「Dungeons of Hinterberg」アルプスの観光地でダンジョンを攻略するアクションRPG

仕事の締め切りに追われ続けた末に「このままでいいのか」と思い始めた夜、もし魔法で突然ダンジョンが出現した観光地に逃げ込める選択肢があったとしたら——それがまさにDungeons of Hinterberg(ヒンターベルクのダンジョン)というゲームの入り口だ。

主人公のルイーザはウィーンで働く弁護士見習い。毎晩眠れず、夢の中では壁が迫ってくる狭い部屋に閉じ込められる。そんな彼女が選んだのは、オーストリア・アルプスの山奥に突如現れたダンジョン観光地「ヒンターベルク」への休暇だった。昼間はダンジョンを攻略し、夜は地元の住民と語らいながら過ごす——そんな変わった構造のアクションRPGが、2024年7月18日にMicrobird GamesとCurve Gamesから世に送り出された。

Steamレビューでは94%のユーザーが好意的な評価を付け(レビュー数1,389件)、Metacriticでは57媒体の平均で81点を獲得。ゼルダの謎解きとペルソナの人間関係システムを独自の形で組み合わせた設計が高く評価されており、2024年を代表するインディーRPGとして海外メディアからも注目を集めた作品だ。2025年3月13日にはPS5版もリリースされ、New Game+モードや秘密のボーナスエピソードを含む全コンテンツが遊べるようになった。

目次

公式トレーラー

Dungeons of Hinterberg公式ランチトレーラー(Curve Games)

こんな人に読んでほしい

この記事は次のような人に向けて書いている。

  • ゼルダ風のパズルとアクションを楽しみたいが、もう少し人間ドラマも欲しい人
  • ペルソナ的な「昼は冒険、夜は社交」の構造に興味がある人
  • 仕事疲れを引きずりながらゲームを探している社会人
  • 美しいオーストリアの山岳風景の中でのんびり冒険したい人
  • インディーゲームらしい丁寧な作り込みを好む人
  • 15〜30時間でしっかりエンディングまで遊び切りたい人

派手な大作とは違うが、プレイした後にしみじみと「いい時間だった」と思えるタイプのゲームだ。ゼルダが好きで、ペルソナも経験していて、でも「もっとカジュアルに楽しみたい」という人にはかなりハマる可能性が高い。逆に、ソウルライク的な精密な戦闘やオープンワールドの自由度を第一に求める人には、少し毛色が違うかもしれない。

ゲーム舞台の世界観——魔法が湧いた観光地

Dungeons of Hinterberg 山岳エリアのオーバーワールド全景

ヒンターベルクは架空のオーストリア・アルプスの小さな町だ。もとは静かな観光地だったが、ある日を境にダンジョンと魔物が湧き出し、スリルを求める「スレイヤー」と呼ばれる冒険者が世界中から集まる新たな観光スポットになった。

開発チームの共同創設者レジーナ・ライジンガーとフィリップ・ザイフリートが「ハルシュタットやバート・ガスタインから着想を得た」と語るだけあって、街並みはオーストリアの伝統建築を思わせる温かみのある外観をしている。木組みの家々、湖に映る山の影、朝霧の中に浮かぶ氷河——いずれも手描き風のトゥーンレンダリングで描かれており、スタイライズされた色使いがロイ・リキテンスタインの作品を連想させる独特な映像美を作り出している。

現実のハルシュタットは人口わずか700人の小さな村だが、1日に最大1万人もの観光客が押し寄せることがある。地元住民が生活空間を侵食されていく状況は、ヨーロッパ各地で問題になっている「オーバーツーリズム(過剰観光)」の象徴的な事例だ。バルセロナでは年間数百万人の観光客に対する抗議運動が起こり、ヴェネツィアでは日帰り観光客に入場料が課されるようになった。ヒンターベルクという架空の町は、こうした現実の問題をファンタジーのフィルターを通して描くための舞台装置として機能している。

このゲームの面白いところは、「ダンジョン観光」という設定が単なるフレーバーにとどまらず、ストーリーの核心と直結している点だ。ルイーザが来る前から地元の人々はダンジョンとともに生きてきたし、観光業で潤う商人もいれば、過度な観光客に複雑な感情を持つ住民もいる。ゲームはそうした「大量観光(マスツーリズム)」が地域にもたらす光と影を、ファンタジーのフィルターを通してリアルに描いてくれる。

開発チームはPC Gamerのインタビューで「自分たちはオーストリアに住んでいて、観光業がもたらす恩恵と問題を肌で感じている。ゲームでは賛成・反対のどちらか一方に肩入れするのではなく、すべてのレイヤーを見せたかった」と語っている。実際にゲーム内では、観光推進派の町長も、反対派の地元住民も、それぞれに筋の通った主張を持っている。プレイヤーはその両方を聞いたうえで、自分なりの答えを見つけていくことになる。

ヨーロッパで2020年代に社会問題として浮上した過剰観光の議論を、まさかインディーRPGのシナリオで見るとは——そんな驚きもこのゲームの魅力の一つだ。

主人公ルイーザ——バーンアウトした弁護士の自分探し

ルイーザ・ドルファーは完璧主義者だ。やり残したタスクがある限り休めない性格で、休暇を取ること自体に罪悪感を覚えてきた。ヒンターベルクに来る前は毎晩2〜3回目が覚め、壁が迫ってくる悪夢を繰り返し見ていた。法律事務所での激務が積み重なった末のバーンアウト——そこから逃げるように選んだのが、ダンジョン攻略休暇だった。

「スレイヤー」としてダンジョンに潜ることは、ルイーザにとって単なる観光以上の意味を持つ。ダンジョンには明確な目標がある。倒すべき敵がいて、解くべきパズルがあって、攻略すれば終わる。混沌とした日常のストレスとは正反対の「解決できる問題」に没頭することが、彼女にとっての癒しになっていく。

この構図はゲームをプレイしているプレイヤー自身の体験とも重なる。現実の仕事には明確なゴールがないことが多いが、ゲームには「クリア」がある。ルイーザがダンジョンに救いを見出すように、プレイヤーもまたゲームという「解決可能な問題」に心地よさを感じる——そんなメタ的な構造がこの作品には仕込まれている。

物語が進むにつれて、ルイーザは単に「ダンジョンを攻略して気晴らしをする」段階から、「自分がなぜ疲弊していたのか」「本当にやりたいことは何か」という内面的な問いと向き合い始める。ヒンターベルクで出会う人々との対話が、その気づきの触媒になっていく。特にアレックスとの関係は物語の軸であり、地元の青年が抱える「自分の町が変わっていくことへの複雑な思い」とルイーザの「日常を離れて自分を取り戻す過程」が交差する瞬間は、このゲームのエモーショナルなハイライトだ。

こうしたテーマは多くのプレイヤーに刺さったようで、Steamのレビューには「仕事で疲れているときにプレイしたら思ったより感情移入してしまった」「ルイーザの悩みが他人事じゃなかった」といった声が散見される。

「ルイーザの境遇が自分と重なって、ゲームをやっているうちに自分も少し楽になった気がする。」

引用元:Steamレビュー

単純な「休日にゲームでダンジョン攻略」という体験が、現代人のバーンアウト問題というリアルなテーマと絡み合うことで、ゲームは思わぬ深みを持つ。Game Developerの記事では「Dungeons of Hinterbergは、すべてのゲームが”バケーション”のように感じられることを示している」と評されており、ゲームというメディアが持つ「逃避」の機能を肯定的に再定義した作品ともいえる。

昼夜サイクルの構造——ダンジョンと社交の二本立て

Dungeons of Hinterberg 沼地エリアのオーバーワールド探索シーン

ゲームの時間軸は「1日」を単位として進む。1日は「朝」「昼」「午後」「夜」の4つのパートに分かれており、それぞれで異なるアクションを取ることになる。朝はNPCとの会話やクエストの受注からスタートし、昼に4つのエリアのうちどこに行くかを選ぶ。選んだエリアでオーバーワールドを探索してダンジョンを見つけ、攻略する。午後はダンジョン攻略の続きか休息を選び、ダンジョンを1つクリアするか疲れた時点で町に戻ることで夜のパートへと移行する仕組みだ。

夜の時間帯は町での社交活動にあてられる。ヒンターベルクには地元の住民と他のスレイヤーが多数おり、それぞれと会話して関係を深めることができる。関係値が上がると特定のキャラクターから戦闘で役立つアドバイスや新しい技を学べるほか、夜のイベントが解放されてストーリーが進む。

この構造は明らかに「ペルソナ」シリーズの影響を受けており、特にペルソナ3以降のコミュニティシステムを参考にしていると開発チームも明かしている。ただし本家ペルソナと違って時間管理はそれほど厳しくなく、「今日はこれをやらないと取り返しがつかない」という焦りが少ない作りになっている。ペルソナでは限られたターン数の中で最適な行動を選ぶ戦略性が求められるが、Dungeons of Hinterbergでは「今日は気楽にダンジョン1つだけ攻略して、夜は好きな人と話す」というゆったりした遊び方が許容されている。

この「緩さ」がゲームのテーマと見事に噛み合っている。バーンアウトした主人公が休暇に来ているのに、スケジュール管理に追われたら本末転倒だ。「今日は何をしよう」と自由に選べる余白があるからこそ、プレイヤーもルイーザと一緒に「休暇を楽しんでいる感覚」を味わえる。

こうした昼夜構造の良い点は、「攻略して疲れたら人と話す」「話しすぎたら攻略に戻る」という自然なリズムが生まれることだ。ダンジョン攻略のピリリとした緊張感と、夜の会話でほぐれるリラックスした空気——そのコントラストが1日の中で完結するのが心地いい。仕事帰りの夜に1〜2時間プレイして「ゲーム内の1日」を終わらせると、現実でもちょうどいい満足感を得られる設計になっている。

ペルソナ3リロードが好きな人には特に響くかもしれない。

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4つのエリアと独自の魔法システム

Dungeons of Hinterberg 氷のポータル前のルイーザ

ヒンターベルクには4つの探索エリアがあり、それぞれがまったく異なる自然環境と固有の魔法を持っている。エリアを訪れるたびに新しい魔法が使えるようになり、その魔法はそのエリアのダンジョンでのみ有効だ——というのが、このゲームの核心的なシステムだ。開発チームがインタビューで「自分たちは小さなチームなので、探索の感覚と手作りのダンジョン体験のバランスを取ろうとした。真のオープンワールドではないが、視覚的に異なる4つの大きなバイオームがある」と語っている通り、各エリアはオーストリアの実在する風景をモデルにしている。

各エリアの魔法は2種類(メインと範囲攻撃)があり、それぞれが戦闘だけでなくパズル解法にも使われる。この「エリアごとに使える魔法が変わる」仕組みが、ゲーム全体の新鮮さを保つ最大の要因になっている。

ドーベルコーゲル(高山牧草地)

最初に訪れる緑豊かな牧草地エリア。ここで手に入るのは鉄球を転がして爆発させる能力と、球と鎖を組み合わせた伸縮武器だ。敵を打ち飛ばすのにも、障害物を破壊するのにも使う。チュートリアルを兼ねたエリアでもあり、ゲームの基本を丁寧に教えてくれる。牧草地の緑と黄金色のカラーパレットが美しく、「これからの冒険」への期待感を高めてくれる最初の入り口として理想的な設計だ。ダンジョンの難易度も低めに設定されており、パズルの基本ルール——魔法で環境に干渉して道を切り開く——を身体で覚える場所として機能している。

ヒンターヴァルト(深い森)

鬱蒼とした古い森のエリア。ここでは竜巻に乗って高所へ移動できる魔法と、風の弾丸を飛ばす魔法が使えるようになる。縦方向への探索が増え、足場の上を跳び回るアクション性が高まる。このエリアの特筆すべき点は、一部のダンジョンでカメラ視点が大きく変わることだ。通常の三人称視点から、古い大木の幹を登るシーンではサイドスクロール視点に切り替わったり、特定のダンジョンではアイソメトリック(見下ろし)視点になったりする。視点の変化が単なる演出ではなく、パズルの解き方自体を変えてしまうのが面白い。サイドスクロール中はカメラ操作ができないため、限られた視界の中で魔法を使いこなす必要があり、普段とは違う頭の使い方を求められる。

コルムシュタイン(氷河)

スノーボードを魔法で召喚して雪山を滑り降りる——その映像がまずインパクト抜群だ。雪面を高速移動できるホバーボードの魔法と、氷柱を溶かすレーザーの組み合わせで、パズルも移動も爽快な設計になっている。このエリアは4つの中で最も「遊んでいて気持ちいい」と感じるプレイヤーが多い。ボードで斜面を滑り降り、ジャンプ台で空中に飛び出す瞬間の解放感は、他のエリアにはない特別な体験だ。氷河の白と青のカラーパレットも清涼感があり、視覚的にも爽快感を後押ししてくれる。

ブリューネルズンプフ(湿地帯の沼)

緑色のゼリーキューブを生成して足場にしたり敵を凍らせたりする魔法と、電気のオーブで仕掛けを起動する魔法のエリア。湿地帯の不安定な地形を渡りながら、複数の仕掛けを順番に動かしていくパズルが多い。4つのエリアの中で最もパズルの難易度が高く、複数の魔法を連携させて解く多段階パズルが中心になる。淡い緑と紫のカラーパレットは他のエリアとはまったく異なる不思議な雰囲気を漂わせており、終盤エリアにふさわしい独自の空気感がある。

このエリア別魔法システムの秀逸な点は、「魔法を覚える→そのエリアのパズルがすべてその魔法を前提に設計されている→攻略が一貫した体験として成立する」という構造にある。全25個のダンジョンは二つと同じものがなく、それぞれが固有のメカニクスを持っているため、終盤になっても「またこのパターンか」という倦怠感が生まれにくい。開発チームは「グレーボックス(灰色の箱だけのレベル)の段階で何度もイテレーションを重ね、ハードコアなゲーマーからカジュアルなプレイヤーまでテストプレイを繰り返した」と語っており、その丁寧な調整がプレイ体験の質に直結している。

戦闘システム——シンプルだからこそ映える魔法の使い分け

Dungeons of Hinterberg 山岳エリアでのルイーザ戦闘シーン

戦闘の基本は「剣で通常攻撃・強攻撃をしながら魔法でトドメや特殊効果を狙う」というスタイルだ。剣によるライトアタックとヘビーアタックの2種類の物理攻撃があり、特にヘビーアタックはMP回復効率が高い。敵をロックオンして一体ずつ倒していく王道の近接戦闘で、ローリング回避が地味ながら重要になる。回避にはスタミナが設定されており、連続で回避し続けることはできないため、敵の攻撃パターンを読んで適切なタイミングで避ける必要がある。

魔法にはクールタイムがあるが、通常攻撃を当てることでMPが回復する仕組みになっており、「物理攻撃→クールタイム解消→魔法→物理攻撃」という連携が自然と生まれる設計だ。単純にボタンを連打しているだけでは最大火力が出ないため、ある程度のリズム感が求められる。

敵の中には「魔法シールド」を持つものがいる。体力バーの上にティール色のバーが表示されるタイプの敵で、このシールドをゼロにしないとダメージが通らない。一方で「物理シールド」を持つ敵もおり、こちらは剣攻撃でしか壊せない。この使い分けが、単調になりがちな戦闘にアクセントを加えている。

戦闘はダンジョン内の小さなアリーナで発生する形式で、ターン制のバトルのように「戦闘エリアに入る→敵を全滅させる→先に進む」という構造だ。フィールド上でシームレスに敵と遭遇するタイプではないため、戦闘とパズルが明確に区切られている。この区切りのおかげで「今はパズルに集中する時間」「今は戦闘に集中する時間」とメリハリが生まれ、プレイのリズムが整いやすい。

装備システムとビルドの自由度

装備システムも充実しており、剣・防具3種(頭・胴・足)のスロットに加えて、チャームと呼ばれるアクセサリーシステムが存在する。チャームはそれぞれ物理攻撃力・魔法攻撃力・防御力などを強化する効果を持ち、装備できるチャームの数はスロット制限で決まっている。面白いのは、チャームを「アップグレード」するのではなく「縮小」するシステムだ。素材を使ってチャームのサイズを小さくすることで、同じスロットにより多くのチャームを詰め込めるようになる。

キャラクターのハンナとの関係をレベル2まで上げると「剣のエンチャント」が解放され、剣に特殊効果を付与できるようになる。エンチャントは何度でも無料で付け替え可能なので、ダンジョンの特性に合わせて気軽にビルドを変えられるのが嬉しい。

さらに、プロスレイヤーたちとの友好度を最大まで上げると、オレンジ色のレジェンダリー装備を1つずつ入手できる。全4スロット分のレジェンダリー装備を揃えるには、それぞれ異なるプロスレイヤーと深い関係を築く必要がある。「人間関係を深めることが戦力に直結する」という設計は、社交パートとダンジョン攻略の相互補完を強める良い仕組みだ。

面白いのは「共鳴装備(レゾナントギア)」という種類の装備で、プレイヤーの社交ステータスに反応して性能が変わる。ステータスが足りないと攻撃力や防御力が50%減少するため、夜の社交活動をおろそかにしていると装備の本来の性能を引き出せない。ここでも「社交」と「戦闘」が密接につながっている。

Steamレビューの批判として多かったのが「戦闘が単調」という意見だ。確かにアクション自体の深みはそこまで多くなく、ソウルライクのような精密なスキル要求もない。しかし開発チームがインタビューで「ゲームの軸はパズルと人間関係にある。戦闘はそれらを邪魔しない程度のシンプルさにしたかった」と語っているように、これは意図的な設計判断だ。

Steamのコミュニティフォーラムでも「戦闘が硬く感じる」というスレッドが立っているが、返信には「最初は違和感があったが、装備とチャームが揃ってくると手触りが良くなった」「パズルがメインだと理解してからは気にならなくなった」という声も多い。実際、ダンジョン攻略中に戦闘で詰まることはほとんどなく、緊張と弛緩のバランスがちょうどいい難易度になっている。ソウルライク的な緊張感を求める人には物足りないかもしれないが、パズルとキャラクターを楽しみたい人には邪魔になりすぎない絶妙な難易度だ。

ダンジョン設計——全25個が異なるパズルを持つ

Dungeons of Hinterberg 森のダンジョン内部のパズルシーン

このゲームを語るうえで外せないのがダンジョン設計のクオリティだ。合計25個のダンジョンが用意されており、それぞれがそのエリアの魔法を使った独自のパズルを持っている。入り口には難易度が星マークで表示されているため、今日の気分に合わせて簡単なものか難しいものかを選べる柔軟さもある。

ゼルダの伝説シリーズのダンジョン設計にインスパイアされたとされるだけあって、謎解きの質は高い。単純な「スイッチを押す」パズルから、複数の魔法を組み合わせて解く多段階パズルまで、難易度の幅も広い。海外レビューのGamereactorは「9点」を付けつつ「ダンジョンごとに驚きを用意し続けるその丁寧さに心打たれた」と評している。

特筆すべきは、ダンジョン内でカメラ視点が切り替わる演出だ。普段は三人称視点で冒険しているのに、特定のダンジョンではアイソメトリック(見下ろし)視点に変わったり、サイドスクローラー(横スクロール)視点になったりする。視点が変わるだけでパズルの見え方がまったく変わり、同じ魔法でも使い方を根本的に見直す必要がある。これは25個のダンジョンに多様性を持たせるうえで大きな効果を発揮しており、「次のダンジョンはどんな仕掛けだろう」というワクワク感を最後まで持続させてくれる。

開発チームはGamereactorのインタビューで、パズル設計のプロセスについて「ブロックアウト段階では全体がグレーの箱だけでできている。その状態なら素早くイテレーションできる。配置を変えたり、簡単にしたり難しくしたりが即座にできる」と説明している。さらに「ハードコアなプレイヤーとカジュアルなプレイヤーの両方を雇ってテストプレイしてもらった」とも語っており、この地道な品質管理が25個すべてのダンジョンを「やる価値がある」レベルに引き上げている。

ただし「ダンジョンの数が多すぎてペース配分が難しい」という批判もある。全25個を攻略しようとすると終盤に中だるみを感じやすく、「後半の5〜6個は削っても良かった」という声がいくつか見られた。一つひとつのクオリティは高いが、それが逆に「25個全部やらなければ」というプレッシャーにもなりうる。ただ実際にはメインストーリーの進行に全ダンジョン攻略は必須ではないので、疲れたらスキップして先に進むという選択も取れる。

このあたりはBlue Princeのような1時間単位でサクッと遊べるパズル系とは違い、1回の攻略にある程度の時間を要するのが特徴だ。

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ボス戦——パズルとアクションの集大成

各エリアにはそのエリアの魔法を総動員して挑むボスが待ち構えている。ボス戦はダンジョン攻略で培ったパズル的思考とアクション操作の両方を試される集大成的な戦いで、ゲーム全体を通して最も緊張感のある場面だ。

序盤のボス「ヴィンツブラウト」は巨大な蝶のようなクリーチャーで、4枚の翼にある発光する弱点を狙い撃ちする必要がある。アリーナの端を飛び回りながら突風や弾幕を繰り出してくるため、回避しながら弱点を攻撃するという基本的なボス戦パターンを学ぶ設計になっている。

中盤の「タッツェルヴルム」は、魔法を活用しないと倒せない初めてのボスとして印象に残る。素早い照準と十分なHP管理が求められ、序盤のボスとは一段階ギアが上がる。

個性的なのは「バジリスク」だ。ゴーフィーなデザインに油断していると、グラインドレール上で逃げながら戦わなければならない局面に追い込まれる。レール上では回避ができないため、飛んでくる攻撃を先回りして迎撃する必要があり、これまでのダンジョンにはなかった独自のアクションスキルを求められる。

最終ボスの「ワグナーの怪物」は2段階に分かれた戦闘で、それまでに培った全てのスキルが問われる。ネタバレを避けるが、ストーリー上の伏線と直結した展開が待っており、ゲームプレイとシナリオが一体となったクライマックスとして満足度が高い。

全体的にボス戦は「理不尽に難しい」というよりも「そのエリアの魔法をしっかり使いこなせているかのテスト」という位置づけで、パターンを覚えれば確実に勝てる調整になっている。ボスに負けてもペナルティは軽く、リトライまでのロード時間も短いため、試行錯誤を楽しむ余裕がある。バケーションモードならボス戦もかなり楽になるため、「ボスが怖くてダンジョンに入れない」という心配は不要だ。

ボスのデザインは視覚的にも印象に残る。巨大な蝶から始まり、蛇のような怪物、ゴーフィーな見た目のバジリスクと、それぞれがヒンターベルクの各エリアの自然環境を反映したモチーフになっている。ボスが倒された後の演出もエリアごとに異なり、ストーリーの進展と直結する形で処理されるため「ボスを倒した達成感」と「物語が進む高揚感」が同時に味わえる。

社交パートとNPCの描き方

Dungeons of Hinterberg 森のプラットフォームシーン

夜の社交パートで登場するキャラクターたちが、このゲームの評価を大きく底上げしている要因の一つだ。地元ガイドの青年、観光開発を推進する町長、ダンジョンが地元文化を壊すと反対する地域住民、一攫千金を狙う他のスレイヤーたち——それぞれが異なる価値観を持ち、ヒンターベルクという場所への思いが相互に交錯する。

特に印象的なのは、観光開発を巡る対立だ。町長キャラクターは街を国際的にマーケティングしようと駆け回り、滑稽なほど商業主義的に見える場面もある。しかし「観光産業は地元経済の生命線であり、それを否定することは住民の生活を否定することだ」という彼女の主張には一理ある。一方、外から来たスレイヤーが闊歩する様子に複雑な感情を持つ地元民の声にも、十分な説得力がある。ルイーザはそのどちらとも関係を持ちながら、最終的にヒンターベルクのダンジョンをどうするかという決断に直面する。

人間関係システムの仕組み

社交パートでは「名声」「娯楽」「馴染み」「くつろぎ」の4種類のソーシャルステータスがあり、夜に選ぶ活動や会話の選択肢によって変化する。キャラクターとのハングアウト(遊び)は1回あたり1〜2つのステータスを20ポイントずつ上昇させる。これらが一定値を超えることで新しいキャラクターイベントが解放されたり、ダンジョン攻略に有利なスキルを教えてもらえたりする。

ほとんどのキャラクターは3段階の関係レベルを持っているが、例外的にアレックスとハンナは4段階まであり、「ベストフレンド」になれる。アレックスはメインストーリーの進行に合わせて自動的に関係が深まる唯一のキャラクターで、ギフトを渡すことができない代わりに、物語の要所で重要な役割を果たす。アレックスの関係レベルが上がるとキャラクター図鑑(レベル1)、HPスロット増加(レベル2)、チャームスロット増加(レベル3)、関係レベルアップ速度向上(レベル4)というパークが順番に解放される。

他のキャラクターからも、関係を深めるごとにダンジョン攻略に役立つ固有パークが得られる。「誰と仲良くなるか」が単なるストーリー分岐ではなく、実際のゲームプレイに影響するのがこのシステムの核心だ。

テキストは日本語に完全対応しており、ローカライズの質も高い。「児童文学のおとぎ話的な楽しさと、大人の現実的課題が同居している」という評が的確で、ルイーザと住民たちの会話は軽快でありながら、ちゃんと刺さる。

「キャラクターたちが十人十色で、誰と話しても新しい発見があった。夜が終わるのが惜しいと感じたゲームは久しぶりだ。」

引用元:Steamレビュー

ペルソナシリーズほど分岐が複雑ではなく、会話選択肢の自由度も高くはないが、それが逆に「さらっと読めるが読み応えがある」短編小説のような読み心地を生んでいる。ペルソナの「コミュ」に80時間以上を費やすのは重いと感じる人にとって、15〜30時間で全キャラクターとの関係を一通り楽しめる本作のスケール感はちょうどいい。

ビジュアルとアートスタイル——スタイライズされたアルプスの美

Dungeons of Hinterberg 氷河エリアのオーバーワールド全景

Dungeons of Hinterbergのビジュアルは、3Dポリゴンモデルにアニメ的なトゥーンシェーダーをかけたスタイルだ。80.lvの技術インタビューでシェーダー技術について詳しく解説されているが、「スタイライズされた配色」と「ドット状のトーン表現(ハーフトーン)」の組み合わせが独特の質感を生み出しており、写実的ではないが「このゲームらしい景色」として強く印象に残る。

各エリアのカラーパレットは大きく異なる。牧草地エリアの緑と黄金色、森エリアの深緑と暗褐色、氷河エリアの白と青、沼エリアの淡い緑と紫——移動するたびに色の世界が変わり、旅している感覚を高める工夫がされている。特に朝と夕方で空の色合いが変わる演出は、「今日も1日が終わったな」という感慨を自然に引き出してくれる。

キャラクターデザインもこのアートスタイルと調和している。ルイーザをはじめとする登場人物たちは、現実的なプロポーションからやや誇張されたアニメ的な表現で描かれており、表情の変化が豊かだ。会話シーンではキャラクターの表情がクルクル変わり、テキストだけでは伝わりにくい感情のニュアンスが視覚的に補完される。

ただし技術的な面では一部指摘がある。Steam Deck環境やPC環境においてシャドウの品質が若干粗く見える場面があるという報告があり、完全に磨き上げられた映像というよりは「インディーらしい可愛らしさ」の範疇にある。グラフィック品質を最優先にするプレイヤーには物足りないかもしれないが、本作の世界観に合った雰囲気ある映像は十分に楽しめる。

サウンドトラックも本作の雰囲気を支える重要な要素だ。オーストリアの民俗音楽をベースにしながら現代的なアレンジを加えたBGMは、探索中の空気感を絶妙に作り上げている。牧草地エリアでは軽やかなアコースティックギター、森エリアでは不穏な弦楽器の旋律、氷河エリアでは壮大なオーケストラサウンドと、エリアごとに音楽の雰囲気もガラリと変わる。DLCとしてサントラも販売されており、プレイ後も聴き続けているファンも多い。

探索の楽しさ——スノーボードと風景の中で

Dungeons of Hinterberg 森エリアで竜巻魔法を使うルイーザ

ダンジョンの外、オーバーワールドでの探索も大きな楽しみだ。各エリアには隠しポータルや秘密のアイテム、まだ攻略していないダンジョンへの入り口が散らばっており、走り回るだけでも発見がある。エリアは「真のオープンワールドではない」が、それぞれが十分に広く、隅々まで探索しようとすると結構な時間がかかる。

特に氷河エリアのスノーボードは爽快そのものだ。魔法で召喚したボードで斜面を滑り降り、ジャンプ台を使って空中を舞う——そんなシーンが自然に生まれる設計になっており、単なる移動が一種のミニゲームのような楽しさを持っている。オーバーワールドでも各エリアの魔法が使えるため、森エリアでは竜巻に乗って高台に上り、普段は見えない場所にある隠しアイテムを発見するという探索の喜びもある。牧草地エリアでは鉄球を使って岩を壊して隠し通路を開けたり、沼エリアではゼリーキューブで足場を作って水面上の孤島に渡ったりと、エリアごとの魔法をフィールド探索にも応用できるのが楽しい。

隠しポータルの中にはオーバーワールドのかなり分かりにくい場所に配置されているものもあり、「あの崖の裏側に何かありそうだ」と直感が働いた時に実際にアイテムが見つかると、探索者としての満足感がぐっと高まる。収集要素として各エリアに散らばる「お土産品」や特殊素材もあり、これらを集めるとチャームの素材や装備のアップグレードに使えるため、寄り道がしっかり報酬として返ってくる仕組みだ。

ジャンプアクションがないこと(ジャンプボタンが存在しない)を批判するレビューもある。確かに崖際や段差での移動が若干もどかしく、「もう少し自由に動き回れれば」と感じるシーンはある。しかしゲーム全体を通して見ると、ジャンプがないことで魔法を使った移動の特別感が際立つという側面もある。コルムシュタインのスノーボードで滑空する瞬間の気持ちよさは、通常移動がやや地味であるからこそ引き立つ。竜巻で空中に飛び上がる森エリアも同様だ。

オーバーワールド上でも魔法を使った移動ができるため、エリアを切り替えながら探索しているうちに「次はどんなエリアの魔法だろう」とワクワクし続けられる。移動の操作感に慣れるまで少し時間がかかるが、慣れると快適に動き回れるようになる。SteamDeckHQのレビューでも「最初の1〜2時間は操作感に戸惑うが、システムを理解すると止められなくなる」と指摘されている。

ストーリーの深さ——観光地の光と影

Dungeons of Hinterbergのシナリオは、表面的には「バーンアウトした主人公の休暇での自己発見」だが、裏では「観光開発が地域に与える影響」という社会的テーマが走っている。

アレックスという地元の若者は、ダンジョンが町の主要産業になることをどこか誇りに思いながらも複雑な思いを抱えている。観光客向けのガイドとして働く彼は、自分の町が「消費される対象」になっていくことに居心地の悪さを感じている。一方でルイーザは「全てのダンジョンを攻略して消してしまいたい」という衝動と、「それは地元の人々の生活を壊すことになる」という葛藤の間で揺れる。

DualShockersのインタビューで開発チームは「政治的なステートメントを出したかったわけではない。でも観光の緊張関係を見せたかった」と語っている。町長はヒンターベルクを国際的に売り出そうとするが、その商業主義的な姿勢は時にコミカルに誇張されている。しかし「観光産業が地元経済にとって不可欠になっている」という彼女の指摘は正論であり、単純な悪役として描かれていないのがこのゲームの誠実さだ。

このゲームが面白いのは、「ダンジョンは消すべきか、残すべきか」という問いに対して明確な答えを出さないところだ。プレイヤーはさまざまなキャラクターと話すことで、それぞれの立場と論理を理解していく。最終的な決断もあるが、どちらが正しいとは言い切れない複雑さが残る。この「答えを出さない勇気」は、安易な善悪二元論に陥りがちなゲームシナリオの中では珍しく、プレイ後に考えさせられるものがある。

インディーゲームでここまで社会問題を丁寧に扱う例は少なく、RPGファンのあいだで「シナリオが予想以上に深かった」という感想が多く上がっているのも頷ける。Windows Centralのレビューでは「よく書かれたストーリーがパズルの多い冒険に彩りを添えている」と評されており、パズルとアクションだけでなくシナリオ面でも評価の高い作品だ。

「観光地のモブキャラだと思っていた人たちが、それぞれちゃんとした考えを持っていて驚いた。エンディングでしみじみとした。」

引用元:Steamレビュー

ルイーザ自身も「観光客」の一人だという自覚が物語の中で繰り返し突きつけられる。彼女はヒンターベルクにとって「外から来た人間」であり、ダンジョンを攻略することで地元の産業構造に加担している。その事実に向き合ったとき、ルイーザは——そしてプレイヤーは——「楽しんでいる自分」と「消費している自分」の間で揺らぐことになる。この居心地の悪さは、旅行先で「観光客向けの体験」を楽しみつつ「本当の現地の暮らしってこうじゃないよな」と感じたことがある人なら、痛いほど共感できるだろう。

DREDGE(ドレッジ)が漁業と怪異を組み合わせた独自の語り口で社会の暗部を照らし出したように、本作も「ダンジョン観光」というファンタジー設定を使って現代の問題を映している。どちらも「ジャンルの枠を超えた語り」を持つインディーゲームとして、共通する魅力がある。

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難易度設計と遊びやすさ

Dungeons of Hinterberg 氷エリアでの戦闘シーン

Dungeons of Hinterbergには3段階の難易度設定がある。「バケーションモード」は戦闘の難易度を大幅に下げ、パズルと探索、ストーリーに集中したい人向け。「ノーマルモード」はパズルと戦闘の両方をバランスよく楽しめる標準設定。「タフモード」はすべての要素が難しくなり、歯応えのある体験を求めるプレイヤー向けだ。

この3段階設定は「このゲームは誰のためのものか」という問いに対する開発チームの明確な回答になっている。バケーションモードの存在は、「パズルが好きだけど戦闘は苦手」という層を積極的に取り込む意志の表れだ。実際、Steamレビューの中にはバケーションモードでクリアしたプレイヤーのポジティブな感想も見られる。

パズルは考えれば解ける難度で、解けない場合は別のダンジョンに行ってから戻ると気づくことも多い。ダンジョン入り口に難易度表示(星マーク)があるため、今日の体力に合わせてプレイ量を調節できる。星1つのダンジョンは10〜15分程度で攻略でき、星3つ以上になると30分〜1時間かかることもある。この幅があるため、「今日は疲れているから軽めのダンジョン1つだけ」「時間があるから難しいやつに挑戦しよう」と柔軟に遊べる。

戦闘はボスを除けば大きく詰まることはなく、パズルで詰まってもアクション部分で発散できるバランスになっている。全体的に「ゆったりしたペースで楽しめるアクションRPG」として設計されており、仕事帰りの夜1〜2時間プレイして満足できる作りだ。

時間管理についてはやや不満の声もある。1日の行動が自動的に区切られるため、「もう少しダンジョンを探索したかったのに夜になってしまった」というケースが発生する。日程を厳密に管理する必要はないが、何かを取りこぼしていないかという焦りが皆無ではない。

ただしペルソナシリーズのような「このタームに行動しないと永遠に解放されないイベント」は少なく、ある程度は繰り返し挑戦できる構成になっている。ゲームオーバーで詰まることはなく、死んでもペナルティは軽いため、気楽に攻略を試せるのが嬉しい。GamesRadarのレビューでも「ラジカルな戦闘と穏やかな内省の瞬間を組み合わせた魅力的な冒険」と表現されており、緩急の付け方がこのゲームの真骨頂といえる。

プレイ時間とボリューム感

メインストーリー攻略のみであれば15〜20時間前後が目安だ。全25個のダンジョンを攻略しつつ、夜のイベントを充実させようとすると25〜30時間ほどになる。サブイベントやコレクション要素まで追うと30時間以上になる場合もあるが、無理に全収集しなくてもエンディングは見られる。Steamレビューで引用されているプレイ時間を見ると、20〜30時間程度でクリアしているユーザーが多いようだ。

PC(Steam・Epic Games Store)のほか、Xbox Game Passでも初日から利用可能だった。サブスクで試してからハマって購入したというプレイヤーも多い。2025年3月13日にはPS5版もリリースされ、New Game+モードや新たなボーナスエピソードを含む全コンテンツアップデートが適用された状態で遊べる。現在ではほぼ全プラットフォームで遊べる状態だ。

ボリュームとクオリティのバランスからすると、15〜30時間で一通りの体験が完結するこのスケール感は、忙しい社会人にとってはむしろ歓迎すべき長さだろう。Hogwarts LegacyやMetaphor: ReFantazioのような百時間規模のRPGは「始めたら終わらない」という不安がつきまとうが、Dungeons of Hinterbergなら「今週末と来週末で終わる」と見通せるのが気楽だ。

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New Game+と追加コンテンツ

2024年10月のアップデートでNew Game+(NG+)モードが追加された。NG+ではキャラクターとの関係性を引き継ぐか、すべてリセットして最初から築き直すかを選べる。引き継ぎを選んだ場合、1周目で獲得した関係性のマイルストーン報酬はインベントリに残る。

NG+限定の新要素として、ヒンターベルクの装備ショップにNG+でしか入手できない新しい剣と防具が並ぶようになる。ストーリーが進むにつれてさらに強力な装備が追加されていく仕組みで、1周目とは異なるビルドを試す楽しみがある。さらに、NG+限定の新しい関係パークも用意されており、1周目のパークとは異なる効果が得られる。

2025年3月のPS5版リリースに合わせて「秘密のボーナスエピソード」も追加された。詳細はネタバレ防止のため伏せるが、1周目のエンディング後に解放されるこの追加ストーリーは、本編では語りきれなかったキャラクターの掘り下げに踏み込んでおり、2周目のモチベーションを高めてくれる。

NG+を含めた総プレイ時間は50〜60時間程度。この規模のインディーゲームとしてはかなりのボリュームだ。ただし2周目は1周目と同じダンジョンを再攻略することになるため、「同じパズルをもう一度解く」ことに抵抗がある人には向かないかもしれない。NG+では装備面での変化があるため戦闘面での新鮮味はあるが、パズルのギミック自体は変わらない点は留意しておきたい。1周目で見逃したキャラクターイベントや、関係レベルを最大にできなかったNPCとの交流を2周目で補完するという楽しみ方もある。

Steamコミュニティでは「NG+とルノーのエピソードの感想」というスレッドが立っており、2周目をプレイしたユーザーからは「1周目では気づけなかったセリフの伏線に気づいた」「違う装備ビルドで戦闘の印象がかなり変わった」といった前向きな意見が見られる。1周だけでも十分に満足できるが、気に入ったならNG+で2周目に挑む価値はある。

ポジティブな評価の声

Steamレビュー94%ポジティブ(レビュー数1,389件)、Metacritic平均81点(57媒体中87%が推薦)という数字が示す通り、本作は批評家・ユーザーの双方から高い評価を得ている。評価されている理由は大きく3点に集約される。

まず「25個のダンジョンが全て異なる体験を提供している点」は複数のレビューが共通して挙げる強みだ。同じパターンを繰り返さず、エリアごとの魔法を活用した設計が「終盤まで飽きない」という感想につながっている。カメラ視点の変化やエリアごとの魔法の違いによって、25個すべてが独自の体験を提供しているのは、インディーゲームとしては驚異的な作り込みだ。

次に「社交パートとダンジョン攻略の相互強化」だ。友人から学んだスキルを使って新しいダンジョンを攻略できた時の達成感は、単純なレベルアップとは異なる手触りがある。「人と仲良くなること」がゲームプレイに直結する設計は、Hogwarts Legacyのような大作ARPGと差別化される本作ならではの魅力だ。

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そして「テーマとゲームプレイの一致」。バーンアウトした主人公が休暇でのんびり冒険するというテーマが、ゲームプレイの緩やかなペースと美しい風景にそのまま反映されている。プレイしているだけで「休日にのんびり旅している」気分になれる設計は、他ではなかなか体験できない。LadiesGamersのレビューでは「奇妙なほどリラックスできるゲームで、世界もキャラクターも”気楽な”生き方をにじみ出している」と評されており、この「休暇感」がゲーム全体のトーンを支えている。

「25個のダンジョンが全て違うメカニクスを持っていて、最後まで驚きが続いた。こういうゲームを待っていた。」

引用元:Steamレビュー ユーザー:chillow88(プレイ時間26時間)

「巧みなパズル、満足感のある戦闘、魅力的なアルプスの舞台。すべての瞬間が洗練されていて没入感がある。」

引用元:Steamレビュー

気になる点と正直な批評

94%という高いポジティブ率とは裏腹に、批判的な意見も存在する。正直に取り上げておく。

最も多い批判は「操作感の違和感」だ。ジャンプボタンがないことで段差の移動がぎこちなく、特にダンジョン内の細かい足場での操作が「もどかしい」と感じるケースがある。移動速度が遅め(特に登り動作)という指摘も複数ある。Steamコミュニティのフォーラムには「戦闘が硬く感じる」というディスカッションスレッドが立っており、操作のレスポンスに不満を持つプレイヤーは一定数いる。

次に「戦闘の単調さ」。魔法とアクションを組み合わせた設計は面白いが、後半になっても戦闘パターンが大きく広がらないため、アクションRPGとしての深みを求めると物足りなさを感じる。Play Criticallyのレビューでは「心温まるストーリーが野蛮なダンジョン攻略に温かみを添えているが、不器用な戦闘と繰り返しのパズルが魔法を鈍らせる」と指摘されており、戦闘面の評価は分かれるところだ。

「ダンジョン数が多すぎる」という声も少なくない。1回のプレイで全25個をすべて楽しみきれない人もおり、後半に中だるみを感じるという意見がある。特に4つ目のエリア(沼地帯)あたりから「早くエンディングを見たい」という気持ちと「でも全部やらないと」という義務感が生まれるプレイヤーもいた。ここは「全ダンジョン攻略はメインストーリークリアに必須ではない」という情報をゲーム内でもう少し明確に伝えてもらえると良かったかもしれない。

「NPCとの会話選択の自由度が低い」点も指摘されている。会話選択肢はあるが、結果に大きな差が生まれにくく、「選んでいる感」が薄い場面がある。ペルソナのような深い分岐を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。ただ、これも「15〜30時間のスケール」という制約の中での設計判断として理解できる範囲だ。

「良いゲームなのはわかるんだけど、ジャンプできないのがどうしても気になって集中できなかった。ダンジョン移動がつらくなってきた。」

引用元:Steamレビュー ユーザー:DJForgotten(プレイ時間2時間)

最初の2〜3時間で操作感が合わないと感じた場合は、そのまま続けても改善しにくいかもしれない。逆に「最初は気になったが慣れたら楽しくなった」という声も多いため、5〜6時間を目処に判断するのが良さそうだ。SteamDeckHQのレビューでも「序盤を乗り越えると印象が変わる」と指摘されている。

開発チームMicrobird Gamesについて

Dungeons of Hinterberg トロッコに乗るシーン

Microbird Gamesはオーストリアを拠点とするインディースタジオで、共同創設者のレジーナ・ライジンガーとフィリップ・ザイフリートが率いている。Dungeons of Hinterbergは彼らのデビュータイトルであり、開発は2020年から始まった。ザイフリートはXboxEraのインタビューで「4年間、本当にきつかった」と振り返っており、「自分たちの規模のチームでこれほど大きく野心的なプロジェクトに取り組むのは珍しいだろう」とも語っている。

小さなチームが4年以上をかけて丁寧に仕上げたゲームだということは、プレイしていると随所に感じられる。25個のダンジョンがすべて異なるメカニクスを持ち、4つのエリアがそれぞれ独自の魔法と風景を備え、10人以上のNPCがそれぞれ個性的な背景を持つ——この規模の作り込みを少人数で実現するのは容易なことではない。

ゲームの舞台がオーストリア・アルプスである理由もここにある。開発チームが「自分たちの目の前にある景色」をゲームに落とし込んだのがヒンターベルクであり、架空の町でありながら「オーストリアらしさ」がにじみ出ている。ハルシュタットの木組みの家々、氷河トレッキングの爽快感、森の中の静かな湖——実際の地域文化への敬意が感じられる世界観設計だ。開発チームは「ゲームの中のバイオームはオーストリアに実在する風景にインスパイアされている。そしてヒンターベルクの村は架空だが、ハルシュタットやバート・ガスタインのような場所から着想を得た」と具体的に説明している。

パブリッシャーのCurve Gamesも近年インディー作品を積極的に世に送り出しており、DREDGEやHuman Fall Flatなどヒット作を擁するレーベルだ。Microbird Gamesのデビュー作がこれだけのクオリティであることを考えると、次回作への期待は自然と高まる。

Fields of MistriaやBlue Princeと比べると

同時期にSteamで話題になったインディーゲームとの比較をしてみると、本作の立ち位置がよりクリアになる。

Fields of Mistriaは農業と魔法の街づくりが中心で、ゲームの軸は「住民との関係を深めつつ街を育てる」こと。昼夜サイクルという構造は似ているが、戦闘よりも日常的なスローライフを楽しむ側面が強い。「のんびり系が好きだけど、もう少し冒険要素も欲しい」と感じたなら、Fields of MistriaからDungeons of Hinterbergへの移行はスムーズだろう。逆に「アクションはいらないからとことんスローライフがしたい」ならFields of Mistriaのほうが合う。

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一方のDungeons of Hinterbergはダンジョン攻略とパズル解きを軸に持ちつつ、夜の社交を補助的に組み合わせている。「しっかりアクションを楽しみながら、合間に人と話したい」というニーズに応えるゲームだ。

Blue Princeはパズル特化型のゲームで、1回のプレイが比較的短く完結する構造を持つ。パズルの質で勝負するという意味では共通するが、人間関係やストーリーの比重はDungeons of Hinterbergのほうが圧倒的に大きい。純粋にパズルだけを楽しみたいならBlue Prince、パズル+ストーリー+キャラクターの総合体験を求めるならDungeons of Hinterbergという住み分けだ。

「パズルとアクションの組み合わせが好きで、さらに人間ドラマも欲しい」という欲張りなニーズに応えてくれるインディーRPGは珍しく、そこにDungeons of Hinterbergの独自性がある。ゼルダの伝説とペルソナシリーズの「いいとこ取り」をインディーゲームのスケールで実現したのがこの作品であり、どちらか一方のファンだけでなく、両方のファンに響く作品だ。

日本語対応と推奨環境

テキスト・UIは完全日本語対応している。ローカライズの質も高く、翻訳が不自然に感じる部分はほぼない。ボイスは英語のみだが、日本語字幕が常時表示される形式なので言語の壁は感じにくい。キャラクター名や地名も自然な日本語表記になっており、ファンタジー用語の訳出にも違和感がない。

推奨スペックは「i5-7600K / GTX 970 / 12GB RAM」と控えめで、5〜6年前のミドルレンジPCでも十分プレイできる。Steam Deck環境でも動作確認されており、SteamDeckHQではパフォーマンスレビューも公開されている。携帯モードでのプレイにも対応しているため、通勤や移動中にプレイしているユーザーも多い。ゲームパッド推奨だが、マウス&キーボードでのプレイも可能だ。ただし操作感の面ではゲームパッドのほうが快適という声が多い。

PC以外では、Xbox Series X|SおよびXbox Game Passで初日からプレイ可能。2025年3月13日にはPS5版もリリースされた。PS5版にはNew Game+を含む全アップデートと新規ボーナスエピソードが同梱されている。PS5版はSuper Rare Gamesからフィジカル版(パッケージ版)も発売されており、コレクター向けの選択肢もある。

操作面では、DualSenseコントローラーのハプティックフィードバックやアダプティブトリガーへの対応についてはPS5版の大きな売りとしては公式に打ち出されていないが、基本的な操作性はPC版と同等で快適だ。ゲームの性質上、常に精密な操作を要求されるわけではないため、どのプラットフォームでも大きな差は感じにくい。「どの環境で遊ぶか」より「自分が今アクセスしやすい環境」で始めるのが一番だろう。

Metacritic 81点、Steamユーザーレビュー94%ポジティブという数字は、グラフィック重視の大作ゲームと比較する指標としてではなく、「このインディー作品のジャンル内での水準」として見るべきものだ。Hogwarts LegacyやMetaphor: ReFantazioのような百時間規模のRPGとは違い、15〜30時間でエンディングまで楽しめるコンパクトさが一つの魅力でもある。

まとめ——バーンアウトした人へのゲームからのギフト

Dungeons of Hinterbergは「完璧なゲーム」ではない。ジャンプのなさ、戦闘の単調さ、終盤の中だるみ——指摘する点はいくつかある。しかしそれを差し引いても「プレイしてよかった」と感じさせる作品だ。

ルイーザが会社を離れてオーストリアの山へ逃げ込んだように、プレイヤーはゲームを起動することで日常を一時離れてヒンターベルクに「旅行」できる。美しい山岳の景色の中でパズルを解き、夜に誰かと話し、翌日また新しいダンジョンへ向かう——そのサイクルが持つ穏やかな充実感は、ゲームが持てる喜びの一つだと感じさせてくれる。

このゲームの真価は、「すべてが一貫している」ことにある。バーンアウトというテーマ、ゆったりしたゲームペース、美しい風景、解決可能なパズル、気楽な人間関係——すべてが同じ方向を向いていて、プレイヤーに「休暇」を体験させるという一つのゴールに向かって機能している。パーツ単位で見れば戦闘は単調かもしれないし、NPCの選択肢は限られているかもしれない。しかし全体として見ると、これ以上ないほど調和のとれた体験が待っている。

「バーンアウトした人間が休暇でダンジョンに潜る話」というコンセプトは、ゲームのシステム設計と完全に一致している。プレイしているうちに自然と「今日はここまでにしよう」「明日また続けよう」という気持ちになれる——そういう意味で、開発チームのMicrobird Gamesはやりたいことをやりたいように実現できたと言っていいだろう。共同創設者のザイフリートが語った「4年間のきつい開発」の末に生まれたこの作品は、その苦労に十分見合う成果を上げている。

ゼルダ的な謎解きが好きで、ペルソナ的な人間関係システムに興味があって、しかも仕事疲れで少し肩の力を抜きたいと思っている人——そんな人に特におすすめしたい一作だ。Xbox Game Passでも遊べるため、サブスク加入者はまず試してみてほしい。ゲームを終えた後、ヒンターベルクの山々がふと恋しくなる——そんな「また帰りたい場所」を心の中に作ってくれるゲームだ。

Vallen

Rader Games
リリース日 2023年3月24日
早期アクセス
価格¥580
開発Rader Games
日本語非対応
対応OSWindows
プレイ形式シングル
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