ゲームメディアでも近年話題にあがる事が多くなった急成長の巨大中国企業「テンセント」。「名前は聞くけど何やってる会社なのかいまいち分からない。左のペンギンのロゴは見た事あるけど…」って人のために今回はテンセントのゲーム事業を中心に何やってる会社なのかを解説していきます!
テンセントの簡単な概要
ゲーム好きであれば「テンセント」の名前ぐらいは聞いた事がある方は多いかと思いますが、テンセントは中国に本拠地を置く巨大グローバル企業で、馬化騰(ポニー・マー)によって1998年11月に創業されて以来、たった二十数年間で世界最大の総合デジタル企業まで急成長した、勢いのある企業です。
オンライン広告サービス、SNS、Webホスティングサービス、自動運転、AI、配車サービス、ECプラットフォーム等、「ハイテク」と名のつく産業においてテンセントの手垢のついていない分野を探すのが難しいほど、数々の企業に投資を行なっていて、グループ全体の売上高は2020年には7.1兆円、純利益も4.1兆円(いや、金額デカすぎる上に利益率高スギぃ…)を記録しました。(決算書参照ですが香港ドル建表記でしたので、円換算で計算した概算です)
また2021年は10兆円規模のグループ売上高(2022年2月現在は未開示でしたが1-9月期売上から考えると…)に成長している事が予想されます。
中でも「ゲーム」関連の売上が国内外合わせてグループ全体の1/3を占めており、ゲーム分野においてざっくり2〜3兆円クラスの金額を年間で売り上げるほどの存在感を示しているわけですから、その存在感は業界でももはや無視できません。(おそらくは数年後にはさらに巨大化していることでしょう…)
中国の巨大ハイテク企業としてアリババと並んで名前に上がる事が多いのはこの規模感からも納得ですし、その中でもゲーム事業はコアとなる重要なセグメントのようですから、テンセントをゲームの会社として認識するのは、あながち誤りでもないと思います。
また、本記事では(当サイトがゲームメディアですから)テンセントのゲーム事業についてなるべく触れていきますが、概要紹介なので簡単に他も触れると、ゲーム以外の分野での代表的なサービスとしては、「WeChat・QQ(中国版LINE・SNS・決済システム等)」などは中国に出張に行かれた事がある方であれば、まず利用したことがあるのではないでしょうか。
LINEのようなメッセンジャーアプリとしての使い道だけではなく、WeChatのエコシステムによって音楽やゲーム、決済システム(WeChat Pay)、旅行の予約や配車・デリバリーなど日常生活においての様々なサービスを網羅しており、現在アクティブユーザー数は11.3億人とも言われています。(中国人口が14億人とのことですから、かなりの普及率で、むしろ生活する上での国民にとってマストと言っても良いレベルのサービスです)
これらWeChatなどの強力なエコシステムを利用して、WeChatのトラフィックをゲームに有効に誘導したり、WeChatアカウントがあればそのまま会員登録不要でスムーズにゲームが遊べるなどのエントリー障壁を排除してあげることで、テンセントのエコシステムがゲーム分野においても有効に働いていることが考えられます。
またテンセントはその強大な資本力から、ゲーム含めあらゆるハイテク分野の企業に出資を行い、出資先(テンセントが一部・ないし全部の株主(オーナー)となった企業)に対して、積極的に自社のWeChat等のエコシステムからトラフィックを流す事で協業していくといった戦略を取っていることがこの企業の特徴的なところです。
テンセントという名前は日本では知名度が低くても、テンセントが関わっている企業・サービス・ゲームは日本人ゲーマーは誰でも知っている有名なところがやたら多かったりするのですが(詳しくは後述します)、これはテンセントが自社ブランドでサービスを開発するよりも、他社のブランドのままサービスを行い多数の企業の株主となって協業していく、いわば投資会社という影の立役者的なポジションにいることが理由として挙げられると思います。(もちろん、自社開発・自社ブランドでのサービスも多くありますが中国国内では知られていても、日本ではまだあまり知名度はありません)
詳しい企業の沿革やストーリーなどは話し出すとキリがないので(筆者は趣味的に調べましたが^^;)、この記事では省略して簡単な概要にまとめました。
続いてはそのテンセントの規模感に触れていきます。
でもテンセントのゲームってあんまり聞かないけど…
本当に世界最大のゲーム企業なの?
ゲーム企業といったら世界一の企業はどこなのか。これは世界一の基準が曖昧で人によって様々な意見があることと思います。
日本人ならソニー、任天堂、カプコン、バンナム、スクエニ、コーエー、ナムコ 、セガ・・・
この辺の大手ゲーム会社を挙げられる方も多いかと思いますし、ゲームの面白さという点で言えば、「世界一面白いゲーム会社」は個々人によって異なるかと思います。
筆者は先述のどのゲーム会社も好きですし特にカプコンは、小中学生時代に大変にお世話になったので大変に思い入れがある作品が多いです。
なので世界一「面白い」企業というのは決められるものではありません。
ですが、あくまで定量的に数字から世界「最大」を判断するならば、これらの日本企業よりもテンセントはゲーム企業として規模で表すなら、すでにどのゲーム企業よりも巨大化していると言わざるを得ないかなというのが筆者の考えです…。
具体的にいくつかの側面から見ていきましょう。
テンセントがどれだけ規模が大きいかを他の企業と比較してみる。
まず企業の規模感を比較する方法は、売上・営業利益・従業員数・サービスのアクティブユーザー数などなど、いくつかあると思いますが、筆者がもっとも有用だと思う指標としては時価総額が挙げられます。
時価総額とは、簡単に言えば「企業のお値段」のことで、
「株価×発行済み株式数=時価総額」で表されますが、要は市場参加者たちがその企業にどれだけの価値があるかを総合的に考えて、日々の取引の需給の中から値付けされた価格なので、ざっくりとその企業の規模感を示すにはとても有用だと思うんですね。
(ただし、市場の値付けは時々、大きく逸脱してバブルになったり、下がり過ぎたりすることもありますが、多くの場合は数十%ぐらいの誤差はあれど大体その企業の規模感をうまく表してくれていると筆者は考えています^^;)
時価総額からいくつかのゲーム企業を比較してみます。
各社の時価総額(米ドル建て) 2022年2月7日時点
水色:テンセント 5782億ドル (約67兆円)
黒 :ソニー 1372億ドル (約16兆円)
赤 :任天堂 582億ドル (約6.7兆円)
また、グラフが見にくくなるのでグラフには載せませんでしたが、
バンナム(約1.8兆円)
カプコン(約7700億円)、コナミ(約7100億円)、コーエーテクモ(約7000億円)
となっています。(この3社近いですね。)
この数字から読み取れるのは、あくまで投資家たちのマーケットでの判断では、
テンセントはソニーよりも4倍以上、企業価値のある会社だと値付けされているということになります。
我々日本人からしたら少し残念な気もしますが、会社全体で見ると到底日本企業ではテンセントに時価総額では及びません。
ちなみに、テンセントの時価総額は2022年2月時点では中国最大で、アリババを超えており(アリババが3位で38兆円ほどです)、日本で一番時価総額の大きいトヨタですら36兆円ですから、いかにテンセントが巨大なのかが数字からも読み取れるかと思います。
ちなみに余談ですが、世界最大の時価総額の会社はアップルで320兆円ほどありますから、アップルを(アップルストアで莫大なゲーム手数料収益を挙げていますし)ゲーム関連企業として定義するのであればアップルが世界最大のゲーム企業かもしれません。(ただあくまでグループ全体で時価総額で判断しているわけなのでゲーム事業のみで判断するとまた結果は違います)
ただ、なんか日本人として悔しい…。なので一応、売上・純利益でも比較してみる。
3社売上比較 (米ドル建て)
水色:テンセント 600億ドル (約7兆円)
黒 :ソニー 770億ドル (約9兆円)
赤 :任天堂 140億ドル (約1.6兆円)
グループ全体の売上で見ると、ソニーがまだテンセントを上回っていました!
ただこれはグループ全体での売上比較で、ソニーもテンセントもゲーム事業以外にも様々な事業を行っていますから、先ほどは時価総額比較ということでグループ全体で比較する他なかったのですが、売上であれば概ねセグメントごとに数字が決算書から開示されており、こちらを詳しく覗いてみます。
テンセントについてはセグメントの「国内ゲーム」「海外ゲーム」売上が合計で32%直近ではあったようで、先述の通り、概ね売上の1/3が売上ですから、ざっくり2.2兆円ほどがゲーム関連の売上ということになるでしょうか。
一方のソニーはというと、セグメントが「ゲーム&ネットワークサービス」ということでゲーム単独で開示されておらず、詳しい数字については分かりませんでした。
ただし、「ゲーム&ネットワークサービス」が連結グループ全体のおよそ1/4程度であり、年間では約2.2兆円ほどがゲーム&ネットワークサービスの売上でした。(ここからネットワークサービスを除外して純粋にゲームのみで計算するとさらに縮小されると思います)
ということで、ゲーム部門での売上についてはテンセントとソニーでそこまで大きな差はなさそうです。
他メディア等では依然としてソニーが一位という主張が多いですが、テンセントの売り上げは急激に成長しており、数年前と2021年では状況が大きく異なっています。
急激に過去売上が成長してきたからといって将来、ソニーを超えて差が拡大していく…といった展開になるかは分かりませんが、少なくとも実績売上ベースで見ても現状は1位がソニーであると断言はできない形となっていることが読み取れます。
それでは純利益での比較ではどうでしょうか。
3社売上比較 (米ドル建て)
水色:テンセント 291億ドル (約3.3兆円)
黒 :ソニー 88億ドル (約1兆円)
赤 :任天堂 42億ドル (約0.5兆円)
純利益ではテンセントが圧勝のようです。
売上ではソニーもテンセントといい勝負だったのですが、テンセントは大変に利益率が高く、一方でソニーはPS5などのハードウェアで勝負している関係上、どうしても製造業として売上原価のコストが大きく利益面では圧迫されてしまうようです。
また、ゲーム部門に限ってお話をしても、ソニーは営業利益率がゲーム部門では10%程度(おそらくは税後での純利益率では5-6%程度と考えられます)
一方でテンセントはグループ全体で見ても極めて利益率が高く、これは比較的、ゲームアプリなど収益性の高いモデルが中心となっていることが理由として挙げられます。またテンセントは投資収益が大きくこちらもゲームに絞った正確な数字は割り出せませんでしたが、これらビジネスモデル全体で見てもソニーと異なる点が多く挙げられるのは間違いありません。
ただし、売上・利益で簡単に見てきましたが、これらは企業の事情や一時的な要因を多く含みます。
ゲームも開発期間中はお金を生み出しませんが、では開発期間中のゲームには価値がないかと言えばそれは別の話ですし、PS5などは半導体不足なども影響して思うように生産ができていない現状もあります。
また一方でテンセントは昨今の中国共産党からのゲーム規制が影響しており巨額の罰金が課されたり、未成年者のゲームプレイにおいて多くの制限がかけられていたり、規制が業績にも影響を与えている状況です。
なので、それらの企業ごとに抱えている事業もそれぞれ異なりますので、実は事業の異なる(そもそもビジネスモデル自体も異なる)企業たちを並べて、売上がでかいからこっちの方が大きな企業!と一概に言えるものではありませんし、企業の規模というのは複合的に考えていく必要があるものなのかなと思います。(これを言っちゃったら元も子もない話ですが、あくまでこれらの数字は現状の参考程度として捉えていただければ良いかなと思うんです)
ただし、間違いなく言えることはテンセントは規模が大きな会社であることは言うまでもありませんし、時価総額、売り上げ、純利益の面ではテンセントがゲーム業界1位の規模と言っても差し支え無さそうです。
ではなぜそんなにテンセントはゲーム業界で荒稼ぎが出来ているのでしょうか。
それを解明するためにも、テンセントが関係している企業やゲームタイトルなどについて触れていきたいと思います。
テンセントが関連しているゲーム企業と主要タイトル一覧
テンセントが出資しているゲーム企業は正直、挙げだしたらキリがないほど多岐にわたります。あの会社もその会社もテンセントがバックにいる…といった状況です。
ただ、いくつか絞って、テンセントが一部出資また買収しているゲーム企業を挙げていきますね。
Supercell
クラッシュ・オブ・クラン
ヘイ・デイ
ブーム・ビーチ
クラッシュ・ロワイヤル
ブロスタ
ライアットゲームズ
League of Legends (LoL)
VALORANT
Epic Games
フォートナイト
Fall Guys
Gears of War
ゲームエンジン「Unreal Engine」
ゲームストア「Epic Games Store」
アクティビジョン・ブリザード
Destiny
コールオブデューティ
ウォークラフト
ハースストーン
オーバーウォッチ
ピットフォール
Ubisoft
アサシンクリード
F1シリーズ
ザ・クルー
レインボーシックス
ファークライ
ウォッチドッグス
プラチナゲームズ(日本企業)
ニーア オートマタ
ベヨネッタ
スターフォックスゼロ
メタルギアライジング
バビロンズフォール
他にもPUBG、荒野行動、コード:ドラゴンブラッド、王者栄耀、ArcheAge、ポケモンユナイト、Smite、クラッシュ・ロワイヤル、クロスファイア、Path of Exile、Alliancfe of Valiant Arms、白夜極光、Black 4 Blood…などなどテンセントが関わっているゲームタイトルは多岐にわたります。
ゲーマーであれば馴染み深いゲーム企業たちが並んでいます。
正直あげきれないほどあるのですが、基本的にはゲーム市場を支配的に網羅していっているのがテンセントという企業の経営戦略なのだと思います。
また日本人には馴染みがありませんが、中国国内ではBilibilli、Huya、DouYuといった動画サイトも出資しており、e-sportsやメディアなども囲い込んでいくスタンスのようです。
技術力のある開発会社に積極的に出資している印象で、日本でもニーアオートマタなどの有力タイトルを開発したプラチナゲームズがテンセントと資本提携を2020年に発表しており、またKADOKAWAにも出資していたりなど日本のアニメ・映画・ゲーム等のサブカルチャーにどんどん進出してきているといった状況です。
テンセントの出資件数は年々増えており、一年間の間にいくつもの企業と提携を進めると言ったスピード感は凄まじいものがあります。
個人的には、Epic Games(株主比率40%)をしっかりと抑えているところは、テンセントの支配力の恐ろしさを感じます。
昨今ではSteamユーザーだったけど、Epic Gamesを使い始めたというユーザーも多いのではないでしょうか。Epic Gamesが頻繁に行うゲーム無料配布の裏側にはテンセントの圧倒的な資本力がバックにあり、Steamと競合していく上でユーザーを惹きつける施策を次々に打ち続けているEpic Gamesのバックにはテンセントがいたと思うと、なかなかゲームプラットフォーマーの主権争いの行方も今後はどうなるのか気になりますね。
またEpic Gamesは、Unreal Engine(ゲーム開発におけるプラットフォーム)を有していることも強力で、近年は開発環境としては「Unity vs Unreal Engine」の構図で争っているようですがこちらも気になるところです。
筆者としてはどちらを応援しているわけでもないですが、Epic Gamesは頻繁にゲーム無料配布してくれるから好きです(笑)
これらのブランドを聞くと、テンセントの名前は知らなくても、実はあのゲームで課金したお金はテンセントに流れていたのか…と察した方も多いのではないかと思います。
テンセントは投資会社と言われる所以は、この多数のブランド企業を包囲していることにあるのではないでしょうか。
また投資会社であるからこそ影の立役者的なポジションになりやすく、(中国では知らない人はいませんが)あまり日本人には知られていないという事情があるのではないでしょうか。
2021年から中国規制当局によるゲームへの締め付けが厳しくなっているが…
ゲーム業界では話題になっていますが、2021年あたりから中国規制当局は
ゲームへの規制を強烈に強めており、もともと未成年者に対するプレイ時間の制限等の規制は課しておりましたが、日に日に規制のレベルは上がっている状況です。
もともと中国は規制を敷いて統括するお国柄ですので、ゲームに対しても規制への懸念は常にありましたが、昨年には習近平本人が「ゲームは精神的アヘン」と発言したことから、中国ゲーム企業に対するさらなる規制が懸念され、今後の成長が不安視されたことから、テンセントやネットイースといったゲーム関連企業の株価も大きく値を下げる場面もありました。
しかし筆者の考えとしては、テンセントやネットイースなどのゲーム企業は海外市場のゲームに集中しており、また急速にうまく対応しているようにも見受けます。
今後、中国の規制が激しくなろうともテンセントの成長が止まることは考えがたく、またポニーマー自身もメディアにはあまり出ない(政治的に標的にされたくないのでしょうね)ですが、極めて優秀な投資家であり彼のことを「デジタル・ウォーレン・バフェット」と称する投資家もいるほどです。
日本人であれば日本企業が世界のゲーム業界の覇権であることを望むのは当然ですし筆者も日本ゲーム企業を応援していますが、今後のテンセントの成長にも目が離せません。
長くなってしまいましたが、テンセントという企業が「何やってる会社なの?」と疑問に思っている方も多くおられると思ったので今回解説してみました。
最終更新日:2022年2月24日 (運営者情報)