れたプレイヤーも少なくなかった。

このゲームに本当に人間がプレイしているのか疑問。起動させっぱなしにしてアイテムを回収するだけなら、ボットでやるのが当然の流れ。

引用元:Steamレビュー(英語レビューより)

ボット問題はBananaのイメージを傷つけたが、同時に「それだけ経済的な旨みがある仕組みを作った」という証明でもあった。人々(とボット)が殺到するだけの仕掛けが、4人の開発チームによるゲームに備わっていた事実は注目に値する。

ボット問題を通じて明らかになったのは、Steamのアイテムドロップシステムが持つ脆弱性でもある。3時間ごとにアイテムが無条件でドロップされる仕組みは、人間とボットを区別しない。Bananaの事例がきっかけとなり、Steamは後にアイドルゲームに関するポリシーを見直すことになった。この意味でBananaは、Steamのプラットフォームポリシーの変化を促した「事件」として記録されることになる。

また、ボット問題が浮き彫りにしたのは「ゲームのプレイヤー数」という数字の信頼性への疑問だ。Steamのランキングやトレンドが「本当に人間が遊んでいる数」を反映しているのかどうか、という問いが生まれた。Bananaの場合は開発者自身が認めたため明らかになったが、他のゲームでも同様のことが起きている可能性は否定できない。数字が「話題性」によって増幅される構造は、Steamに限らずゲーム産業全体の課題でもある。

ゲームとして長期間遊べる放置系ゲームに興味があるなら、MMOとアイドル要素を組み合わせた本格作品も選択肢になる。

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バナナ市場の崩壊とプレイヤー激減——需給バランスという現実

ボット問題と並行して、もうひとつの構造的な問題が顕在化した。バナナ市場のインフレだ。

Bananaはアイテムを「消費する」仕組みを持っていない。マーケットで売ることはできても、バナナ自体が何かに使われてなくなることがない。つまりゲームが動いている限り、バナナは世界中で無限に生産され続ける。これは需給バランスの観点から、必然的な崩壊への道筋だった。

需要と供給の話だ。供給が無限に増えるものに価値がつくのは、それを買う新規参入者が増え続ける間だけだ。新規プレイヤーが「バナナを集めたい」「レアバナナを購入したい」と思って市場に参入している間は価格が維持される。しかし成長が止まれば、供給過多になって価格が崩壊する。典型的な「参入者依存型経済」の構造だった。

2024年7月から、この崩壊が始まった。コモンバナナの価格はほぼ無価値な水準まで下がり、「集めても売れない」状態が日常になった。アンコモンやレアでさえ値崩れが進み、ピーク時のような「3時間で数十円」という感覚は消えた。2024年11月には同時接続が40万人から一気に10万人台にまで落ちた。市場の魅力がなくなれば、ゲームプレイの動機もなくなる。Bananaは完全に「Steamウォレット増加ツール」として機能していたから、その旨みが薄れれば離脱するのは当然の流れだった。

崩壊の速度は驚くほど速かった。ピーク917,272人から2024年末の10万人台への落下は、わずか数ヶ月の出来事だ。普通のゲームがプレイヤーを失うペースとは比較にならない急落だった。これはゲームが「楽しさ」ではなく「経済的旨み」だけで支えられていたことの証左でもある。楽しいゲームは楽しさが続く限りプレイヤーが残るが、経済的旨みで集まったプレイヤーは旨みが消えた瞬間に一斉に離れる。

このパターンはBananaに限らず、P2E(Play to Earn)系のゲームやNFTゲームが2021〜2022年に経験した崩壊とよく似ている。「遊びながら稼げる」というコンセプトで集まったプレイヤーは、稼げなくなった瞬間に消える。ゲームへの愛着がベースにないため、撤退の判断が早い。Bananaはその縮図のような事例として記録されるだろう。

最初は起動しておくだけでコモンが3円で売れたのに、今は1円以下になった。供給が多すぎて誰も買わなくなってる。バブルだったんだなと実感してる。

引用元:Steamレビュー(日本語)

最初はバナナを売って少し稼げたけど、今はコモンが全然売れなくなった。ゲームとして楽しいわけでもないし、もう起動しないと思う。

引用元:Steamレビュー(日本語)

「バブルシミュレーター」という批判は的確だった。一部のプレイヤーが早い時期からこの構造に気づき、「供給無限・消費なし・新規流入が止まれば即崩壊」という指摘をレビューに残していた。その通りになった。

Bananaが「バブル」だったとしても、全員が損をしたわけではない。ピーク直前にバナナを売却したプレイヤーは、コモンバナナがまだ数円の価値を持っていた時期に換金できた。レアなスキンを早期に集めていたコレクターは、希少価値が上がる前に在庫を確保できた。市場が崩壊する前に撤退できた人は「合法的な無限マネーグリッチ」を実際に体験した。問題は、多くのプレイヤーがピーク後から参入し、市場崩壊のタイミングで「バナナが全然売れない」という体験をしたことだ。バブルに乗るには早く参入して早く抜けることが求められる。でもほとんどのプレイヤーは「みんなが話題にしているから試してみた」という段階で参入しており、そのときすでにピークは過ぎていた。

市場崩壊と同時に、別の問題も浮上した。開発チームのメンバーのひとりが、過去にSteamのアイテム価格を操作する詐欺的な行為に関与していた疑惑が出たのだ。その人物は開発チームを離脱し、残ったメンバーがBanana自体に不正はないとアピールした。Bananaそのものは詐欺ではなく、Steamの正規のアイテムドロップシステムを利用した仕組みであることは間違いないのだが、このスキャンダルはゲームのイメージに影響を与えた。

それでも根強い支持者がいた。「無料で損はない」「放置しているだけで稼げるゲームはほかにない」「コレクションとして楽しい」という声は消えなかった。特にSteamのゲームをよく買う人にとって、Steamウォレットが少しずつ増えていく体験は無視できない価値があった。起動コストがゼロである以上、完全にやめる理由もなかった。

市場崩壊を経験したプレイヤーたちの反応は大きく2種類に分かれた。ひとつは「やはりバブルだった、やめる」と離れたグループ。もうひとつは「どうせ無料だし、まだ続ける」と残ったグループだ。後者の特徴は「コレクションや実績に価値を見出した」か「バックグラウンド起動を惰性で続けていた」かのどちらかだ。このどちらでもない「ゲームが面白いから続ける」というプレイヤーは、もともとBananaには少なかったと思われる。

コモンバナナの価格が崩壊する一方で、レアバナナの価値は一定程度維持された。Crypticnanaのような超希少品は、むしろ価値の下落が緩やかだった。希少なものは供給が制限されているため、コモンのような供給無限問題が起きにくい。コレクターたちはレア品の価値を守るために積極的にコミュニティで情報共有を続けた。

市場崩壊後も開発チームは活動を続けた。コミュニティとの対話を維持しながら、次のアップデートに向けて開発を進めていた。その誠実さは、残ったコミュニティには届いていた。そして翌年、1周年アップデートという形で答えを出すことになる。

バナナ市場の崩壊は、Steamコミュニティマーケット全体にも影響を与えた。大量のコモンバナナが出品され続けることで、市場の価格表示が混乱した時期もあった。1日で8万個以上のコモンバナナが売買された日もあったという記録が残っており、このスケールの取引がSteamの通常ゲームアイテムと同じマーケット上で起きていたことは、いまから振り返っても異様な光景だ。

市場が崩壊する様子を横目に見ながら、プレイヤーたちがBananaに続けて流入したのが「類似作品群」だった。

Bananaが生んだ類似作品の乱立とミームとしての生存戦略

Banana サンドボックス・クラフト スクリーンショット3

Bananaの爆発的な人気を受けて、2024年6月からSteamには似たようなゲームが大量に登場した。「クリックまたは放置でSteamアイテムをドロップする無料ゲーム」という新しいジャンルが形成されたといっても過言ではない。

「Cats」はその代表格で、猫アイテムをドロップする同構造ゲームとして登場した。リリース後すぐに数万人規模の同時接続を記録した。画面中央に猫の画像があって、クリックするとカウンターが増え、3時間ごとに猫アイテムがドロップされる。構造はBananaと全く同じだ。その後も「Neko」「Cucumber」(きゅうりをドロップする謎ゲーム)、「Banana Yetti」といった作品が続々登場した。

これらの類似作品が大量発生したことで、Steamのサポートフォーラムやコミュニティには「こういうゲームはSteamにあるべきか」という議論が起きた。ゲームプレイがほぼなく、Steamマーケットのアイテムドロップだけが目的のゲームを、Steamはどこまで許容するのか。ValveはBananaの成功後に類似ゲームの審査を厳しくしたという情報もあるが、2024年後半以降も類似ゲームの登場は続いた。

類似ゲームの乱立は、Bananaコミュニティにとってもプラスとマイナス両方の影響があった。マイナスとしては、Steamマーケット全体で「ドロップ系ゲーム」のアイテムが溢れ、価格競争が起きたことだ。Bananaのコモンバナナだけでなく、CatsやNekoのアイテムも合わせてSteamマーケットに大量流入し、市場全体が飽和状態になった。プラスとしては、Bananaの「元祖」としてのブランドが確立されたことだ。後から来たゲームはBananaと比較され、「Bananaの方が本家だ」という認識がコアプレイヤーに定着した。

面白い点として、Banana自体がEggというゲームのコピーから始まっている。EggはKolbasinoGamesが2024年2月にリリースしたゲームで、卵をクリックしてアイテムをドロップするBananaと全く同じ構造を持っていた。つまり「Egg → Banana → Cats/Neko/Cucumber」という系譜があり、Bananaは模倣から生まれたゲームが最大の模倣元になってしまった、という皮肉な立場にいる。開発者自身が「EggのコピーでEggよりはるかに劣る」と言っていたゲームが、Eggを遥かに超える影響力を持ったことになる。

BananaはEggのコピーで劣化版なのに、なぜBananaだけ90万人になったのか。それがインターネットの面白さだと思う。実力より拡散力が先に来る世界。

引用元:note記事「これからは「バナナ」が通貨となる」より

ただし、これらの後継作がBananaほどの数字を叩き出すことはなかった。Catsは一時的に盛り上がったが、BananaのようなSNS的爆発力はなかった。理由は明確で、Bananaは「最初」の大規模な事例だったからだ。ミームは最初のものが最も強い。「クリックするだけで90万人が集まった」という驚きは初回限りのインパクトだ。2回目の驚きは生まれない。類似作は仕組みを真似できても、カルチャーとしての爆発力は真似できなかった。

Bananaがミームとして生き残れた理由のひとつは、バナナのスキンがコミュニティの産物だったことだ。「Bananadoomer」(ドゥーマーミームのバナナ版)、「Fancy Banana」(シルクハットをかぶったバナナ)、「Crypticnana」(謎めいた文字が刻まれた超レアバナナ)——これらはインターネット文化を知っている人間が笑えるデザインで、それ自体がSNS上でのネタになった。

「バナナをクリックするゲームが世界2位」という事実はそれ自体がジョークになり、Twitter(X)や各種SNSで画像つきで拡散された。「今日もバナナをクリックした」「今月の収益:27円」「バナナ成金になる夢は散った」といった投稿が次々に現れ、それを見た人がまたインストールするという連鎖が起きた。

このミームとしての拡散力が、類似作品との最大の差だった。Catsは「猫アイテムを集めるゲーム」としてある程度受け入れられたが、「Catsが世界2位」というニュースは生まれなかった。Bananaが最初に「ありえない数字」を記録したことで、そのニュース性が後から来たゲームには発生しなかった。

ミームとして語られ続けたもうひとつの要因は「継続性」だ。「今日もバナナを収穫した」「今月のバナナ収益」という形で、定期的にSNSにネタとして投稿できる。ゲームが話題になり続けるためには、繰り返し語る機会が必要だ。3時間ごとにバナナが落ちてくる仕組みは、「また今日もバナナが届いた」という投稿を自然に生み出した。ゲームプレイがSNSコンテンツになっていた。

ゲームというより経済システムとして語られることが多いBananaだが、じっくり腰を据えて別の世界観に浸りたいなら全く違う方向性のゲームが面白い。テキスト主体で世界を探索するRPGは、Bananaとは対極にある体験を提供してくれる。

Bananaが登場した2024年は、ゲーム業界全体が「ゲームとは何か」を問い直している時代でもあった。AI生成コンテンツが増え、P2Eゲームが盛衰を繰り返し、インディーゲームとAAAタイトルの格差が拡大していた。その中でBananaは「プレイヤーを集めることの意味」を問う一つの実験として機能した。ゲームプレイがなくても人が集まる。面白くなくても話題になる。これは2024年のゲーム文化を語る上で欠かせない事例のひとつだ。

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1周年アップデートで「ゲーム」に近づいた——2025年4月の大改修

批判が山積み、市場が崩壊、プレイヤーが激減、スキャンダル発覚——という状況の中で、開発チームは諦めなかった。2025年4月23日、リリースから1周年を記念した大型アップデートが配信された。このアップデートでBananaは大きく変わった。

1周年アップデートの背景には、「批判を真正面から受け止めた」開発チームの姿勢がある。1年間にわたってSteamレビューやDiscordで繰り返されてきた「クリックする意味がない」「ゲームとして何も楽しくない」「アイテムドロップとクリックが全く連動していない」という声に、チームは答えることにした。単純にシステムを追加するのではなく、批判の根本にある「体験の欠如」を解決しようとした点が評価できる。

最大の変化は「ビルダー機能」の追加だ。バナナをクリックして貯まったカウンターを消費して「カーソル」「研究所」などの施設を購入できるようになった。施設を保有するとカウンターが自動で増え続け、さらに上位の施設を購入すれば増加速度が加速する。Cookie Clickerで馴染み深いアイドルゲームの基本構造がBananaに導入されたことになる。

施設はゲームを閉じていてもオフラインで稼働し続けるため、次回ログイン時に「留守の間にカウンターがこれだけ増えていた」という体験が生まれる。これによって初めてBananaは「放置している間にも何かが起きている」という感覚を持てるゲームになった。

クリックに意味が生まれたことも大きい。以前はクリックしてもアイテムドロップに全く影響しなかったが、アップデート後はクリックが施設購入のリソースになる。「クリックすることの報酬」が生まれたわけだ。長年の批判だった「クリックする意味がない」という問題に、開発チームがようやく答えを出した形だ。

新しいスキン収集システムも追加された。「The Sage Monkey(賢者の猿)」からゴールドを入手し、「The Well of the Past(過去の井戸)」でゴールドを消費するとランダムなスキンが手に入る。コレクター要素が強化されたことで、バナナを集めること自体に新しい動機が生まれた。実績も70以上追加された。クリック数やカウント数に応じた達成目標が設定され、コツコツ遊ぶプレイヤーに向けた目標が増えた。

UIも大幅に改善された。ドロップタイマーの視認性が向上し、インベントリの動作が軽くなり、バナナを検索・フィルタリングできる機能も追加。100個以上のバナナアイテムを持つコレクターにとって管理がしやすくなった。

1周年アプデでようやくゲームになってきた感じ。クリックして施設を買って自動で増えていく感覚はCookieClickerっぽい。バナナをクリックする意味がやっとできた。

引用元:Steamレビュー(日本語、2025年)

ビルダー機能追加で久しぶりに起動した。相変わらずゲームとして深くはないけど、以前より触る理由が増えたのは素直に良かった。

引用元:Steamレビュー(日本語、2025年)

アップデート後のレビュー全体評価は約8万8,000件のうち82%が好評の「非常に好評」。ただし直近30日では77%の「やや好評」に落ちており、バナナ市場の下落に不満を持つプレイヤーの声も依然として少なくない。1周年アップデートがゲームを復活させたわけではないが、「ゲームとして遊べる最低限の形」は整ってきた。

1周年アップデートで個人的に面白いと思ったのは、開発チームが「批判に正直に向き合った」点だ。「クリックに意味がない」という最も多かった批判を、そのままビルダーシステムで解決しようとした。1年間のコミュニティの声を全部聞いて、それを次の開発に反映させた。4人チームが批判を浴びながら続けてきた結果が、このアップデートに詰まっている。

ゲームの評価というのは難しい。2024年時点のBananaと、1周年アップデート後のBananaは別のゲームとして評価する必要がある。最初のBananaは「Steamマーケットツール」であり、アップデート後は「簡易クリッカーゲーム+アイテムドロップ」という性格になった。どちらの時期に触れたかによって、Bananaの印象はまったく変わってくる。

2026年4月時点でも約18,234人が同時にBananaを起動している。ピーク時の2%以下の数字だが、完全に死んだゲームとは言えない状態を維持している。そのプレイヤーたちはなぜ続けているのか。理由はいくつかある。コレクション欲でスキンコンプリートを目指している人。バックグラウンド起動コストがゼロなので惰性で続けている人。1周年で追加されたビルダーシステムをCookieClickerのように楽しんでいる人。そして「2024年6月の世界2位」という瞬間を体験した記録として、アカウントにBananaを入れ続けている人。

ゲームとして面白くはないけど、文化的な意味で「おすすめ」を押した。バナナが90万人を集めた2024年6月を、10年後に振り返るために記録しておきたい。

引用元:Steamレビュー

これは珍しい評価の仕方だと思う。ゲームを「歴史的な記念物」として評価するという発想は、Bananaがミーム化した結果生まれた独特の感覚だ。「このゲームが存在した事実を記録するためにおすすめを押した」という言い回しは、2024年のインターネット文化を象徴する一文だ。

同じ放置系でも、ゲームとしてしっかり楽しみたいなら本格的なアイドルゲームや、空間を整えながら達成感を得られる作品も選択肢になる。

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まとめ:Bananaとは何だったのか、そして今後どう遊ぶか

Bananaをひと言で説明するなら「Steamのアイテムドロップシステムを最大限に活用したミームゲーム」だろう。ゲームではなく現象として理解することで、Bananaの全体像が見えてくる。

ゲームプレイはほぼ存在しない。クリックすれば数字が増える。3時間ごとにアイテムが落ちてくる。それをマーケットで売れる。無料で損しない。——それだけで917,272人が集まった。

その後、ボットに侵食されて実質プレイヤー数は水増しされていたことが判明し、バナナ市場は需給崩壊でインフレ→暴落した。開発チームのスキャンダルもあり、プレイヤーは激減した。2024年後半から2025年にかけての数字は地味だ。

でも開発チームはゲームを続けた。1周年アップデートでビルダー機能を追加し、初めてクリックに意味を持たせた。コミュニティと対話しながら、ワークショップで何百ものバナナデザインを受け入れ、コレクターのためのスキンシステムを整えた。4人チームが「エイプリルフールの冗談」と呼んでいたゲームを、2年かけてある種のゲームに育ててくれた。

Bananaの興味深い点のひとつは、ゲームが「完成」したとき何が起きるかを見せてくれたことだ。最初のBananaは未完成なまま公開され、90万人を集めた。それが「完成した」1周年アップデートの後は18,000人程度で落ち着いている。未完成であることが話題性を生み、完成に近づくと普通のゲームになっていく。逆説的だが、Bananaの一番面白い時期は「クリックする意味がなかった時期」だったかもしれない。

プレイヤー数という観点から見ると、Bananaの軌跡は「急成長→急落→安定」の典型だ。90万人から18,000人への落下は97%減に見えるが、18,000人という絶対数はインディーゲームとして考えれば決して少なくない。多くのゲームが1,000人以下のピークで終わる中で、2026年時点で18,000人を維持しているゲームはそれなりに健全だと言える。Bananaは「落ちた」というより「適切なサイズに収まった」と見ることもできる。

Bananaが2026年時点でも生き残っている理由のひとつは、1周年アップデートで加わったビルダーシステムが一部のプレイヤーにとって本当に楽しいものになっているからだ。Cookie Clickerのようなゲームが好きな層にとって、バナナのビルダーは「軽く楽しめる放置クリッカー」として機能している。市場でバナナを売る目的がなくなっても、施設を増やして数字を伸ばす楽しさは残っている。

また、Bananaのワークショップは今も活発だ。新しいバナナスキンが定期的に投稿され、採用されたものがゲームに実装される。クリエイターにとっては自分のデザインがゲームに残り続けるという動機があり、コレクターにとっては新しいスキンが追加され続けることでコレクションを完成させるという目標が維持される。このエコシステムが小規模ながら続いている。

Bananaが教えてくれたことは複数ある。

まず、Steamのマーケットエコノミーは、ゲームを「経済的なインセンティブ」として再設計する可能性を開いた。ゲームを楽しむからではなく、「損しないから」「ウォレットが増えるから」という動機でプレイヤーを集めることができると実証した。このアプローチがゲームとして良いものかどうかは別として、プレイヤーを動かす動機として「無料で損なし」は非常に強力だということを証明した。

次に、SNSでの「拡散と参加」の心理は、ゲームの質とは無関係に爆発的な集客を生む。「世界2位になったバナナゲーム」という情報を聞いて、現象の一部になりたくてインストールした人が何十万人もいた。コンテンツよりも文脈が強い時代の一例として、Bananaは語り継がれていくだろう。

そして、「ゲームとしての完成度」と「プレイヤー数」は必ずしも相関しない、という現実も示した。丁寧に設計されたゲームが何万本も売れれば大成功と言われる中で、クリックするだけのゲームが何百万人を集めた。これはゲーム産業が経験したことのない現象だった。

Bananaの事例は、ゲーム産業における「価値とは何か」という問いを投げかける。ゲームの価値は「楽しさ」によって測られるのか、それとも「プレイヤーが得られるもの」によって測られるのか。Steamウォレットが増える体験は「楽しい」ではないが、「価値がある」と多くの人が判断した。この違いは重要だ。ゲームとエンターテインメントの境界線が、Bananaによってあいまいになった部分がある。

ゲームを「楽しむためのもの」と定義するなら、Bananaはゲームではない。でもゲームを「プレイヤーに何らかの体験を与えるもの」と広く定義するなら、「Steamウォレットが増える可能性」「コレクションを集める達成感」「現象の一部になるという体験」をBananaは提供していた。どちらの定義を採用するかで、Bananaの評価は180度変わる。Bananaが存在したことで、「ゲームの定義」そのものに対する議論が生まれた。それはゲーム産業にとってプラスの副産物だったかもしれない。

また、コミュニティが生み出すコンテンツの力についても再確認できた。バナナのスキンがコミュニティから生まれ、そのスキン自体がミームになり、さらにゲームを話題にした。開発チームが用意したのは「場」だけで、コンテンツはコミュニティが作った。現代のゲームが「プラットフォームとしての機能」を持つことの重要性を示した事例でもある。

開発者たちの誠実さについても書いておきたい。「劣化コピーだ」と認め、ボット問題を隠さず報告し、市場崩壊を受けてもゲームを放棄しなかった。批判を受け続けながらも1周年アップデートで改善を届けてくれた開発チームの誠実さは、ゲームの評価とは別に評価したい部分だ。

今からBananaを始めるとしたら、何を期待すべきか。ゲームとして楽しめるとは思わない方がいい。でも「バックグラウンドで起動してSteamウォレットを少しずつ貯める副業」くらいのスタンスで触るなら、起動コストはゼロだ。3時間後にバナナが1個届いているかもしれない。それが3円でも10万円でも、無料で手に入ることに変わりはない。まずインストールして、3時間後にインベントリを確認してみてほしい。バナナが届いていたら、それがあなたとBananaの始まりだ。

Bananaに関連してSteamのアイテムドロップを活用した遊び方に慣れてくると、ゲームそのものを楽しむことへの原点回帰も生まれやすい。放置系のゲームを選ぶにしても、より体験として完成しているゲームを選ぶ視点が育つからだ。Bananaが入り口になって、そこから先のゲーム体験が広がっていくならば、それはBananaが残した最も良いものかもしれない。

Bananaは「ゲームとして楽しむもの」と「経済的なツールとして使うもの」「現象の記録として持つもの」という3つの価値軸がある。このどれかひとつに共感できるなら、インストールしてみる価値はある。全部に共感できないなら、それはそれで正しい判断だ。

現在のBananaは2024年の熱狂からは程遠い落ち着いた状態にある。市場は崩壊してコモンバナナの価値はほぼない。でも起動コストはゼロで、今でも3時間ごとにバナナが届く。バナナ市場の復活に賭けるのは難しいが、コレクションとしてスキンを集めるという楽しみ方は今でも成立する。

1周年アップデートでビルダー機能が入ったことで、Cookie Clickerのような数字を積み上げる楽しさも少し加わった。以前よりは「触る理由がある」ゲームになっている。ただそれでも深く遊べるゲームとは言いがたいので、他に遊んでいるゲームのついでに動かしておく、くらいの位置づけが正直なところだ。Rusty’s Retirementのような、ちゃんと成長する農場放置ゲームを傍らに置きながら、バックグラウンドでBananaを動かす、という使い方が2026年現在の正直なおすすめだ。

Bananaについて最後に書きたいのは「開発者と現象の関係」だ。4人の開発者は「冗談みたいなゲーム」を作ったが、現象は開発者の手を離れて拡大した。ボット業者もミームも、彼らが設計したものではない。でも彼らが作ったシステムがそれを引き寄せた。ゲームが社会現象になるとき、作り手がコントロールできる範囲はどこまでなのか、という問いが残る。

Bananaはその意味で、「ゲームが現象になった後に何が起きるか」を追った事例だ。良い面も悪い面も、予想外の面も含めて。開発者が「合法的な無限マネーグリッチ」と言っていたものが、ボットを呼び込み、市場を崩壊させ、スキャンダルを生み、それでも1周年を迎えて今も動き続けている。

これをゲームと呼ぶかどうかは各自が判断すればいい。でも2024年のSteamで起きた最も奇妙な出来事のひとつとして、10年後も語られているだろうことは間違いない。バナナをクリックするとバナナが増える。それだけのことに、これだけの話があった。2024年のSteam史に、確かにバナナは刻まれた。面白いかどうかより、現象として存在した事実の方が大きい。900万人ではなく、91万7千人。その数字がいかに異常だったかを、バナナをクリックしながら実感してほしい。それがBananaだ。

放置しながらほかのゲームを楽しむ、というスタイルが好きな人は、Sea of Starsのような作り込まれたJRPGをメインに据えながらバックグラウンドでBananaを動かす、という使い方もできる。ゲームとゲームを重ねて遊ぶ、2024年以降の新しい遊び方の一形態だ。

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Banana

Sky, AestheticSpartan, O'Brian
リリース日 2024年4月23日
サービス中
同時接続 (Steam)
17,390
2026/04/10 アジア圏ゴールデンタイム計測
レビュー
95,567 人気
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全世界
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95,567件のレビュー
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価格基本無料
開発Sky, AestheticSpartan, O'Brian
販売Sky
日本語非対応
対応OSWindows / Linux
プレイ形式シングル
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