公式トレーラー
アリをじっと見ていると、あの小さな生き物がどこかへ向かって迷いなく歩いている姿に、不思議な秩序を感じることがある。Empires of the Undergrowth(エンパイア・オブ・ジ・アンダーグロウス)は、その秩序の中心に立つ体験を味わわせてくれるゲームだ。
プレイヤーは女王アリを守りながら地下の巣を掘り広げ、食料を集めて個体数を増やし、地上に現れる虫たちと戦いを繰り広げる。最初は数匹の働きアリしかいない貧しいコロニーが、ミッションを重ねるうちに数百匹規模の軍勢を擁する帝国に成長していく。この過程が、長時間プレイを自然に引き出す。「あと少しだけ巣を広げたら」「この敵が倒れたら一段落しよう」と思っているうちに、気づいたら3時間が経過していた、というのが典型的なプレイ体験だ。
開発したのはSlug Disco Studiosという英国の小さなインディースタジオで、創業当初のメンバーはJohn Connor、Liam Comerford、Matthew Kentの3人だった。彼らは15年来の友人で、アリへの愛と「シムアント」への郷愁を原動力に本作を作り始めたという。2017年12月にSteam Early Accessでリリースし、約7年の開発期間を経て2024年6月7日に正式版1.0をリリースした。正式版リリース後のSteamユーザーレビューは1万5千件を超え、94%が好評という「圧倒的に好評」の評価を獲得している。
2025年3月24日には初のDLC「Exploding Ants」もリリースされ、今もアップデートが続く現役タイトルだ。
Empires of the UndergrowthはSteam・GOG・Epic Games Storeで販売中の現役タイトルです(2026年4月時点)。2024年6月に正式版1.0がリリース、2025年3月には初DLC「Exploding Ants」も登場しています。
こんな人に読んでほしい
- アリや昆虫の生態に興味があり、ゲームで体験してみたい人
- RTS(リアルタイムストラテジー)を遊んでみたいが操作量が多いのが不安な人
- 巣作り・基地建設系のゲームが好きな人
- StarCraftやAge of Empiresのようなゲームを探している人
- 小規模インディーゲームで丁寧に作り込まれた作品を求めている人
- 「シムアント」が懐かしく、現代版を求めていた人
- Steam Deckでの快適なプレイを探している人
アリの目線で見た世界——生物リアリティがすごい

Empires of the Underwgrowthをプレイして最初に驚くのは、虫たちの動きや生態がゲームに巧みに落とし込まれている点だ。
たとえば、敵として現れるザトウムシはHPが減ると脚を自切して逃げる。葉に擬態するカマキリはミニマップに表示されず、アリが近づいて初めて存在が明らかになる。ヤスデが放出する毒は範囲内のアリにダメージを与え続け、ヤドカリは一対一で戦おうとすると下の甲羅に潜り込んで回復してしまうため、複数方向から同時に囲む必要がある。ホソメガロバエ(ヤツメバエ)は弱ったアリに卵を産み付け、放置すると巣の中で孵化してしまう。
これらはすべて実際の昆虫・節足動物の生態を参考にした行動パターンだ。「生き物の特性がそのままゲームの戦術問題になっている」という設計思想が一貫していて、単に「敵のHPを削れば勝ち」ではなく「この生き物はどう動くのか」を考えることが攻略の核心になっている。
虫の特性がゲームに組み込まれていて、ただの敵でなくリアルな生き物を相手にしている感じがする。カマキリが葉に擬態してミニマップに映らないのが怖すぎる。
出典:Steamユーザーレビュー
この生物リアリティは、ゲーム全体のトーンをナチュラルドキュメンタリー風に仕上げる効果もある。各ミッションの前後には科学者が語り手として登場し、アリの生態や行動原理を解説してくれる。BBC Earthのドキュメンタリーを見ながらゲームをプレイしているような独特の体験が生まれている。
こうした昆虫世界の細密な描写に惹かれる人なら、海洋生物を扱うDREDGEの世界観にも共鳴するものがあるかもしれない。

フェロモンで指示を出す——RTSとしての独自性

一般的なRTSではユニットをクリックして選択し、右クリックで移動命令を出す。Empires of the Underwgrowthはこの基本操作を踏まえつつ、「フェロモンマーカー」という独自システムを採用している。
アリたちを複数のグループに分け、各グループに対して移動目標・攻撃目標・食料回収地点などをフェロモンマーカーとして設定する。実際のアリがフェロモンで仲間に情報を伝達する生態を、ゲームの操作体系に組み込んだ発想だ。
このシステムの利点は、操作量が他のRTSと比べてシンプルな点にある。StarCraftのような高APMを要求するゲームではなく、「大きな流れをコントロールしながら戦術的な判断をする」スタイルだ。RTSに興味はあるが操作の複雑さで敬遠してきた人にとって、入りやすい設計になっている。
RTSが苦手な自分でも楽しめた。操作量は多くないのに、どこに何匹送るかを考える戦略性はちゃんとある。初めてのRTSにちょうどいい難易度だと思う。
出典:Steamユーザーレビュー
ただし「シンプルな操作=ゆるいゲーム」ではない。後半のミッションでは数十種類の敵が同時に押し寄せてくる局面もあり、どのグループをどこに向けるか、回収に使う働きアリと戦闘用の兵隊アリをどのバランスで運用するかという判断が、勝敗を分ける。
六角形タイルで広げる地下帝国——巣作りの設計

地下の巣を広げていく部分は、Dungeon Keeperのような「ダンジョン掘削」に近い感覚だ。六角形タイルが敷き詰められたグリッドの中から、掘り進むマスを選択して巣を広げていく。空いたスペースに食料庫・孵化場・育児室などを配置し、コロニーを維持・拡大していく。
スタート地点は女王の部屋だけ。そこから食料を調達するために地上へのアクセスを確保し、孵化場を設置して個体数を増やし、より大きな敵に対抗するために兵隊アリの育成ラインを整備する——この初期展開の手順を覚えることが、各ミッション攻略の入口になっている。
六角形タイルという設計により、巣の形状は自然と有機的な広がりを持つ。正方形グリッドではなくなることで、「アリの巣らしさ」が視覚的にも演出されている。完成した巣を俯瞰したとき、毛細血管のように広がる通路と部屋の配置が美しく見える瞬間がある。
巣の設計が楽しくて、余計なスペースなく効率的に組めたときの達成感がある。Dungeon Keeperを現代に蘇らせたような感覚で、建築ゲームとしても成立している。
出典:Steamユーザーレビュー
この巣作りと戦術RTS要素の組み合わせは、Slug Disco Studiosが「SimAntとDungeon Keeperの融合を目指す」と公言していた通りの仕上がりになっている。両方の良さを取り込みながら、アリという生物を題材にしたことで独自のアイデンティティを確立している。
巣作りとコロニー経営が好きなら、コロニー建設SLGとして定番のRimWorldとも相性がいい人が多い。

プレイできるアリ種は5種類——それぞれのプレイスタイル

Empires of the Undergrowthの大きな特徴のひとつが、プレイできるアリの種類が複数用意されていることだ。各種は能力・ユニット構成・戦術的特性が異なり、同じマップでも種を変えることで別のゲームプレイ体験が生まれる。
フォルミカ(黒アリ / 木アリ)
キャンペーンのメイン種。黒アリは最初に操作できる種で、ユニット種類が少なくシンプルなスタートになる。木アリはフォルミック酸(蟻酸)による範囲攻撃が可能で、遠距離戦術を活用できる。序盤の学習曲線として機能しており、RTSに慣れていないプレイヤーでもゲームの基礎を把握しやすい構成になっている。
ハキリアリ(Leafcutter Ants)
2019年4月のアップデートで追加された農業型の種。葉を切り取り、菌類を栽培して食料とする独自の食料サイクルを持つ。戦闘能力より生産効率を高めるアプローチで、他種とは異なるプレイスタイルが求められる。農業をベースにした独自の経済運営が特徴的で、ファン評価も高い。
ハキリアリのミッションは本当によくできている。農業の仕組みが単なるギミックではなく、ちゃんと戦略の根幹になっている。ゲームデザインとして秀逸だと思う。
出典:4Gamer(えーあい!Steam広場 2024年6月)
ヒアリ(Fire Ants)
2022年7月追加。毒液による攻撃と、水上に浮く「いかだ」形成が特徴。実際のヒアリが洪水時に集合して浮き輪のように連結する生態を再現しており、水域を含むマップでの独自の動きができる。
マタベレアリ(Matabele Ants)
正式版1.0で追加されたサバンナを舞台にした種。傷ついた仲間を救出・回復させる独自のユニットを持つ。実際のマタベレアリが負傷した仲間を戦場から救出する生態を元にしており、戦闘中の負傷兵管理という新たな戦術要素が加わっている。
グンタイアリとその敵対種
サイドミッションでは操作対象ではなく強力な敵として現れることが多い。キャンペーン中に自軍のコロニーに侵攻してくるシーンでは、その圧倒的な数の暴力に押し込まれる体験ができる。
これだけ種類があると「どれを使えばいいか」と迷うかもしれないが、メインキャンペーンでは順序に沿って各種を使いながら進むため、自然に全種の特性を理解できる設計になっている。
フォルミカリウム——長期的な成長の核

Empires of the Undergrowthのストーリーモードを語るうえで欠かせないのが「フォルミカリウム(Formicarium)」モードだ。
フォルミカリウムとは、ガラス張りのアリの飼育ケースのことで、ゲーム内ではプレイヤーが管理する「本拠地コロニー」を指す。ここで操作するのは「遺伝子奪取アリ(Gene Thief Ants)」という特殊な架空の種で、他のアリ種の遺伝情報を盗み取り、その能力を取り込んで進化できる。
各ドキュメンタリーミッション(黒アリ・ハキリアリ・ヒアリ・マタベレアリなどの個別ストーリー)をクリアすると「ロイヤルゼリー(Royal Jelly)」が手に入る。このロイヤルゼリーをフォルミカリウムで消費することで、アダプテーション(進化ツリー)を解放し、各ユニットに新たな能力を付与できる。
アダプテーションの仕組みは以下の通りだ。
- 各ユニットには4種類のアダプテーション候補があり、そのうち2種のみ選択可能
- アダプテーションは「新能力の追加」「既存能力の強化」「ステータス修正」の3タイプ
- ロイヤルゼリーを消費することでステータス改善ポイント(IP)にも変換できる
この永続成長システムがフォルミカリウムのキャンペーン全体を通した骨格を作っている。「次のミッションをクリアしてロイヤルゼリーを集め、あのアダプテーションを解放する」というモチベーションが、長時間プレイを持続させる。
フォルミカリウムチャレンジは、蓄積したコロニーで防衛戦・波状攻撃に対応するモードで、育てたコロニーの実力を試す場として機能している。ただし、このチャレンジについては批判的な声もある。
フォルミカリウムチャレンジが単調で退屈。ただ波を耐えるだけで戦略的な深みがなく、次のキャンペーンに進むためのただの関門になっている。
出典:Steamコミュニティディスカッション
この批判は一定数のプレイヤーに共有されており、チャレンジモードの難易度・デザインはゲームの弱点のひとつとして挙げられることが多い。
キャンペーンの構成と難易度の変遷
メインキャンペーンは5つのレベル群(Level 1〜5)から構成されており、各レベル群に複数のドキュメンタリーミッションとフォルミカリウムチャレンジが含まれる。
- Level 1:黒アリのコロニーとして地下の森を舞台に展開。ザトウムシ・カニムシ・クモなどが初期の敵として登場
- Level 2:より大型の生物が登場する海岸線。タコやカニ、ガロアムシなど水辺の生物との戦い
- Level 3:ハキリアリとして熱帯雨林を舞台に展開。グンタイアリとの大規模な戦闘が含まれる
- Level 4:ヒアリとして砂漠・水辺を舞台に。洪水イベントを含む複雑な地形が特徴
- Level 5:正式版1.0で追加されたマタベレアリのサバンナステージ。シロアリとの戦いが中心
難易度の上昇は各レベル群を進むにつれて顕著になり、特にLevel 3以降はミッションの複雑度が格段に上がる。敵の群れの大きさ・種類・行動パターンが増え、単純な数の暴力では対応できなくなる。戦略的な資源管理とユニット配置が重要になってくる。
正式版1.0まで実に7年かかったことは、賛否があった点でもある。
Early Accessが長すぎた。少人数チームなのは理解しているが、7年待たされてコンテンツ量がこれは少ないと感じた人もいると思う。
出典:Steamネガティブレビュー
一方でその7年間にわたる開発姿勢を評価する声も多い。各アップデートでSlug Discのチームが誠実にコミュニティの声を反映してきた歴史は、Steamコミュニティに積み重なった議論を読めば伝わってくる。2024年の正式リリース時に開発チームがTwitter(現X)に「インディーゲームがNew & Trendingに入った、7年間の努力が報われた」と投稿した内容は多くのプレイヤーに共感を持って受け取られた。
フリープレイとスカーミッシュ——無限に遊べるサンドボックス

キャンペーン以外にも、フリープレイ(Freeplay)モードとスカーミッシュ(Skirmish)モードが用意されており、キャンペーンクリア後の遊び場として機能している。
フリープレイは高度にカスタマイズ可能なサンドボックスモードで、以下を自由に設定できる。
- 出現する生物の種類と数
- ゲーム難易度の初期値と時間経過による変化幅
- 勝利条件(征服・支配・サバイバル・包囲・ハンター・バイオマス)
- マップとスタート条件
特にサバイバルモードは最長6時間の設定が可能で、延々と押し寄せる敵の群れに耐え続けるエンドレス体験ができる。「ちょうどいい難易度を自分で設定して、最適な戦術を探す」という自己完結型の楽しみ方ができるモードだ。
スカーミッシュモードはフリープレイに敵コロニーが加わるもので、AIが管理するアリのコロニーと真っ向から対決する。両コロニーが同じ地下マップで拡張しながら衝突する、古典的なRTS体験が得られる。
キャンペーンをクリアした後のフリープレイが本当に楽しい。自分でルールを作って、どこまでコロニーを育てられるか試すのがやめられない。
出典:Steamユーザーレビュー
Exploding Ants DLC——爆発するアリと爆発するシロアリ

2025年3月24日にリリースされた初のDLC「Exploding Ants」は、その名の通り「爆発するアリ」を新たな戦力として追加するコンテンツだ。価格は590円と手が出しやすい。
DLCで追加される新ユニットは2種類の実在する生物に基づいている。
- コロボプシス・エクスプロデンス(Colobopsis explodens):自爆による死に際の連鎖爆発が特徴のアリ。個々の爆発を連鎖させることで大ダメージを狙う戦術が生まれる
- ネオカプリテルメス・タラクア(Neocapritermes taracua):爆発するシロアリ。長く生存させるほど爆発時のダメージが増大するという特性を持ち、生存戦略と攻撃力のトレードオフが生まれる
どちらも実在する生物の自爆・爆発行動を元にしており、本作の「生態をゲームメカニクスに落とし込む」という設計思想を忠実に継承している。
DLCには新ミッションも2本付属している。キャンペーンの舞台を再訪する形で、収穫地帯でヒアリのコロニーを掃討するミッションと、前線の熱帯雨林に再び戻るミッションだ。既存マップの再訪という構成に対して「新しいマップが欲しかった」という意見もあったが、新ユニットの操作感を既存の戦場で試せることを評価する声もある。
DLCは正直ボリューム的には薄い。でも新ユニットの爆発メカニクスはしっかり遊べるし、590円という価格を考えれば十分だと思う。もっと大きなコンテンツを今後に期待したい。
出典:SteamコミュニティDLCレビュースレッド
Slug Discoは今後も継続的なDLCリリースを示唆しており、コミュニティでは次のDLCで追加されるアリ種・生態系についての議論が活発に続いている。
Steam最大同接6,367人——正式リリースが呼んだ熱狂

2024年6月7日の正式版1.0リリース直後、Steam同時接続プレイヤー数は6,367人を記録した。これはEarly Access時代の最高値2,509人(ヒアリアップデート時)を大幅に超えるピークだった。
正式リリース直後にSteamの「新着・話題」ランキングにもランクインし、インディーゲームとしては異例の注目を集めた。Slug DiscのTwitter(現X)アカウント(@eotu_game)はこのとき「Oh my goodness, our indie game just hit new and trending…I could honestly cry, 7 years hard work finally paid off」と投稿しており、7年間の開発を終えた開発チームの感情が素直に伝わってきた。このツイートはコミュニティから大きな反響を呼んだ。
正式版でのユーザー評価1万5千件超・94%好評という数字は、Early Access時代から蓄積されていた信頼の証といえる。7年間にわたりコミュニティの声を聞きながら丁寧に磨き続けてきた作品が、正式リリースで正当に評価された形だ。
一方で、ピーク後のプレイヤー数は落ち着いており、2026年時点での日常的な同時接続数は数百人台に収まっている。これは短命に終わったということではなく、キャンペーンが中心のシングルプレイゲームとして一定の人口を維持していることを意味する。「プレイ時間が短くない(クリアまで30〜50時間程度)ためリテンション率は高い」とも言える。
このゲームの弱点——正直に書く

Empires of the Undergrowthは94%という高評価ゲームだが、ネガティブな声もある程度一定数存在する。代表的な批判を整理しておく。
ミッション中のセーブ不可
最も多くのプレイヤーが指摘する問題がこれだ。ストーリーモードのミッション中はセーブができないため、長時間かけたミッションの終盤でミスをしたり、ゲームがクラッシュしたりすると最初からやり直しになる。1ミッションが1〜2時間に及ぶ後半ステージでは、この仕様が特に大きな不満につながっている。
終盤ミッションの1時間半プレイした後にクラッシュして全部消えた。ミッション中セーブできないのは2024年のゲームとして改善してほしい。
出典:Steamネガティブレビュー
コンテンツ量への評価が分かれる
7年間のEarly Access後の正式版としてはコンテンツが少ないと感じるプレイヤーがいる。キャンペーンのクリア時間は30〜50時間程度で、RTS系のゲームとしては標準的だが、「7年待った割に」という期待値のギャップが評価の分岐点になっている。
フォルミカリウムチャレンジの単調さ
前述の通り、フォルミカリウムチャレンジが単調で戦略的な深みに欠けると感じるプレイヤーが一定数いる。チャレンジをクリアしないとキャンペーンが進めない構造のため、「関門を乗り越えるだけの作業」と感じる声がある。
早期ゲームプレイの薄さ
序盤のミッションでは、巣を拡張して孵化場を置いてアリを増やし、敵に突撃させるという単調なパターンで乗り切れてしまうという指摘もある。戦略的な深みが出てくるのは中盤以降のため、最初の数時間で面白さが伝わりにくいという問題がある。
序盤は「穴掘ってアリ増やしてゼルグラッシュするだけ」に見えてしまう。本当の面白さが出てくるのはLevel 3以降なので、最初の印象だけで判断してほしくない。
出典:Steamコミュニティディスカッション(「このゲームの何がそんなにいいの?」スレッド)
これらの問題点を踏まえたうえで、「それでも高評価」なのはゲームの核心部分の完成度が確かで、アリという題材への愛着が随所ににじみ出ているからだろう。
SimAntの現代版として——30年越しの夢の実現

1991年にBlizzardの前身であるSilicon & Synapse(後のBlizzard Entertainment)が開発した「SimAnt(シムアント)」は、アリのコロニーをシミュレーションした先駆的なゲームだった。当時の子どもたちに「アリの視点で世界を見る体験」を提供し、今も愛され続けている作品だ。
Empires of the Undergrowthの開発者たちも、このSimAntに影響を受けた世代だ。「SimAntの精神的後継作として、現代のグラフィックスと戦略的な深みを加えた作品を作りたい」というモチベーションが開発の出発点だったと語っている。
PC Gamerは正式版リリース前に「Is Empires of the Undergrowth a worthy successor to SimAnt?」という記事を掲載し、その答えを肯定的に評価している。SimAntは「シミュレーター」として一匹のアリを操作するゲームだったのに対し、Empires of the Undergrowthはより明確なシナリオとRTS要素を持つ「ストラテジーゲーム」として設計されており、両作はコンセプトの軸が異なる。しかしどちらも「地面の下から見た世界」という視点を共有しており、虫を愛する人が心に宿していた夢を形にした作品として繋がっている。
SimAntで育った人間として、これは本当に夢のゲームだ。子供のころアリを観察していたあの気持ちが蘇る。30年越しの作品がこんな形で出てくるとは思わなかった。
出典:Steamユーザーレビュー(英語、概訳)
この文脈で見ると、ゲームの冒頭から一貫して流れるドキュメンタリー的なナレーションと、各アリ種の生態を丁寧に描写するデザインは、単なる演出ではなく「アリという生物への本物のリスペクト」の表れだとわかる。
Steam Deck対応——外出先でもアリの帝国を
Empires of the Undergrowthは公式にSteam Deck対応(検証済み)のゲームだ。ストラテジーゲームは一般的にコントローラー操作との相性が悪いジャンルだが、本作は専用のコントローラーUIが用意されており、Steam Deckでのプレイにも対応している。
フェロモンマーカーによる指示システムは、マウスカーソルの細かいクリックではなくアナログスティックでのカーソル操作でも機能するため、コントローラーでのプレイ体験の劣化が比較的少ない。長時間のプレイにも向いており、「寝転がりながらアリを育てる」というカジュアルなプレイスタイルも実現できる。
Steam Deckでも意外に快適に遊べる。コントローラーでRTSをプレイするのは無理だと思っていたが、このゲームの操作量の少なさがちょうどよくフィットしている。
出典:Steam Deck HQレビュー
一方、フリープレイモードでの細かいカスタマイズ設定や、後半ミッションでの大規模戦闘時のカメラ操作は、PCのマウス・キーボードのほうがやはり快適だ。「メインはPC、外出先はSteam Deck」という使い分けが最も理想的な活用方法といえる。
コロニーのライフサイクルを「体感」する設計
Empires of the UnderwgrowthをほかのRTSと一線を画すものにしているのは、「コロニーのライフサイクルを体感させる」という設計の徹底だ。
序盤は女王が産んだ数匹の幼虫が育つ様子を見守りながら進む。アリの孵化にはリアルタイムの時間がかかり、最初の兵隊アリが誕生するまでの間、少数の働きアリだけで食料を集めなければならない。このスロースタートは最初は焦ったい感じがするが、それが本物のコロニー立ち上げの感覚に近い。
コロニーが成長してくると、食料の需要と供給のバランス管理が主要な課題になる。働きアリは食料採集と幼虫の世話を並行して行うため、戦闘に全員を動員すると巣の維持ができなくなる。戦闘・採集・育成の3つを同時に回す判断が求められる局面が、ゲームに重層的な手応えをもたらしている。
さらに各アリには個別に体力・攻撃力・移動速度の概念があり、同じ種類でも状態が異なる個体が存在する。大群を一括で管理しつつ、個々の状況も見る目が求められる。「群れを指揮する」という体験の複雑さがここに宿っている。
最初は数匹の弱いアリが、気づいたら数百匹規模の軍勢になっている。この成長の過程を一緒に体験してきた感覚がある。ただのユニット管理ゲームじゃなくて、コロニーに愛着が湧く珍しいゲームだ。
出典:Steamユーザーレビュー
戦略シミュレーターという文脈で語られることの多い本作だが、その本質はむしろ「コロニー育成ゲーム」に近い。アリたちへの愛着が自然に育まれる仕組みが、このゲームを特別な体験にしている。
コロニー育成の感覚を別ジャンルで味わいたい人には、施設管理とアクションを組み合わせたゲームも合う可能性がある。

グラフィックスと音楽——虫の世界のサイズ感
Unreal Engineで構築されたグラフィックスは、虫目線のサイズ感を丁寧に再現している。地面の砂粒、落ち葉の繊維、木の根の表面テクスチャが高精細に描かれており、プレイヤーが「自分がアリと同じサイズになった世界にいる」という没入感を醸成している。
アリ個体の3Dモデルも細部まで作り込まれており、大群が動くシーンでは本物のアリの映像を見ているような錯覚を覚えることがある。一方で「虫がリアルすぎて苦手」という反応も当然あり、昆虫が得意でない人には不向きなビジュアルでもある。
BGMはドキュメンタリー映像のサウンドトラックを意識した環境音楽的な構成で、戦闘中は緊張感のある弦楽器系の音楽に切り替わる。この切り替えが状況に応じたテンションを自然に生み出しており、「何かが来る」という予感をBGMで先に感じる場面がある。
ナレーションはイギリス英語のアクセントが特徴的で、BBCの自然ドキュメンタリーを想起させる。日本語字幕は用意されているが吹き替えはなく、英語のナレーションと日本語字幕の組み合わせになる。英語に不慣れな人でも字幕でゲーム内容を理解するには十分な質になっている。
まとめ——アリが好きな人と、RTSを試したい人に
Empires of the Underwgrowthは、「虫が好き」「アリという生き物が面白い」という感覚を持っている人なら、間違いなく刺さる作品だ。昆虫の生態がゲームメカニクスに直結する設計、高精細なビジュアル、BBCドキュメンタリー風のナレーション、そして地道にコミュニティの声を聞き続けた7年間の開発——これらが重なって、唯一無二の体験を作り上げている。
RTSとして見たとき、操作量が少なくシンプルな入口になっていることは、「RTSをやってみたいが難しそう」という層にとっての強みだ。StarCraftやAge of Empiresに圧倒された経験のある人でも、フェロモンマーカーを使った指示システムならストレスなく進められる可能性がある。
一方でミッション中セーブ不可という仕様と、序盤の薄いゲームプレイ体験は無視できない欠点だ。「最初の2〜3時間で面白さがわかるか」という点では正直厳しい面もあり、Level 3以降の深みを知らずに辞めてしまう人がいることは否定できない。
Steam版の価格は2,050円(セール時はさらに割引あり)。7年分の開発と、1万5千件以上のユーザーが評価した内容としては、十分な価値がある。アリという題材に興味がある人は、ぜひリード文直後のトレーラー動画を見てほしい。映像一本で「自分向きかどうか」が判断できるはずだ。
似たような「生態を活かした独自ゲームプレイ」を探している人には、深海の謎と漁業を組み合わせたDREDGEも近い体験を提供している。
また、戦略的な判断を積み重ねるゲームプレイが好きなら、コロニー管理という観点でRimWorldも同種の満足感が得られるゲームだ。
コロニーの最初の一匹から帝国の完成まで、あなただけのアリの帝国を育てる体験が、Empires of the Undergrowthには詰まっている。
Empires of the Undergrowth エンパイア・オブ・ジ・アンダーグロウス
| 価格 | ¥2,980 |
|---|---|
| 開発 | Slug Disco |
| 販売 | Hooded Horse, Slug Disco |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows / Mac |
