Assetto Corsa EVO ― 次世代シムの幕開け、物理エンジンが進化した正統後継作
2025年1月16日、Steamのレーシングシムコミュニティが一斉に湧いた日があった。Kunos Simulazioniが開発した「Assetto Corsa EVO」の早期アクセスが始まった日だ。前作Assetto Corsaが2014年のリリースから10年以上にわたってシムレーサーたちに愛され続けてきた事実を考えると、その後継作への期待の大きさは想像に難くない。
実際にゲームを起動してみると、まず画面の美しさに驚く。前作のグラフィックとは明らかに別物で、サーキットの路面に映り込む光、遠景の建物の精度、車体の塗装のリアルさ、すべてが2025年のゲームとして恥ずかしくないクオリティになっている。エンジンをかけた瞬間の音も、前作とは明らかに違うレベルの作り込みが感じられる。
ただし、現時点(2026年4月)ではSteamレビューは「賛否両論」(54〜59%の肯定評価)だ。これは完成度への不満ではなく、早期アクセスというフォーマット上の課題と、コンテンツの充実待ちという状況を反映している。前作が「圧倒的に好評」を維持しているだけに、後継作への期待値が高すぎるという面もある。
この記事では、Assetto Corsa EVOが「なぜ次世代シムの本命と言えるのか」、そして「今の段階でどこまで楽しめるのか」を、できるだけ正直に書いていく。前作を知っている人も、EVOが初めてのAssetto Corsaになる人も、両方の読み方ができるように構成した。
こんな人にオススメ

- 前作Assetto Corsaを遊んでいて、次世代の物理エンジンを体験してみたい人
- レーシングシムをこれから始めたいが、見た目も重視したい人
- VRヘッドセットを持っていて、次世代のコックピット体験をしたい人
- ハンコン(ステアリングコントローラー)を持っていて、本格的なシムに挑戦したい人
- Gran TurismoやForzaでは物足りなくなってきた、本格派志向の人
- 鈴鹿・富士・スパなど有名サーキットをリアルな挙動で走りたい人
- 早期アクセスの段階から開発に参加しながらゲームを育てていきたい人
逆に、「MODエコシステムが充実した完成形を今すぐ楽しみたい」という人には、今しばらく前作Assetto Corsaを主力にして、EVOの正式版リリースを待つというのが現実的な選択だ。その辺りも含めて正直に書いていく。
Assetto Corsa EVOとはどんなゲームか
シリーズの歴史とEVOの位置づけ
Assetto Corsaシリーズを理解するには、開発元のKunos Simulazioniのことを知っておく必要がある。イタリア・ローマ近郊に拠点を置くこの会社は、2005年設立のレーシングシム専門スタジオだ。「netKar Pro」という本格的なレーシングシムや、フェラーリが公式に採用した「Ferrari Virtual Academy」を開発してきた実績を持つ。
その集大成として2014年にリリースしたのが「Assetto Corsa(アッセット・コルサ)」で、物理エンジンの精度がメーカー公式シミュレーターレベルという評価を得て、2026年の今でも「圧倒的に好評」を維持している異例のロングセラーになった。
2019年にはGT3レースに特化した「Assetto Corsa Competizione(ACC)」をリリース。Unreal Engine 4を採用した美麗なグラフィックと、SRO公認のGTWC(GT World Challenge)の公式シミュレーターという地位を獲得した。
そして2025年1月、満を持してリリースされたのが今回取り上げる「Assetto Corsa EVO」だ。「EVO」という名称はEvolutionの略で、オリジナルAssetto Corsaの正統進化を意味する。ACCがGT3カテゴリーに特化したスピンオフだったのに対して、EVOはオリジナルと同様に「様々なカテゴリーの車種・コース」を網羅する方向性で開発が進んでいる。
自社開発の新グラフィックエンジン
EVOの最大の技術的ポイントは、Kunos Simulazioniが完全に自社開発した新しいグラフィックエンジンを採用していることだ。ACCではEpicのUnreal Engine 4を使用していたが、EVOでは独自エンジンに戻した。
なぜ自社エンジンを選んだのか。開発陣のコメントによれば、「レーシングシムとして最適化された物理エンジンとグラフィックエンジンの統合」を実現するために、汎用エンジンではなく専用設計のシステムが必要だったという。特に、タイヤと路面の相互作用、車体の動的な反射・映り込み、動的な天候と路面状態の変化といった要素を、物理計算と映像表現で一体的に扱うために自社エンジンを選択した。
結果として、サーキット路面の微妙な濡れ具合の変化がグリップ特性に反映され、その変化がビジュアルにもフィードバックされる……という統合的な表現が可能になっている。これは汎用エンジンでは難しい部分だ。
早期アクセスの現状と開発ロードマップ
2025年1月の早期アクセス開始時点では、車両20台・コース5サーキットというコンパクトなスタートだった。これに対して「コンテンツが少ない」という不満が多く出たのは事実で、それが「賛否両論」というレビュー評価につながっている。
しかし2026年4月時点では、バージョン0.6まで進み、収録車両は40台超、コースは10サーキット以上まで拡充されている。アップデートのペースは概ね2〜3ヶ月に1本で、毎回6台前後の新車と1〜2つの新サーキットが追加されている。
開発陣は「早期アクセス開始から1年以内の正式版(v1.0)リリース」を当初の目標として掲げており、2026年中には正式版への移行が見込まれている。正式版リリース後は価格の値上げが予告されているため、「今の4,950円で買っておく」という判断をするプレイヤーも多い。
Assetto Corsa EVOの基本情報

開発元はKunos Simulazioni(イタリア)で、パブリッシャーは505 Gamesだ。Steam Early Access開始は2025年1月16日で、プラットフォームはWindows PC(Steam)のみ(2026年4月現在)。ジャンルはレーシングシミュレーター。
価格は早期アクセス価格として4,950円(2026年4月時点)で、正式版リリース後の値上げが予告されている。対応言語は英語・イタリア語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・中国語(簡体字)で、日本語は現時点では未対応だ。
VR対応はSteamVR・Oculus VR・OpenXRに対応しており、トリプルスクリーン構成にも対応している。マルチプレイは「Daily Racing Portal」というオンラインレースポータルが実装されており、セルフホスト型のプライベートサーバーも立てられる。
収録コンテンツ(バージョン0.6時点)として、車両は40台超。ポルシェ 911 GT3 R rennsport、フェラーリ 296 GT3・288 GTO、ランボルギーニ カウンタック、フォード マスタング GT3、アウディ R8 LMS GT4 Evoなど幅広いカテゴリーをカバーしている。
収録サーキットはモンツァ、スパ・フランコルシャン、鈴鹿、富士スピードウェイ、レッドブルリンク、セブリング・インターナショナル・レースウェイ、サーキット・オブ・ジ・アメリカズなど10コース以上で、複数レイアウト対応のものも含まれている。
Assetto Corsa EVOの特徴と魅力
特徴1:前作から大幅進化した物理エンジン
EVOの物理エンジンは、前作Assetto Corsaからどこが変わったのか。これを語るには、まず前作の物理エンジンがすでに「業界最高水準」だったという前提を踏まえる必要がある。フェラーリやポルシェが公式採用したシミュレーターの後継として、物理品質を落とすわけにはいかない。実際、EVOでは前作の強みを継承しながら、さらに深いシミュレーションが実装されている。
サスペンションモデリングの深化:バージョン0.6で大きく強化されたのがサスペンション物理だ。マルチリンクサスペンションとコイルオーバーシステムの各要素が個別にシミュレートされるようになり、バンプ通過時の車体の動きや、コーナリング中のジオメトリー変化がより精密に再現されている。路面の凹凸をタイヤが乗り越えるときの細かい動きがステアリングを通じて伝わってくる感触は、前作を超えている。
タイヤフィジクスの進化:前作でも高く評価されたタイヤ物理が、EVOでさらに進化している。タイヤの熱サイクル(コールドタイヤから最適温度域への変化)、タイヤのたわみ変形、路面状態とのインタラクション——これらが統合的にシミュレートされる。アウトラップで意識的にタイヤを温めながらラインを変えていく操作が必要なシーンは、本物のレースドライバーと同じ問題に向き合っている感覚を生む。
動的な路面状態:これはEVOで新たに実装された機能で、走行ラインにゴムが乗っていく「ラバーイン」の表現が可能になった。セッション開始直後とセッション後半では、走行ラインのグリップ特性が変化する。コンパウンドやセッションの進行に応じてベストラインが変わってくる動的な路面変化は、前作にはなかった要素だ。
空力シミュレーションの精度向上:高速コーナーでのダウンフォース発生メカニズムがより精密になり、速度域によってアンダーステアの出方が変わる感覚が明確になった。特にGT3カテゴリーの車両でスパの高速セクターを走ると、ウイングの角度調整による空力特性の差がはっきりわかる。
物理エンジンの品質について、現役のシムレーサーコミュニティでは「前作より確実に上」という評価が定着してきている。早期アクセス段階のため完全ではない部分もあるが、基礎的な物理精度はすでに業界トップクラスの水準にある。
特徴2:フォトリアルなビジュアル表現
EVOを初めて起動して最初に受ける印象は、間違いなく「綺麗だ」という感想だ。自社開発の新グラフィックエンジンによる映像は、前作の素のグラフィックと比べると別ゲームレベルの品質向上になっている。
特に目を引くのが、サーキット路面の質感表現だ。アスファルトの色むら、コーナーの内側に蓄積したゴムのブラックライン、グラベルトラップの砂粒の一つひとつ……これらが高精細なテクスチャで描かれており、コースを走ると「実際のサーキットのテレビ映像を見ているような」リアリティがある。
車体の映り込みも大きく進化した。コース脇の建物や木々、対向車の姿がボンネットや窓ガラスに映り込み、走行中に反射が動的に変化する。天気が曇りから晴れに変わったとき、車体の輝き方がリアルタイムで変化するのを見ると、グラフィックエンジンの実力を実感できる。
光源処理も大きく改善されており、午後の斜光がコクピットを差し込む角度、夕日のゴールデンアワーにコースを染める赤みがかった光、レースが終わって日が沈んだ薄暮時のブルーモーメントなど、時間帯による光の変化が美しい。
注目すべき点として、前作ではCSP(Custom Shaders Patch)というMODを入れないと実現できなかったこれらの映像品質が、EVOでは標準状態から得られる。MODなしでもこの美しさというのは、新規ユーザーにとって大きなアドバンテージだ。
DLSS 4.5(NVIDIA製のAIアップスケーリング)にも対応しており、フレームレートとビジュアル品質のバランスを調整しやすくなっている。高品質な映像を求めながらもフレームレートを維持したいプレイヤーにとって、DLSSの存在は実用的な恩恵がある。
特徴3:充実した動的天候システム
前作Assetto Corsaに天候システムは標準装備されていなかった(MODのSolで追加する必要があった)。EVOではこれがゲーム本体に標準搭載されている。
晴天・曇天・雨天・夜間といった天候条件が標準で選択可能で、それぞれが路面状態や車のグリップ特性に影響を与える。雨が降りはじめると路面に水が溜まり、ウェットスリックが形成される過程がリアルタイムで変化する。ドライタイヤからウェットタイヤへの交換タイミングの判断、インターミディエイトタイヤで雨が上がった路面を走るときの感覚など、天候変化を活用したレースシナリオが楽しめる。
雨天走行時の視覚表現も作り込まれており、フロントガラスを伝う雨粒、路面の水たまりに映り込む景色、スプレーを上げながら走る先行車の姿がコックピット視点で確認できる。視界の悪い雨の中でサーキットを走る緊張感は、ドライコンディションとは全く異なるゲームプレイ体験を生む。
動的に変化する天候(セッション中に天気が変わる)も設定でき、ドライからウェットに変化する中でのタイヤ戦略や、雨が上がった後の路面乾燥に合わせたタイム短縮の体験ができる。こういったシチュエーションは前作ではMOD前提だったが、EVOでは全ユーザーが等しく体験できる。
特徴4:次世代レベルのVR体験
SteamVR・Oculus VR・OpenXRへの対応を標準で持つEVOは、VRプレイヤーにとって魅力的なタイトルだ。前作でもVRは強みのひとつだったが、EVOではグラフィック品質の向上とVR最適化が組み合わさって、さらに上の没入感を実現している。
コックピット視点でVRヘッドセットをかぶると、本当に車の中にいる感覚が生まれる。ダッシュボードの計器を「見下ろす」視点で確認でき、左右のドアミラーを「首を振って確認する」動作が自然にできる。コーナーのエイペックスを「見ていく」ために自然と体が傾く感覚も生まれる。これはモニター画面では得られない、VRならではの体験だ。
EVOのVRで特に評価が高いのが、コックピット内部の作り込みだ。ステアリングホイールのスポークに走る縫い目、メーターパネルのガラスに映り込む反射、シートの素材感……これらが実寸でVR空間に配置されており、「本物の車のコックピットに座っている」という感覚がリアル寸法で体験できる。
パフォーマンス面では、VRでの快適動作にはRTX 3070以上、理想的にはRTX 4070以上を推奨するという声がコミュニティに多い。DLSSの存在がVRでも効果的で、RTX 3070+DLSS有効でも十分な映像品質と90fps動作を実現できるという報告がある。
特徴5:オープンワールドドライブの構想
EVOのロードマップで最も注目を集めているのが、「オープンワールドマップ」の実装計画だ。ドイツのアイフェル地方(ニュルブルクリンクが位置する地域)をベースにした1,600km²規模のオープンワールドを構築し、その中にニュルブルクリンク・ノルドシュライフェが統合されるという構想だ。
これが実現すれば、サーキット走行だけでなく、田舎道や山道をドライブする自由走行モードがEVOで可能になる。前作でMODの「首都高(SRP)」が提供していた「どこでも自由に走れる」体験を、公式コンテンツとしてより高品質に提供することになる。
現時点(2026年4月)では、このオープンワールド機能はまだ実装されておらず、正式版リリースを経てコンテンツとして追加される予定とされている。実現すれば前作の首都高MODに相当する大きな体験の柱になると期待されており、これを待っているプレイヤーも多い。
特徴6:Daily Racing Portalによるオンラインレース
EVOに実装された「Daily Racing Portal」は、定期的に開催されるオンラインレースイベントへの参加ポータルだ。特定の車両・コースが設定された公式レースに参加することで、世界中のプレイヤーと条件を揃えて競える。
前作のオンラインはサードパーティのContent Managerを使うことで充実していたが、EVOでは公式ポータルから入れる分だけ敷居が低い。特定の車種・タイヤ・天候条件が揃ったレースに気軽に参加できる仕組みは、「条件を揃えた純粋なドライバー対決」を好むシムレーサーに向いている。
マルチプレイヤーの衝突判定もバージョン0.6で改善されており、オンラインレースでの意図しないアクシデントが減少している。本格的なオンライン競技シムとしての基盤は着実に整いつつある。
セルフホスト型のプライベートサーバーも構築でき、仲間内でのプライベートレースやコミュニティリーグ戦の運営も可能だ。Discord等でチームを組んで定期的にプライベートレースを開催するという使い方は、すでに海外のシムレーサーコミュニティで定着している。
特徴7:公式MoTeCテレメトリへの対応
バージョン0.6で実装されたMoTeC(モーテック)テレメトリへの公式対応は、シリアスなシムレーサーにとって大きな意味を持つ機能だ。
MoTeCはモータースポーツで実際に使われるデータロガーシステムで、車両のあらゆる動きをデータとして記録・分析できる。走行ログをPCに取り込んでMoTeCのソフトウェアで分析すれば、ブレーキングポイントごとのキャリパー圧、タイヤの温度変化グラフ、ステアリング角度とスロットル開度の相関……といった詳細なデータをグラフで確認できる。
実際のモータースポーツのドライバーとエンジニアが使うのと同じツールで、自分の走りを分析できる。「なぜ3コーナーでコンマ2秒遅れているのか」という疑問を、フィーリングではなくデータで答えられる環境が、EVOでは標準的に整備されている。
前作でもテレメトリアプリは存在したが、公式MoTeC対応というのはより本格的なデータ分析を可能にするものだ。ラップタイムの向上を本気で追求するシムレーサーにとって、このデータ分析環境は大きなアドバンテージになる。
特徴8:充実した収録コース(レーザースキャン精度)
EVOが収録するサーキットのほとんどはレーザースキャンで制作されており、実際のサーキットの路面凹凸・うねり・傾斜を高精度で再現している。
スパ・フランコルシャン(ベルギー):ポールリポシェールの長い登り、ブランシモンの高速複合コーナー、オーログの下りヘアピンなど、世界最高峰の難コースが収録されている。レーザースキャン精度で再現された路面は、実際にここを走ったことがあるドライバーが「路面の質感まで一致する」と語るクオリティだ。
鈴鹿サーキット(日本):EVOに日本のサーキットが標準収録されていることは、日本のシムレーサーにとって重要なポイントだ。S字コーナーの複合区間、130Rの高速コーナー、最終シケインのブレーキングポイント……国内でも最もシムレーサーに愛される鈴鹿が、レーザースキャン精度でEVOに登場している。
富士スピードウェイ(日本):国際規格の長いホームストレートと1コーナーへの重いブレーキング、テクニカルな中低速セクションが組み合わさった富士スピードウェイも収録されている。鈴鹿と合わせて、「日本のシムレーサーが走りたいコース」が標準収録されているのは前作との大きな違いだ。
モンツァ(イタリア):最高速サーキットの代名詞。長いメインストレート、ケルブへのアタック、パラボリカのアプローチ……EVOの高速車両とモンツァの組み合わせは、まさにレーシングシムの醍醐味だ。
セブリング・インターナショナル・レースウェイ(アメリカ):バージョン0.6で追加されたアメリカの歴史ある耐久レースコース。飛行場を改修した独特のバンプ路面が特徴で、サスペンション物理の進化を体験するのに最適なコースでもある。
現在の収録コース数は前作と比べてまだ少ないが、レーザースキャン精度と視覚的な再現度は明らかに前作を超えている。正式版リリースに向けて毎回のアップデートでコースが追加されており、将来的には前作と同等以上のコースラインアップになることが期待されている。
特徴9:多彩な収録車種のラインアップ
バージョン0.6時点での収録車両は40台超で、複数のカテゴリーにわたるラインアップを持つ。一部を紹介すると:
GT3カテゴリー:フェラーリ 296 GT3、フォード マスタング GT3、ポルシェ 911 GT3 R rennsport、アウディ R8 LMS GT4 Evoなど。本格的なGTレーシングカーで、ダウンフォースと高出力のバランスを操るGT3の走りは別次元の体験だ。
クラシックスーパーカー:ランボルギーニ カウンタック、フェラーリ 288 GTOなど。現代の電子制御とは無縁の、クセの強いクラシックイタリアンスポーツカーを走らせる感覚は、GT3とはまた異なる面白さがある。
ポルシェ 911 GT3 R rennsport:特別な存在感を持つ1台だ。ポルシェが限定台数しか製造しないエクストリームなGT3ベース車で、公道走行不可のサーキット専用モデル。EVOで再現されたこの車の挙動は、GT3 R標準型と明確に異なる鋭さを持つ。
EVOは「様々なクラスと数十年にわたる自動車の歴史を網羅する」というコンセプトで車両を拡充しており、現代のGT3マシンから1960〜70年代のクラシックカーまで、幅広い時代・カテゴリーの車を揃えていく方針だ。正式版リリースに向けて、さらなる日本車の追加も期待されている。
特徴10:ドライビングアカデミーモード
EVOには「ドライビングアカデミー」というチュートリアルモードが実装されている。これはシムレーサーとして必要な基本技術を、体系的に学べるように構成されたモードだ。
ブレーキングポイントの精度、コーナリングラインの取り方、アクセルワークのタイミング、スムーズな操作と急激な操作の違い……これらを課題形式で学べる仕組みになっている。前作にはこういったチュートリアルモードがなく、初心者は「YouTube動画を見て自分で試行錯誤する」しかなかった。EVOのドライビングアカデミーは、初心者の入門ハードルを下げる意味で重要な機能だ。
また、テレメトリ機能と組み合わせることで、「なぜうまくいかないか」をデータで確認しながら改善できる学習環境も整っている。「感覚でやってみてだめなら諦める」ではなく、「データで問題を特定して修正する」というアプローチがEVOでは取りやすくなった。
このドライビングアカデミーがアップデートでさらに充実する予定であることも、ロードマップで示されている。現在はまだ全コンテンツが実装されていない段階だが、正式版に向けて拡充されていく見込みだ。
EVOのゲームシステム詳細解説

ゲームモードの構成
現時点のEVOには以下のゲームモードが実装されている。
フリープラクティス(練習走行):好きな車・コース・天候条件を選んで自由に走れるモード。セッティングの調整、コースの習熟、タイヤウォームアップの練習など、何をやるかは完全に自由だ。シムレーサーが一番長い時間を過ごすモードでもある。
クイックレース:すぐにAIドライバーとのレースを始められるモード。グリッド台数・AI強度・レース周回数などを設定して、すぐにレーススタートできる。長いセッション設定をしなくてもサクッとレースが楽しめる入門向きのモードだ。
カスタムレースウィークエンド:練習走行・予選・決勝をフルセットで行うレースウィークエンドを組める。現実のレースウィークエンドを模した体験で、予選のアタックラップから得たグリッドポジションで決勝を走る緊張感が特別だ。
スペシャルイベント:Kunos Simulazioniが用意した特定の課題や挑戦系のコンテンツ。タイムアタック形式のランキング戦や、特定シナリオのチャレンジなどが含まれる。
Daily Racing Portal:前述のオンラインレースポータル。毎日更新される公式イベントレースに参加できる。世界中のプレイヤーとリアルタイムで競える本格的なオンライン競技の場だ。
ドライビングアカデミー:前述のチュートリアルモード。初心者から中級者まで、技術の向上に使える体系的な学習コンテンツだ。
リプレイギャラリー:走行後のリプレイを複数カメラ視点で再生・鑑賞できる。テレビ放送風のドラマティックな映像でレースを振り返る楽しみがある。
車のセッティングシステム
EVOのセッティングシステムは前作から継承・発展したもので、各車両の特性に応じた細かい調整が可能だ。
サスペンション設定:車高・バンプ減衰・リバウンド減衰・スプリングレート・アンチロールバー剛性の調整。バージョン0.6での物理改善により、これらの設定変更が走りにより明確に影響するようになった。特に「バンプの固さを変えると低速コーナーのリズムが変わる」という効果が分かりやすく体験できる。
タイヤ設定:前後の空気圧個別調整。空気圧の変化がタイヤの最適動作温度域とグリップ特性に影響する。ウォームアップ方法や、コースの特性に合わせた空気圧設定は、速く走るための重要な要素だ。
アライメント設定:キャンバー角・トー角・キャスター角の調整。コーナリング特性と直進安定性のバランスを変えられる。ネガティブキャンバーを増やすとコーナリング中のグリップは上がるが、ストレートでの摩耗が増えるというトレードオフがある。
ブレーキバイアス:前後ブレーキ配分の調整。フロント寄りにすると制動力が上がるが、コーナー進入でのオーバーステアを誘発しやすい。リア寄りにすると安定するが制動距離が延びる。このバランス調整はコース特性によって最適解が変わる。
空力設定(GT3などダウンフォース車両):ウイング角度の調整。スパのブランシモンのような高速コーナーが多いコースではダウンフォース多め、モンツァのようなハイスピードサーキットではトップスピード重視の低ダウンフォース設定が基本だ。
セッティングの変化が走りに確実に反映されるEVOの物理エンジンは、セッティングの「勉強」にもなる。「なぜプロドライバーがこういうセッティングを選ぶのか」という疑問が、ゲームの中で体験的に理解できる。
AIドライバーの出来
早期アクセス段階でのAIドライバーの質は、正直なところまだ発展途上だ。前作と同様、AIのコーナリングラインが固定的で「本物のドライバーらしい判断」という部分では課題がある。ただし、AI強度の調整幅は十分で、初心者でも完走できるレベルから、かなりの練習が必要なレベルまで対応できる。
正式版リリースに向けてAI品質の改善が明記されており、コーナリング中の車線選択の多様化、他車との接触判断の改善などが進む予定だ。現状のAIは「コースを周回する対戦相手」として機能するレベルにはあり、ひとりプレイでの周回練習には十分使える。ただし「膝を突き合わせたバトルの中での読み合い」という本格的なレースを求めるなら、オンライン対戦の方が充実した体験になる。
リプレイとフォトモード
走行後のリプレイは自動保存される。EVOのリプレイはグラフィックエンジンの進化を一番実感できる場面でもあり、「本当にゲームで走ったのか」と思うような映像が生まれることも多い。
TVヘリコプター視点、地面近くの煽り視点、コーナーの外側からの固定カメラ……複数のカメラアングルを切り替えながらレースを振り返られる。GT3マシンがスパのレオー横を高速で通過するシーンなど、ドラマティックな瞬間が映像として残る。
フォトモードの実装も進んでおり、走行を一時停止してカメラポジションを自由に設定し、DOF(被写界深度)効果などを調整した静止画を撮影できる。MODなしでもEVOの標準グラフィックが十分な品質なので、SNSに上げる画像として成立する映像が得られる。
システム要件と推奨環境
最小・推奨スペックの詳細
EVOのシステム要件は、同時期の他のレーシングゲームと比べるとやや高めの設定になっている。特にSSDが必須というのは注意が必要だ。
最小スペック:CPU はIntel Core i7-8700K または AMD Ryzen 5 1500X相当以上、RAM は16GB必須、GPU はNVIDIA GeForce GTX 1070 / AMD Radeon RX 580 / Intel Arc A580(いずれも8GB VRAM以上)、ストレージは100GB のSSD必須(HDDは不可)、OSはWindows 10 64bitだ。
推奨スペック:CPU はIntel Core i5-10500 または AMD Ryzen 5 2600X相当以上、RAM は16GB(最小と同じだが余裕があれば32GBが安心)、GPU はNVIDIA GeForce RTX 2070 / AMD Radeon RX 6650 XT / Intel Arc A750が推奨されている。ストレージは100GB SSD、OSはWindows 10/11 64bitだ。
推奨スペックは「1080p・60fps・高品質設定」での動作目安で、1440pや4K・VR環境ではさらに上のスペックが必要になる。
VR環境での現実的なスペック目安
VRプレイに関してはコミュニティの声をまとめると以下のようになる。
RTX 3070でDLSS有効なら90fps維持が概ねできるという報告が多い。RTX 4070以上あれば全設定高でも安定しやすい。DLSS 4.5への対応がバージョン0.6で強化されており、以前より少ないスペックでも快適なVR体験が得やすくなった。
CPUについては、物理演算にシングルコア性能が重要なため、最新世代のIntel Core i7以上またはRyzen 7以上があると安定しやすい。前作と同様、CPUのマルチコア数よりシングルスレッド性能が重視される傾向がある。
メモリはVRプレイ時は32GBあると余裕ができる。16GBでも動作はするが、バックグラウンドプロセスや将来の高品質テクスチャ追加を考えると32GBへの投資は現実的だ。
SSD必須という要件の背景
SSD必須というのは、EVOの大量の高品質テクスチャデータとストリーミングロードのアーキテクチャによるものだ。HDDの読み込み速度では走行中のテクスチャのロードが間に合わず、画面のポップインや一時的な止まりが発生する。
SSD自体は現在では相当安価になっており、2TB NVMe SSDが1万円以下で購入できる時代だ。「SSD必須」という要件はハードルとしては低い部類だが、旧PCにSSDが搭載されていない場合は追加投資が必要になる点は知っておく必要がある。
前作Assetto Corsaとの比較

何が進化したか
前作から乗り換えを考えているプレイヤーのために、具体的に何が進化したかを整理する。
グラフィック:これは別物レベルの向上だ。前作はCSP(MOD)を入れない素の状態では2014年水準だったが、EVOは素の状態でも2025年水準の映像品質がある。MODを入れる手間なくフォトリアルな映像が得られる。
物理エンジン:前作の物理精度を継承しながら、サスペンションモデリング・路面状態の動的変化・より精密なタイヤ物理が追加されている。前作を深く遊んでいた人ほど「確かに違う」と感じる進化だ。
天候システム:前作はMOD必須だったが、EVOでは標準搭載。雨天走行が標準機能として楽しめる。
サーキット品質:レーザースキャン精度はほぼ同等だが、ビジュアルの細かさと路面の動的変化(ラバーイン)が加わっている。
日本サーキット:鈴鹿と富士が標準収録されている点は、前作にはなかった。前作では両方ともMOD対応だった。
オンライン機能:Daily Racing Portalという公式オンラインレースポータルが標準実装されており、前作よりオンラインへの参加ハードルが低い。
VR品質:グラフィックエンジンの進化により、VR体験のビジュアルクオリティが大きく向上している。
前作の方がまだ優れている点
正直に書く。2026年4月時点では、前作Assetto Corsaの方がまだ勝っている部分も明確にある。
MODエコシステム:これが最大の差だ。前作は10年以上かけて築かれた膨大なMODライブラリがある。首都高MOD(SRP)、日本の峠道MOD、何千台もの車両MOD……EVOのMODエコシステムはまだ初期段階で、前作の豊かさには遠く及ばない。
収録コンテンツの多様性:前作DLC込みだと178台の車両・19サーキット(40以上のレイアウト)がある。EVOは40台超・10コース程度なので、コンテンツの「総量」では前作に軍配が上がる。
安定性・完成度:前作は10年以上のバグ修正・最適化を経た安定版だ。EVOは早期アクセスで、まだバグが残っている部分もある。
価格コスパ:前作はセール時に512円になることもある。EVOは4,950円で、セール値引き幅もまだそれほど大きくない。
これらの現実を踏まえると、「2026年4月現在、どちらを買うか」という問いへの答えは複雑になる。この点は後の「まとめ」セクションで詳しく書く。
他のレーシングシムとの比較
Assetto Corsa EVO vs iRacing
iRacingはオンライン競技に特化した月額課金制のシミュレーターで、公式ライセンスを持つシリアスな競技レースを楽しむなら最有力の選択肢だ。レーザースキャン精度のサーキット再現と、競技の公平性確保のシステムは洗練されている。
ただし月額課金(約4,000〜5,000円)に加えて追加車両・コースの購入が必要で、長期的に相当のコストがかかる。物理エンジンの質という意味では、EVOとiRacingは「異なるアプローチ」という評価が多く、どちらが優れているかはコミュニティでも議論が割れる部分だ。
使い分けとしては、公式認定の競技レースに参加したいならiRacing、多様な車種・コースでの体験や将来のMOD環境を求めるならEVOという方向性になりやすい。
Assetto Corsa EVO vs Assetto Corsa Competizione(ACC)
同じKunos Simulazioniの作品であるACCとEVOは、方向性が異なる。ACCはGT3レースに完全特化したタイトルで、SRO公認のGTWCのオフィシャルシミュレーターという位置づけだ。GT3車両の再現度とオンライン競技の仕組みはACCが非常に完成度が高い。
EVOはGT3を含む多様なカテゴリー・時代の車種を扱う汎用性重視のタイトルだ。GT3特化なら完成度の高いACCを選び、多様な車種やオープンワールドを含む幅広い体験を求めるならEVOという選び方が合理的だ。
Assetto Corsa EVO vs Gran Turismo 7
GT7はPS5の美麗グラフィックと充実した収録車種のコレクション要素、完成された全体的な演出が強みだ。PCゲームのEVOに対して、コンソールゲームとしての完成度と「ゲームとしての楽しみやすさ」はGT7が上だ。
一方EVOの強みは、物理エンジンのリアリティと将来的なMOD拡張性にある。日本のシムレーサーコミュニティでは「GT7から卒業してシム系に来た」という流れがあり、EVOもその受け皿になりうる位置にいる。プラットフォームの違い(EVOはWindowsPC専用)も選択基準の一つだ。
Assetto Corsa EVO vs Forza Motorsport
Forza Motorsportは豊富な収録車種と洗練されたチュートリアル、美麗なグラフィックが魅力。ゲームパッドでも楽しめる設計で、レーシングゲームへの入門としては敷居が低い。
EVOはForzaより物理エンジンへの作り込みが深く、将来的なMOD環境の拡充も期待できる。「Forzaで満足できなくなってきた」という段階のプレイヤーが自然にEVOへ移行するという流れは、前作Assetto Corsaの時代から続くパターンだ。
現在の評価と今後の展望

「賛否両論」評価の実態
SteamでのEVOの評価が「賛否両論」(54〜59%の肯定評価)である理由を、正確に理解しておく必要がある。
不満の声で最も多いのは「コンテンツの少なさ」だ。特に早期アクセス開始当初の車両20台・5コースという規模は、前作の「Ultimate Edition 178台・40以上レイアウト」を知っているユーザーには物足りなく映った。また「1年以内の正式版リリース」という当初の見通しに対して、2026年4月時点でまだ早期アクセスが続いていることへの焦れったさもある。
一方で好評の声は、物理エンジンの品質・グラフィックの向上・開発チームのアップデート対応の誠実さに向けられている。「前作よりも確実に物理が進化している」「バージョン0.6での改善は大きい」「開発の方向性は正しい、あとはコンテンツが充実するのを待つだけ」という声が好評側の代表的な意見だ。
要するに、「ゲームとしての基礎品質への満足」と「まだ発展途上のコンテンツ量への不満」が並立しているのがEVOの現状だ。これは早期アクセスのゲームとして典型的な状況でもある。
開発アップデートの実績
2025年1月の早期アクセス開始から2026年4月のバージョン0.6まで、どのようなペースで開発が進んでいるかを見ると:
バージョン0.1〜0.2(2025年1月〜3月):初期ローンチから基本的なバグフィックスと最適化が中心。車両・コースの追加は少数だった。
バージョン0.3〜0.4(2025年4〜8月):マルチプレイヤー機能の強化、Daily Racing Portalの実装、車両・コースの追加が本格化。
バージョン0.5(2025年9〜12月):車両が29台、コースが10に拡充。グラフィック品質の改善も行われた。
バージョン0.6(2026年1月〜):サスペンション物理の大幅改善、MoTeCテレメトリ対応、DLSS 4.5へのアップグレード、セブリングの追加、6台の新車追加。
このペースを見ると、着実に内容が充実してきていることは確かだ。「遅い」と感じるプレイヤーがいることも理解できるが、物理改善の深さと品質維持を重視した開発姿勢は、前作Assetto Corsaが10年以上愛された理由を知っていれば納得のいくアプローチだ。
正式版リリースへの道筋
Kunos Simulazioniが示している正式版(v1.0)リリースに向けたロードマップの主要ポイントは以下だ。
コンテンツ面ではさらなる車種・コースの追加(目標台数・コース数は非公表だが前作と同等以上を目指す模様)、AIドライバーの品質改善、ドライビングアカデミーの完全実装、そしてオープンワールドドライブマップの実装が主要項目として挙げられている。
技術面では物理エンジンのさらなる改善、オンラインマルチプレイの安定性強化、UIの改善、MODサポートの正式整備が含まれている。
特に注目度が高いのはMODサポートの正式整備だ。前作Assetto Corsaの成功はMODコミュニティと不可分だった。EVOでも同様のMODエコシステムが構築されれば、前作の「圧倒的に好評」の評価に近づくポテンシャルがある。
Assetto Corsa EVOの注意点・デメリット
注意点1:早期アクセスゆえのコンテンツ不足
繰り返しになるが、これが現時点での最大のデメリットだ。車両40台超・コース10以上という数字は数としては少なくないが、前作のDLC込みの規模や、前作のMODで無制限に拡張できた環境と比べると、まだ物足りなさは否定できない。
特に「日本の車が少ない」「日本のサーキット・コースが少ない(鈴鹿・富士以外はまだMODで補う必要がある)」という点は、日本人プレイヤーにとって気になるポイントだ。正式版に向けて日本関連コンテンツの追加が期待されているが、現時点では前作のJapanese Pack相当のコンテンツはまだ含まれていない。
注意点2:MODエコシステムがまだ発展途上
EVOのMODサポートは正式整備前の段階にあり、前作のような豊富なMODライブラリはまだ存在しない。前作の「首都高MOD」「日本車MOD数千台」「グラフィック改善MOD群」のような充実したエコシステムが形成されるには、正式版リリース後さらに数年かかる可能性が高い。
前作のMOD環境を今すぐ使いたいという人にとっては、EVOよりも前作を主力にする方が現実的だ。「EVOのMOドは将来への投資」という割り切りが必要になる。
注意点3:価格設定が高め
4,950円という価格は、前作(通常2,050円、セール時512円)と比べてかなり高い。しかも早期アクセス段階でこの価格というのは、「完成前のゲームに先行投資する」形になる。
正式版リリース後には値上げが予告されているため、「今が買い時」という論理もあるが、逆に「正式版になってから安定した状態で買う」という選択も合理的だ。早期アクセス段階のゲームを買うかどうかは、開発陣への信頼と今の不完全な状態で楽しめるかどうかで判断するのが正解だ。
注意点4:日本語未対応
前作Assetto CorsaはUIが日本語に対応していたが、EVOは2026年4月時点で日本語未対応だ。メニューや設定は英語のみで、英語が苦手なプレイヤーには多少の壁がある。
ただし、レーシングシム系のゲームのUIに使われる英語は「Race」「Lap」「Sector」「Setup」「Suspension」など比較的分かりやすい単語が多く、単語ベースで覚えれば操作できる難易度だ。日本語のコミュニティ情報も徐々に増えており、操作方法の日本語解説は見つけやすくなってきている。
注意点5:SSDとやや高めのPCスペック要件
SSD必須・16GB RAM・GTX 1070以上(VRならRTX 2070以上推奨)という要件は、2〜3年前のミドルレンジPC以上を想定している。特に2015〜2018年製の古いPCで、HDDしか搭載していない構成の場合は、SSDへの追加投資が必要になる。
ハンコン(ステアリングコントローラー)についても、EVOの物理エンジンの真価はハンコンで体験するべきであることは前作と同様だ。「まずゲームパッドで試す」ことはできるが、本格的な体験にはハンコン(4万円〜)が必要になることも想定しておきたい。
注意点6:まだ残るバグと不安定要素
早期アクセスのゲームとして当然だが、EVOにはまだバグが残っている。グラフィックの一部設定での不具合、特定の車両でのFFBの挙動の違和感、マルチプレイヤーでの接続安定性の問題……これらはアップデートごとに改善されているが、「完全に安定した完成品」とは言いにくい。
完全に安定したゲームを求める人は、正式版リリースを待ってから購入するのが賢明だ。早期アクセスを楽しめる人は、開発に参加しながらゲームが成長していく過程そのものを楽しめる。
購入・プレイを始めるためのアドバイス

「今すぐ買うべきか?」への現実的な答え
この質問への答えは、プレイヤーのタイプによって異なる。
「今すぐ買うべき人」は、前作Assetto Corsaを深く遊んでいてEVOの物理進化を体験したい人、VRシムレーサーとして最新の体験を追い求めている人、早期アクセスの開発過程に参加することを楽しめる人、そして正式版値上げ前に手に入れておきたい人だ。
「もう少し待った方がいい人」は、前作Assetto Corsaのような完成されたMODエコシステムを今すぐ求めている人、日本語対応を必要としている人、バグのない完成品を求めている人、そして収録コンテンツが揃ってから始めたい人だ。
「前作と並行して使う」という選択肢もある。4,950円のEVOを買いつつ、前作の豊富なMOD環境も引き続き使い、EVOが充実したら移行していくというアプローチは、多くのシムレーサーが実際に取っている方法だ。
始め方:ゲームを購入したら最初にやること
EVOを購入してゲームを起動したら、最初のステップとして以下を推奨する。
まず、グラフィック設定を自分のPCスペックに合わせて調整する。デフォルト設定では高めに設定されていることがあり、フレームレートが安定しないことがある。SteamのゲームプロパティからDXDiagを確認してGPUを把握し、DLSS(NVIDIA GPU使用時)を有効にするとフレームレートと画質のバランスが取りやすくなる。
次に、ドライビングアカデミーモードを試す。基本操作と物理の感覚をつかむのに役立つ。完全にクリアしなくても良いが、最初の数課題をこなすことでEVOの物理エンジンの特性が分かりやすくなる。
最初の車選びは、扱いやすいFR(フロントエンジン・リア駆動)の一般ロードカーから始めるのが定番だ。いきなりGT3マシンに乗ると、車の限界を探る前にスピンして終わる。まず低出力の車で「タイヤのグリップの限界を感じる」基礎的な体験を積んでから、徐々に出力の高い車に移行するのが上達の近道だ。
ハンコンの選び方
EVOを本格的に楽しむためのハンコン選びは、前作と同じ基準が適用される。主要な3メーカーの特徴を整理すると:
Logicool(ロジクール)G923:実勢価格4万円前後。エントリー~ミドルクラスで最も普及しているモデル。TrueForceと呼ばれるFFBシステムは、ゲームの物理状態をリアルタイムにフィードバックする。初心者が最初のハンコンとして選ぶことが多い。
Thrustmaster T300RS GT:実勢価格4〜5万円台。G923よりシャープなFFBフィールが特徴で、特にGT3などレーシングカーのステアリング感覚をよりリアルに再現するとされる。サーキット走行に重点を置くプレイヤーに人気だ。
Fanatec CSL DD:実勢価格10万円〜(シャフト・ペダル別)。ダイレクトドライブ方式でFFBの情報量が圧倒的。タイヤのスリップ感、路面の微妙な凹凸、サスペンションの動きまで手のひらに伝わってくる。本格的なシムレーサーが最終的に行き着くモデルだが、投資額も大きい。
ゲームを始めた直後からいきなりFanatecを買う必要はない。まずLogicoolかThrustmasterで始めて、「もっとリアルなFFBが欲しい」と感じたときにアップグレードを検討するのが現実的な流れだ。
オンラインレースへの参加方法
EVOのオンラインレースは、Steam内からゲームを起動→「Online」タブ→「Daily Racing Portal」の手順でアクセスできる。現在開催中のレースイベントが表示され、参加条件(使用車両・タイヤ規定・コース)を確認してエントリーすれば参加できる。
オンラインレースに初めて参加するときは、最初から激しいバトルに巻き込まれないよう、下位グリッドからの参加や、人数が少ない時間帯の参加から始めるのが安全だ。「完走すること」を最初の目標にして、慣れてきたらポジション争いを楽しむというステップが無理のない参加方法だ。
プライベートサーバーを使ったコミュニティレースへの参加も選択肢だ。X(旧Twitter)やDiscordで「Assetto Corsa EVO」を検索すると、日本語コミュニティのサーバーやレースグループが見つかる。初心者歓迎のコミュニティも複数存在しており、気軽に声をかけてみることをおすすめする。
Assetto Corsa EVO、これから来るシムレーサーの本命
EVOが「次世代シムの本命」と言える理由
Assetto Corsa EVOが「次世代レーシングシムの本命」と呼ばれる理由を、改めて整理する。
第一に、開発元の実績と信頼性だ。前作Assetto Corsaを10年以上「圧倒的に好評」で維持してきたKunos Simulazioniが作るゲームだ。物理エンジンへの徹底的なこだわりは前作で実証済みで、EVOでもその姿勢は変わっていない。フェラーリやポルシェが公式採用したシミュレーターの後継として、物理品質を妥協するはずがない。
第二に、技術基盤の健全性だ。自社開発グラフィックエンジン、進化した物理エンジン、将来のオープンワールドを視野に入れたアーキテクチャ——EVOの技術基盤は前作より明確に上の水準にある。早期アクセス段階でも物理の進化は体験でき、グラフィックの美しさは標準状態で前作MOD環境レベルに達している。
第三に、「MODエコシステムが育つポテンシャル」だ。前作でMODコミュニティが成功したのは、開発側がMOD制作者のための情報を公開し、コミュニティとの良好な関係を保ったからだ。EVOでも正式版リリース後のMODサポートが計画されており、同じ流れが起きる可能性がある。
第四に、オープンワールドドライブという「切り札」の存在だ。これが実装された暁には、前作で首都高MODが担っていた「サーキット以外での自由な走り」を、はるかに広いスケールで公式に体験できるようになる。1,600km²のドライブエリアという規模が実現すれば、それだけで他のシムとは別次元のコンテンツになる。
今の段階でEVOを始める意味
早期アクセス段階のEVOを今始めることには、具体的な意味がある。
まず、正式版リリース前の安い価格で手に入ること。値上げ予告が出ているため、4,950円で買える今は相対的に安い段階だ。正式版リリース後にコンテンツが揃ってから買う場合、価格が上がっている可能性がある。
次に、物理エンジンの学習段階として今が良いタイミングであること。コンテンツが少ない今の状態は、少ない車種・コースで集中的に練習する良い環境でもある。正式版リリースでコンテンツが爆発的に増えた後より、今の段階で基礎的な物理操作を体に叩き込む方が、上達という観点では効率的かもしれない。
そして、開発フィードバックに参加できること。Steamのレビューやコミュニティフォーラムへの投稿が実際の開発方針に影響を与える。シリーズのファンとして、どんなコンテンツ・機能を求めているかを表明することが、自分たちの望む方向にゲームを育てることにつながる。
日本のシムレーサーコミュニティにとってのEVO
前作Assetto Corsaが日本のシムレーサーコミュニティで特別な地位を持っていたのは、首都高MOD(SRP)とドリフト文化との相性の良さが大きかった。EVOではこれらの要素がどう引き継がれるかが注目点だ。
鈴鹿と富士が標準収録されたことは、日本コミュニティには確実にプラスだ。前作では両方ともMODで追加する必要があったが、EVOでは標準から走れる。レーザースキャン精度で再現された鈴鹿を、EVOの進化した物理エンジンで走る体験は、前作では得られなかったものだ。
オープンワールドドライブが実装された場合、日本のドライブコースを模したMODが作成される可能性も十分にある。前作の首都高MODのような「日本のシムレーサー文化の中心地」が、EVOでも形成される可能性は十分にある。
ドリフトについては、EVOの進化した物理エンジンがドリフト挙動をどう再現するかへの注目が高い。前作の物理はドリフトシムとしても高く評価されていたが、EVOでさらに精密になったサスペンション・タイヤ物理がドリフトの感覚をどう変えるかは、実際に乗ってみないとわからない部分もある。早期アクセス段階でもドリフト方面のフィードバックは積極的にコミュニティから寄せられており、開発側も意識していることが伝わってくる。
まとめ:Assetto Corsa EVO、今買う価値はあるか
Assetto Corsa EVOをここまで詳しく書いてきた。最後に、「今買う価値があるか」という結論を、正直に書く。
物理エンジンの品質という観点では、EVOは現時点でも十分に「買う価値がある」ゲームだ。前作Assetto Corsaの高い物理精度を継承しながら、サスペンションモデリング・タイヤ物理・動的路面状態という点で確実に進化している。「本物の車の挙動を体験したい」という需要に対して、EVOはその期待に応えられるレベルにある。
グラフィックについても、MODなしで前作のCSP導入後レベルの映像が得られるのはEVOの大きなアドバンテージだ。初めてAssetto Corsaシリーズに触れる人にとって、「グラフィックが古くてMODを入れないといけない」というハードルがない。
一方で、「前作のような完成されたMODエコシステムと豊富なコンテンツを今すぐ楽しみたい」という人には、現時点のEVOは物足りない。この場合は前作Assetto Corsaを引き続き使いながら、EVOの正式版リリースを待つという選択が現実的だ。
最終的な答えとして:
シリーズ経験者で物理進化を体感したい、または新規にシリーズに入る人で将来のMODエコシステムへの成長も含めて楽しみたいなら、今のEVOには投資する価値がある。早期アクセスという状態を理解した上で、「育つゲームを一緒に育てる」という楽しみ方ができるなら、4,950円は決して高くない選択だ。
純粋に「今すぐ遊び尽くせる完成形を求める」なら、正式版リリースまで待つか、前作Assetto Corsaを深く遊ぶ方が満足度は高い。前作はセール時512円という信じられない価格で今でも買えるのだから。
10年後を見て「Assetto Corsaシリーズはどのゲームが最高だったか」という問いに答えるとき、EVOの名前が挙がっている可能性は高い。それは今の完成度ではなく、この物理エンジンの基盤と、これから育っていくコンテンツ・MODエコシステムに対する期待だ。前作が10年かけて「伝説」になったように、EVOもその道を歩み始めている。
レーシングシムの世界に一度足を踏み入れたら、タイヤのグリップが手のひらに伝わってくる感覚、ブレーキポイントを少し遅らせてタイムが削れた瞬間の達成感——これらは他のジャンルでは得られない体験だ。Assetto Corsa EVOは、その世界への新しい扉として確かに機能している。



Assetto Corsa EVO
| 価格 | ¥4,950 |
|---|---|
| 開発 | KUNOS Simulazioni |
| 販売 | 505 Games |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows |
| プレイ形式 | シングル |