Chants of Sennaar(チャンツ・オブ・セナール)——未知の言語を解読し、分断された塔の人々をつなぐ言語パズルアドベンチャー
「この記号、さっきも出てきた。ということは……動詞?」
プレイを始めて30分が経ったとき、ノートのページを何度もめくりながらそう思った瞬間のことを覚えている。意味不明な文字の羅列を眺めながら、NPCの反応を観察し、壁に描かれたシンボルと照らし合わせて「これはたぶん命令形だ」と仮説を立てて進んでいく。正解だったとき、ノートに「あなた」「行け」という言葉がはまり込んだとき——あの瞬間の達成感は、最近プレイしたどのゲームとも違った種類のものだった。
Chants of Sennaar(チャンツ・オブ・セナール)は、フランスの2人組スタジオRundiscが開発した言語解読パズルアドベンチャーだ。舞台はバベルの塔をモチーフにしたジグラット(段状の塔)で、プレイヤーは「旅人」として塔の各層を上りながら、そこに住む5つの民族の言語を解読し、互いに分断されたコミュニティを再びつなぐための旅をする。
2023年9月5日のリリース以降、Steamレビューは1万1000件超で98%の高評価(圧倒的に好評)を維持し続けている。The New York Timesが2023年のトップ10ゲームに選出し、ニューヨークゲームアワード2024でベストインディーゲームを受賞。BAFTAやThe Game Awardsでもノミネートを果たした。小さなフランスのインディースタジオが作った言語ゲームがここまで世界的に評価された理由は、実際にプレイすると数時間以内に体でわかる。
ゲームを起動した最初の5分間、プレイヤーは完全に「異邦人」だ。画面上のあらゆるテキストが未知の記号で埋め尽くされていて、NPCが何かを話しかけてくるが意味が全くわからない。この状態から「少しずつ世界が読めるようになっていく」過程こそが、Chants of Sennaarの本質であり、ここ数年のインディーゲームの中でも特別な地位を占める理由だ。
プレイ動画
・謎解きや推理ゲームが好きで、新しいタイプのパズル体験を探している人
・言語学や文化人類学に興味があるか、そのテーマのゲームを探している人
・バベルの塔、多文化共生、コミュニケーションというテーマが刺さる人
・プレイ時間8〜10時間のコンパクトなゲームを探している人
・美しいアートスタイルと雰囲気重視のゲームが好きな人
・「やったことのないゲーム体験」を求めているすべてのゲーマー
Chants of Sennaarとはどんなゲームか——バベルの塔を舞台にした言語解読の旅

Chants of Sennaarのゲームプレイを一言で説明するのは難しい。「パズルゲーム」とも言えるし、「アドベンチャーゲーム」とも言えるし、「言語学習シミュレーター」とも言えるし、どれも少しずれている気がする。公式サイトには「パズルアドベンチャー」と書かれているが、実際の体験はもっと独特だ。
ゲームの核心は「未知の文字を文脈から推測して意味を解読していく」プロセスだ。塔の各層には独自の民族が住んでおり、それぞれ全く異なる文字体系と言語体系を持っている。最初にその言語を目にしたとき、プレイヤーには何も意味がわからない。記号の羅列にしか見えない。
しかし塔を歩き回り、NPCの会話や仕草を観察し、扉や壁に書かれたシンボルと照らし合わせていくうちに、少しずつ意味が浮かび上がってくる。「この人が指を差しながらこの単語を言った——おそらく名詞だ」「この動作の後にこの文字が出てくることが多い——動詞かもしれない」という推理を積み重ねていく。
ノートブック機能がその中核を担っている。プレイヤーは各グリフ(文字)に仮の意味を入力でき、仮説が正しければノートの答え合わせで確定できる仕組みだ。確定した単語は以降の会話テキストの上に薄字でオーバーレイ表示され、少しずつ「読める」テキストが増えていく。この「解読が進むにつれてゲーム世界の情報が増える」デザインが、探索とパズルを有機的につなげている。
重要なのは、このノートブックへの入力を強制されることはないという点だ。「このグリフはたぶん扉を意味する」と思ったら入力するし、まだ自信がなければ後にすることもできる。プレイヤーのペースで解読を進められるこの柔軟さが、「詰まったら嫌だ」というプレイヤーの不安を和らげている。
よくあるパズルゲームとは全然違う。テキストを読んでいるうちに「あ、この単語の意味わかった」となる瞬間があって、その快感が新しい。
出典:Steamユーザーレビュー
5つの民族はそれぞれ独自の世界観を持ち、塔の各層の雰囲気も大きく異なる。金色の光が差し込む古代神殿風の層があれば、冷たい金属と機械に覆われたSF的な層もある。有機的な緑とつる草に覆われた層、幾何学的な精密さが支配する層、そして最上部に近づくにつれて世界の「意味」が変わってくる層——層が変わるたびにカラーパレット自体が変わり、別のゲームをやっているような感覚になる。
言語だけでなく、ステルス要素も一部に組み込まれている。特定の区画では敵対的なキャラクターに見つからないように進む必要があり、ゲームのペース配分に変化をつける役割を果たしている。ただしこのステルスが賛否を呼んでいるのも事実で、後述する。
ゲームのモチーフとなったバベルの塔神話は、神が人間の言語をバラバラにして人々が協力できなくなった物語だ。Chants of Sennaarはその逆を描いている——バラバラになった言語をプレイヤー自身が繋ぎ合わせることで、分断された人々がまた出会えるようになる物語。この方向性が、単なる「パズルゲーム」を超えた評価を集める理由になっている。
ゲームとしての操作は意外とシンプルだ。プレイヤーキャラクターを移動させ、オブジェクトに近づいてインタラクトし、ノートブックを開いて記録する——この繰り返しが基本だ。アクションゲームのような複雑な操作は一切ない。「操作が難しくてゲームを楽しめない」という状況がほぼ起きない設計になっているため、コントローラー操作が苦手な人でも問題なくプレイできる。ゲームの難しさは操作にではなく、思考にある。
基本情報

| タイトル | Chants of Sennaar(チャンツ・オブ・セナール) |
|---|---|
| 開発 | Rundisc(フランス・トゥールーズ) |
| パブリッシャー | Focus Entertainment |
| 発売日 | 2023年9月5日 |
| 対応プラットフォーム | PC(Steam)、PlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switch、iOS/Android(2025年8月〜) |
| ジャンル | 言語解読パズル・アドベンチャー |
| 日本語対応 | あり(テキスト完全対応) |
| Steam評価 | 圧倒的に好評(98%、1万1000件超) |
| Metacritic | 78〜86点(プラットフォームにより差あり) |
| クリア時間目安 | メインストーリー:約9時間 / コンプリート:約11時間 |
| 価格(Steam) | $19.99(定期的にセールあり) |
| 主な受賞 | ニューヨークゲームアワード2024 ベストインディーゲーム受賞 / The New York Times 2023年トップ10ゲーム |
| 主なノミネート | BAFTAゲームアワード2024(2部門)、The Game Awards 2023、ヒューゴー賞2024 ベストゲーム部門 |
2人で作ったゲームが世界的評価を受けた理由——Rundisc の開発背景

Chants of Sennaarを語るうえで欠かせないのが、開発者の話だ。Rundisc はフランス・トゥールーズに拠点を置く極小インディースタジオで、実質的にはジュリアン・モヤ(アートディレクション・ゲームデザイン)とトーマス・パヌエル(プログラミング・ゲームデザイン)の2人だけで構成されている。
2人ともゲーム業界出身ではなく、それぞれ別の業界で約20年間働いた後、2015年に出会って趣味としてゲーム制作を始めた。2018年に最初のゲーム「Varion」をリリースしたが、セールス的には振るわなかった。しかし「自力でゲームを完成させてリリースできる」という自信を得た2人は、次のプロジェクトに踏み出した。
Chants of Sennaarの構想が生まれたのは、2020年3月——COVID-19パンデミックが始まったタイミングだ。当初はステルスアクションを中核にしたゲームの予定だったが、モヤが言語解読ゲーム「Heaven’s Vault」と1988年の「Captain Blood」をプレイしたことで方向性が大きく変わった。「言語そのものをゲームの中心に置けないか」という問いが生まれた。
開発初期はアドベンチャーゲームとしての設計が中心だったが、数ヶ月の試行錯誤の後、「ゲーム全体を未知の言語翻訳によって構成する」というコンセプトに至った。このコンセプト変更が、Chants of Sennaarを他にない作品にした決定的な選択だったと言える。アートの方向性がほぼ固まった段階でのコンセプト変更は、通常の開発では大きなリスクになる。しかし2人はその方向性に確信を持ち、言語を核心に据えた設計に切り替えた。
開発期間は約3年。この間に5つの架空言語の設計、各言語の文法規則の整合性確認、ノートブックシステムのUX設計、5つの層それぞれのアートスタイル設計など、膨大な作業が2人の手によって進められた。
ゲーム業界の外から来た2人がここまでのクオリティのものを作ったのかと思うと、インディーゲームの可能性ってまだまだあるんだなと感じた。
出典:note ユーザー感想
Focus Entertainmentとのパブリッシャー契約が成立したことで開発規模も拡大でき、2023年9月のリリースにこぎつけた。リリース後も2人の関係は続き、Focus EntertainmentはRundisc との長期パートナーシップを2024年に正式発表している。次回作への期待は既にコミュニティの間で高まっている。
「ゲーム開発の経験ゼロ、2人だけ、フランスの地方都市」という出発点からBAFTAノミネートまで到達したこのストーリーは、Chants of Sennaar というゲームのテーマ——「言葉を超えた繋がり」——と不思議なほど重なって見える。バックグラウンドの違う2人が出会い、言語という媒介を通じて何かを生み出した。ゲームのテーマを開発者自身が体現しているような話だ。
開発者2人がゲーム業界の外から来たことは、逆にアドバンテージになった面もある。「ゲームはこういうものだ」という先入観がなかったからこそ、「言語解読だけをゲームの核心にする」という思い切った選択ができたのかもしれない。業界経験者なら「それではゲームにならない」と判断していた可能性もある。経験のなさが独自性を生んだという逆説は、Chants of Sennaarというゲームを語るうえで欠かせない視点だ。
同じく少人数インディーチームが精巧な世界観を作り上げた作品として、「釣りとクトゥルフ神話」という異色の組み合わせで大ヒットしたこちらも根強い評価を誇る。
謎めいた海の恐怖と、言葉なき世界の不条理さ——そんな体験はホラー漁業ADVのDREDGEでも味わえる。

5つの言語解読——ゲームの核心にある「推理」の快感

Chants of Sennaarの最大の売りは、架空の言語を文脈から推理して解読するプロセスそのものだ。5つの言語はそれぞれ独立した文字体系を持ち、文法も異なる。ある言語は主語が文末に来るし、別の言語は複数形を接尾辞で表現する。こういった言語学的な違いが、各民族の文化的・世界観的な差異と連動して設計されている。
解読のプロセスは大きく3段階に分かれる。
まず「観察」だ。NPCの会話や仕草、環境の中にあるオブジェクトや壁の文字を注意深く観察する。「このNPCが特定のものを指差しながらこの単語を言っている」「扉の前でこの記号が繰り返されている」といった情報を蓄積していく。このフェーズは「探偵が事件現場を歩き回る」感覚に近い。情報は与えられず、自分で拾い集めるしかない。
次に「仮説設定」。ノートブックの各グリフに仮の意味を入力する。最初は「これは名詞系だろう」「これは動作を示すような気がする」程度の推測でも構わない。重要なのは仮説を持って動くことだ。仮説があれば、その後の観察で「この場面でこの単語が使われた——仮説と一致する」または「一致しない」という情報に変わる。仮説なしに歩き回っても、ただ記号を眺めているだけで終わる。
最後に「答え合わせ」。ノートブックには「確認」機能があり、一定数の単語の仮説が出揃うと自動的に答えが提示される。全問正解なら次の段階へ進み、間違いがあれば再挑戦だ。この答え合わせの瞬間——「全部合ってた!」という達成感と、「この単語だけ違った……なぜ?」という再考のサイクルが、中毒性の核だ。
「これは絶対合ってる」と思った答えが違って、改めて観察してみたら見落としてた文脈があって、「あ、そういう意味か!」となる瞬間がたまらない。
出典:ひろてくのブログ Chants of Sennaarレビュー
5つの民族の言語の中で特に印象的だったのは、3つ目以降の民族の言語だ。単語の難易度が上がるだけでなく、文法構造がより複雑になり、「この民族は動詞が先に来る言語を使っているのか」という気づきが積み重なっていく。実際の言語学で議論されるような「語順の違い」「格変化」「複数形の扱い」が、ゲームの架空言語に丁寧に組み込まれている。
言語学に詳しいプレイヤーほど楽しめる仕掛けが随所にあるが、専門知識がなくても問題ない。ゲームの設計上、完全に詰まることはなく、しっかり観察すれば必ず突破口が見つかるようになっている。プレイヤーが「詰まった」と感じる多くの場面は、実は見落としている文脈がどこかに存在している。
ただし、ノートブックの絵(グリフのヒント)が分かりにくい場合があるのも事実だ。「絵が何を表しているのか判断に迷う」「これは抽象的な概念を表しているのか、具体的な物を表しているのか判断できない」という声は複数のレビューで共通して指摘されており、これが一部のプレイヤーにとっての最初の壁になっている。特に序盤の言語は「あとで振り返ると簡単だったのに、当時は難しく感じた」というコメントが多い。
ノートブックのグリフは民族ごとに全く別のデザインになっており、1つ目の民族の言語では角ばった幾何学記号、2つ目では曲線的なシンボル、3つ目以降はさらに複雑な形状と変化していく。視覚的に全く異なる文字体系を5つ切り替えながら解読するため、後半に差し掛かるころには「自分がいくつの言語を覚えたか」という達成感が積み重なっている。1周目でこの感覚を味わい、クリア後に「最初の言語の単語、今でも読める」と気づいたとき、この体験が本物の学習に近かったことがわかる。
5つ全ての言語を解読し終えたとき、それぞれの言語の「個性」が後から思い返してみると全て理にかなっていたことに気づく。農耕民族の言語には食物や季節に関連する単語が豊富で、知識を重んじる民族の言語には抽象概念を表す記号が多い。こうした言語デザインの一貫性が、ゲームのリアリティを支えている。
同じように「気づきと発見の積み重ね」が楽しいパズルゲームとして、ルールを推理しながら進むこちらも根強い人気を誇る。
海の中を探索しながら手がかりを積み重ねていく体験として、釣りとダイビングを組み合わせたこちらも同じ「発見する喜び」を持ったゲームだ。

5つの世界——層ごとに変わる色彩と雰囲気の設計

Chants of Sennaarのビジュアルは、プレイする前から目を惹くが、実際に遊ぶとその凄さの次元が違うことに気づく。単に「きれいなゲーム」ではなく、「アートスタイルがゲームプレイと不可分に絡み合っているゲーム」なのだ。
塔の各層は独自のカラーパレットを持つ。最初の層は温かみのある黄金色と茶色——古代神殿や中東の遺跡を想起させる配色だ。次の層に移ると、突然クールなグレーと青に変わり、まるで別のゲームを起動したような感覚になる。さらに進むと、有機的な緑と赤、メカニカルな銀と黒という具合に、層ごとに世界の「質感」が根本から変わる。
この色彩設計は単なる美的選択ではなく、各民族の文化的性格を反映している。太陽の恵みを崇拝するような農耕文化の民族には暖色系、技術と知識を積み重ねてきた文明には寒色の精密なビジュアルが与えられている。言語の違いとビジュアルの違いが連動していることで、「この層に来ると別の世界に来た感覚」が生まれている。
Game Developer誌に掲載されたポストモーテム(開発振り返り記事)でモヤは、このビジュアルデザインについて「各民族の文化と価値観を色と形で表現することを目指した」と語っている。農業を基盤とする民族には豊かな緑、知識と記録を重んじる民族には幾何学的な精密さ——そういった意図がアートに込められている。
どこを切り取っても絵になる。スクリーンショットを何十枚と撮った。これだけアートスタイルが統一されていて、かつ各章で雰囲気がガラリと変わるゲームはそうない。
出典:いくらのゲーム暮らし Chants of Sennaarレビュー
サウンドデザインも同様に作り込まれている。楽曲はオーケストラ、アラビア系の楽器、喉歌と電子音を組み合わせた独特のサウンドスケープで構成されており、各層の雰囲気に合わせてトーンが変化する。言語ゲームなのに「音で世界を感じる」設計になっているのが面白い。ヘッドフォンを使ってプレイすると、この音響設計の密度がよりわかる。
Adventure Gamers が「distinctively French feast for the eyes, ears and brain(目と耳と脳のためのフランスらしいごちそう)」と評したのは、ビジュアル・サウンド・思考の三層が一体になったこの体験を指している。フランスのゲームらしい芸術的な密度は、プレイしながら「これは丁寧に作られている」と感じる場面が随所にある。
探索中の操作感も言及しておきたい。Chants of Sennaarは3Dの視点を持つゲームで、プレイヤーはゆっくりと塔の中を歩き回る。マップ機能がないため、最初は迷子になりがちだ(実際に「マップがほしかった」という声は多い)。しかし、この「地図なしで歩き回る」設計が、探索と観察を促す仕掛けにもなっている。同じ場所を何度も通ることで、見落としていた文字や反応に気づくことができる。
マップがないことへの批判は理解できるが、一方で「マップを見ながら最短経路で移動するゲーム」になってしまったら、このゲームの「歩き回って発見する体験」の大半が失われるとも感じる。設計の選択として意図的にマップを排除したのだとしたら、それはゲームプレイの哲学に沿っている。「美しいアートワールドを歩き回ること自体が楽しい」という感想が多いのは、このゲームが探索そのものに価値を持たせるデザインになっているからだ。
ステルスという「もう一つの壁」——賛否が分かれるゲームデザインの選択

Chants of Sennaarを語るとき、ステルス要素の話を避けることはできない。このゲームには、言語解読とは別に、一部の区画で敵対的なキャラクターの視界に入らないよう隠れながら進む「ステルスセクション」が組み込まれている。
このステルスが、プレイヤーコミュニティで最も評価の割れる要素だ。
批判的な声の大半は「なぜ言語解読ゲームにステルスが必要なのか」という根本的な疑問から来ている。「謎解きだけやらせてくれ」という声は、Steamレビューや日本語レビューサイトで繰り返し登場する。特に序盤のステルスは誘導が分かりにくく、何度も同じ区画をやり直すことになってしまったプレイヤーは多い。「ゲームの雰囲気に完全に浸っていたのに、ステルスに入った途端に集中が切れた」という声も見受けられる。
ステルスの部分だけが苦手で、そこだけ何度も失敗した。他は本当に好きなのに、あそこだけが残念だった。謎解き部分に集中させてほしかった。
出典:JEMCゲームレビュー Chants of Sennaarレビュー
一方で、ステルスを評価する声もある。「ゲームのリズムに変化をつけている」「言語を使って解決するシーンへの橋渡しになっている」という意見で、完全にステルスを嫌う人だけがいるわけではない。特定の層ではステルスが「その民族の性質」を表現する演出として機能していて、文脈的に納得感があるという感想もある。
重要なのは、Chants of Sennaar のステルスはあくまで「アクセント」程度のものであって、本格的なステルスゲームのような難易度ではないという点だ。失敗してもチェックポイントが近く、ゲームオーバーにはなりにくい。「ステルスゲームが苦手」という人でも、根気よくやれば通過できるレベルに調整されている。
ただし、「言語解読ゲームに集中したい」と期待してプレイしたとき、突然ステルス区画が現れるギャップは確かにある。このギャップへの耐性がある人には気にならないが、苦手な人にとっては集中の糸が切れる瞬間になりうる。「ステルスが嫌だからこのゲームを買うのをためらっている」というコメントもSteamのフォーラムで複数見かけた。
Rundisc もこのフィードバックは認識しており、次回作に向けてゲームデザインの方向性を検討しているとのことだ。Chants of Sennaarの成功を受けて期待が高まる次回作で、ステルス要素がどう扱われるかは注目点の一つになる。
ステルスセクションのもう一つの側面として、「このゲームが決して完璧ではない」という正直さがある。98%という高評価の裏に、ステルスへの不満を抱えながらも「それを上回る面白さがあった」と判断したプレイヤーが大量にいる。完璧なゲームではないが、ステルスへの不満を差し引いてもあまりある体験があった——そのことが逆に、言語解読システムの強さを際立たせている。ステルスが邪魔に感じる瞬間があってもなお98%の評価が維持されているという事実は、それだけコアの体験が強烈だということだ。
言語の壁が溶けていく瞬間——ゲームが伝えたいテーマと物語

Chants of Sennaarを単なるパズルゲームと捉えると、この作品の本質を取り逃がす。ゲームが本当に問いかけているのは「言語の壁を越えたとき、何が変わるのか」というテーマだ。
塔の各層の民族は、互いの存在を知らない(あるいは知っていても交流できない)状態にある。戦士の層の民族は僧侶の層のことを知らず、職人の層の民族は戦士の言葉を理解できない。それぞれが自分たちの層の常識だけで生きている。プレイヤーが唯一の「旅人」として全ての層を行き来し、それぞれの言語を習得することで、この分断された世界に変化をもたらす立場になる。
プレイヤーがそれぞれの言語を習得し、その知識を使って民族間の「通訳」役を果たすことで、塔全体に少しずつ変化が起きる。扉が開く、交易路が生まれる、長年の誤解が解ける。この「解読した言語を使って世界を変える」フィードバックが、ゲームプレイに特別な意味を与えている。言語を覚えることが単なるゲーム上の課題ではなく、「誰かと繋がるための道具」として機能する体験は、他のゲームではなかなか味わえない。
ゲームのラストシーンを見た後、しばらく放心した。こういう感動の仕方をするゲームは久しぶりだった。現実の世界とも重なって、単純に「ゲームが面白かった」という感想で終われなかった。
出典:note ユーザー感想(Chants of Sennaar クリア後)
バベルの塔の神話は「神が人間の言語をバラバラにして相互理解を妨げた」という物語だ。Chants of Sennaarはその逆——バラバラになった言語を再び繋げることで、分断されたコミュニティを取り戻す物語を作っている。このテーマ設計は、ゲーム発売当時から批評家たちが注目した点でもある。
Eurogamer は「fascinating, thoughtful game(魅力的で思慮深いゲーム)」と評し、Polygon は「Chants of Sennaar が全力で走っているとき、他に似たものは存在しない」と絶賛した。The New York Times がトップ10ゲームに選出したのも、このテーマの深みを評価したからだろう。Hardcore Gamer は「immensely clever and unique(非常に巧みでユニーク)」という言葉を使っている。
エンディングを迎えたとき、ゲームのテーマが現実世界の分断と重なって見えたという声は多い。言語という壁は、現実にも依然として存在している。地域間、文化間、世代間——様々な「言語の壁」を現実に感じているプレイヤーほど、このゲームのエンディングは響く。そのことをゲームという媒体を通じて体験させてくれるのが、Chants of Sennaar の最大の特徴だ。
ストーリーの深みとテーマ性で心を動かすゲームという意味では、ある家族の記憶を巡る物語を描いたこちらも同じような感覚で楽しめる。
言葉と記録が紡ぐ物語という意味では、日誌と選択が世界を形作るこちらも深い余韻を残す一作だ。

日本語翻訳の品質が「言語ゲーム」として異例の高さを誇る理由

Chants of Sennaarにおいて、日本語ローカライズの話は特筆に値する。言語そのものがゲームのテーマであるため、翻訳の品質がゲーム体験に直接影響するからだ。
結論から言えば、日本語版の翻訳は非常に高品質だ。複数のレビューで「翻訳が自然」「言語解読ゲームなのに日本語テキストが不自然だったら体験が崩れるが、そういうことはなかった」という声が上がっている。架空言語のグリフに対応した日本語訳が論理的に一貫しており、「解読した言語で会話が成立する」という体験が日本語プレイヤーにも正しく届いている。
この翻訳の難しさは、通常のゲームの比ではない。普通のゲームなら「英語テキストを日本語にする」だけで済む。しかし Chants of Sennaar では、架空の言語体系を日本語の語彙・文法に自然に落とし込む必要がある。例えばある民族の言語に「尊敬を表す語尾変化」が存在する場合、それを日本語でどう表現するかは翻訳者の判断に委ねられる。そのような判断が何十、何百と積み重なって「自然な日本語」ができている。
言語をテーマにしたゲームだから、翻訳が変だったら全部崩れるのでは?と心配していたが、そんなことはなかった。むしろかなり自然で、日本語でプレイして良かったと思った。
出典:ひろてくのブログ Chants of Sennaarレビュー
特に「ターミナル」と呼ばれる装置を通じた民族間通訳のシーンでは、プレイヤーが解読した架空言語が自然な日本語文章として画面に現れる。自分が解読した単語が文章として完成するこの瞬間は、翻訳チームの努力が詰まっている部分でもある。
日本語テキストへの完全対応という点では、インディーゲームとしては理想的な仕上がりだ。英語が苦手なプレイヤーでも、全ての情報に日本語でアクセスできる。架空の言語解読というゲームの性質上、「英語の元テキストが読めないと不利」という状況が生まれうるが、日本語プレイヤーに対しても同じ条件でプレイできるよう作られている。
一方で、アーカイブや手記のテキスト量はかなり多く、全部読もうとすると想定プレイ時間より長くかかることがある。「テキストを全部読みたい派」と「サクサク進めたい派」で体感プレイ時間が変わることは頭に入れておくといい。各民族が記した古文書や日誌には、ゲームのメインストーリーを補完する情報が詰まっており、世界観をより深く理解したいプレイヤーには宝の山になる。
Steam評価98%の実態——プレイヤーが本当に語った感想と本音

Steam の総合評価「圧倒的に好評(98%)」という数字は、1万1000件以上のレビューが積み上げた結果だ。ここまでの高評価率を維持し続けているゲームは本当に珍しい。インディーゲームでこの数字を達成している作品は、2023年の発売ゲームの中でも指折りのレベルだ。ただ、数字だけを見ていても実態はわからないので、実際に寄せられた声を見ていきたい。
ポジティブなレビューで最も多く登場するキーワードは「唯一無二」だ。「こういうゲームを待っていた」「似たゲームがない」という声が繰り返される。言語解読という体験の新鮮さが、評価の根幹にある。続いて多いのが「没入感」で、言語を解読しながら世界を理解していく過程がプレイヤーを強く引き込むという声が目立つ。「気づいたら3時間経っていた」という時間感覚の変容を語るコメントも多い。
人生で初めて「言語ゲーム」をプレイしたが、これが本当に面白かった。文字が読めないところから始まって、少しずつ読めるようになっていく感覚は他のゲームでは絶対に経験できない。
出典:Steamユーザーレビュー
クリア後の感想としては「余韻が長い」というコメントが目立つ。エンディングを迎えた後も、ゲームのテーマが頭を離れないという体験が多く報告されている。「ゲームをクリアして、現実の世界について考えた」という感想は、ゲームがエンターテインメントを超えた何かを提供していることを示している。現実社会における言語の壁、文化間の誤解、コミュニケーションの難しさを改めて考えさせられたという声は、日本語レビューでも複数確認できる。
一方で、率直なネガティブな声も存在する。最も多い批判は「短すぎる」だ。9〜10時間というクリア時間について、「もっとやりたかった」という声が多い。これはネガティブとも言えるし、「それだけ楽しかった」の裏返しとも取れる。
面白すぎてあっという間に終わってしまった。もっと言語を増やしてほしかった。10〜15時間くらいのゲームだと思っていたら9時間でクリアしてしまった。
出典:Steamユーザーレビュー
他のネガティブな声としては「マップがない」「序盤が迷いやすい」「ステルスが苦手な人には辛い」が定番だ。これらはゲームの根本的な欠陥というよりは、設計上の選択に対する個人差によるものが大きい。「言語解読ゲームに集中したい自分にとってステルスが邪魔に感じた」という声は、ゲームの体験として「それ以外は完璧」というニュアンスで語られることが多い。
Metacritic のスコアは78〜86点とやや控えめだが、これはSteamユーザーレビューほど一般プレイヤーの声が反映されない批評家スコアの性質による部分が大きい。一般プレイヤーの熱狂的な評価と、批評家の「良作だが特定層向け」という冷静な評価の間にある差を感じる作品だ。特にゲームのボリュームと価格のバランスについては、批評家は厳しく見る傾向がある。「100本のゲームを遊んできたベテランゲーマー」よりも、「こんなゲームがあったのか!」と驚きながらプレイした人の方がより高い満足感を得ているという傾向は、レビューを読むと感じられる。
世界観と考察の深さで語られるゲームが好きなプレイヤーには、このタイトルも根強い人気を持つ。
「言語でゲームを作る」という挑戦——Heaven’s Vault との比較で見えるChants の独自性

言語解読をテーマにしたゲームは数は少ないが存在する。最も比較されるのが、2019年に発売されたInkle Studios の「Heaven’s Vault(ヘブンズ・ヴォールト)」だ。こちらも古代文字を解読していくアドベンチャーゲームで、Chants of Sennaarの開発者モヤがインスピレーションを受けたタイトルの一つだと公言している。
2作を比較すると、アプローチが根本的に異なることがわかる。Heaven’s Vault は実在する言語学の知識に基づいた文字解読で、選択肢を選びながら意味を決定していく半アドベンチャー的な仕組みだ。考古学者である主人公の推理プロセスが語り手になっていて、「キャラクターが翻訳している」感覚が強い。一方 Chants of Sennaar は、完全に架空の言語を「文脈と観察だけ」で推理する設計で、選択肢は存在せず、プレイヤー自身が全て仮説を立てる。「プレイヤー自身が翻訳している」感覚がある。
この「選択肢なし、全部自分で推理」という設計が、Chants of Sennaar の体験を独特にしている最大の要因だ。正解を選ぶのではなく、「本当に自分が推理して答えを導き出した」という感覚がある。この感覚の差は、ゲームを手にとってみないとわからない。
言語を「解読した」感覚が全然違う。Chants では本当に自分がゼロから考えて答えを出した感じがある。答えを当てるゲームではなく、発見するゲームだと思った。
出典:KeepGamingOn Chants of Sennaarレビュー
また、アートスタイルの違いも大きい。Heaven’s Vault は水彩画風の2.5Dで落ち着いた雰囲気、Chants of Sennaar は鮮やかな色彩と独特のフォルムの3Dグラフィックで、章ごとに劇的にビジュアルが変わる。どちらが好みかは人によるが、見た目のインパクトとしては Chants の方が強い。
プレイ時間もかなり異なる。Heaven’s Vault はストーリー中心で10〜15時間程度、Chants of Sennaar はパズル中心で9時間程度。どちらを先にプレイしても良いが、言語解読体験の入門として「まず Chants を、深めるために Heaven’s Vault を」という順序がおすすめだ。
言語というテーマへのアプローチとしては、Chants of Sennaar は「ゲームの仕組みそのものに言語解読を埋め込む」設計を選んだことで、Heaven’s Vault とは別の体験になっている。Chants をプレイした後に Heaven’s Vault も遊ぶ、あるいはその逆も、どちらも発見があっておすすめだ。
9時間というプレイ時間の「密度」——コンパクトだが余白のない設計
Chants of Sennaar のクリア時間は平均9時間強だ。現代のゲームの平均と比べると短い。この「短さ」をどう評価するかが、プレイヤーによって分かれる。
批判側の意見は「$19.99(約3000円)に対してボリュームが少ない」というものだ。特にRPGや長編ADVに慣れているプレイヤーからは「あっという間に終わった」という声が出る。5つの民族の言語という体験を、もっと長い時間かけて味わいたかったという欲求は理解できる。
一方、擁護側の意見は「9時間の密度が高い」というものだ。Chants of Sennaar にはパッド稼ぎや作業感のあるコンテンツがほぼない。5つの言語の解読、各層の探索、ストーリーの進展——全てが有機的に絡み合っていて、「この部分はいらなかった」と感じる場面が少ない。無駄なく設計された9時間は、ダレた展開が続く30時間よりずっと価値があることがある。
プレイ時間が短いという批判があるのは知っているが、9時間で感じた充実感は50時間のゲームと変わらなかった。むしろ「ちょうど良かった」と思う。ダレる部分がない。
出典:Steamユーザーレビュー
コンプリート(全要素達成)を目指すと約11時間になる。隠し要素や見逃しがちな文書が存在するため、1周目でやり残したことがあっても別の楽しみ方ができる。特に各民族が残した「記録」を全部読んでいくと、ゲームの世界の深みが格段に増す。メインストーリーを追うだけでは見えてこない層の歴史や、民族間の過去の交流が断片的に記された資料を集める楽しみがある。
価格的には、Steam の定期セールで30〜40%オフになることが多い(SteamSpy のデータによると40%オフのセールが実施されている)。セール時の価格なら、9時間のプレイ時間に対するコストパフォーマンスは十分に高い。
「長いゲームより短く密度の高いゲームが好き」という志向のプレイヤーには、むしろこのボリューム感が美点になる。コンパクトかつ余韻が長いという意味では、Firewatch や Outer Wilds のような「短いが体験として完結している」ゲームと同じ系譜にある。
同じように「コンパクトだが没入感の高い」パズルアドベンチャーという観点では、このタイトルも時間を忘れてプレイできる。
既存のゲームの概念を全く別の角度で解釈し直したゲームデザインという意味では、トランプゲームを独創的なローグライクに昇華させたこちらも見逃せない。

Switch版・PS4版・PC版の違いと、どのプラットフォームが最適か
Chants of Sennaar は PC(Steam)、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One の4プラットフォームで展開されている。2025年8月にはiOS・Android版もリリースされた。各プラットフォームの特徴を整理しておきたい。
PC(Steam)版は最も操作が快適だ。マウスとキーボードの組み合わせ、またはコントローラーで遊べる。ノートブックへの文字入力や仮説の書き込みはマウス操作の方がスムーズに感じる。Steam Deck でも動作が確認されており(Steam Deck HQのレビューで動作確認済み)、携帯モードでの遊び心地も良好だ。テキスト表示の解像度や動作安定性という点でも、PC版が一歩リードしている。
Nintendo Switch版は「ソファでのんびり遊ぶ」スタイルに合っている。携帯モードで寝転がりながらプレイした、という感想も目立つ。このゲームはじっくり観察して考えるプレイスタイルが基本なので、Nintendo Switch の「ゆったりプレイ」という文化と相性がいい。外出先でのプレイには、Nintendo Switch か Steam Deck の二択になる。
PS4版は動作面での不満の声は少なく、コントローラーでの操作にも対応している。PS4/PS5 ユーザーならこちらも選択肢になる。ただし、PlayStation 5 での後方互換プレイとなるため、特別なPS5版は用意されていない点には注意。
Steam Deck で遊んだが、携帯モードでこのサイズの画面で遊ぶとさらに没入感が増した。パズルに詰まったときにちょっと置いて考えられるのが、ハンドヘルドとの相性がいいと思う。
出典:Steam Deck HQレビュー
2025年8月リリースのiOS・Android版については、タッチスクリーン操作でのノートブック入力がスムーズかどうか(スマホプレイ向けのUI調整があるか)という点が気になるところだ。スマートフォンでのプレイを検討しているなら、リリース後のレビューを確認してから購入した方が安心だろう。
価格はどのプラットフォームも$19.99前後で統一されており、特に「どのプラットフォームが安い」という差はない。セールタイミングもプラットフォームによってずれることがあるため、自分が使いやすいプラットフォームで購入するのがシンプルなアドバイスだ。
マルチプラットフォームで展開されているゲームとして共通していえるのは、どのプラットフォームでも「同じ体験ができる」という点だ。言語解読のパズルはプラットフォームを問わず同一のコンテンツであり、セーブデータはプラットフォームをまたいでは引き継げないが、9〜10時間のボリュームであれば1つのプラットフォームでやり切るのに何の問題もない。友人が別のプラットフォームでプレイしていても、謎を一緒に考えながら進めることができる点も、このゲームの話題性の一つだ。「この単語の意味、何だと思う?」という会話がリアルで生まれるゲームは多くない。
このゲームが「向いている人」と「向いていない人」——正直なガイド
Chants of Sennaar は間違いなく良作だが、全てのゲーマーに向いているわけではない。向いている人と向いていない人を正直に書いておきたい。購入前にこの整理を読んでおくと、失敗を避けられる。
特に向いている人から始める。
まず「謎解き・推理ゲームが好きな人」だ。言語解読というパズルの性質上、観察→推理→答え合わせというサイクルを楽しめる人に刺さる。探偵ゲームやミステリー小説が好きな人に近い感覚かもしれない。「考えることそのものが楽しい」タイプのゲーマーに最も向いている。
次に「語学や言語学に興味がある人」。架空の言語とはいえ、実際の言語学的な構造が組み込まれているため、言語好きは「あ、これは英語の命令形と同じ構造だ」「日本語の助詞に似た機能がある」といった発見を楽しめる。語学学習をゲームで体験したい人にも刺さる作品だ。
「アートスタイルと雰囲気で選ぶ人」にも強くおすすめできる。このゲームのビジュアルと音楽は特別で、それだけでプレイ価値がある。スクリーンショットを見て「これが動いているゲームをやってみたい」と思ったなら、その直感は正しい。
「短時間でコンパクトに遊びたい人」にも合っている。9〜10時間でエンディングまで到達でき、ダレる区間がない。週末の2日間で完結できるボリューム感は、多忙な社会人にもフィットする。
一方、向いていない人も明確に存在する。
「アクション要素が好きで、考えるのが得意でない人」には向いていない。このゲームの核は思考と観察であり、反射神経は一切要求されない。「戦闘や爽快感が欲しい」というプレイヤーには退屈に感じるかもしれない。
「ステルスが絶対に嫌な人」も少し注意が必要だ。先述の通り難易度は高くないが、ステルス要素が存在することは事実だ。「少しでもステルスがあると無理」というプレイヤーは、購入前に動画でステルスシーンを確認しておくといい。
「長編RPGや膨大なコンテンツを求める人」にはボリューム不足に感じる可能性が高い。
「明確なヒントがないと進めない人」には、解読の初動がきつく感じる場面がある。最初の民族の言語解読をやり始めたとき「これ、どうやって進めばいいんだ」と途方に暮れるプレイヤーが一定数いるのは本当のことで、その壁を楽しめるかどうかで評価が変わる。
最初の1時間は「これ本当に自分で解けるの?」と不安だったが、3時間目以降は「自分でちゃんと解読できてる」感覚が出てきて一気に楽しくなった。最初の壁を超えれば楽しさが爆発する。
出典:Steamユーザーレビュー
「ちょっと向いているかどうか不安」という人は、YouTubeのプレイ動画を30分ほど見てみると判断しやすい。言語解読のプロセスを見て「自分もやってみたい」と思えるかどうかが判断基準になる。
ニューヨークゲームアワード受賞、BAFTA・The Game Awardsノミネートの意味
Chants of Sennaar が獲得した受賞歴と批評家評価の意味を、少し深掘りして考えてみたい。
ニューヨークゲームアワード2024のベストインディーゲーム受賞は、批評家たちがこのゲームの独自性と完成度をインディーゲームの文脈でトップと評価したことを示している。2023年のインディーゲームは豊作の年で(Dredge、Dave the Diver、Sea of Stars など複数のヒット作が出た)、その中でベストの一本に選ばれた重みは大きい。
BAFTAのノミネートカテゴリが「Game Beyond Entertainment(エンターテインメントを超えたゲーム)」と「New Intellectual Property(新規知的財産)」の2部門というのも興味深い。特に前者は「ゲームが娯楽を超えて社会的・文化的意義を持つ作品」に与えられるカテゴリで、言語と多文化共生をテーマにした本作の本質を的確に捉えている。AAA大作と並んでこのカテゴリにノミネートされることは、インディーゲームとしては特別な評価だ。
The Game Awardsのノミネートカテゴリは「Games for Impact(社会的影響を持つゲーム)」だった。こちらもBAFTA と同じ方向性で、このゲームが「エンターテインメントとしての面白さ」だけでなく「テーマとしての深さ」で評価されていることがわかる。
ヒューゴー賞(SF・ファンタジー分野の権威ある文学賞)のベストゲーム部門へのノミネートも特筆に値する。これはゲームが「文学的な意味を持つメディア作品」として文学賞の選考対象になったということで、Chants of Sennaar が持つ「物語性と思想性」を評価する声が文学の世界からも届いたことを示している。
The New York Times がトップ10に入れたのが印象的だった。普段ゲームを取り上げないメディアにも届く作品だというのは、それだけゲームという枠を超えた評価を受けているということだと思う。
出典:note ユーザー感想
Metacritic スコアの78〜86という数字は、ゲーム全体の平均から見ると「高め」の部類に入るが、Steam の98%や各種アワードの評価と比べると控えめに見えるかもしれない。これは批評家がゲームを「万人向けかどうか」という軸でも評価するのに対し、一般プレイヤーレビューが「自分に刺さったかどうか」で評価するという差から来ている。Chants of Sennaar は「刺さった人には深く刺さるが、全員に合うわけではない」という性質を持つゲームで、この数字の差はそれを正直に反映している。
これだけの評価軸で高く評価されたことは、Chants of Sennaarがゲームというメディアで「言語」「多文化共生」「コミュニケーション」を体験させることに成功した証明だと言える。
独創的な世界観を持つインディーという意味では、往年のJRPGへの愛情を現代的に昇華させたこちらも2023年の豊作を象徴する一作だ。

謎と物語が複雑に絡み合うゲーム体験という意味では、現実とフィクションの境界が溶け合うサイコスリラーのこちらも同年を代表する一作だ。

2023年という年を振り返ったとき、Baldur’s Gate 3やAlan Wake 2といったAAA大作が話題を席巻した中で、2人組フランスインディーの言語ゲームが世界的な賞を取りにいったという事実は記憶に残る。大きな予算もなく、広大なマーケティングキャンペーンもなく、ただゲームの体験の質だけで評価が広がっていった。プレイヤーが「これは伝えないといけない」とレビューを書き、友人に勧め、SNSで語った結果としての受賞だ。その意味で、Chants of Sennaarの受賞歴は数字以上の重みを持っている。
まとめ——「言語でゲームを作る」という選択がなぜ正解だったのか
Chants of Sennaar をクリアした後、しばらく余韻が続いた。架空の言語を解読しながら塔を上る体験が、単なる「パズルゲームを解いた」感覚とは全く違うものとして残り続けた。
それはたぶん、このゲームが「言語を覚えること」を達成手段ではなく体験の核心に据えたからだと思う。解読した言葉が実際に世界を変える。覚えた言語で誰かと通じ合える。そのフィードバックループの中に、言語というものが本来持っている「人と人を繋ぐ力」が埋め込まれていた。
フランスの2人組がCOVID-19パンデミックの最中に作り始め、3年かけて完成させたこのゲームが、バベルの塔という「分断の象徴」を「繋がりへの希望」に変えた物語として世界中のプレイヤーに届いたことには、必然性がある気がする。
ゲームを通じて「言語が分かるとはどういうことか」を体験した後、現実の世界で外国語を耳にしたとき、少し感じ方が変わる。「この人は自分の知らない言語の中で生きているんだな」という感覚——それがChants of Sennaar が残す体験だ。言語の壁は現実にも存在し、それを越えることの難しさと、越えられたときの喜びを、ゲームという媒体を通じて体感できる。これが2万字書いても語り尽くせないこの作品の核心だ。
ステルスへの不満、マップがないという不便さ、9時間という短さ——批判点は確かにある。それでも、Steamで98%の評価を維持し、ニューヨークゲームアワードを獲得し、BAFTAにノミネートされた理由は、実際にプレイすれば数時間以内に体感できる。
「こういうゲームを待っていた」と思う人が、世界中に少なくとも1万人以上いた。そういうゲームだ。次に起動するゲームを探しているなら、この塔を上る旅は今すぐ始められる。言語の壁が溶けていく感覚を、ぜひ自分の手で確かめてほしい。
・謎解き・推理ゲームが好きで新鮮な体験を探している人
・「言語」「多文化共生」「バベルの塔」というテーマに興味がある人
・アートスタイルと雰囲気の完成度を重視する人
・9〜10時間でコンパクトに遊び切れるゲームを探している人
・ステルス要素が絶対に嫌な人
・自力で推理するのが苦手で、明確なヒントを求める人
・長編コンテンツや膨大なボリュームを求めるプレイヤー
言語解読という体験の新しさを一度知ってしまうと、他のゲームで同じ感覚を求めてしまう。それほどの「刷り込み」がある作品だ。
Chants of Sennaarが問いかけているのは、最終的にはとてもシンプルなことだ。「相手の言葉を理解しようとすることが、どれだけ世界を変えうるか」——これはゲームの外でも成立する問いだ。外国語学習、異文化交流、世代間のコミュニケーション、職場での対話。どんな「言語の壁」にも、この問いは当てはまる。ゲームをクリアした後、その感覚を持ちながら現実の世界を歩けるなら、Chants of Sennaarは9時間以上の価値を持った体験だったと言える。架空の塔の中で覚えた感覚が、現実の人間関係にも静かに影響を与える——それがこのゲームの最大の「余韻」だ。
ゲームという媒体で「コミュニケーションの本質」と「歴史の積み重ね」を問いかける作品が好きなプレイヤーには、中世のテキスト推理が楽しめるこちらも同じ満足感を届けてくれる。
Chants of Sennaar
| 価格 | ¥2,480-40% ¥1,488 |
|---|---|
| 開発 | Rundisc |
| 販売 | Focus Entertainment |
| 日本語 | 非対応 |
| 対応OS | Windows |
