「姫を殺せ」——ゲームを起動して最初にナレーターからそう告げられたとき、正直言って戸惑った。なんでそんなことをしなければならないのか、理由も文脈もない。ただ木の小屋があって、地下へ続く階段があって、その先に姫がいる。そしてナレーターは「彼女を生かしておくと世界が終わる」と言う。信じる理由もなければ、疑う根拠もない。
最初の選択はシンプルだった。階段を降りる——それだけ。でもその一歩が、こんなにも深い場所へ引きずり込まれるとは思っていなかった。Slay the Princessは、ホラーゲームの皮を被った哲学的問答だ。プレイを終えたあと、しばらく椅子から立ち上がれなかった。
この記事はこんな人に読んでほしい
- ビジュアルノベルに「物語の深さ」を求めている人
- 選択肢が本当に意味を持つゲームを探している人
- ホラーは苦手だけどサイコロジカルなストーリーが好きな人
- 「Undertale」「ドキドキ文芸部」系のメタ構造が好きな人
- 周回プレイで全貌が見えるタイプのゲームを楽しめる人
Slay the Princessとはどんなゲームか

Slay the Princessは、2023年10月23日にBlack Tabby Gamesがリリースしたサイコロジカルホラー / ビジュアルノベルだ。開発者はJonathan Yonahson(ゲームデザイン・プログラム)とScarlett Smullin(ライティング・アート)の2人組。インディースタジオながら、Steam評価は「圧倒的に好評(97%超)」という驚異的な数字を叩き出した。
ゲームの構造は一見シンプルに見える。プレイヤーは小屋の地下で姫を見つけ、その運命を決める選択肢を繰り返す。だが実際にプレイすると、選択のたびに姫の形態が変わり、ナレーターとの関係が変化し、物語の「真実」が少しずつ書き換えられていく。1周は30〜60分程度だが、複数のルートを経て真エンディングに至るまでに4〜8時間はかかる。
このゲームが単なるホラーVNではない理由は、「選ぶ」という行為そのものを問い直す構造にある。プレイヤーが何を選んでも、それは姫の「別の側面」を引き出すだけであって、逃れることはできない。かつ、それを選ばせているナレーターとは何者なのか——という問いが、ゲームの核心に据えられている。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | Slay the Princess |
| 開発・発売 | Black Tabby Games |
| 発売日 | 2023年10月23日 |
| ジャンル | サイコロジカルホラー / ビジュアルノベル |
| Steam App ID | 1989270 |
| 対応プラットフォーム | PC(Steam / GOG) |
| プレイ時間目安 | 4〜8時間(全ルート制覇) |
| 日本語対応 | テキスト日本語対応あり |
| Steam評価 | 圧倒的に好評(97%超、2万件以上のレビュー) |
| 価格 | 2,050円(定価) |
「姫を殺せ」という衝撃的な始まり

ゲームを起動すると、プレイヤーは森の中の小道に立っている。そしてナレーターの声が語りかけてくる。「あなたは勇者だ。小屋の地下に姫が閉じ込められている。彼女を殺さなければならない。さもなくば世界が終わる」——それだけだ。
なぜ殺さなければならないのか、誰が世界を終わらせるのか、そもそもナレーターは誰なのか。何も説明されない。この不条理な導入は意図的で、プレイヤーに「とりあえず従う」か「従わない」かという原初的な選択を迫る仕掛けになっている。
初プレイでは多くの人が素直に階段を降り、鎖で繋がれた姫を見つける。そこで短剣を手に取るか取らないか——この判断が、第一のルートを決定する。短剣を取れば剣幕の違う展開が待ち、取らなければ別の緊張感が生まれる。いずれにしてもゲームは「正解」を用意していない。
「最初の画面で『これは何かおかしい』と思ったのに、結局ナレーターの指示通りに動いていた自分に気づいて少し怖くなった」
— Steamレビューより
この体験は、ゲームが問いかけ続ける中心テーマとつながっている。「権威ある声に従うことと、自分で考えることの間で、人はどちらを選ぶのか」。ナレーターを信じて姫を殺すことも、反抗して姫を助けることも、どちらも物語の中では等価な選択として扱われる。
プレイヤーの選択が世界を変える分岐構造

Slay the Princessの分岐は、一般的なVNの「選択肢→バッドエンド/グッドエンド」という構造とは根本的に異なる。各プレイスルーで生まれた「声(Voice)」が蓄積され、次のプレイに影響を与える仕組みになっている。
具体的には、姫への対応によって自分の中に「臆病者の声」「英雄の声」「崇拝者の声」「復讐者の声」などのサブキャラクターが生まれる。これらの声はその後のプレイで選択肢として現れ、プレイヤーの判断に影響を与える。つまり、過去の自分の選択が現在の選択肢を変えるという構造だ。
この仕組みがあるため、1周目に「完全に従順」なプレイをした場合と、「完全に反抗」したプレイをした場合では、2周目以降の選択肢の幅が変わってくる。どこか育成ゲームに似た感覚だが、育てているのはキャラクターではなく「自分の内なる声」だ。
「周回するたびに新しい選択肢が解放されて、自分の中にいる複数の人格が会話しているみたいな感覚になる。これはVNの革命だと思う」
— Steamレビューより
真エンディングに到達するには、姫のほぼすべての形態を体験する必要がある。これはゲームがプレイヤーに「全部見ろ」と要求しているというより、全部見ないと全貌が理解できない構造になっているということだ。1つの姫ルートを見ただけでは、このゲームの問いに答えられない。
同じく選択の重みとルートの多様性で語られるゲームとして、こちらも読んでほしい。テキストと選択で構築された世界観という点で、Slay the Princessと通じる体験がある。

姫の多様な形態——The Princess, The Witch, The Tower, The Beast

Slay the Princessで最も語られるのが、姫の多様な「形態」だ。プレイヤーの対応によって、姫は全く異なる存在へと変貌する。確認できた主な形態だけでも10種類以上ある。
The Prisoner(囚人)——デフォルトの姫。鎖で繋がれ、静かに座っている。プレイヤーの初期選択次第で別の形態に変化する。
The Witch(魔女)——プレイヤーが姫を攻撃しようとした場合に現れる形態。魔力を持ち、プレイヤーを罠にはめようとする。赤い目と鋭い表情が特徴的で、アートワークの中でも特に印象的な一枚だ。
The Nightmare(悪夢)——プレイヤーが恐怖を選択したときに現れる。会話のたびに不安感が増幅されていく演出は、ホラーゲームとしての本領を発揮した形態だ。
The Tower(塔)——非常に珍しい形態で、抽象的な存在として描かれる。この形態に至るルートを発見したとき、ゲームの規模の大きさを実感した。
The Adversary(敵対者)——姫がプレイヤーを完全な敵として認識したときに現れる。戦闘要素が加わり、ゲームの雰囲気が大きく変わる。
The Shade(影)——対話を重ねることで生まれる、謎めいた形態。この形態の姫との会話は、ゲームの哲学的テーマが最も露わになる瞬間だ。
それぞれの形態は単なるビジュアルの違いではなく、プレイヤーが姫に対して持った感情や意図の具現化だ。恐怖すれば恐ろしい存在が現れ、愛せば別の顔を見せ、憎めばまた別の姿になる。これがゲームの核心的なメカニクスと連動している。
「The Witchルートのアートが怖すぎて夜中に叫んだ。でも次の朝また起動したくなった。この矛盾した感情が楽しい」
— Steamレビューより
ナレーターとの対話——もう一人の自分との闘い

Slay the Princessの最大の特徴は、ナレーターがただの語り手ではないことだ。プレイを進めると、ナレーターはプレイヤーの選択に反応し、時に驚き、時に怒り、時に懇願する。まるで意思を持った存在のように振る舞う。
特に印象深かったのは、ナレーターの指示を無視し続けると、ナレーターが「なぜ従わないんだ」と困惑し始めるシーンだ。この瞬間、ゲームとプレイヤーの関係が逆転する。通常、ゲームを作った側(開発者・ナレーター)がシステムを決め、プレイヤーはそれに従う。しかしこのゲームでは、その「従う/従わない」という関係性自体が物語の主題になっている。
ナレーターは「合理的に考えれば姫を殺すべきだ」と何度も語る。それは一見正論に聞こえる。でも「合理的な判断」を誰かから押し付けられたとき、それは本当に自分の判断なのか——このゲームはそこを問い続ける。
「ナレーターが自分の選択に驚いた瞬間、『あ、このゲームは自分を試してたんだ』と気づいた。ゲームに意図を見抜かれた感覚」
— Steamレビューより
声優の演技も重要で、ナレーター役の声優は非常に巧みに「信頼できる語り手」と「疑わしい存在」の間を行き来する。最初は落ち着いた案内人のように聞こえるが、周回を重ねると同じセリフに全く違うニュアンスを感じるようになる。
「信頼できない語り手」という技法が持つ力という点では、SOMAも同様だ。あちらは「意識とは何か」「自分が自分であることの根拠」を問い、プレイヤーに存在の不確かさを突きつける。ナレーターという存在を疑い始める感覚に、共通するものがある。

手描きアートワークが生む圧倒的な没入感

Slay the Princessのビジュアルは、AIやデジタルツールに頼りきったものではなく、Scarlett Smullinが実際に手描きしたイラストをベースにしている(後述する経緯がある)。この選択がゲームの雰囲気と完璧にマッチしていた。
鉛筆で描いたような線のタッチ、わずかな陰影の揺らぎ、表情の微妙な変化——これらが合わさると、姫が「絵の中のキャラクター」ではなく「何か生きたもの」として見えてくる。特に姫が変形する瞬間の描写は、CGにはない有機的な怖さがある。
背景も同様で、森の暗がり、小屋の内部、地下の牢獄——すべてが一貫した手描き感で統一されている。この世界に「セーフゾーン」はない。どこを見ても、同じ不安な筆致が続く。これが心理的な圧迫感を途切れさせない効果を生んでいる。
姫の各形態のビジュアルは、その形態のテーマと緊密に連動している。The Witchの赤い眼光、The Towerの抽象的な幾何学、The Shadeの曖昧な輪郭——それぞれが、テキストなしでそのキャラクターの本質を伝えてくる。
「このアートスタイルがなければここまでハマらなかったと思う。ゲームエンジンの3Dだったら同じ恐怖感は出せなかった」
— Steamレビューより
独特のビジュアルが世界観の核になっているゲームという観点では、白黒のビジュアルで謎を描き出すLorelei and the Laser Eyesも同様だ。色彩の制限が逆に想像力を刺激する体験を持つ作品だ。

ボイス演技が物語を半分作っている

Slay the Princessは、テキストだけでなくフルボイスで全編が演じられている。そしてこれが単なるオプションではなく、ゲーム体験の根幹になっている。
姫を演じる声優(Jonathan Yonahsonの妻でもあるCharlie Gu)は、形態ごとに完全に異なる声質とトーンを使い分ける。The Prisonerの穏やかさ、The Witchの険しさ、The Shadeの儚さ——同じ人物が演じているとは思えないほどの振れ幅だ。この多様な演技があってこそ、10以上の形態がそれぞれ独立したキャラクターとして機能している。
ナレーターを演じる声優もすばらしい仕事をしていた。序盤の「信頼できそうな語り手」から、周回を重ねるごとにじわじわと見えてくる「別の何か」——この変化を台詞の内容だけでなく声のトーンで表現している。特定のセリフを何度も聞くうち、最初は聞こえなかったニュアンスに気づいたときの驚きは格別だった。
インディーゲームでここまでの演技クオリティは珍しい。おそらくBlack Tabby Gamesが音声キャストに相当なリソースを投じたはずだ。声優の演技とScarlettのテキストが融合して、はじめてこのゲームの感情的な深みが生まれている。
「姫の声を聞くために何度も同じルートを選んでしまう。怖いのに、また聞きたくなる。中毒性がある」
— Steamレビューより
Scarlett Smullinのライター能力——テキストが作る心理的圧迫
Slay the Princessのストーリー・テキストを書いたのはScarlett Smullinだ。アートも兼任しているが、このゲームの評価はほぼScarlettのライティングで決まっていると言っていい。
特筆すべきは、選択肢のテキストだ。多くのゲームで選択肢は「A:攻撃する / B:逃げる」のように機能的に書かれる。しかしこのゲームの選択肢は、プレイヤーの内面を描写する文章になっている。「剣を手に取る——彼女を傷つけることへの罪悪感を押しのけながら」「扉を閉める——彼女を信じることを選んだわけではない、ただ確かめたかっただけだ」というように。
この選択肢の書き方には2つの効果がある。1つは、プレイヤーが選択する行為を「主人公の内面体験」として感じられること。もう1つは、選択肢を読むだけで自分が何を考えているかが可視化されること。Scarlettは選択肢を通じて、プレイヤーの心理をゆっくりと解剖していく。
メインテキストも秀逸だ。姫との会話は、最初は不自然なほど穏やかで、それが徐々に崩れていく。この崩壊の速度とタイミングが精密にコントロールされていて、「怖い」と感じた次の瞬間に「かわいそう」と感じ、その次に「自分が何かを壊した」という罪悪感が来る——この感情の波が、プレイヤーをゲームに縛り続ける。
「選択肢のテキストだけで泣きそうになった。選ぶ前から気持ちがわかる文章の巧みさが尋常じゃない」
— Steamレビューより
ホラーとロマンスが矛盾なく共存する世界観

Slay the Princessをホラーゲームと紹介されて手に取ると、最初は拍子抜けするかもしれない。血飛沫や飛び出す恐怖ではなく、心理的な不安感が主体だからだ。しかし同時に、このゲームにはロマンス要素が確かに存在している。
姫との関係は、対応次第で憎悪にも愛情にも変わる。「崇拝者の声」ルートでは、姫への一種の崇拝感が強まり、普通のVNのロマンス展開に近い感情が生まれる。「英雄の声」ルートでは、守護者としての責任感と愛情が混在する。これらの感情は決してホラー要素と矛盾しない——むしろホラーと融合することで増幅される。
日常的なホラーの文法では、愛着を持ったキャラクターが死ぬことで恐怖が増す。このゲームでは、姫への感情が深まるほど、その姫を傷つける選択肢の重みが増す。プレイヤーはゲームシステムとして選択を迫られながら、感情的にはその選択を拒否したくなる——この葛藤がゲームの核だ。
「ホラーとコージーな感情が同居している」という体験では、異なる文脈でDREDGEも同様の感覚を持っていた。釣りのほのぼのと海の不穏が共存する、あの独特の気持ち悪さに通じるものがある。

周回プレイの魅力と真エンディングへの道
多くのVNで「周回プレイ」は攻略のためだが、Slay the Princessでの周回は意味が違う。前述の「声(Voice)」システムにより、各ルートを経験することがそのまま物語の構成要素になっているからだ。
1周目:ナレーターに従うか、反発するか。この基本的な分岐でいずれかの姫形態を体験する。
2周目以降:前回の体験で生まれた「声」が選択肢に加わる。より複雑な判断ができるようになる。
全形態制覇後:真エンディング「The Long Quiet」への道が開く。
真エンディングは、それまでのすべての体験を回収する内容だ。具体的なネタバレは避けるが、「なぜ同じことが繰り返されるのか」「ナレーターは何者なのか」「姫は何を求めているのか」という問いすべてに答えが出る。そしてその答えは、すべての周回を経験していないと感情的に響かない構造になっている。
「真エンディング見て涙が止まらなかった。怖かったはずなのに最後はこんな感情になるとは思わなかった」
— Steamレビューより
「全ルートやった後で最初の場面を見返すと全く違う意味に見える。こういう構造の緻密さがたまらない」
— Steamレビューより
周回プレイで世界の全貌が明らかになるという体験は、Balatraの「繰り返しの中に発見がある」という快感とは全く異なるが、「また始めたくなる」という中毒性という点では共鳴する部分がある。

「繰り返しプレイによって物語の意味が変わる」という設計は、言語と解読をテーマにしたChants of Sennaarにも感じた。1回目はわからなかったことが2回目には突然つながる、あの感覚に近い。

Steamでの評価と受賞歴

Slay the PrincessのSteam評価は、2024年時点で「圧倒的に好評」97%超を維持している。2万件以上のレビューでこの数字は、インディーゲームの中でも屈指の評価だ。比較すると、Undertaleは同程度の評価を持つが、あちらは10年近い時間をかけて積み上げた数字だ。Slay the Princessは発売から1年で同水準に到達した。
受賞歴も充実している。2023年のIndie Game of the Yearを複数メディアで受賞し、Game Developers Choice AwardsではBest Narrative部門にノミネートされた。インディーゲームの賞レースで常連になっているThe Game Awardsでも評価された。
批評家の評価も高く、Metacriticスコアは90点台を維持。特に「ナラティブデザイン」と「選択の意味付け」の評価が高く、「ビジュアルノベルジャンルに新しい可能性を示した」という論調が多かった。
日本語コミュニティでの反応も早かった。発売から数ヶ月で日本語有志翻訳が登場し(後に公式対応)、日本語圏のプレイヤーからも「いかがでしたか系じゃない本物のVN」として評価された。
「今年やったゲームの中で一番頭を使った。頭を使ってるのに疲れない、それがすごい」
— Steamレビューより
Black Tabby Gamesとは——2人の独立開発者
Black Tabby GamesはJonathan YonahsonとScarlett Smullinの2人によるインディースタジオだ。Slay the Princessの前作は「Scarlet Hollow」(2021年〜)というホラーVNシリーズで、こちらも高評価を受けている。
2人の役割分担は明確で、Jonathanがゲームデザインとプログラミングを担当し、ScarlettがライティングとアートワークのほぼすべてをSlay the Princessで手掛けた。2人体制でこれだけのボリューム(10種以上の姫形態、2万語超のテキスト、フルボイス)を実現したのは驚異的だ。
ただし開発中には困難もあった。AIイラスト問題が最も知られている。リリース前にゲームのプロモーション素材の一部にAI生成画像が使われているとして批判を受けた。ScarlettはすぐにSNSで謝罪し、手描きへの完全切り替えを表明。実際に発売版では全素材が手描きになった。この対応の誠実さがプレイヤーからの信頼を得ることに繋がったと思う。
Slay the Princessの成功後、Black Tabby GamesはScarlet Hollowシリーズの続きと、新規プロジェクトの開発を続けている。小さなスタジオながら、着実にファンベースを広げているチームだ。
「癒し」を求める場所と「不安」の居場所——対比として
Slay the Princessをプレイして感じたのは、このゲームが精神的にタフであるという点だ。選択の重さ、ナレーターとの対峙、姫との複雑な関係——これらは楽しさと同時に、じわじわとした疲労感をもたらす。
だからこそ、プレイ間のクールダウンとして「癒し系」ゲームの存在価値が高まる。Wanderstopは元戦士が茶屋を営むという設定で、休息そのものをテーマにした作品だ。Slay the Princessと交互にプレイすると、両方の体験が際立つ。

「選択が重い」という感覚は、Alan Wake 2のように物語とゲームシステムが密接に絡み合う作品でも味わえる。ただし方向性は全く異なる——あちらはアクション主体で、Slay the Princessは内省主体だ。

このゲームに向いている人・向いていない人

Slay the Princessは万人向けではない。正直に向き不向きを書く。
強くおすすめできる人:
- 「選択することの意味」を問うゲームが好きな人。Undertaleや弟切草のような「何を選ぶかが物語になる」作品が好きなら確実に刺さる
- ホラーよりも「不安感」が好きな人。飛び出す恐怖はほぼない。あるのは心理的な圧迫と不確実性だ
- 周回プレイが苦にならない人。1ルートは短いが、全体像を見るには複数回プレイが必要
- 声優の演技に敏感な人。この作品の音声演技は本当に素晴らしく、テキストと声が合わさる体験は格別だ
- メタ構造が好きな人。「ゲームとプレイヤーの関係」自体が物語の主題になっているタイプ
合わないかもしれない人:
- アクション要素を重視する人。戦闘はほぼなく、ゲームプレイの大半は読書と選択だ
- 1本道の明確なストーリーを求める人。「正解のない選択」が連続するため、消化不良感を覚えることがある
- グロテスクな描写が完全NGな人。流血場面は多くないが、一部の姫形態には強烈なビジュアルがある
- ゲームに「明るい気分」を求めている人。このゲームは後味が軽くない
「VNが苦手な人にはオススメしにくいけど、好きな人にはほぼ全員ハマると思う。ジャンルの最高峰の1つ」
— Steamレビューより
選択の意味とは何か——Slay the Princessが残した問い
Slay the Princessをプレイし終えて、しばらく「選択」について考えていた。日常生活の中でも、誰かの言葉に従うとき、自分で決断するとき——このゲームが問い続けた問いと同じ構造が、現実にも無数にある。
「姫を殺せ」という命令に始まり、真エンディングに至るまでの道のりは、「人はなぜ選ぶのか」「選択は本当に自由なのか」「自分が選んでいると思っているとき、本当に自分が選んでいるのか」という問いへの一つの答えを提示している。その答えが何なのかは、ぜひ自分でたしかめてほしい。
ゲームが終わった後、最初の場面——森の小道とナレーターの声——をもう一度見返した。同じ台詞が、全く違う意味に聞こえた。それだけで、このゲームが本物だとわかる。
まとめ——2023年インディーシーンの金字塔
Slay the Princessは、「選択の意味」を問い続けるサイコロジカルホラーVNだ。2人の開発者が作ったとは思えないテキストの密度、形態ごとに全く変わる姫のキャラクター、ナレーターとプレイヤーのメタ的な対話、そして全ルートを経て初めて完成する物語——どれをとっても2023年のインディーゲームの中で最も語るべき作品の1つだ。
怖いのに惹きつけられる、重いのに先が気になる、終わってもまた始めたくなる——そのすべての矛盾を内包したまま、このゲームは成立している。それがScarlettのライティングとBlack Tabby Gamesの開発姿勢の賜物だと思う。
Steamで価格は2,050円。1周30〜60分で全ルートに4〜8時間。このコストパフォーマンスと物語体験の密度を考えると、VN好きにとっては最優先でプレイすべきタイトルだと断言できる。「姫を殺すゲーム」という看板に怯んでいる人こそ、一歩踏み出してほしい。その先に待っているものは、想像を超えている。
Slay the Princess — こんな人におすすめ
- 選択に意味があるVNを探している
- ナラティブデザインに興味がある
- 1〜2時間のセッションを複数回楽しめる
- 感情的に揺さぶられる体験を求めている
