「The Weeping Swan」狂気と歴史が交差する中国製ダークビジュアルノベル

The Weeping Swan: Ten Days of the City’s Fall|狂気と歴史が交差する中国製ダークビジュアルノベル

「扬州十日(揚州の十日間)」という言葉を知っているだろうか。1645年、清朝の征服軍が揚州を陥落させた後の10日間で起きた大虐殺のことだ。城市に取り残された市民が次々と命を落とし、目撃者が書き残した記録は長らく禁書とされ、300年近く表舞台に出ることがなかった。

The Weeping Swan: Ten Days of the City’s Fallは、その歴史的惨劇を舞台に描かれるビジュアルノベルだ。ただしこれは単なる歴史ゲームではない。主人公の学者・方志游(ファン・ジーヨウ)が自分で書いた暗黒小説「獅駝国(ライオン駱駝王国)」の世界に迷い込み、現実の清軍と幻覚の魔物が入り混じった悪夢の10日間を生き延びようとする、歴史×ダークファンタジー×心理ホラーが合わさった特異な作品だ。

2026年4月2日にSteamで正式リリースされ、リリース直後から話題を集めた。開発したのは、中国インディーゲーム界で100万本超えのヒット作「The Hungry Lamb: Traveling in the Late Ming Dynasty(飢えた仔羊)」を世に送り出したZerocreationGames。前作の圧倒的な人気を受けて生まれた続編的位置づけの本作は、テキスト量が前作の1.8倍という規模を誇る。

Steamレビュー数は4,700件超え、評価は「賛否両論(Mixed)」で肯定的レビューが64%。GameGrinが75点、Game8が88点と、批評家の間でも評価が割れている。前作「The Hungry Lamb」が圧倒的好評を維持し続けていることを考えると、賛否が割れた理由が気になるところだ。この記事では、ゲームの魅力と問題点を両方正直に書いていく。

最初にはっきり言っておく。このゲームは「遊べばわかる」という体験をする前に、少し覚悟と文脈の準備が必要なタイプの作品だ。題材は重く、結末はすっきりしない。でも「ゲームで歴史と文学の交差点を体験する」という体験は、なかなか他では味わえない。そういうゲームが好きな人に向けて、できるだけ正直に書いていく。

なお、本作は18歳以上推奨のコンテンツが含まれる作品だ。歴史的な暴力描写はもちろん、成人向けのコンテンツも含まれる。購入前に対象年齢を確認してほしい。

目次

「The Weeping Swan」公式トレーラー

こんな人に読んでほしい

このゲームが特に刺さるのは、こういうプレイヤーだと思う。

  • 中国の歴史、特に明末清初の動乱期に興味がある人
  • テキスト量の多い重厚なビジュアルノベルが好きな人
  • 「西遊記」などの中国古典文学を読んだことがある人
  • ダークで重い題材のゲームを躊躇なく遊べる人
  • サニティ(正気度)システムや選択肢の重みを楽しめる人
  • 複数周回して全エンディングを回収するタイプのプレイヤー
  • 美麗なCGと本格的な中国語ボイスによる没入感を求めている人
  • インディーゲームに歴史的・文学的な重みを求める人

一方で、こういう人には向かない可能性がある。

  • 英語版でプレイしようとしている人(翻訳品質に問題あり)
  • 歴史的な虐殺・暴力描写が苦手な人
  • ハッピーエンドを期待してプレイする人
  • サクッと短時間で遊べるゲームを探している人
  • アクションや戦闘システムを求めている人

このゲームは、娯楽として消費するというより、文学作品として向き合うタイプのゲームだ。1640年代の揚州が舞台で、史実の悲劇をベースにした内容のため、気持ちのいいエンタメを求めると肩透かしを食らうかもしれない。それでも、「なぜこの時代に、こんな物語が作られたのか」を考えながら読み進めると、普通のゲームでは得られない体験ができる。

ゲームの背景:揚州十日とは何か

The Weeping Swanを楽しむためには、まず「揚州十日」という歴史的背景を知っておくと理解が深まる。ゲームが丁寧に作られているのは確かだが、この歴史的文脈を知らないと「なぜこれほど重い題材なのか」がわかりにくい。

明朝の終焉と揚州の位置づけ

1644年、李自成率いる農民反乱軍が北京を占領し、崇禎帝が自害したことで270年以上続いた明王朝は実質的に滅亡した。その後、南方に逃れた明朝残党が南明政権を樹立したが、清朝の怒涛の進軍に押されていった。

揚州は長江とその支流に挟まれた交通の要衝であり、南京の北の防壁として機能していた。この揚州を守っていたのが南明の将軍・史可法(シー・クーファー)だ。清の豫親王ドド(多鐸)率いる大軍が揚州に迫ったとき、史可法は降伏勧告を繰り返し拒否した。攻城戦の末に揚州が陥落したのは1645年5月のことだ。

十日間の虐殺

激戦で多大な損害を被ったドドは、陥落後に10日間の略奪を黙認した。清軍は市内の民間人を無差別に殺し、家屋を焼き、城市に取り残された人々を次々と虐殺した。

この惨劇を目撃した王秀楚という一市民が書き残した記録「揚州十日記(揚州十日記)」は、当時のありさまを生々しく記している。しかし清朝統治下では禁書とされ、写本が日本に流出。1808年以前には日本にも渡っていたとされるが、欧米では1903年にようやく英訳が公開された。

死者の数については諸説あり、「揚州十日記」の記述をもとにした伝統的な数字は80万人とも言われるが、歴史家の間では当時の揚州の人口自体が17万5,000人以下だったとする研究もある。数字の多寡よりも重要なのは、この出来事が長年封印され続けたという事実だ。

西遊記と「獅駝嶺」の設定

The Weeping Swanは、この歴史的事実に中国の古典文学「西遊記」からインスピレーションを得たダークファンタジー要素を重ねる。主人公の方志游は、自分が書いた小説「獅駝国(ライオン駱駝王国)」の世界に迷い込む。

「獅駝嶺(しとうれい)」は西遊記の中でも特に恐ろしいとされる魔物たちの巣窟だ。青毛獅子王(青い毛の獅子の王)、黄牙老象(黄色い牙を持つ老いた象)、金翅大鵬(金色の翼を持つ大鵬鳥)という三体の強大な妖怪が君臨し、孫悟空たちを苦しめた難所として知られる。ゲーム内ではこれらの妖怪が清軍の侵略者に重なる形で描かれ、史実の侵略者を神話的なメタファーで包み込んでいる。

史実の惨劇をファンタジーのメタファーで包む手法は、直接的な歴史描写よりも時に深く刺さる。なぜ清軍が「妖怪」として描かれるのか、なぜ主人公は「狂人」として物語を体験するのか——その問いかけが、ゲームを読み進めるほどに重みを増していく。

また、西遊記の三蔵法師が取経の旅で越えなければならない難所として描かれた獅駝嶺を、揚州という地に重ねることには象徴的な意味がある。取経の旅が「苦難を越えて悟りに至る」物語だとすれば、The Weeping Swanの方志游が歩む10日間は「苦難の只中で何かを取り戻す」物語だ。その対比は、中国の読者にとっては特に深く響くはずだ。

物語とキャラクター

物語は1642年、崇禎15年から始まる。揚州の名妓・蘇廉艷(スー・リエンヤン)が二十四橋から身を投げて死んだ。幼なじみで彼女を愛していた学者の方志游は、その死に取り乱して正気を失う。記憶を失い、人の顔が獣に見える奇病「獸噬」(けものに食われる病)を発症した彼は、やがて忘却の中で「獅駝国」という暗黒ファンタジーを書き始める。

それから3年後の1645年。酔いに任せて書物の中に迷い込んだ方志游は、自分が書いた「獅駝国」の中にいることに気づく。そしてそこには、現実の揚州で起きている大虐殺と重なるように、妖怪たちの侵略が展開されている。正気と狂気の境界が曖昧な世界で、彼は謎の少女を守りながら10日間を生き延びなければならない。

方志游というキャラクター

主人公の方志游は、いわゆる「強い主人公」ではない。正気度を示す「清醒値」(サニティ値)が50%を下回ると、ゲーム内の情報そのものが嘘をつき始める仕掛けになっている。つまり、主人公が見ている世界とプレイヤーが受け取る情報が一致しなくなる瞬間がある。これは単なるゲームメカニクスではなく、「主人公の視点から物語を読む」ということの意味を根底から問い直す演出だ。

彼が狂っているのか、それとも本当に奇妙な世界に迷い込んでいるのか。その判断をプレイヤーは常に求められる。そしてその判断が、エンディングを決定する。

方志游は弱い人間だ。愛した人を失った悲しみに飲み込まれ、現実から逃げるように自分の作った幻想世界に引きこもった。その弱さがゲームを通じて赤裸々に描かれる。プレイヤーが「もっとしっかりしろ」と思う場面があるかもしれない。でもそれが、このキャラクターのリアリティだ。

蘇廉艷という存在

方志游の記憶の核心にいる蘇廉艷は、単なる「死んだ恋人」ではない。彼女は揚州きっての名妓でありながら、床入りを一切行わなかった異色の存在だ。詩を詠み、絵を描き、楽器を演奏する——その才能は帝国中に知れ渡り、彼女を一目見るために各地から人々が揚州を訪れたという。

しかし、そんな彼女がなぜ崇禎15年の冬の夜に二十四橋から身を投じたのか。方志游がその真実を取り戻せるかどうかが、物語の一つの軸になっている。蘇廉艷にまつわる断片的な記憶が徐々に明かされるプロセスは、ゲームの最も胸を掴む部分の一つだ。彼女の存在がゲーム内で果たす役割が明らかになる中盤以降、物語は一気に密度を増す。

菱仰(リンヤン)と謎の少女たち

方志游が10日間の混乱の中で出会うキャラクターたちは、それぞれ歴史の荒波に翻弄された人々だ。謎の少女・菱仰(リンヤン)は、方志游と不思議な縁で結ばれた存在として描かれる。彼女の正体と、方志游との関係性がどこに着地するかが、エンディングの分岐に深く関わってくる。

また、扁扁(ピエンピエン)という女性も重要なキャラクターだ。方志游と過去に何らかの関係を持つ彼女の存在が、最終盤の選択に大きく影響する。

これらのキャラクターの声は中国の実力派声優陣が担当しており、セリフの一つひとつに感情が乗っている。Steamレビューでも「キャラクターが完全に声によって命を吹き込まれている」「音響効果でその場にいるような感覚になれる」という声が多数上がっていた。

登場するキャラクターたちは皆、「揚州十日」という歴史的事件の中で傷を抱えた人間として描かれている。正義の主人公も、分かりやすい悪役も存在しない。妖怪として描かれる清軍さえ、「恐怖」の象徴として機能しながら、「彼らも誰かの命令に従う存在だ」という現実をかいま見せるシーンがある。この多層的なキャラクター描写が、ゲームを単純な善悪の物語から遠ざけている。

史可法の影

歴史的人物として、揚州を守った史可法の存在もゲームの背景として機能している。降伏を拒否し続けた彼の覚悟と、その選択が市民にもたらした結果——ゲームはこの問いに直接答えを出すわけではないが、歴史的事実を知るプレイヤーにとってはずっしりとした重みとして感じられる。

英雄が降伏を拒んだことで守られた尊厳と、その代償として市民が払った命の重さ。The Weeping Swanは「誰かが英雄的決断をしたとき、その影に生きた無名の人々がいる」という事実を、方志游という市井の学者の視点から描いている。史可法の名前は教科書に載るが、揚州に残り虐殺された人々の名前は歴史に残らない。王秀楚の「揚州十日記」が、そして今回このゲームが、残そうとしているのはその「残らなかった記憶」だ。

ゲームシステム:ビジュアルノベル以上、アドベンチャー未満

The Weeping Swanは「ビジュアルノベル」と呼ばれることが多いが、実際にプレイしてみると純粋なビジュアルノベルよりはゲーム的な要素が厚い。10日間の構造を軸に、リソース管理、ステルス、タイムド選択肢、そして正気度システムが組み合わさっている。

清醒値(サニティ)システムの詳細

このゲームの最も独創的なメカニクスが清醒値(サニティ値)だ。方志游の精神状態を示すこの数値は、プレイヤーの選択次第で上下する。50%以上であれば主人公は比較的正気を保っており、物語を客観的に把握できる。

しかし清醒値が50%を割り込むと、ゲームが「嘘をつき始める」。提示される選択肢、見える景色、聞こえる言葉——それらが方志游の歪んだ認識でフィルタリングされ、プレイヤーは信頼できる情報と幻覚が混在する中で判断を迫られる。

これは普通のゲームでは味わえない感覚だ。「今の選択は本当に正しいのか、それとも主人公の妄想に引きずられているのか」という不安が常につきまとう。清醒値が限界まで下がると辿り着くエンディングD(サニティ崩壊ルート)は、プレイヤーに強烈な印象を残す結末だという。

清醒値の増減に影響するのは主に選択肢の内容だが、アイテムの使用によって一時的に回復させる手段もある。どのタイミングでどう使うかという判断が、後半のゲームプレイに大きく影響する。

リソース管理と生存戦略

10日間の各「日」をどう過ごすかは、常にリソースとの戦いだ。食料、消耗品、清醒値の維持——これらを管理しながら、日ごとに変化する状況に対応していかなければならない。

清軍(ゲーム内では妖怪として描かれる敵対勢力)と正面から戦うことは基本的にできない。逃げる、隠れる、アイテムで陽動する——生存の手段はこれだけだ。「戦闘」とはつまり「どう逃げるか」「どう隠れるか」「どのアイテムで隙を作るか」を選ぶことだ。

タイミングを要求される選択肢もあり、モタモタしていると即座に死んでしまう場面もある。ビジュアルノベルと聞いてゆったり読書するつもりでいると、突然の即死選択肢に驚くかもしれない。この「いつ死ぬかわからない」緊張感が、単純な読み物にはない没入感を生み出している。

死亡シーンはゲーム内に28種類用意されており、それぞれ描き方が異なる。方志游の最期が状況によって異なる形で描かれるわけだが、その一つひとつが丁寧に作られているため、ゲームオーバーになっても「次の体験」を期待させる作りになっている。チェックポイントからの再開が可能なため、大幅に戻されることは少ない。

記憶の断片システム

ゲームの探索要素として「記憶の断片」がある。全部で7つある記憶の断片を収集することで、方志游と蘇廉艷の過去が徐々に明らかになっていく。これらは本筋だけでは描かれない二人の関係性の詳細を補完するもので、全断片を回収するには複数周回が必要になる場合もある。

「記憶の断片を集めていなかった状態でエンディングを迎えると、なぜそこに至ったかが理解しにくい」という指摘がある。ゲームは記憶の断片を積極的に回収するプレイヤーを前提に設計されている面があるため、1周目は特に意識的に探索することをすすめたい。

パズルと探索

10日間を通じて、いくつかの場面で謎解きや探索の要素がある。複雑なパズルというよりは、状況を観察して正しい行動を選ぶ形式だ。ゲームの核はあくまでテキストと選択肢にあり、パズル部分はそれほど難解ではない。「ビジュアルノベルにしては珍しいインタラクション要素がある」という程度に捉えておくといい。

セーブシステムと周回の利便性

The Weeping Swanのセーブシステムは、ビジュアルノベルとして標準的な設計だ。任意のタイミングでセーブが可能で、複数のセーブスロットが用意されている。また、チェックポイントからのリスタートが可能なため、死亡してもゲームの大幅なやり直しは基本的に不要だ。

チャプター(日)ごとのセレクト機能もあるため、2周目以降では見たいシーンから直接プレイすることもできる。特定のエンディングを目指してプレイする際は、分岐点の手前でセーブしておくと効率よく回収できる。

ただし、1周目は特にセーブの活用を意識してほしい。ゲームの性質上、重要な選択肢が突然来ることがあり、「しまった」と思った後で戻れる場面を確保しておくことが快適なプレイに繋がる。タイムド選択肢(時間制限のある選択肢)は特に注意が必要で、焦って間違えた後でリトライできるよう、手前でセーブしておくといい。

テキスト量と読了時間

The Weeping Swanのテキスト量は「小説の長さに匹敵する」と形容されることが多い。前作The Hungry Lambの1.8倍というボリュームで、読書速度にもよるが1周で6〜10時間程度。全エンディング(A、B、C、D)の回収と記憶の断片コンプリートを含むフル周回は20〜30時間と見積もられている。

価格がSteam定価で1,820円(約11.99ドル)というのを考えると、コスト対コンテンツ量の観点では間違いなく優秀だ。同規模のテキスト量を持つビジュアルノベルと比較しても、リソース管理やサニティシステムが加わっているぶん、プレイの密度は高い。

圧倒的なビジュアルと音楽

The Weeping Swanを語るうえで、視覚・聴覚のクオリティは外せない。Steamレビューの肯定的なコメントの大半が、まずこの点を挙げている。「美術と音楽が素晴らしい」「実際に古代中国にいるような感覚になれる」という声が多数あった。

油絵質感と現代アニメの融合

本作のCGは、写実的な油絵テクスチャと現代のアニメスタイルを組み合わせた独特の画風だ。1600年代の中国を描くには、過度にアニメ的な画風では時代感が出ない。かといって完全に写実的なリアル系にすると、ゲームとしての親しみやすさが失われる。The Weeping Swanはその中間点を絶妙に突いており、重厚な時代考証と視覚的な美しさを両立させている。

CGの数量も圧巻だ。フルスクリーンのCGが大量に用意されており、同一シーン内でも状況の変化に応じて細部が異なる差分CGが存在する。キャラクターの表情の微妙な変化、戦闘前後の衣装の変化など、細かなところまで作り込まれている。1枚の静止画CGでも「出来事の前と後」が別のCGとして用意されているシーンがあり、変化を視覚的に感じ取れる設計だ。

UIデザインも評価が高い。章と章の切り替えのトランジション、テキストの表示方法、場面の演出——全体的に洗練されており、ゲームへの没入を邪魔しない設計になっている。ゲーム全体の質感が均一に高く、「予算が足りなくて手を抜いた」と感じる部分がない。

中国語ボイスの存在感

フルボイス(簡体字・繁体字中国語対応)で実装されたキャラクターの声は、ゲームの雰囲気を大きく底上げしている。中国語が読めなくてもわかるほど、声優陣の演技に感情が込められている。方志游の錯乱した様子、蘇廉艷の記憶に残る穏やかな声、妖怪たちの不気味な威圧感——それぞれの声が場面の重さを引き出している。

日本語ボイスはリリース後のアップデートで追加予定とのことで、日本語話者にとっては選択肢が増えることになる。ただ現状では、英語版に翻訳の問題が報告されており(後述)、中国語ができる方は中国語でプレイするのが最もゲーム体験として優れているという声が多かった。

音楽と効果音

BGMは中国の伝統楽器を取り入れた楽曲で統一されている。戦場のシーンでは緊張感ある打楽器、静寂のシーンでは琵琶や二胡の繊細な音色——状況に応じて音楽が変化し、1640年代の揚州という空間への没入を助ける。

効果音も細部まで作り込まれている。城市の喧騒、雨音、遠くの爆発音、近づく足音——これらが重なることで、「確かにそこにいる」という感覚が生まれる。Steamレビューに「音響効果によって本当にその場にいるような感覚になれた」と書いたユーザーが複数いたのも納得だ。

音楽だけを切り取って聴いても完成度が高く、プレイ後もBGMが頭の中に残る。中国の古典音楽に馴染みがない人でも、このゲームで「伝統的な中国の音楽ってこういうものか」という新鮮な感覚を味わえるはずだ。

前作「The Hungry Lamb」との関係

The Weeping Swanを理解するうえで、前作「The Hungry Lamb: Traveling in the Late Ming Dynasty(飢えた仔羊)」との関係について触れておく必要がある。

The Hungry Lambは2024年4月にリリースされ、中国のインディーゲーム史に残る大ヒットとなった。リリースから9ヶ月で100万本を突破し、Steamの「圧倒的に好評」評価を獲得。中国国内のインディーゲーム売上ランキングで「黒神話:悟空」に次ぐ2位を記録したタイトルだ。

The Hungry Lambも明朝末期を舞台にした暗黒ビジュアルノベルで、食人や人身売買など極めてタブーな題材を扱いながら、中国の古典文学と民間信仰をベースにした独自の世界観を構築した。その衝撃と質の高さが、世界中のビジュアルノベルファンの間に「ZerocreationGamesは本物だ」という評価を確立させた。

The Weeping SwanにはThe Hungry Lambのファン向けのボーナスチャプター(エンディングE)が収録されている。前作をプレイ済みのユーザーには、このボーナスが大きな追加動機になるはずだ。また、The Weeping Swan自体がThe Hungry Lambの続編的な位置づけとされており、世界観や一部のキャラクターが共有されている。

ただし、前作未プレイでもThe Weeping Swanは単体で楽しめるように設計されている。歴史的背景の共有はあるが、ストーリーの理解に前作のプレイが必須というわけではない。The Hungry Lambを知らなくても物語の核心には辿り着けるが、前作を知っているとより深く響く場面がある——そういう構成だ。

ZerocreationGamesというスタジオ

ZerocreationGamesは中国のインディーゲームスタジオで、小規模なチームながら歴史と文学に根ざした独自の世界観のゲームを作り続けている。The Hungry Lambで世界的な注目を集め、The Weeping Swanはその期待に応える形で作られた野心作だ。

スタジオの特徴は、中国の「正史」には残りにくい、庶民の視点からの歴史を扱う姿勢だ。大英雄の物語ではなく、大きな歴史の流れに飲み込まれた一個人の視点から時代を描く。The Hungry Lambでは旅する行商人の視点から、The Weeping Swanでは狂気を抱えた学者の視点から——どちらも「歴史の傍観者」ではなく、「歴史の渦中に放り込まれた人間」を主人公に据えている。

翻訳の問題については批判されているが、ゲームの本質的な品質——脚本、美術、音楽、演出——については批評家・ユーザーともに高い評価が出ている。小規模スタジオが自分たちの作りたいものを作り、世界に向けて発信している姿勢そのものには、多くのインディーゲームファンがリスペクトを示している。

エンディングとマルチルートの構造

The Weeping Swanには複数のエンディングが用意されている。メインのエンディングがA、B、C、バッドエンドのD、そしてThe Hungry Lambファン向けのボーナスEの計5種類だ。

エンディングへの分岐の仕組み

エンディングの分岐を決める主要因の一つが清醒値(サニティ値)だ。清醒値を高く維持するか、低い状態でゲームを進めるかによって、体験するルートが変わってくる。清醒値が極端に低い状態で進むとエンディングD(サニティ崩壊)に向かい、それ以外の分岐でA〜Cのいずれかに至る。

ただし清醒値だけがすべてを決めるわけではない。特定の選択肢の積み重ねや、記憶の断片の回収状況、キャラクターとの関係性の深まりがエンディングの分岐に影響を与える。このため「どのエンディングに向かっているか」が途中ではっきり見えないことが多く、最後に「この結末か」と思う体験ができる。

各エンディングについて(ネタバレ最小限)

A、B、Cのエンディングはそれぞれ方志游の選択と記憶の回復度合いによって変わる。ある真エンドでは方志游が菱仰(リンヤン)という少女の幻影(あるいは亡霊)とともに老いるまで生き、別の真エンドでは別の女性への後悔を抱えながら生き続ける——どちらも「ハッピーエンド」とは呼べない結末だ。

これを「物語として深みがある」と受け取るか、「スッキリしない」と感じるかはプレイヤーによって大きく分かれる。Steamのレビューでは「エンディングが中途半端」「物語の核心的な問題が解決されないまま終わる」という批判と、「2周目で泣いた」「初めてゲームで号泣した」という正反対の声が共存している。

個人的な感想を言えば、「揚州十日」という実際に起きた歴史的事件を背景にした物語で、すっきりとしたカタルシスのある結末を迎えることが正しいのかどうか、という問いがある。虐殺の記憶に「きれいな解決」は存在しない。その意味では、The Weeping Swanのエンディングが「すっきりしない」という感想は、ある種正直な反応かもしれない。ゲームとして満足感を与えることと、歴史の重さに誠実であることの間で、開発チームは後者を選んだ——そういう印象だ。

複数周回の価値

The Weeping Swanは複数周回する価値がある。1周目と2周目では、同じシーンから受け取れる意味が変わってくる。方志游の狂気のフィルターを理解してから再び読み返すと、1周目に気づかなかった伏線や細部が浮き上がってくる。

「2周目で泣いた」というレビューがあるのも頷ける。単なるルート回収のための周回ではなく、物語への理解が深まることで初めて感情が動く構造になっている作品だ。特に蘇廉艷に関わる記憶の断片を全部回収した後に、特定のシーンを読み返すと印象が変わる。

オートセーブ機能とチャプター選択を活用すれば、2周目以降は見たいシーンから効率よく分岐を探れる。ビジュアルノベルとして周回効率は悪くない設計だ。

全エンディング回収後に解放される追加要素もあるかどうかは確認中だが、少なくともThe Hungry Lambのファン向けボーナスチャプター(エンディングE)は、前作をプレイ済みで本作のすべてのルートを見た後に読むと特別な感慨がある。前作からの旅がこの作品でどう繋がるかを確認するために、前作未プレイの方にはまずThe Hungry Lambからプレイすることをすすめたい。

評価が割れた理由を正直に書く

Steam評価が64%(賛否両論)で止まっている理由は、主に2つだ。英語版の翻訳品質と、エンディングへの失望だ。ただしこれらは切り分けて考える必要がある。

英語翻訳の問題

最も多くのネガティブレビューが指摘しているのが、英語翻訳の質だ。重要なシーンでさえ未翻訳の中国語テキストがそのまま表示されたり、同一シーンのテキストが繰り返されたりするバグが報告されている。同じ台詞が2回表示されるケースや、翻訳のコピー・ペーストミスと思われる箇所もあったという。

開発チームのZerocreationGamesはこの問題を認識しており、「プレイヤー体験を十分に考慮できていなかった」と声明を出している。リリース後のパッチで対応が進んでいる(記事執筆時点でバージョン1.3)が、英語版でフルに楽しもうとするプレイヤーにはまだストレスが残る可能性がある。

中国語でのプレイが可能なユーザーにとっては、この問題は基本的に発生しない。中国語テキスト+フルボイスの組み合わせは品質が高く、そちらで遊んだプレイヤーからの評価は概ね肯定的だ。日本語テキスト対応の予定については、現時点では公式からの確認が取れていない。

エンディングへの期待と現実

もう一つの問題は、前作The Hungry Lambへの期待値が高すぎたことだ。前作は100万本を超えたヒット作であり、「圧倒的に好評」という評価を維持している。その続編として登場したThe Weeping Swanには、自然と同等以上のものが求められた。

The Weeping Swanのエンディングは、前作のような感情的な爆発力よりも、歴史の重みとともに沈み込むような終わり方だ。「カタルシス」という言葉で表現されるような解放感は薄く、「余韻」という言葉の方が適している。これを「物語として深みがある」と受け取るか、「スッキリしない」と感じるかはプレイヤーによって大きく分かれる。

ゲームの公式アナウンスでは開発チームが「プレイヤーの反応の一部を受け止め、クリエイターとしての表現の方向性について振り返った」というコメントを出している。この姿勢は誠実だと思う。エンタメとして満足感を優先するのか、歴史への誠実さを優先するのか——どちらが正解という話ではなく、作り手の選択がプレイヤーの感情と合わなかった、ということだろう。

実際に刺さったプレイヤーの声

一方で、このゲームを高く評価するレビューも多数存在する。

美術と音楽が本当に素晴らしい。伝統的な中国の雰囲気を完全に体感できる感覚があった。物語も心から没入できた。

引用元:Steamレビュー

ストーリーが本当に面白かった。ある結末では感動して涙が出たくらいだ。前作のThe Hungry Lambも好きだったが、こちらも良い意味で期待を裏切ってくれた。

引用元:Steamレビュー

ゲームプレイが単調に見えて、実際にはただ読んでいるだけじゃなく自分が物語を形作っていく感覚がある。選択肢が本当に重みを持っている。

引用元:Game8レビュー(要約)

批判的なレビューでも「美術と音楽は文句なしに素晴らしい」「翻訳の問題とエンディングへの不満はあるが、物語の核心部分は引き付けられた」という声が多く、問題点と魅力が切り分けられて評価されていることが多い。これは、ゲームの基盤となる作品的な質は認められているということだ。

ゲームプレイの実際:10日間の構造

実際のゲームプレイの流れを、もう少し具体的に説明する。ゲームは「クロニクル(Chronicle)」と呼ばれる複数の章で構成されており、それが10日間の物語を形成している。

序盤(1日目〜3日目):世界への導入

ゲームの序盤は、方志游が「獅駝国」という異世界に迷い込んだところから始まる。狂気の中の世界が本物か幻かわからないまま、プレイヤーは方志游の視点で状況を把握していかなければならない。

この段階では清醒値が比較的高く、物語の全体像がつかみやすい。揚州の街の様子、方志游の過去の断片、登場するキャラクターたちの関係性——これらが丁寧に描かれる。序盤の選択肢は後半ほど即座の影響が出るものは少ないが、積み重ねは確実に最終盤の分岐に影響する。

この序盤の積み重ねが後半の展開の重みを決める。「序盤はゆっくり読みながらキャラクターを覚えてほしい」という設計意図を感じる。記憶の断片は序盤から集められるものがあるので、意識的に探索しておくといい。

中盤(4日目〜7日目):緊張の高まり

清軍の侵攻が具体的になり、方志游を取り巻く状況が急激に悪化していく。この段階でリソース管理の重要性が増す。食料の確保、安全な隠れ場所の選択、清醒値の維持——複数の要素を同時に気にかける必要が出てくる。

この中盤が、ゲームの最も「ゲームらしい」部分だ。タイミングを要求される選択肢、ステルスの場面、アイテムを使った陽動——ただ読むだけではなく、適切な判断が求められる。ここで死亡してチェックポイントからやり直す経験を何度かするかもしれないが、それも含めてゲームの醍醐味だ。

中盤の選択が後半のエンディング分岐に大きく影響するポイントがいくつかある。1周目では見えにくいが、2周目以降でプレイすると「ここがそうだったのか」と気づく場面が出てくる。

終盤(8日目〜10日目):核心と決断

物語の全貌が明らかになっていく後半は、感情的な負荷が最も高まる時間帯だ。方志游の記憶と現実の惨劇が交差し、選択の重みが最大になる。ここまで来た時点での清醒値の状態、収集した記憶の断片の数、それまでの選択の積み重ねが、到達するエンディングを決定する。

後半は「ゲームとして正しい選択肢を探す」というよりも、「自分が方志游としてどういう人間でありたいか」を問われる感覚に近い。そのため攻略情報なしで1周目を遊んだときの体験は、ネタバレ込みで遊ぶ場合とは全く別物になる。できれば1周目は攻略を見ずにプレイしてほしい。

他のビジュアルノベルと比べてどう違うか

The Weeping Swanはビジュアルノベルとして他のタイトルと比べた場合、どのような位置づけになるのだろうか。

メタ的演出という共通点

「メタ的な演出で現実と虚構の境界が曖昧になる」という点では、Doki Doki Literature Clubが引き合いに出されることがある。DDLCもまた、ゲームが「嘘をつく」演出で有名だ。ただし両者のアプローチはかなり異なる。DDLCはポップな外見の裏に潜む恐怖を使い、The Weeping Swanは主人公の精神状態そのものをゲームメカニクスに組み込んでいる。どちらもメタ的手法を使いながら、目指す体験は別物だ。DDLCのようなゲームが好きな人には、The Weeping Swanのサニティシステムが刺さる可能性が高い。

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選択の重みという共通点

「どの選択肢を選ぶか」という判断が積み重なって結果を作る点では、カードゲーム的な構造を持つタイトルと意外に共通している。Slay the Spireのようなデッキ構築ゲームは戦略的思考で正解に近づけるが、The Weeping Swanでは清醒値が低いと「正しい選択肢」を判断すること自体が難しくなる。選択の積み重ねがどう機能するかという点で、全く異なるジャンルだが通じるものがある。

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歴史との向き合い方

同じ歴史を題材にしながら、ストラテジーゲームとは全く異なる視点を提供する。Civilization Vは文明の盛衰を鳥瞰する視点だが、The Weeping Swanは歴史の只中にいる一人の人間の視点から1640年代の中国を体験させる。どちらが優れているという話ではなく、歴史への向き合い方が根本的に違う。マクロな歴史観とミクロな人間の視点、両方があって歴史の全貌が見えてくる。

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大規模RPGとの違いで見えること

The Weeping Swanのような「物語の選択が積み重なるゲーム」というジャンルは、RPGやストラテジーとはまた違う読後感がある。

Divinity: Original Sin 2のような大規模RPGとは、物語との向き合い方が根本的に異なる。Divinity 2は広大な世界を自分で探索し、戦闘システムと組み合わせてキャラクターを育てる楽しさがある。The Weeping Swanは世界が10日間・揚州という場所に限定されているが、その分ひとつひとつの選択と情景の密度が桁違いに高い。「世界を広く楽しむ」か「狭い世界を深く掘る」か、プレイスタイルによって好みが分かれるところだ。

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Dragon Age: Inquisitionのような大規模なRPGと比べると、The Weeping Swanはずっとコンパクトだ。しかし歴史的事実に基づいた物語の重みという点では、ファンタジー世界を舞台にしたRPGとは異なる、現実との地続き感がある。歴史小説を読むような没入感を求めるなら、The Weeping Swanはそれに近い体験を提供できる。

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インディーゲームとしての価値

大手スタジオのAAAタイトルが描ける「歴史」と、インディーが描ける「歴史」はかなり違う。AAAタイトルは巨大な開発費と市場調査のもと、できるだけ多くのユーザーに受け入れられる「歴史体験」を作る。一方でThe Weeping Swanのようなインディーは、市場調査よりも「作り手が本当に伝えたいこと」を優先できる。

揚州十日という題材は、大手スタジオが選んだとしたら大幅に「刺激を抑えた」形で描かれる可能性が高い。しかしZerocreationGamesはそこを遠慮なく描いた。その覚悟があるからこそ、このゲームは重くなりすぎず、でもリアルから目を背けない独特のバランスを実現できている。

デモ版と正式版の違い

The Weeping Swanは、正式リリース前のSteam Next Festでデモ版を公開していた。デモ版の評価は肯定的レビュー85%と高く、正式版への期待を大きく高めていた。

この高い期待値と、正式版への評価(64%)のギャップが、「賛否両論」という評価に繋がった面がある。デモは序盤の完成度が高い部分を切り取ったもので、英語翻訳の問題も少なかった。正式版では翻訳の問題が顕在化し、エンディングへの評価も加わったことで、評価が下がった。

ただし、現在はリリース後のパッチによって翻訳の一部が修正されており(v1.3時点)、今後もアップデートが続けば英語版の品質は改善されていく見込みだ。前作The Hungry Lambも、リリース後に無料の音声アップデートが実施されるなど、ZerocreationGamesは発売後もゲームの改善を続けるスタイルを持っている。

Steam版の動作環境と購入について

The Weeping Swanはビジュアルノベルという性質上、動作環境のハードルは低い。高負荷なグラフィック処理を要求するゲームではないため、それなりのスペックのPCなら問題なく動作するはずだ。ゲームパッドにも対応しているが、基本的にマウスでのクリック操作が主になるため、キーボード&マウス環境が快適だ。

現在のSteam価格は約1,820円(定価11.99ドル)。定期的にセールが行われており、セール時に10〜15%程度の割引が入ることもある。前作The Hungry Lambとのバンドル販売も存在するため、両方を遊ぶつもりであればバンドルを狙う方がお得だ。

なお、ゲームにはアダルト向けコンテンツ(18+)が含まれており、Steamでは年齢確認の上で追加コンテンツを有効化できる。本編の物語を楽しむ上で必須ではないが、ゲームの世界観に関わる要素が一部含まれているため、気になる方は確認しておくといい。

日本語対応の現状

現時点(2026年4月)では、テキストは英語・簡体字中国語・繁体字中国語のみ対応。音声は中国語フルボイスで、日本語ボイスは後日アップデートで追加予定とされている。日本語テキストへの対応については、公式からの確認が取れていない状況だ。

日本語話者としては「英語の翻訳問題があるなら、日本語ローカライズが来るまで待つか」という選択肢もある。ただし前述の通りv1.3時点で翻訳は改善が進んでおり、以前ほどひどい状況ではなくなってきている。物語の大筋を追う上では、英語版でも十分楽しめる段階まで来ているという報告もある。

推奨プレイ環境

ビジュアルノベルという性質上、できるだけ大きな画面と良質なスピーカー(またはヘッドフォン)でプレイするのが望ましい。フルスクリーンCGの美しさと中国語ボイスの迫力を最大限に楽しむには、環境が大事だ。

夜間の静かな環境でプレイすることをすすめたい。このゲームは「ながらプレイ」に向かない。テキストを読みながら、選択肢の意味を考え、場面の重みを受け取るためには、集中できる環境が必要だ。特に後半は音楽と効果音と台詞が一体となって場面の感情を作り上げるため、音を犠牲にするとかなりの体験が失われる。1日あたり2〜3時間をこのゲームに充てる、というペースが体験の密度を保つ上でちょうどいいと思う。

「積みゲー」にしないための注意点

The Weeping Swanは、雰囲気やジャンルに惹かれて購入したまま積みゲーになりやすいタイプのゲームでもある。そうなりやすいのはこういうパターンだ。

序盤の重さに引いてしまうケース

ゲームの冒頭は状況の説明や世界観の構築に時間を使う。1時間程度プレイしても「面白くなってきた」という感覚が得られないと、そのままやめてしまうかもしれない。ただ、このゲームは序盤の積み重ねが後半の重みを作っているので、「2時間やってからジャッジする」くらいの気持ちで臨んでほしい。

英語翻訳の問題で集中を切らされるケース

英語版でプレイしている場合、翻訳のバグで集中力が切れることがある。これは現在のバージョンでも一部残っている可能性があるため、最初から「翻訳バグがあっても続ける覚悟」か「パッチが進んでから始める」かを決めておくといい。

重い題材に気後れするケース

歴史的な虐殺を背景にした物語なので、プレイ前から「重そう」という印象を持ちやすい。確かに重いテーマだが、ゲームプレイのテンポは比較的軽快で、読み進めるうちに世界に引き込まれる設計になっている。最初の2〜3時間を乗り越えると、多くのプレイヤーが「続きが気になる」状態になるはずだ。

The Weeping Swanが問いかけるもの

ゲームをプレイしながら、ずっと考えさせられることがある。「誰が歴史を語るのか」という問いだ。

揚州十日の虐殺は、清朝統治下では長らく語ることを禁じられていた。この歴史的事実は、ゲームの外の現実でも「封印された記憶」を扱うことへの慎重さを要する。The Weeping Swanがこの題材を選んだことには、中国のインディーゲームシーンとしても注目に値する意義がある。

ゲームの中では、方志游が狂気のフィルターを通して体験する現実と幻覚の混在が、歴史の「語られ方」のメタファーになっている。正気を保って歴史を直視することの困難さ、それでも記憶を取り戻そうとする意志——それが方志游というキャラクターを通して描かれる。

「獲奪した記憶を取り戻す」という方志游の旅は、長く封印されてきた揚州十日の記憶を取り戻そうとする「揚州十日記」の著者・王秀楚の行為とも重なる。ゲームはそこまで明示はしないが、その重なりを意識しながらプレイすると、物語の別の層が見えてくる。

ゲームが果たす文化的役割

中国のインディーゲームシーンは近年、急速に存在感を高めている。「黒神話:悟空」が世界的なヒットとなり、The Hungry Lambが100万本を超えたことで、「中国産ゲーム」への注目度が上がった。The Weeping Swanはその流れの中に位置する。

ただし、The Weeping Swanが扱う題材は商業的な成功を最優先するなら選ばなかったかもしれない歴史だ。それでもこれを作ったZerocreationGamesの姿勢は、「ゲームを通じて何を伝えたいか」という問いへの一つの答えになっている。

「ゲームは娯楽である」という定義に収まらないタイプの作品が存在する。The Weeping Swanはそのカテゴリに属する作品だと思う。楽しいかどうかよりも、「この体験は何かを変えたか」という問いに向き合えるプレイヤーに届いてほしい。

こんなゲームが好きなら一緒に試してほしいタイトル

The Weeping Swanのように「物語の選択肢が重みを持ち、プレイヤーが積極的に関与する」タイプのゲームが好みなら、他にも楽しめるタイトルがある。

カードベースのロールプレイという切り口では、Across the Obeliskが面白い。こちらは歴史や重い題材ではなくファンタジー世界のデッキ構築ローグライクだが、パーティを組んで選択を積み重ねながら進む構造には共通するものがある。最大4人でのCo-opにも対応しており、The Weeping Swanの一人プレイに疲れたときに気分転換として遊ぶにも向いている。

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都市建設やリソース管理が好きなら、Timberbornも選択肢の一つだ。ジャンルは全く異なるが、限られたリソースで最善の判断を積み重ねていくスタイルは、The Weeping Swanのリソース管理の感覚と通じる部分がある。クリエイティブで和やかな雰囲気なので、The Weeping Swanの重い世界観の後に気分をリセットするのにもいい。

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ソロでじっくり腰を据えて遊ぶ大型RPGが好きなら、Hero Siegeも候補に入るかもしれない。ジャンルは全く違うがハクスラとしての中毒性が高く、The Weeping Swanのような「一つのゲームにどっぷりハマる」体験の次として向いている。

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「攻略」という概念が似合わないゲーム

The Weeping Swanで「攻略サイトを見ながらプレイする」という行為が、このゲームに向いているかどうかを一度考えてほしい。

ゲームとしての「最適解」を追いかけることは、清醒値の管理やアイテムの使い方では意味がある。でも「どの選択肢を選ぶか」という核心部分を攻略サイトに委ねてしまうと、このゲームの本質的な体験が失われる。

「方志游として、自分はどうしたいか」——そう問われたとき、攻略サイトが示す「効率的なルート」ではなく、自分の判断で答えを出す体験が、このゲームの核心だ。28種類の死亡シーンのうちいくつかを実際に踏んで、「しまった」と思いながらリトライする。エンディングに辿り着いてから「他のエンディングはどうだったんだろう」と思って2周目を始める。そういうプレイの流れが、The Weeping Swanの正しい楽しみ方だと思う。

2周目以降で記憶の断片を集めたり、特定のエンディングを目指したりする段階では、攻略情報を活用するのは全く問題ない。ただ1周目だけは、できるだけ自分の判断で進んでほしい。

まとめ:The Weeping Swanをどう受け取るか

The Weeping Swan: Ten Days of the City’s Fallは、完璧な作品ではない。英語翻訳の問題、エンディングの賛否、前作への期待値との乖離——これらは無視できない問題点だ。Steamの「賛否両論」という評価は、その事実を正直に反映している。

しかし、このゲームにしかできないことがある。1645年の揚州という、多くの人が知らなかった歴史的惨劇を、プレイヤー自身が一人の人間の視点から体験させる。清醒値というシステムを通じて「正気とは何か、現実とは何か」を問いかける。油絵と現代アニメを融合させた美術と本格的な中国語ボイスで、文化的な深みを持った世界を作り上げる。28種類の死亡シーンを含む、プレイヤーの選択に応答した厚みのある物語構造を提供する。

中国語でプレイできる環境があるなら、迷わず試してほしい。英語でプレイする場合は、翻訳パッチが進んだタイミングを狙うか、翻訳の不備を飲み込んで物語に集中できるかどうかで判断してほしい。日本語話者であれば、現状は英語版でプレイするか、今後の日本語対応を待つかという選択になる。少なくともSteamのウィッシュリストに追加して、今後のアップデート情報を追っておく価値はある作品だ。

「揚州十日」という歴史を知っているかどうかに関わらず、このゲームを遊んだ後にその言葉で検索したくなるはずだ。ゲームが歴史への入り口になる——それが実現できているという意味で、The Weeping Swanはしっかり機能している。

1,820円を下回る価格でこれだけの体験が得られるインディービジュアルノベルは、そうそう多くない。完璧を求めるなら今はまだ待ちかもしれない。翻訳パッチや日本語ボイスの追加を待ってから改めてプレイするという選択もある。でも、この手の作品が好きで、歴史や重い題材のゲームに慣れているなら、ためらう理由はほとんどない。

ゲームをプレイし終えて、方志游が最後に何を取り戻したのか(あるいは取り戻せなかったのか)を考えるとき、1645年の揚州という実在の場所と時間が頭の中に重なってくる。「王秀楚はなぜ記録を書いたのか」「禁書にされても写本が流通し続けたのはなぜか」——ゲームのエンディングを体験した後でそれを考えると、答えが少しだけ見えてくる気がする。記憶を残すことの意味、忘れないことの意味——それをゲームという形で問いかけてくれる作品が存在することに、素直に感謝したい。

ゲームが終わった後も、「揚州の十日間」のことを考えてしまう。それがこの作品の力だと思う。中国インディーゲームの底力を感じる一本として、歴史×文学×ゲームの交差点に存在するこのタイトルを、ぜひ記憶に留めておいてほしい。そういうゲームに、たまに出会える。そのうちの一本が、The Weeping Swan: Ten Days of the City’s Fallだ。

泣き叫ぶ雁

零创游戏(ZerocreationGame)
リリース日 2026年4月2日 新作
サービス中
価格¥2,100-15% ¥1,785
開発零创游戏(ZerocreationGame)
販売零创游戏(ZerocreationGame), 2P Games
日本語非対応
対応OSWindows
プレイ形式シングル
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