「Hellblade II」バイキング時代を舞台にした精神疾患アクション

公式トレーラー

Senua’s Saga: Hellblade II – Official Trailer | The Game Awards 2023

ヘッドホンをつけて、音量を上げる。それだけで、このゲームは始まる前から別の世界に引き込んでくる。

2024年5月21日にリリースされた『Senua’s Saga: Hellblade II』は、Ninja Theoryが7年かけて作り上げた続編だ。Unreal Engine 5の限界に挑んだビジュアル、精神疾患を抱えたケルトの女戦士セヌアの内側から世界を描くアプローチ、そしてバイノーラル録音による幻聴の没入感——このゲームが目指していたものは、ゲームというより「体験装置」に近い。

メタスコアは81点。Steamのユーザーレビューは84%が好評(約4,200件)。称賛の声は多い。だが同時に、Steam同接数が最大約3,900人という数字も残っている。前作『Hellblade: Senua’s Sacrifice』の最高同接が5,653人だったことを考えると、7年後の続編としては奇妙なほど静かなスタートだった。

価格は7,040円。前作の約3,000円から倍以上に跳ね上がり、プレイ時間は6〜8時間。「短すぎる」「高すぎる」「ウォーキングシムじゃないか」——そういう批判も、正直に言えば、間違っていない。

それでも、このゲームを体験した後に何かが残る。セヌアの声が耳に残る。アイスランドの荒涼とした風景の中で目撃した光景が、記憶に焼きつく。他のゲームでは絶対に味わえない何かが、確かにある。

本記事では、Hellblade IIの「なぜこんなにすごいのか」と「なぜこんなに届かなかったのか」を、両方正直に書いていく。前作との比較、ボリューム批判の本質、Ninja Theoryの現在地、PC環境での動作まで、プレイして感じたことを全部書く。

この記事はこんな人に向けて書いています
  • Hellblade IIが気になっているが、6〜8時間で7,000円は高いと感じている人
  • 前作『Hellblade: Senua’s Sacrifice』との違いを知りたい人
  • ゲーム性よりも映像・音響・物語体験を重視するプレイヤー
  • 精神疾患の描写がどのようなものか確認したい人
  • Ninja Theoryの現状とMicrosoftとの関係を知りたい人
  • UE5の映像表現の限界がどこにあるか見てみたい人
  • Game Pass加入を検討していて、収録タイトルの質を調べている人
目次

基本情報

Senua's Saga: Hellblade II 基本情報
タイトル Senua’s Saga: Hellblade II(ヘルブレイド2)
開発 Ninja Theory
販売・パブリッシャー Xbox Game Studios(Microsoft)
発売日 2024年5月21日
対応プラットフォーム PC(Steam / Microsoft Store)/ Xbox Series X|S
ジャンル サイコロジカルアクションアドベンチャー
日本語対応 日本語字幕あり(音声は英語)
プレイ時間目安 6〜8時間(メインクリア)
価格 7,040円(Steam定価)
メタスコア 81点(PC / Xbox Series)
Steamユーザーレビュー 好評(84% 好評、約4,200件)
Steam最高同接数 約3,900人(発売直後)
エンジン Unreal Engine 5
前作 Hellblade: Senua’s Sacrifice(2017年)

前作『Hellblade: Senua’s Sacrifice』を知らない人へ——7年前の衝撃から説明する

Senua's Saga: Hellblade II 前作との比較

Hellblade IIを語るには、まず2017年の前作から始めなければならない。

『Hellblade: Senua’s Sacrifice』は、Ninja Theoryが開発費を抑えた「AAA品質のインディーゲーム」として世に出た異色のタイトルだった。価格は3,000円以下(当時)。規模は小さい。だが内容は、当時のゲーム業界が見たこともないものだった。

主人公セヌアは、サイコシス(精神病性障害)を抱えるピクト族の女戦士。大切な恋人ディリンを北欧のヴァイキングに殺され、その魂を取り戻すために、死者の国ヘルヘイムへと旅に出る。

しかし、このゲームが特別だった理由はストーリーよりも「表現方法」にある。精神疾患の専門家と患者本人の協力のもと、セヌアが常に聞こえている「幻聴」をバイノーラル録音で再現した。ヘッドホンをつけると、複数の声が四方八方から語りかけてくる。前から、後ろから、左から、右から、頭の上から。それがセヌアの日常だ。

この試みは業界に衝撃を与え、ゲーム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされ、精神疾患コミュニティからも「偏見のない誠実な描写」として評価された。Steam同接は最大5,653人と小規模だったが、プレイした人の間で語り継がれる作品になった。

そして7年後。Microsoftに買収されたNinja Theoryが、本格的な予算と体制で作り上げた続編が『Senua’s Saga: Hellblade II』だ。

「前作でセヌアに出会って以来、ずっと待っていた続編。あの幻聴表現があれほど映像と融合した作品は後にも先にも見たことがない」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

前作未プレイの人でも今作からプレイできる。前作の主なストーリーはHellblade IIの冒頭で整理される。ただし、セヌアという人物への理解や、バイノーラル音響の「驚き」は、前作を経験してから向かった方が倍になる。時間があれば前作から始めることをすすめる。

アイスランドへ——今作のセヌアが背負うもの

Senua's Saga: Hellblade II アイスランドの風景

前作でセヌアは、恋人ディリンの魂を救うため、文字通り地獄へ降りた。ヘルヘイムを抜け、ヘルと対峙し、真実と向き合ってその旅を終えた。精神疾患と喪失を巡る、深く個人的な物語だった。

続編『Hellblade II』は、舞台を9世紀のアイスランドに移す。今度のセヌアは一人ではない。ヴァイキングの奴隷商人に自ら捕縛されることで、アイスランドに渡る。目的は「自分の民を奴隷制度から解放すること」だ。物語のスケールが、前作の個人的な悲劇から、民族と社会の問題へと広がった。

旅の途中でセヌアは、巨人(ジョトゥン)と呼ばれる存在の影を見る。ヴァイキングの呪術師がその力を利用しようとしている。奴隷として連れてこられた人々の絶望。セヌアは巨人の力を止めるために、仲間とともに旅を続ける。

前作との大きな違いは、セヌアの「内側」の変化だ。前作のセヌアは、自分の「声」を敵として、恐れとして、克服すべき呪いとして抱えていた。今作のセヌアは、その「声」と和解している。声は相変わらず頭の中で鳴り続けるが、今作ではそれが「仲間の一員」として機能する場面が増えた。前作が「精神疾患に飲まれる物語」なら、今作は「精神疾患と共に生きる物語」だ。

「前作はずっとセヌアの絶望に付き合う感覚で正直しんどかった。今作は彼女が少し強くなっていて、見ていて安心できる。でもその分、前作のような恐ろしさは薄れた」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

北欧神話のモチーフも前作より深く組み込まれている。ジョトゥン(巨人)はノルウェー神話における原初の存在であり、神々の天敵だ。ラグナロクを呼び起こす力を持つ巨人の影が、セヌアの旅に重なっていく。現実の10世紀アイスランドの奴隷制度という歴史的背景と、神話的な巨人の存在が交差するストーリーは、前作よりも世界観のスケールが大きい。

Ninja Theoryは精神疾患の専門家や当事者の声を取り入れて世界を構築してきた。このアプローチは今作でも健在で、セヌアが知覚する世界の「歪み」——幻覚や幻聴がどのように現実に混じり込んでくるか——の表現は、他のゲームには真似できないレベルに達している。

Unreal Engine 5が生み出した「2024年最高峰」の映像

Senua's Saga: Hellblade II UE5映像クオリティ

このゲームで何より語らずにいられないのが、映像クオリティだ。

アイスランドの荒地。黒い溶岩台地に降り積もった雪。空の低い雲。水面の反射。セヌアの髪の毛の一本一本まで描き込まれた顔の表情——2024年時点でリアルタイム3Dグラフィックスの頂点がどこにあるかと問われれば、この作品を挙げる人は多いはずだ。

Ninja Theoryはロンドンのモーションキャプチャスタジオで、演者によるパフォーマンスキャプチャをフルに活用した。主演のMelina Juergens(元は開発スタッフだった人物がセヌア役に抜擢された)のみならず、戦闘シーンに至るまで実際のスタントアクターが演じており、キャラクターの動作がこれまでのゲームとは一線を画す「人間らしさ」を持っている。戦闘シーンのモーションキャプチャだけで約70日間の撮影を行ったという。

「ムービーシーンとゲームプレイの境界線がほぼない。どこからがカットシーンなのかわからないくらい映像が地続きになっている」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

このシームレスな映像体験は、Unreal Engine 5のNanite(超高精細ジオメトリ)とLumen(グローバルイルミネーション)の組み合わせによって実現している。特に光と影の表現は顕著で、アイスランドの白い地面に差し込む薄い冬の陽光、炎の揺らめきと煙の動き、そして薄暗い洞窟内での岩肌のディテールは、現実の映像と区別がつかないレベルに達している。

発売時点での複数のレビューメディアが「2024年最高の映像品質」と評した。PC Games Nの評価でも映像面は最高評価。ゲームの映像表現の歴史において、一つの到達点を示した作品だ。

「映像が本物のドキュメンタリーみたいで怖い」というユーザーの感想が複数あった。ゲームとして遊んでいるというより、「自分がアイスランドの荒野にいる」という感覚に引きずり込まれる瞬間が確かにある。それほどの没入感だ。

「RTX 4090で4K最高設定で遊んだが、これが2024年現在の映像の限界だと思う。他のゲームが霞んで見えた」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

ただし、これほどの映像クオリティを発揮するには相応のPCスペックが必要になる。推奨スペックはRTX 3080クラス以上で、4K最高品質設定ではRTX 4090でも重い場面が出てくる。「映像美を十全に体験する」ためのスペックは、現行世代の最上位クラスを要求する。

バイノーラル音響と「声」の設計——ヘッドホン必須のわけ

Senua's Saga: Hellblade II バイノーラル音響と声

Hellbladeシリーズの看板機能が、バイノーラル録音による幻聴表現だ。

セヌアは精神疾患を抱えており、複数の声が常に頭の中で鳴り響いている。この「声」は単なる演出ではなく、ゲームプレイにも干渉する。戦闘中の危険を警告したり、パズルのヒントをくれたり、かと思えば不安を煽ったりする。味方でもあり、敵でもある声たちとともに旅をする——それがHellbladeの本質だ。

バイノーラル録音では、音が「左から」「右後ろから」「頭の上から」聞こえてくるよう設計されている。スピーカーではなく、ヘッドホンで聴くことで初めて完全な体験になる。右耳でつぶやく声、左後方から迫る声、天井から降り注ぐような声——これらが同時に絡み合うとき、自分がセヌアの内側にいると錯覚する。

前作と比較すると、今作の「声」は前作ほど恐怖感を煽らなくなった。前作の声は「呪い」として機能していた。今作の声は、どちらかというと「複雑な仲間」として振る舞う。音響演出が前作の方が没入感が高いという意見もある。前作の幻聴はとにかく怖かった。今作は美しい怖さになった、とでも言えばいいか。

「ヘッドホンでプレイしていたら、部屋の外から本当に声がしたのかと思って振り返った。それくらいリアルだった」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

音楽も緻密に計算されている。アイスランドの民族音楽的な弦楽と、電子的なノイズが混じり合うサウンドトラックは、映像の荒涼とした美しさを強化する。特にボス戦前後の音楽の高まりは、映像と完全に同期していて、ゲームの体験として記憶に刻まれる。

サウンドデザインだけでも、このゲームには体験する価値がある。これは誇張ではない。「音」という観点でHellblade IIを超えているゲームが2024年に存在したかどうか、正直わからない。

ただ一点、音響の没入感が高すぎるゆえの問題もある。プレイ疲れが普通のゲームより早く来る。幻聴の声、戦闘の効果音、環境音が同時に迫ってくる体験は、脳への刺激が強すぎる。1時間以上の連続プレイは正直しんどい。「短時間で深く体験するゲーム」という設計は、こうした側面からも理解できる。

前作から何が変わったのか——戦闘とパズルの進化と限界

Senua's Saga: Hellblade II 戦闘とゲームプレイ

前作『Hellblade: Senua’s Sacrifice』のゲームプレイは、剣戟アクションとルーン探しパズルの繰り返しだった。「ルーンを探して光景と重ね合わせる」というパズルが大量にあり、途中で飽き始めるプレイヤーも少なくなかった。戦闘は1対1が基本で、スタイリッシュさよりも重量感を重視した演出だった。

Hellblade IIでは、この両方が改良されている。

まず戦闘から。一対多の状況も増え、仲間のNPCとの連携も加わった。セヌアを護衛しながら共に戦う仲間の存在は、前作の孤独な旅とは明確に異なる感触をもたらす。タイムスロー的なメカニクスが追加され、敵の攻撃をかわしながら素早く複数回攻撃できるような場面も出てきた。重量感のある戦闘は健在だが、前作よりも動的になっている。

戦闘モーションは、70日間のパフォーマンスキャプチャによって作られており、単純に美しい。セヌアの体の傾き、呼吸、疲労感が動作に滲み出ている。「剣を振る」という行為が、ここまで「人間がやっている」と感じさせるゲームは珍しい。

「戦闘の重さとリアリティは健在だが、今作は仲間がいる安心感がある。前作はずっと一人で戦っていたので、精神的にきつかった」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

パズルも多様化した。環境パズル(炎の位置を操作して道を開く等)や、視点を変えることで形が変わる「錯視パズル」など、単純なルーン探しだけではなくなった。ただし、難易度は全体的に低め。謎解きで詰まることはほぼない。ゲームとして挑戦したいプレイヤーには物足りないかもしれない。

問題があるとすれば、ボス戦の薄さだ。前作にはSurtr(炎の巨人)やValravn(鴉の神)など、それぞれの神話的背景を持つ印象的なボスがいた。今作のボスは、巨人との戦いが繰り返されるが、演出パターンが似通っている。特徴的なボスキャラクターの個性が前作より薄い、という批評は複数のメディアから出ており、自分でも同様に感じた。

これは設計思想の問題でもある。Ninja Theoryが作ろうとしているのは「難しいゲーム」ではなく「体験できる映画」に近い。だからこそ、アクション要素やパズル要素の難度を抑えて、ストーリーと音響と映像の没入感にすべての力を注いでいる。好むかどうかは、プレイヤーがゲームに何を求めているかによる。

「パズルは種類が増えたが難しくない。前作のルーン探しの方がまだ手応えがあった。戦闘も慣れると単調になる。でもそれが欠点と言い切れない不思議なゲーム」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

「操作しているのかムービーを見ているのかわからない」という感想は、批判としても褒め言葉としても成立する。Ninja Theoryはそのグレーゾーンを意図的に狙っている。

「6〜8時間で7,040円」という問題——ボリューム批判の本質

Senua's Saga: Hellblade II ゲームカプセル画像

Hellblade IIをめぐる最大の論点は、ここだろう。

プレイ時間は6〜8時間。カットシーンや会話シーン、歩いて移動するシーンを含めると、「純粋にプレイヤーが操作できる時間」はさらに短い。価格7,040円。これをどう見るかは、正直に言えば分かれる。

Ninja Theoryは公式に、このゲームの短さについて言及している。意図的に短く作った。引き伸ばしのない、濃密な体験を提供するためだと。確かに、無駄なパディング(水増しコンテンツ)は感じない。6〜8時間のほぼ全てに意味がある。

しかしそれでも、「7,000円払ってゲームを買う」という行為に対してプレイヤーが期待するボリュームには届いていない。3,000〜4,000円で売るべき内容を7,000円で売っている、という批判は理解できる。

「クリアまで7時間。映像と音楽は絶品だが、ゲームとしてお金を払うには内容が薄い。Game Pass加入者なら間違いなく損はないが、単品購入は慎重に」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

「7時間で終わるが、7時間ずっと最高のクオリティが続く。引き伸ばしのない7時間と、水増しされた40時間どちらが価値あるかという話」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

両方の意見が正しい。ゲームとしての体験密度は高い。だが「ゲームに7,000円払う」という行為に対して、一般的なプレイヤーが期待するボリュームには届いていない。この矛盾は、購入前に自分がどちらの価値観を持っているかで答えが変わる。

一つの解法として言えるのは、Game Passの存在だ。Xbox Game Pass(PC版含む)に加入していれば、追加費用なしでプレイできる。Hellblade IIはGame Pass同時リリースのタイトルであり、Xbox Game Studiosが提供するコンテンツの一つとしての価値は十分にある。「Game Passに入るかどうか」の判断材料として本作を評価するなら、十分な説得力がある。

「短いが濃密」という評価軸で語られる2024年の他のタイトルを探しているなら、こちらも参考に。

Steamで静かだった理由——Game Pass戦略とPC市場の現実

Senua's Saga: Hellblade II Steam販売状況

発売当日のSteam最高同接が約3,900人というのは、AAA級タイトルとしては異例の低さだ。前作の5,653人を下回り、Redfall(約5,000人)やHi-Fi RUSH(約3,700人)と並んで「Xbox Game Studios のSteam不振」の象徴として語られた。

ただし、これはゲームの質とは別の話だ。

Xbox Game Studiosのタイトルは、発売と同時にXbox Game Pass(PC Game Pass含む)でプレイ可能になる。月額費用を払っているサブスクリプション会員にとって、わざわざSteamで7,000円を払う理由がない。Game Pass経由のプレイヤー数は公開されていないため、実際のプレイヤー総数は同接数からは判断できない。

さらに、Xbox本体でプレイするユーザー層も相当数いる。Xbox Series X|Sのユーザーにとって、Hellblade IIは「Game Passで当然遊ぶべき作品」として配信された。Steam同接数はこの層を全く反映していない。

「Game PassでXbox版プレイ済みだったのでSteamでは買っていない。でも間違いなく2024年に最も衝撃を受けたゲームだった」

出典:Steamコミュニティ(2024年)

Microsoftの戦略として、Game Passへの誘導はある種の目的でもある。Steamでの単品販売を伸ばすよりも、サブスクリプション会員を維持・拡大する方が優先されている。このビジネスモデルの中でHellblade IIは予定通りのリリースを行ったと見るべきだろう。

「Steam同接数が低い=失敗作」という見方は、少なくともXbox Game Studiosのタイトルには当てはまらない。同じように誤解されがちな事例は他にもある。

Ninja Theoryの現在地——共同創業者退任とその後

Hellblade IIのリリース前後、Ninja Theoryにとって大きな変化があった。

Ninja Theoryは2002年の創業。『DmC: Devil May Cry』(2013年)や初代『Hellblade』(2017年)を経て、2018年にMicrosoftに買収されXbox Game Studiosの傘下に入った。スタジオ規模は約100名に拡大し、Hellblade IIには約80名が携わったとされる。

しかし2024年4月、発売直前に共同創業者であり長年クリエイティブディレクターを務めてきたTameem Antoniades氏がNinja Theoryを離れた。Hellbladeシリーズの精神的な支柱とも言える人物の退任は、スタジオの今後を心配する声を生んだ。

それでもMicrosoftはNinja Theoryを支持し続けている。2024年末には次の新作ゲームがMicrosoftによって承認されたという報道が出た(なお、別プロジェクトだった「Project: Mara」は2026年初頭にキャンセルが報じられている)。スタジオを閉鎖する意向はないとMicrosoftは明言している。

「Tameemなしのスタジオが、あのHellbladeの精神を引き継げるかどうか。次回作がその答えになる」

出典:Kotaku報道(2024年)に基づくコミュニティの議論

Hellblade IIは、ある意味でNinja Theoryの一つの集大成だ。Microsoftという後ろ盾を得て、本格的な制作体制で作り上げた映像とサウンドの到達点。そして創業メンバーが去った後、このスタジオが何を作るのか——その問いは、次作が出るまで答えが出ない。

PCスペックと動作環境——UE5の代償

Senua's Saga: Hellblade II PC動作環境

映像が美しい分、要求スペックは高い。以下に目安をまとめる。

設定 GPU目安 備考
最低(720p/30fps) GTX 1070 / RX 5700相当 映像美が大幅に損なわれる
推奨(1080p/60fps) RTX 3080 / RX 6800 XT相当 快適にプレイ可能
高品質(1440p以上) RTX 4080以上 映像美を本領で体験できる
4K最高設定 RTX 4090 それでも重い場面あり

発売当初、HDR設定やフレームレートに関する小さな不具合の報告があった。パッチで改善されているが、PC版として最初から完璧ではなかった点は正直に書いておく。

メモリはRAM 16GB以上推奨。UE5特有の「シェーダーコンパイル」問題は本作でも存在し、初回起動時やロード時間は長め。SSDへのインストールを強くすすめる。

「RTX 4090でも4K最高画質だと若干重い場面あり。このゲームはほんとうにグラフィックの限界に挑んでいる」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

低スペックPCでも「動く」が、このゲームの最大の売りは映像と音響の没入感だ。低設定で解像度を落として遊ぶと、体験の中核が失われる。可能な限り高い環境で遊ぶことをすすめる。

「芸術作品かゲームか」——この問いをどう受け止めるか

Hellblade IIをめぐる議論の多くは、「これはゲームと呼べるのか」という点に収束する。

操作できる時間は短い。難易度は低い。探索要素もない。マルチプレイも周回プレイを促す要素もない。「ゲームらしいゲーム」が好きな人にとって、このタイトルは明らかに物足りない。

一方で、「体験できる映画」という文脈で見れば、2,000円の映画チケットと7,040円の本作はさほど遠くない。映画は100分前後で終わる。本作は6〜8時間ある。映像クオリティは映画と遜色ない。音響演出は映画を超えているとも言える。インタラクティブに参加しながら消費するというゲームならではの価値もある。

「ゲームかどうか」という議論は、突き詰めると「ゲームの定義とは何か」という哲学的な問いになる。Hellbladeシリーズは、その問いを意図的に突きつけてくる作品だ。

「これは『ゲーム』じゃなくて『体験』だと割り切って遊べば、2024年最高の作品の一つ。逆にゲームとして遊ぼうとすると裏切られる」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

個人的には、このゲームを「ゲームとして評価する」ことを途中で諦めた。そこから先は、ただ体験として受け取るだけにした。そうしたら、このゲームは全く別の作品になった。セヌアの旅が、自分の旅になった。

どちらの向き合い方が「正しい」かはない。ただ、「ゲームとしてのコストパフォーマンスを最大化したい」という目的でこのゲームを買うと、確実に落胆する。それだけは言っておく。

精神疾患の描写が持つ意味——ゲームの可能性を押し広げる試み

Hellbladeシリーズが他のゲームと決定的に異なるのは、「精神疾患を持つ人間の視点」を本気で描こうとしている点だ。

前作の開発時、Ninja Theoryはサイコシスの専門家や体験者に取材を重ね、「外から見た精神疾患」ではなく「内から感じる精神疾患」の表現を追求した。その試みはメディカルコミュニティから高く評価され、精神疾患のスティグマ(偏見)を減らすコンテンツとして紹介される事例もあった。

Hellblade IIでも、このアプローチは継続されている。セヌアが「声」と対話し、現実と幻覚の境界が曖昧になる感覚は、プレイヤーが一時的にその状態を「体験」することを可能にする。「他者の内側に入る」という体験は、共感の形を変えてくれる。

「精神疾患を持つ家族がいる。このゲームは、家族の感じていることを少しだけ理解させてくれた気がした。ゲームでこういう感動を味わったのは初めて」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

もちろん、あくまでフィクションであり、精神疾患を「ゲーム的に使っている」という批判も成立する。ただ、制作側の誠実さと専門家との連携という姿勢を見れば、少なくとも悪意ある使い方ではない。ゲームという媒体で伝えられることの可能性を、このシリーズは真剣に探っている。

精神疾患や精神世界をゲームのテーマとして扱う作品の中で、Hellbladeシリーズは最も誠実な部類に入る。このアプローチが続いてほしいと思っている。

幻覚と現実の境界——セヌアの目に映る世界を「見る」体験

このゲームで最も特徴的な演出の一つが、「セヌアの視覚が現実を歪める」という表現だ。

セヌアはサイコシスを抱えており、彼女の目には現実と幻覚が混じり合って映る。ゲームはその視点をそのまま採用している。プレイヤーが見ている「画面」は、セヌアが見ている世界そのものだ。岩肌に人の顔が浮かび上がる。炎の中に何かの形が見える。誰もいない場所で声がする。これらが「演出である」という示唆はない。ゲームはただそれを見せ続ける。

このアプローチの怖さは、「何が本当に起きていて、何がセヌアの幻覚なのかがわからない」という点だ。前作では、ゲーム全体が「セヌアの妄想だったのではないか」という解釈の余地を残した。今作でも、物語の一部がどこまで現実でどこまで幻覚かは、意図的に曖昧にされている。

「巨人が本当に存在するのか、セヌアの幻覚なのかが最後までわからない。それが怖いし、美しい。このゲームの答えは一つじゃない」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

「現実と幻覚の曖昧さ」を武器にしたゲームは他にもある。だがHellbladeシリーズほどそれを徹底的に、かつ精神疾患の当事者視点で描いた作品は少ない。ゲームのデザインとストーリーテリングが一体になっている点で、このシリーズは今も唯一無二の位置にある。

「騙されている気がする」という不快感と、「でも見続けたい」という引力が同時に働く。その感覚こそが、このゲームが体験として機能している証拠だ。

戦闘の「重さ」について——スタイリッシュさを求めると失望する理由

Hellblade IIの戦闘は、「気持ちいい」という形容が当てはまらない。

多くのアクションゲームでは、プレイヤーキャラクターが軽やかに動き、複数の敵をコンボで叩き、スタイリッシュにフィニッシュを決める。そういう「爽快感」がアクションゲームの主流だ。

Hellblade IIは正反対を向いている。セヌアは重い。動作に現実の人間的な慣性がある。斬撃は「速くて格好いい」のではなく、「必死で振り下ろす刃物」の感触だ。敵も同様に重い。剣が体に入ったときの感触が、グラフィックと音響で嫌というほどリアルに伝わってくる。

この設計は意図的だ。Ninja Theoryは「戦闘が快楽であってはいけない」という姿勢をシリーズ全体で持っている。セヌアの戦いは、英雄的な冒険ではなく、生き延びるための必死の行為だ。だから戦闘に爽快感ではなく「緊張感」と「重さ」を持たせている。

「戦闘が全然気持ちよくないのに、なぜか辞められない。これが正しい意味での『戦闘のリアリティ』なのかもしれない」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

好むかどうかは完全に好みによる。「アクションゲームをプレイする快感」を求めているなら、間違いなく物足りない。「この物語の中で戦っている感覚」を求めているなら、これ以上のゲームはない。

アクションの爽快感とゲームプレイの深みを両立した作品を探しているなら、こちらの方が合うかもしれない。

字幕・日本語対応の質——海外ゲームとして遊ぶ際の注意点

本作は日本語字幕に対応している。ただし、音声は英語のままだ。

Hellbladeシリーズでは、バイノーラル音響による「声」がゲーム体験の核心にある。これを日本語吹き替えで置き換えることは技術的にも体験的にも難しく、英語音声のまま日本語字幕という形が選択されている。

英語の音声、特にセヌアを演じるMelina Juergens氏のパフォーマンスは素晴らしく、言葉がわからなくても感情は伝わってくる。日本語字幕の翻訳の質も概ね丁寧で、ストーリーを追うのに支障はない。

ただし、バイノーラル録音による「幻聴の声」は、速いテンポで複数の声が重なり合うことがある。字幕を追いながら音声も聴くというのが、一部の場面では難しい。特に字幕読みが遅いプレイヤーには、ストーリーを追いながら音響の没入感を同時に享受することに若干の慣れが必要かもしれない。

「英語がわからなくても字幕があれば大丈夫だが、声優さんの演技をそのまま感じるために英語の勉強をしたくなった」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

英語音声のアクション・アドベンチャーとしての完成度は高い。字幕対応だけで十分にストーリーを楽しめる。ただし「完全な体験」という意味では、英語がわかると一層深く入り込める作品だ。

どこで遊ぶのが最善か——Steam・Game Pass・Xbox本体

Hellblade IIを遊ぶ方法は複数ある。それぞれの特徴を整理する。

PC(Steam単品購入)

7,040円を払って買う方法。ライブラリに永久に残る。高スペックPCなら映像美を最大限に体験できる。コストパフォーマンスに敏感なプレイヤーには向いていない選択肢だが、Hellbladeシリーズを「所有したい」というコレクター的な動機があるなら悪くない。

PC(Xbox Game Pass / PC Game Pass)

月額課金のサブスクリプションで遊べる。追加費用なし。「Game Passに入るかどうか」の判断材料として本作の価値は十分にある。他のXbox Game Studiosタイトルとあわせて考えると、コストパフォーマンスは高い。ただし解約すると遊べなくなる。

Xbox Series X|S

本作はXbox Series専用タイトルで、Xbox One以前のハードには対応していない。Game Pass加入者なら追加費用なし。テレビの大画面とサラウンドシステムで遊ぶのも一つの体験だが、バイノーラル音響はヘッドホン推奨のため、PCとヘッドホンの組み合わせが最も没入感を高めやすい。

「Game Passで遊んで最高だったのでSteamでも買い直した。それくらい気に入ったゲーム。でも普通の人はGame Passで十分」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

結論として、Game Pass加入者なら今すぐプレイしてほしい。未加入でSteam単品購入を検討するなら、セール時(50〜75%オフ時)を狙う方が後悔が少ない。定価7,040円でのSteam購入は、「このゲームを絶対に体験したい」という強い動機がある場合に限定してよいと思う。

2024年という年の文脈で見るHellblade II

2024年は、PCゲーム市場にとって様々な意味で転換点だった年だ。Balatro、Black Myth: Wukong、Metaphor: ReFantazio、Astro Bot——それぞれの方向性で「ゲームとは何か」を問い直すタイトルが出揃った。

Hellblade IIはその文脈の中で、「映像体験としてのゲームの頂点」を示した作品として記憶される。Steamの同接数も売上も、トップクラスには届かなかった。しかし「2024年を代表するビジュアル作品」として挙げられ続ける位置は、発売から2年後の今でも揺るいでいない。

「Steam同接数で話題にならなかった分、逆に語られ続けている。本当に良いゲームは時間をかけて評価が上がる」

出典:Steamコミュニティ(2024-2025年)

大量のゲームが毎月リリースされる現代において、「6〜8時間で完結する体験型作品」という形式が今後も続くかどうかは分からない。Game Passという配信モデルの中でなければ成立しにくいコンテンツでもある。Hellblade IIは、ゲームビジネスとアート表現の交差点に生まれた、ある種特殊な作品だ。

それでも、セヌアの物語が続いてほしいと思っている。Ninja Theoryが次に何を作るか。それが2026年以降のゲーム業界で最も楽しみな発表の一つだ。

同じく2024年に独自のビジョンで作られた作品として、こちらも注目に値する。

前作との比較まとめ——どちらが「Hellblade」らしいのか

Senua's Saga: Hellblade II まとめ

前作と今作を並べて比較すると、どちらが上か、という議論が起きる。これはシリーズファンの間でも意見が割れている。整理してみる。

要素 Hellblade: Senua’s Sacrifice(前作) Senua’s Saga: Hellblade II(今作)
グラフィック 2017年最高水準 2024年最高水準(UE5)
バイノーラル音響 恐怖感・不安感が強い 美しさと恐怖のバランス
物語のスケール 個人的な悲劇と回復 民族・社会の解放へ
セヌアの状態 精神疾患に飲まれている 精神疾患と和解しつつある
戦闘 1対1、重厚、孤独 仲間あり、やや動的
パズル ルーン中心、途中で単調に 多様化、ただし難度低め
ボス戦 個性的なボスが印象的 巨人戦が繰り返し気味
プレイ時間 約6〜10時間 約6〜8時間
価格 約3,000円(当時) 7,040円

「Hellbladeらしい恐怖感と孤独感」という点では前作に軍配が上がる。前作のセヌアは本当に追い詰められていて、プレイヤーもその感覚を共有せざるを得なかった。今作は「克服した後の物語」であり、怖さが和らいだ分、孤独感も薄れた。

映像と技術的な完成度では今作が明らかに上回る。前作が2017年に示した可能性を、今作が2024年の技術で実現した形だ。

どちらが「より好きか」は人による。ただ、どちらも「他のゲームにはない体験」を提供している点で、シリーズとしての価値は揺るがない。

「前作の方が怖くて好き。今作は美しすぎて、怖さが薄れた気がする。でも今作の方が映像は圧倒的にすごい」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

「ヘッドホン必須」の意味——音響環境が体験を決める

Hellblade IIのパッケージや紹介文には必ず「ヘッドホンまたはイヤホン推奨」と書かれている。これは「あれば良い」レベルの話ではない。文字通り体験の質が根本から変わる。

バイノーラル録音は、人間の耳が音の方向を知覚する仕組みを逆算して設計されている。左右の耳に届く音の微妙なタイミング差と音質の変化を計算して、「右後方から聞こえる声」「頭の真上から降ってくる音」を再現する。この効果はヘッドホンでのみ機能する。スピーカーで聴くと、せいぜい「左右のステレオ」になってしまう。

セヌアの幻聴は、前作・今作ともに「声優が複数人、それぞれ異なる方向と距離感で語りかける」という設計になっている。ヘッドホンで聴くと、右耳でだけ聞こえる声、遠くから聞こえてくる声、近くで囁く声が全部別々の方向から来ていることがわかる。これをスピーカーで聴くと「複数の声が聞こえる」という情報量だけになり、「自分の頭の中に声が住んでいる」という感覚は消える。

「最初スピーカーで遊んでいたが、ヘッドホンに替えた瞬間に別のゲームになった。声が頭の中に入ってきた」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

高価なヘッドホンである必要はない。3,000〜5,000円程度のステレオイヤホンでも、スピーカーより格段に没入感が上がる。密閉型の方が外の音が入らず没入しやすい。音量は「声がはっきり聞こえる」レベルに設定すること——大きすぎると、長時間プレイで疲弊する。

一つだけ注意点がある。このゲームを「適切な環境で遊んでいない」まま評価するのは、映画を半分の音量で早送りして「つまらない」と言うのに似ている。映像体験と音響体験がセットで設計された作品なので、環境を整えてから判断してほしい。

アクセシビリティ——プレイヤーを選ばない工夫

Hellblade IIは、精神疾患の描写という敏感なテーマを扱っているだけあって、プレイヤーへの配慮も細かい。

ゲーム開始前に「このゲームは精神疾患の体験を描写しています。強いストレスを感じた場合はプレイを中断してください」という注意書きが表示される。これは形式的なものではなく、実際にゲームをプレイしていると、幻覚・幻聴・パニックに近い状態のセヌアの体験が非常にリアルに迫ってくるため、精神的に辛くなる場面がある。

字幕の大きさや表示設定もカスタマイズ可能で、視覚的なアクセシビリティへの配慮がある。難易度設定はシンプルで、戦闘が苦手なプレイヤーでもストーリーを追える設計になっている。

「精神疾患の表現がリアルすぎて、一度プレイを止めなければならなかった。でも戻って最後まで遊んだ。これだけのものを作ってくれたことに感謝している」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

「精神疾患の描写が含まれるゲームは遊ばない」という人には向かない。ただ、「精神疾患を過度にセンセーショナルに使っている」タイプの作品ではなく、当事者への敬意と専門家の監修をもとに作られているという点では、信頼できる部類の表現だと感じた。

エンディングが示すもの——ネタバレなしで語れる範囲で

ネタバレは避けるが、Hellblade IIのエンディングについて一つだけ言っておきたい。

前作のエンディングは「答えを出さない」タイプのものだった。プレイヤーに解釈の余地を大きく残し、「このゲームが何を言いたかったのか」はプレイヤーが考える構造になっていた。

今作のエンディングは、それより「前に進んだ感じ」がする。セヌアが何かを得て、何かを手放して、それでも旅を続けていく——という終わり方だ。前作のような「どこへも辿り着かなかった不安感」は薄れ、代わりに「続きがある」という感覚が残る。

これをポジティブに受け取るか、「前作の方が深かった」と感じるかは人によって分かれる。前作ファンの間でも評価が割れている部分だ。ただ少なくとも、今作のエンディングには「傷ついた人間が回復していく物語の続き」としての誠実さがある。

「エンディングで泣いた。前作でも泣いたが、今作の泣き方は違う。希望があった」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

6〜8時間という短い旅の着地点として、Hellblade IIのエンディングは悪くない。前作が「問い」で終わったとすれば、今作は「一つの答え」で終わる。次回作への期待が残る形だ。

「映画的ゲーム」の系譜——Hellblade IIが続けているもの

Hellblade IIが属するジャンル、「映画的ゲーム」あるいは「ナラティブドリブンゲーム」は、ゲーム業界の一つの流れとして根付いている。

Quantic Dreamの『Heavy Rain』(2010年)や『Detroit: Become Human』、Naughty Dogの『The Last of Us』、Sony Santa Monicaの『God of War』シリーズ——これらはプレイヤーの「操作する快感」よりも「体験する感動」を前面に出した設計で作られている。

Hellbladeシリーズはこの系譜に属しつつ、「精神疾患者の内側から世界を描く」という独自の切り口で差別化している。映像・音響・ストーリーの全てが一つの体験に向けて設計されており、「ゲームである必要があったか」という問いにも「バイノーラル音響とインタラクティブな体験という組み合わせでしか実現できない」という答えを持っている。

「映画でも小説でも音楽でもない、ゲームにしかできない表現がここにある。それだけでこのゲームの価値は揺るがない」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

「ゲームは何時間も遊べるべきだ」「難しくてやりがいがあるべきだ」という価値観は、ゲームの一面でしかない。Hellblade IIは、ゲームという媒体の別の可能性を見せてくれる。それを受け入れられるかどうかが、このゲームを楽しめるかどうかの分岐点だ。

ナラティブとゲームプレイの融合という観点で評価が高いタイトルとして、こちらも参照に値する。

こんな人には向いている・向いていない

こんな人にはおすすめ

  • 映像・音響・物語体験を最優先するプレイヤー
  • Xbox Game Pass加入者(追加費用なしで遊べる)
  • 前作『Hellblade: Senua’s Sacrifice』が好きだった人
  • 精神疾患の内側からの描写に興味がある人
  • UE5の限界映像をPC環境で体験したい人
  • 6〜8時間の濃密な体験に価値を見出せる人
  • Ninja Theoryの作品を追いかけているシリーズファン

こんな人には向いていない

  • ゲームプレイの手応えや難易度を求めるプレイヤー
  • プレイ時間に対して価格の割安感を重視する人
  • オープンワールドや探索要素を期待している人
  • アクションのスタイリッシュさを求めている人
  • Steam単品で7,040円は高いと感じる人(Game Pass推奨)
  • 前作の恐怖感と孤独感こそがHellbladeと考えているシリーズファン

パフォーマンスキャプチャの凄み——セヌアを「生きている」と感じさせる技術の話

Hellblade IIで最も語りたい技術的な要素の一つが、パフォーマンスキャプチャだ。

通常のモーションキャプチャは「骨格の動き」を記録する。これに対してパフォーマンスキャプチャは、顔の表情筋の細かい動きまで記録し、俳優の感情表現をキャラクターにそのまま移植する。目の周りの微細な筋肉の動き、唇の震え、視線の動き——これらが全て記録され、リアルタイム3Dで再現される。

Ninja Theoryはロンドンに専用のスタジオを構え、Hellblade IIのために数ヶ月かけてパフォーマンスキャプチャを行った。セヌア役のMelina Juergens氏(元はNinja Theoryのビデオ編集者で、前作の制作中にセヌア役に抜擢された)が再び主演し、今作ではより広い感情の幅を演じた。

戦闘シーンのモーションキャプチャには約70日間を費やした。実際のスタントアクターが剣を使って戦う動作を記録し、それをセヌアのキャラクターに適用している。「人間が戦っている」という感触がリアルに伝わるのは、この工程があるからだ。

「セヌアの表情が映画俳優そのままで驚いた。目が本当に生きていた。ゲームキャラクターの目がここまでリアルに見えたのは初めて」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

ゲームとして何時間遊べるかとは別の次元で、「この技術がゲームの中に存在している」という事実は圧倒的だ。ムービーシーンとゲームプレイの境界がほぼないシームレスな映像体験も、パフォーマンスキャプチャの精度があってこそ成立している。カットシーンに切り替わった瞬間に「映像がリセット」される違和感が、このゲームには存在しない。

北欧神話の世界観と巨人の描写も、このパフォーマンスキャプチャの精度があって初めて機能する。実写に見えるセヌアの動作と、神話的なスケールの巨人が同じ画面に存在することで、「現実と神話が交差する」という感覚が生まれる。映像技術と物語のテーマが見事に一致している。

将来のゲームがどこへ向かうかを考えるとき、Hellblade IIが示したパフォーマンスキャプチャの可能性は重要な指標になる。10年後のゲームが当たり前のようにこの品質を実現するとき、Hellblade IIはその先駆けとして記憶されるはずだ。

「これがリアルタイムレンダリングだと信じられない。プリレンダムービーよりきれいな気がする」

出典:Steamユーザーレビュー(2024年)

このゲームを遊ぶ前に知っておくべき5つのこと

買う前・遊ぶ前に確認しておくと後悔が減る点を整理しておく。

1. ヘッドホンは必須
スピーカーでプレイすると、バイノーラル音響の効果が完全に失われる。ゲームの中核体験が半減する。安いイヤホンでもスピーカーより格段にいい。

2. 前作プレイ推奨(必須ではない)
前作未プレイでも今作から遊べる。ただし前作を経験してから来ると、セヌアという人物への理解が深まり、今作の「成長」がより響く。前作は現在セール頻度が高く、数百円で手に入ることも多い。

3. Game Passを検討する
Xbox Game PassまたはPC Game Passに加入していれば追加費用なしでプレイできる。単品7,040円に対して費用対効果を感じにくい作品なので、Game Pass経由が最もおすすめ。

4. PCスペックを確認する
RTX 3080クラス以上推奨。映像美がこのゲームの最大の価値なので、低スペックで低画質プレイは本末転倒になりやすい。スペックが足りないなら、Game Pass + Xbox Series X|Sという選択肢も考えてほしい。

5. 「ゲームとして楽しもう」という姿勢を手放す準備をする
このゲームはアクションRPGでも探索ゲームでもない。体験型の映像作品だ。「映画を観る感覚」で向かうと、6〜8時間が充実した体験になる。「ゲームとして遊ぼう」という姿勢で向かうと、短さとゲーム性の薄さに失望しやすい。

まとめ——「ゲームの限界」に挑んだ7時間

『Senua’s Saga: Hellblade II』は、ゲームとして評価するには不完全で、体験として評価するには傑作に近い作品だ。

プレイ時間6〜8時間、価格7,040円、Steam同接最大約3,900人——数字だけ並べると「失敗作」のように見える。でもメタスコア81点、Steamユーザーレビュー84%好評、「2024年の映像表現ナンバーワン」という評価が同時に存在する。この矛盾した数字の全てが、このゲームの本質を正確に表している。

ゲームに求めるものが「プレイアビリティ」「ボリューム」「難易度の手応え」であれば、Hellblade IIは確実に物足りない。その批判は正当だ。ゲームに求めるものが「映像の衝撃」「音響の没入感」「精神疾患という内側からの体験」であれば、2024年においてこのゲームを上回る作品は思い浮かばない。

Game Pass加入者なら迷わずプレイしてほしい。ゲームを遊ぶのではなく、セヌアの旅に同行する感覚で向かえば、6〜8時間は十分すぎるほど濃密だ。ヘッドホンをつけて、暗い部屋で、できるだけ高いスペックのPCで遊ぶ——この条件が揃えば、「2024年に体験したゲームの中で最も印象に残った」という感想になる可能性が高い。

Steamでの単品購入を検討しているなら、「6〜8時間の映像体験に7,000円払えるか」という問いを自分に投げかけてから判断してほしい。セール時(75%オフで約1,700円程度)まで待てるなら、それが最もコストパフォーマンスの高い選択肢だ。

精神疾患と北欧神話と映像技術の限界追求——この三つが交差する場所に生まれたゲームが、他に存在するとは思えない。Ninja Theoryが次に何を作るのか、共同創業者が去った後のスタジオが何を見せてくれるのか、期待と不安を両方持ちながら待っている。

セヌアの旅はまだ終わっていない。それだけは確かだ。

Hellbladeシリーズが示してきた「ゲームだからこそできる体験」の可能性は、今後もゲーム業界に影響を与え続けるはずだ。精神疾患を持つ人の視点から世界を描く誠実さ、バイノーラル音響という技術的な挑戦、そして「短くても密度が高ければいい」というコンテンツ設計の哲学——これらはHellblade IIが残した遺産であり、次世代のゲームに受け継がれていくものだと信じている。7年を経て辿り着いたこの到達点を、ぜひ自分の目と耳で確かめてほしい。

他にも2024年の注目PCゲームタイトルを探しているなら、こちらも参考に。映像・音響・物語の密度という観点で選ぶなら、この年は本当に豊作だった。ぜひ自分に合った一本を見つけてほしい。そしてHellblade IIをプレイし終えた後は、しばらくその余韻の中に留まってみてほしいと思う。

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