Celeste|1ミリの精度が命取りになる、美しくて残酷な山登りゲーム
「死にゲー」という言葉が似合うゲームは数あれど、ここまで「死ぬことが当たり前」な設計になっているゲームはそうそうない。Celesteは2Dアクションプラットフォーマーで、プレイヤーはマデリンという女の子を操作してセレステ山の頂上を目指す。シンプルな話だ。
ただし、その道のりは常軌を逸している。トゲが床に敷き詰められたステージ、ほんの少しタイミングがズレただけで奈落に落ちる足場、0.1秒の判断ミスが即死に直結するギミックの数々。初プレイで200回死ぬことは珍しくないし、難しいスクリーンに差し掛かれば1000回を超えることもある。
それでも、Celesteが「理不尽」と感じさせないのはなぜか。プレイしてみて最初に気づくのは、死んでから次の試行まで0.5秒もかからないリスポーンの速さだ。死ぬ→即再開→また死ぬ→即再開。このループがほとんどテンポを乱さない。そして「今の失敗はなぜ死んだのか」が毎回クリアにわかる。トゲを踏んだのか、ダッシュのタイミングが遅かったのか、壁を掴むのを離しすぎたのか。失敗の理由が明確だから、次にどうするかがすぐわかる。
Celesteは2018年1月25日にリリースされ、Metacriticで88点、Steamレビューは97%ポジティブという驚異的な評価を獲得した。2019年のGame Developers Choice Awardsで最優秀オーディオ賞を受賞し、D.I.C.E. Awardsではアクションゲーム・オブ・ザ・イヤーにも輝いた。IGNが「10/10」をつけたインディーゲームというのは相当に珍しい。2025年1月時点での累計販売本数は170万本を突破している。
この記事では、Celesteがなぜここまでの評価を受けているのか、どんなシステムで構成されているのか、どういう人に向いているのかを詳しく掘り下げていく。
こんな人に向いているゲーム

- 難しいゲームが好きで、でも「理不尽な難しさ」ではなく「練習すれば越えられる難しさ」を求めている人
- 2Dアクションプラットフォーマーの操作感にこだわりがある人
- 何度失敗しても諦めずに同じ場面を繰り返せる粘り強いタイプ
- ゲームに感動的なストーリーも求めている人(インディーゲームの中でも随一の物語だと思っている)
- 音楽にこだわりがある人(サウンドトラックの評価が異常に高い)
- 「クリアした」達成感ではなく「攻略を突き詰めた」満足感が欲しい人
- スピードランに興味があるか、やってみたい人
- アクセシビリティ設定で難易度を自分なりに調整して遊びたい人
逆に向いていない人もいる。アクションゲームそのものが苦手で、操作精度にストレスを感じやすいタイプの人には正直きつい。「難しいゲームにチャレンジしてみようかな」という軽い気持ちで手を出すと、序盤の難易度でも思った以上に詰まることがある。ただし後述するアシストモードを使えば誰でもストーリーを楽しめるよう設計されているので、完全に門を閉ざしているわけではない。
Celesteとはどんなゲームか
基本的な設定とストーリー
Celesteは、不安障害を抱える若い女性マデリンが「セレステ山を登りきる」という目標を持って旅に出る物語だ。マデリンが山に挑む理由は最初明確には語られないが、プレイしていくうちに「自分自身への挑戦」「逃げてきたものと向き合う旅」という側面が浮かび上がってくる。
道中で出会う登場人物もそれぞれ印象的だ。山小屋の老人テオドール、謎めいた気配を持つミラ、そしてマデリン自身の「影」として現れるバデリン(Badeline)。バデリンはマデリンの自己否定や恐怖が具現化したような存在で、物語の核心に深く関わってくる。
ゲームのテーマは「不安や自己嫌悪と戦って打ち倒す」ではなく、「それと共存する方法を見つける」というものだ。メンタルヘルスを正面から扱ったゲームとして、リリース当時から多くのプレイヤーの心に刺さった。開発者のMaddy Thorsonは後のインタビューで、このゲームの制作中に自分がトランスジェンダーであることを認識していたと語っており、マデリンは2020年にトランス女性であることが公式に確認されている。
ゲームプレイの難しさと物語のテーマが一致しているのがCelesteの特徴で、「何度失敗しても立ち上がり続ける」というゲームの体験そのものがストーリーのメッセージと重なっている。これを「意図的な設計」と受け取ったプレイヤーが多く、単なるアクションゲームを超えた評価に繋がっている。
ゲームの規模と構造
メインコンテンツは8つのチャプターで構成される。各チャプターはさらに複数の「スクリーン」という単位に分かれており、全体で700を超えるスクリーンが存在する。1スクリーンは基本的に1画面サイズで、クリアすると次のスクリーンに自動的に移行する構造だ。
各チャプターにはそれぞれ異なるビジュアルテーマと固有のギミックがある。山の中腹にある廃ホテル、霧に覆われた寺院、高高度の雪山、タイムループする遺跡など、チャプターごとに雰囲気がガラリと変わる。新しいチャプターに入るたびに「今回はどんなギミックが来るんだろう」という期待感が続く。
チャプターをクリアすると「B-Side」というより難しいバージョンが解放される。B-SideはメインのA-Sideとは別のステージ構成になっており、難易度は大きく跳ね上がる。さらにB-Sideをクリアすると「C-Side」が解放され、これは極限まで難しい短編ステージだ。メインクリアだけなら10〜15時間程度だが、全てのB-SideとC-Sideをクリアしようとすると30〜50時間以上かかる。
加えて無料DLC「Chapter 9: Farewell」が後から追加されており、これがボリュームも難易度も凄まじい。メインゲームのB-SideやC-Sideよりさらに難しいとも言われており、Celesteを「クリア済み」と思っているプレイヤーへの最終試練として機能している。
開発の背景
Celesteは開発者のMaddy ThorsonとNoel Berryが2015年8月に原型を作ったところから始まった。元々はPICO-8(ファンタジーゲーム機)用に週末でサクッと作ったプロトタイプだった。しかしそのシンプルなゲームプレイが好評だったため、本格的なゲームとして開発することを決断した。
开発の参考にしたのはSuper Mario Bros. 3と、ThorsonがCeleste以前に手がけたTowerFallというゲームだ。TowerFallはマルチプレイヤーのアーチェリーアクションで、その操作感覚の精度がCelesteの基礎になっている。
制作チームは小規模で、コアメンバーはThorsonとBerry。音楽はLena Raine、アートはPedro Medeiros、追加開発にKori Bellの協力を得ている。大企業ではなく少人数のインディーチームが、これだけの完成度のゲームを作り上げた事実は、2018年の発売当時から多くの開発者やゲーマーに衝撃を与えた。
ゲームシステム詳細

基本操作:シンプルだが奥が深い
Celesteの操作はシンプルだ。移動、ジャンプ、ダッシュ、壁つかまり・壁ジャンプ。これだけだ。ゲームパッドなら4方向のスティックと2〜3個のボタンで全ての操作が完結する。複雑なコマンド入力もなければ、長押しや連続入力も基本的には必要ない。
しかしこのシンプルな操作を「完璧に」扱うことが恐ろしく難しい。
ジャンプは押したフレームに応じて飛距離・高さが変わる。長押しすると高く飛ぶが、短く押すと低い弧を描く。「この足場をギリギリ越えたい」ときに長押しすべきか短押しすべきかの判断が、1フレーム単位で求められる。
ダッシュは8方向に使えるワンショット技だ。1回ダッシュを使うと、地面に触れるか特定のオブジェクトに触れるまでリチャージされない。つまり空中で使えるダッシュは基本1回のみで、「どのタイミングで・どの方向に」ダッシュを使うかがすべての判断基準になる。ダッシュを温存してジャンプで乗り越えるか、早めにダッシュして位置を確保するか、毎スクリーンで無数の判断が求められる。
壁つかまりはジャンプキーを押しながら壁に近づくことで自動的に発動する。壁につかまった状態でもう片方の壁に向けてジャンプすると「壁ジャンプ」になり、縦の壁を登っていける。壁つかまりはスタミナが設定されており、つかまり続けると力尽きて落下する。スタミナを節約しつつ素早く登るか、余裕を持ってゆっくり登るかの判断も重要だ。
この3つの操作が複合的に組み合わさったとき、Celesteは本当の顔を見せる。「ダッシュ→壁キック→ダッシュ→ジャンプ→壁つかまり→壁ジャンプ」という一連の動作を1秒以内に完璧に実行しなければならない場面が普通に出てくる。1ステップでもミスれば死亡。それを何十回も繰り返して体に叩き込む。これがCelesteの「練習」だ。
各チャプターの固有ギミック
各チャプターには「このチャプターだけで使われるギミック」が用意されている。これがゲームに単調さを感じさせない大きな理由だ。主要なものをいくつか紹介する。
Chapter 2(廃ホテル)の鏡:プレイヤーの分身が逆方向から迫ってくる演出と、鏡の世界に入り込む仕掛け。ここで「鏡の自分(バデリン)」が初めて本格的に登場し、物語の核心が動き出す。
Chapter 3(浮遊寺院)の雲:踏むとバウンドする雲と、風に流される区間。エアコントロールの精度が問われ、ここで初めて「空中でのダッシュ管理」が本当に重要になってくる。
Chapter 4(巨大な鷹)のスピードダッシュ:高速で移動する鷹に乗って進む区間がある。テンポが急激に上がり、反応速度が問われる場面だ。
Chapter 5(ミラーテンプル)の手:暗闇の中で光の玉を持ちながら進む。光の玉を使った操作が追加され、片手が塞がった状態での壁ジャンプなど特殊な動きが求められる。多くのプレイヤーが「ここが一番難しかった」と語るチャプターだ。
Chapter 6(リフレクション)のバデリン協力:それまで敵対的だったバデリンと協力して進む展開。ダッシュが2回使えるようになり、ゲームの感触が一変する。
Chapter 7(頂上)の結晶ハート:様々なギミックを総合的に使った最終チャプター。ここまで積み上げてきたすべての技術が問われる集大成だ。
収集要素:苺・カセット・クリスタルハート
各チャプターには3種類の収集要素が隠されている。
苺(Strawberry)がもっとも基本的な収集物だ。ステージのあちこちに赤い苺が置かれており、取得してチェックポイントまでたどり着けばカウントされる。ただし、苺を取った後に死ぬと苺は消えてしまう。「苺を取ったまま生き延びる」という制約がプレイングに変化をもたらす。ゲーム全体で200個以上の苺が隠されており、全回収は相当なやり込み要素だ。
カセットテープは各チャプターに1本だけ隠されており、入手するとそのチャプターのB-Sideが解放される。カセット自体の入手もそれなりに難しく、見つけにくい場所に配置されている。
クリスタルハートはゲーム内でもっとも難しい収集物だ。各チャプターに1個あり、見つけること自体が難しい場所に隠されている上、入手するためには特殊なルートや精密な操作が必要になる。全部のクリスタルハートを集めると最終ボスに挑む条件が満たされる(Chapter 8に関わる要素)。
死亡カウンターとリスポーンシステム
Celesteには死亡回数がリアルタイムで表示されるカウンターがある(設定でオフにも可能)。クリア後のスタッツ画面では総死亡回数、総プレイ時間、収集物の達成度がまとめて確認できる。
死亡すると0.5秒以内に同じスクリーンの最初から再スタートする。ロードなし、演出なし、待機時間なし。この速さがCeleste最大のストレス軽減装置だ。「また死んだ」という感覚よりも「じゃあもう一回」という前向きな反復が自然に生まれる。
1スクリーンが長すぎないこともポイントだ。ほとんどのスクリーンは10〜30秒で抜けられる設計になっているため、死んでも「ここまでの積み重ねを全部やり直し」という感覚が生まれにくい。チェックポイントの粒度が絶妙で、達成感と苦痛のバランスが非常によく調整されている。
アシストモード:難易度の柔軟な調整
Celesteにはアシストモードという設定がある。これを有効にすると以下の調整が可能になる。
- ゲームスピードの変更(70%・80%・90%・100%)
- ダッシュ回数の増加(1回→2回→無制限)
- 無敵モード(即死トゲに当たっても死なない)
- スタミナの無限化(壁つかまりで力尽きない)
このモードは「ゲームのストーリーや音楽を楽しみたいが、アクションの難しさに追いつけない」プレイヤーのために用意されたものだ。開発者は「アシストモードを使うことを恥と思わないでほしい」というメッセージをゲーム内に明記しており、難易度の調整を自分でコントロールすることを推奨している。
これはCupheadが難易度オプションをめぐって批判を受けた時期に開発されたという背景もあり、「高難度ゲームは全員が同じ難しさで挑戦すべき」という考えに対するひとつの答えでもある。アシストモードを使ったプレイに対してゲーム内でのペナルティは一切ない(実績の取得に影響する場合はあり)。
ダッシュの詳細メカニクス
Celesteを深く理解したいなら、ダッシュの細かい挙動を把握することが不可欠だ。
ダッシュは入力した8方向に向かって一定速度で移動する。斜め上方向にダッシュした場合、ダッシュ終了後に通常の重力落下が再開される。斜め下にダッシュした場合、地面に早く到達するため次のジャンプまでの時間が短くなる。
「ハイパーダッシュ」と呼ばれるテクニックがある。斜め下にダッシュして着地した直後にジャンプを入力すると、通常より大きく遠くに飛べる。これはゲームが意図的に組み込んだテクニックで、B-SideやC-Sideではこのハイパーダッシュの習得が前提になっている場面も多い。
「スーパーダッシュ」も重要なテクニックだ。水平ダッシュ後にジャンプを入力するタイミングによって、通常より高い放物線を描けるようになる。壁際での「壁バウンス」と組み合わせると、普通のルートでは届かない場所にアクセスできる。
これらのテクニックはチュートリアルで教えられるものではなく、実際のプレイや他のプレイヤーのプレイ動画を見ながら習得していくものだ。「できないと詰まる」ではなく「知ると楽になる」レベルで組み込まれているため、テクニックなしでもメインゲームはクリア可能だ。
ボスとの対決
CelesteにはいわゆるRPG的な「ボス戦」はない。代わりに、特定のチャプターでバデリンが「追跡者」として現れる。バデリンは一定間隔で弾を撃ってきたり、マデリンを追いかけてきたりする。バデリンを倒す必要はなく、逃げ続けながらゴールを目指す形式だ。
このバデリンとの「対決」がストーリーと完全にリンクしているのがCelesteの巧みな設計だ。追いかけてくる「自分の影」から逃げ続けるというゲームプレイが、マデリンの心理状態そのものを体験させる仕組みになっている。
Chapter 6での展開は、このゲーム全体のクライマックスのひとつになっており、バデリンとの関係性がゲームプレイのメカニクスレベルで変化する。ネタバレになるので詳しくは書かないが、「ゲームプレイの変化でストーリーを語る」という手法の教科書的な例だ。
Celesteが人気を集める理由
難易度設計の巧みさ
高難度ゲームは山ほどあるが、「難しいのに公平に感じる」ゲームは少ない。Celesteが多くのプレイヤーに受け入れられた最大の理由は、この「公平な難しさ」の設計にある。
死ぬたびに自分の失敗理由がわかる。「あのトゲを踏んだ」「ジャンプが短かった」「ダッシュのタイミングが遅かった」。原因が明確だから次の試行でどう修正すればいいかがすぐわかる。これは言葉で書くと当たり前のように聞こえるが、実際にはこれができていないゲームが多い。「なんで死んだかわからない」という体験がないだけで、プレイの質感が大きく変わる。
さらにCelesteは「少し難しい→できた→もう少し難しい→できた」という正のフィードバックループを丁寧に設計している。1スクリーンをクリアすることで小さな達成感が生まれ、その達成感が次のチャレンジへの意欲につながる。大きな山を乗り越えるのではなく、小さな丘を無数に越えていく感覚だ。
また、高難度ゲームにありがちな「運要素による死亡」がほぼない。マデリンの動きは毎回同じ物理法則に従う。ランダム性はない。「同じ操作をすれば同じ結果が出る」という信頼感が、繰り返しのストレスを著しく軽減する。
操作感覚の完成度
Celesteの操作感覚について多くのゲームデザイナーが分析しているが、共通して指摘されるのは「入力とレスポンスの遅延のなさ」だ。ボタンを押した瞬間にキャラクターが反応する。1フレームのラグもない。
加えて、マデリンの動きは「少しだけ物理法則を無視した都合の良い挙動」がいくつか実装されている。有名なのが「コヨーテタイム(コヨーテジャンプ)」と呼ばれる仕様だ。足場の端から一歩踏み外した直後、数フレームの猶予時間があり、その間にジャンプを押すとジャンプできる。崖から落ちる瞬間にジャンプを押したのに「乗れた」という体験をしたことがある人も多いかもしれない。これは意図的に実装された「プレイヤーに優しいズル」で、入力が少し遅れても動いたように感じさせる効果がある。
こういった「感覚を良くするための小さな嘘」がCelesteの随所に組み込まれており、プレイヤーは「自分の腕前が上がっている」という感覚を持ちやすくなっている。実際に腕前が上がっているのは確かだが、その過程でゲームがさりげなく助けてくれている。
音楽と映像の力
Lena Raineが手がけたサウンドトラックは、ゲーム音楽として非常に高い評価を受けている。2019年のGame Developers Choice Awardsで最優秀オーディオ賞を受賞し、ファンの間では「CelesteのOSTは神」という認識が広まっている。
ピアノを主体としつつシンセサイザーや環境音を組み合わせた音楽は、各チャプターの雰囲気に完璧に合わせて作られている。難しい場面では緊張感を高める音楽が流れ、クリアの瞬間には達成感を倍増させるような転調が入る。「音楽がゲームプレイと一体化している」という体験ができる。
特に多くのプレイヤーが語るのが「Resurrections」という楽曲だ。Chapter 2の廃ホテルで流れるこの曲は、マデリンとバデリンの対立をそのまま音楽で表現したような構成になっており、ストーリーと音楽が完全に融合している瞬間として記憶に残りやすい。
ビジュアルはピクセルアートだが、このジャンルの中でも特にアニメーションの細かさが際立っている。マデリンが走るときの髪の揺れ、壁から飛び降りる瞬間の体の傾き、ダッシュ時の軌跡エフェクト。「動かしていて気持ちいい」ビジュアルは、何百回も繰り返すプレイを支える重要な要素だ。
ストーリーとゲームプレイの統合
多くのゲームではストーリーとゲームプレイは別物だ。ムービーでストーリーが進み、ゲームプレイは別のことをやる、という構造だ。Celesteはその両方を統合させることに成功している。
「難しい山を何度失敗しても登り続ける」というゲームプレイ体験が、「不安を抱えながらも諦めずに挑戦し続けるマデリン」のストーリーと完全に一致している。プレイヤーが何百回も死ぬ体験は、マデリンが山に何度も跳ね返されながらも立ち上がることと重なる。
Chapter 6でのゲームプレイの変化(ネタバレになるので詳細は書かないが)は、ストーリー上の変化をそのままゲームメカニクスで表現した見事な例だ。「あのシーンで操作感覚が変わった」という体験をした人なら、このゲームの凄さが身体レベルでわかると思う。
スピードランコミュニティの活発さ
Celesteはスピードランのゲームとしても非常に有名だ。speedrun.comのCelesteカテゴリには数万件以上の記録が登録されており、世界記録保持者は複数カテゴリに渡って常に更新が続いている。
Any%(最短クリア)、All Strawberries(全苺回収)、True Ending(真エンド到達)など複数のカテゴリが存在し、それぞれに深いコミュニティが形成されている。前述のハイパーダッシュやスーパーダッシュなどのテクニックは、スピードランコミュニティが発見・体系化したものだ。
開発者もスピードランに対して好意的で、スピードランに使われるテクニックの多くがゲームに意図的に残されている(バグとして修正されていない)。コミュニティとの共存関係が良好なゲームとして知られており、発売から7年以上経った今もコミュニティが活発に動いているのはこの姿勢が大きい。
Modコミュニティ:Everest
CelesteにはEverestと呼ばれる非公式のMod管理ツールがある。このツールを使うと、コミュニティが制作したMod(改造データ)を簡単にインストールできる。公開されているModの数は数千を超えており、新しいステージ、難易度改変、キャラクタースキン変更など多岐にわたる。
コミュニティが制作した「Strawberry Jam」というMod集は、数百人のマッパーが参加した巨大なコラボレーション作品で、Celeste本編を遥かに超える難易度から初心者向けまで幅広いコンテンツが詰め込まれている。本編をクリアした後も何年でも遊べるコンテンツが追加で存在するわけで、これもCelesteが長期間愛されている理由だ。
プレイ前に知っておくべき注意点

序盤から死にまくることへの心の準備
Celesteをプレイするにあたって最も重要な心の準備は「死ぬことが普通」と理解することだ。最初のチャプターをクリアするだけで50〜100回死ぬ人は珍しくない。これはゲームがバグっているわけでも、自分のセンスがないわけでもない。Celesteはそういうゲームだ。
死亡回数を気にしすぎると楽しめなくなる。「また死んだ」ではなく「あとちょっと」という感覚でプレイし続けることが、Celesteを楽しむ秘訣だ。実際、ゲームをクリアしたプレイヤーの平均死亡回数は数千回に及ぶと言われており、それでも「クリアしてよかった」という感想が圧倒的に多い。
コントローラー推奨
Celesteはキーボードでもプレイできるが、コントローラーでのプレイを強く推奨する。アナログスティックの8方向入力が必要なダッシュや、繊細なジャンプの長押し調整は、キーボードでやろうとするとかなり辛い。
特にB-SideやC-Sideの難易度になると、コントローラーとキーボードの操作感の差がそのままクリア可能かどうかに直結してくる場面もある。XboxコントローラーやPS4/PS5コントローラーがそのままSteamで使えるので、持っている人は必ず使った方がいい。
どうしてもキーボードでプレイしたい場合は、キーバインドを自分のやりやすい配置に変えることを勧める。デフォルトのキーボード配置はあまり最適化されていないので、慣れた配置に変えるだけでかなりストレスが減る。
長時間プレイによる疲労
Celesteは精密操作の連続なので、集中力と反応速度を常に要求される。同じスクリーンで何十回も繰り返し死んでいると、精神的に疲弊してくる場面がある。「今日は詰まったままで終わった」という日が続くことも珍しくない。
そういうときは素直に休憩するか、別のステージに移って後で戻ることを勧める。Celesteは同じステージに何時間も張り付き続けるより、一度離れて翌日再挑戦した方が急にできることが多い。これはゲームの問題ではなく、精密操作ゲーム全般に言えることで、「一晩寝たらクリアできた」という体験談はCelesteプレイヤーの間で非常に多い。
B-SideとC-SideとFarewellの難易度について
メインのA-Sideクリアだけであれば、ある程度根気があれば初心者でも到達できる難易度だ。しかしB-Sideは本格的に難易度が上がり、C-Sideはゲームコアファン向けの極限難度だ。Farewellは「これCelesteの同じゲームか?」と思うほど難しい。
これらのコンテンツに手を出す前に「なぜ難しいのか理解している」状態であることが重要だ。A-Sideをクリアしても「なんかよくわからないけど勢いで通った」という感覚の人は、B-Sideで完全に詰まる可能性が高い。テクニックをしっかり理解してからB-Sideに進むか、アシストモードを使うか、どちらかの判断が必要だ。
光感受性の警告
一部のステージで点滅が激しい演出がある。光過敏症(光刺激誘発てんかんなど)のある人は注意が必要で、ゲーム起動時にも警告が表示される。具体的にはChapter 5(ミラーテンプル)の特定区間と、一部のB-SideやFarewellに激しい点滅を含む演出がある。オプションでこういった演出を軽減する設定があるので、必要な場合は確認してほしい。
初心者のためのプレイアドバイス
まず操作に慣れることを最優先に
Chapter 1は事実上のチュートリアルになっている。トゲを踏むと死ぬ、ジャンプの着地を確認する、壁につかまる感覚をつかむ。これだけで最初はいい。クリアにこだわらず、まずマデリンの動きが手の動きと一体化する感覚を作ることが最優先だ。
具体的には「ジャンプの高さを調整する練習」を意識するといい。同じ場所で何度か試して「短押しだとここまで、長押しだとここまで」という感覚を掴む。最初はこの感覚が曖昧なことが多いので、意識的にやってみるとその後のプレイが楽になる。
死亡カウンターは見ない方がいいかも
デフォルトでは画面端に死亡回数が表示されるが、これを意識しすぎるとプレイに悪影響が出ることがある。「もうこんなに死んでる」というネガティブな感覚につながりやすいからだ。気になるならオプションから非表示にできる。死亡回数は気にせず、「一歩ずつ進んでいる」という感覚に集中した方がいい。
ダッシュの方向入力を大げさにやる
最初の失敗で多いのが「斜めダッシュのつもりが横ダッシュになっていた」というケースだ。8方向入力のうち、斜め方向の入力は思っているより難確に動かさないと反応しない。特にコントローラーのアナログスティックは中央から45度方向にしっかり傾けることを意識する。最初は「大げさすぎるくらい斜めに倒す」感覚でちょうどいい。
苺は後回しでいい
苺の回収はやり込み要素であり、メインのクリアに必要ではない。最初のプレイでは苺を取ることに集中せず、まずスクリーンをクリアすることだけを考えた方がいい。苺を取ると「死んだら苺が消える」というプレッシャーが加わり、プレイが慎重になりすぎてテンポが悪くなりがちだ。ストーリーを楽しみながら進んで、クリア後に回収ルートを調べながら再挑戦する方が効率的で楽しい。
Chapter 5で詰まったら一度メモを取る
Chapter 5のミラーテンプルは多くのプレイヤーが「ここが一番難しかった」と語るチャプターだ。ギミックが複雑で初見では何をすればいいかわかりにくい場面もある。詰まったときはプレイを一時停止して「今何をすべきか」を言語化してみることを勧める。「光の玉を持ちながら壁ジャンプして、その後ダッシュでここに届かせる」というように手順を整理するだけで、急に突破口が見えることがある。
アシストモードは恥じゃない
繰り返しになるが、アシストモードの使用はゲームのオプションとして公式に提供されている機能だ。「使ったら負け」とか「使ったらクリアじゃない」という考えは完全に捨ててほしい。ゲームスピード70%で遊ぶだけで、難しかった場面がすんなり越えられることはよくある。ストーリーを楽しむためにアシストモードを使うことを開発者は歓迎している。
クリア後のコンテンツは段階を踏む
全8章をクリアした後、B-SideとFarewellが待っている。いきなり最難関に飛び込まず、B-Sideをひとつずつ試していくことを勧める。Chapter 1のB-Sideから始めて、クリアできたら次へ。全B-Sideをクリアしてから初めてC-Side、その後Farewellという順番が、ゲームが想定している難易度カーブに近い。
まとめ
Celesteは簡単に言ってしまえば「死んで覚える2Dアクション」だ。しかしその一文では語り切れない要素がいくつもある。
公平で合理的な難易度設計。死んでも0.5秒で再スタートするテンポ感。操作の気持ちよさを支える細かな調整。チャプターごとに変わるギミックと世界観。ゲームプレイと一体化したストーリー。Lena Raineの神がかったサウンドトラック。高難度プレイヤーを何年も楽しませるB-SideとC-SideとFarewell。スピードランとModコミュニティの活発さ。アクセシビリティに配慮したアシストモード。
これだけの要素が2,300円のゲームに詰まっている。インディーゲームのなかでも圧倒的なコストパフォーマンスと完成度を誇る一本だと思っている。
「難しいゲームは嫌い」という人には向かないが、「挑戦したい」「精密操作を極めたい」「感動できるゲームを探している」という人に対しては迷わずすすめられる。メインゲームをクリアするだけなら10〜15時間、やり込むなら50時間以上遊べる。どのプレイスタイルでも「これはやってよかった」と感じさせてくれるゲームだ。
まだプレイしていない人は、Steamのセール時に半額になることが多いので、その機会に手に取ってみてほしい。定価2,300円でも安いが、セール価格になれば言い訳ゼロの神コスパだ。

Celeste
| 価格 | ¥2,300 |
|---|---|
| 開発 | Maddy Makes Games Inc., Extremely OK Games, Ltd. |
| 販売 | Maddy Makes Games Inc. |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows / Mac / Linux |
| プレイ形式 | シングル |

